恐怖が永遠に記憶に刻まれるのであれば、そもそも不安を消すことなどできるのだろうか。

 

答えは、恐怖消去と呼ばれる神経プロセスにある。

 

私たちは物と恐怖の記憶を消すことはできないが、新しい記憶を作り出し、それを強化することで、元の記憶を脇へ追いやることができる。

 

脳は、恐怖の記憶と並行する回路を築くことで、不安を感じそうな状況でも、無害な代替案を示せるようになる。

 

そうやって恐れる必要がないことを学んでいくのだ。

 

不安の種となっていたものと、それへの典型的な反応とが切り離され、正しい解釈の回路につなぎ直される。

 

そうすることで、例えばクモを見ると恐怖を感じ、心臓がドキドキする、といった連鎖を弱めることができる。科学者はこれを再帰属化と呼ぶ。

 

認知行動療法(CBT)を用いれば、恐怖の記憶を中立的あるいは前向きな記憶へと置き換えることができる。

 

研究によっては、不安障害の治療においてCBTにはSSRIと同等の効果があるとの報告も存在する。

 

もっとも、そのためにはCBTの質が肝心らしい。

 

この方法では、セラピスト同席のもと、恐怖をもたらすものに少しだけ接触させる。

 

そこでパニックに陥らなければ、脳は自らの症状への認知を再構築しはじめる。

 

前頭前野に新しく出来た回路が扁桃体を落ち着かせ、安全だと思えるようになり、脳はその感情を記憶する。

 

この療法に運動を加えると、神経伝達物質と神経栄養因子によって前頭前野と扁桃体をつなぐ回路は強化され、コントロールする力がさらにつき、望ましい雪だるま効果が現れる。