この記事では、理学・作業療法を実施するにあたって重要な自己効力感(セルフエフィカシー)について記載していく。

 

※セルフエフィカシーは、リハビリのみならず看護分野でも注目されているキーワードなため、看護師さんも是非観覧してみてほしい。

 

自己効力感(セルフエフィカシー)とは

 

自己効力感(セルフエフィカシーSelf Efficacy)とは、心理学者であるアルバート・バンデューラ(Bandura A)によって提唱されたもので、以下の様に定義されている。

 

『ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまくおこなうことが出来るかという個人の確信のこと』

 

人がある行動を起こそうとする際、その行動を「自分がどの程度うまく行えそうか」という予想の程度によって、実際の行動が生起されるかどうかが変化する。

 

そして、「自分は出来るのだ!」という思いが行動を引き起こすのであり、この思いこそが自己効力感と言える。

 

ある課題を与えられたときに、
自己効力感の高い人は「やってやろう!」と思えるため、行動に繋がり易いと言える。

 

一方で、自己効力感の低い人は「出来ないかも・・」と尻込みする傾向があり、行動に繋がりにくいと言える。

 

このように、行動を起こすためには、その前提となる自己効力感という入り口を通過しなくてはならない。

 

 

重複するが、ある行動に対して「できる」という見込み感を強めること、つまりセルフエフィカシーを高めることが、その行動をうまくおこなえたり、行動の継続を強化したりするのに効果が期待できる。

 

一般に、行動変容ステージの初期でセルフエフィカシーが低く、ステージが高次になるにつれて高まるとされている。

関連記事⇒『行動変容のステージ』を理解してリハビリへ活用

 

セルフエフィカシーの評価により個人の行動が予測できることから、その有用性は高い。

 

 

自己効力感(セルフエフィカシー)の2つの水準

 

Bandura(1977)によると、セルフエフィカシーは以下の2つの水準において人間の行動に影響を及ぼす。

 

・第1の水準:特定の場面におけるセルフエフィカシー

・第2の水準:人格特性のセルフエフィカシー

 

第1の水準:特定の場面におけるセルフエフィカシー(自己効力感)

 

『特定の場面におけるセルフエフィカシー』とは「個人がいかに一定の状況を克服しようとするか」に影響をお及ぼすセルフエフィカシーである。

 

特定の場面におけるセルフエフィカシーは、基本的にはある具体的な行動に対する課題特異性(task-specific)な期待を問う概念である。

 

例えば、禁煙に対するセルフエフィカシーが高くても、減量に対するセルフエフィカシーが低い場合がある。運動じっせによる減量セルフエフィカシーが高くてお、食事制限(食習慣改善)による減量セルフエフィカシーが低い人もいる。

この場合、目標とする種類の行動について、対象者のセルフエフィカシーを評価し、改善方法を考えることが高い目標達成率に繋がる。

 

また、自信を持ってとった行動が成功を収めることで、特定の行動に対する対象者のセルフエフィカシーがさらに高まるだけでなく、他の行動に対するセルフエフィカシーも高まり易い。

 

このような成功体験の蓄積は、行動変容の長期的な継続に繋がると考えられている。

 

 

第2の水準:人格特性のセルフエフィカシー(自己効力感)

 

『人格特性のセルフエフィカシー』とは、長期的に個人の行動に影響を及ぼすセルフエフィカシーである。

 

人格特性のセルフエフィカシーは、各場面におけるセルフエフィカシーの共変動関係を問題にする概念であり、一般性(generality)と捉えることが出来る。

 

要は、「ある特定の状況におけるセルフエフィカシーが、異なった状況においても同じ程度の高さにあるかどうか」を問題とする。

 

なので、一般性セルフエフィカシーの測定を考える際には、ある特定の人々にのみ経験されるような場面に対する質問をするのではなく、より多くの人々が経験しているような場面に対する質問をすることとなる。

 

 

自己効力感(セルフエフィカシー)の評価

 

自己効力感の評価は、前述した以下の両者を用いることが多い。

 

・標的行動に対する場合(第1の水準)

・一般性(第2の水準)

 

 

標的行動に対する場合(第1の水準)の評価

 

「標的行動に対する場合(第1の水準)」の評価は以下の様に進める。

 

ある具体的な水準の行動に対して「全くできないと思う」を0点、「各人つにできると思う」を10点として、具体的な点数で評定させる。

 

他にも「『確実にできる』を100点とした場合、現時点では何点と考えるか」などいった表現で評定させる場合もある。

 

 

一般性(第2の水準)の評価:一般性自己効力感尺度

 

「一般性(第2の水準)」の評価は、個人がいかに多くの努力を払おうとするか、あるいは嫌悪的な状況下において以下に長く耐えることが出来るかを決定する要因になることに対応している。

 

一般に、

 

内的帰属型(成功や失敗は自分の能力や努力にあると考えるタイプ)の人はセルフエフィカシーが高く認知する傾向にあり、

 

外的帰属型(成功や失敗の原因は偶然であると考え、周囲からの影響を受けやすいタイプ)の人はその逆の傾向にある。

 

関連記事⇒『帰属バイアス(内的帰属・外的帰属)を分かり易く解説するよ

 

 

つまり、いわゆる性格特性に影響を受けることを示唆しており、一般性セルフエフィカシーの個人差を踏まえつつ、標的行動に対するセルフエフィカシーの高低を解釈する必要がある。

 

一般性の評価は、「引っ込み思案なほうだと思う」や「社会的状況の中で、困難な状況に遭遇してもそれを克服しようと努力する傾向が強い」など、多くの人に当てはまる状況下について問うように構成されている。

 

回答者は、これらの質問に対して「はい」「いいえ」の2択で回答する。

 

ここから先は、一般性(第2水準)自己効力感尺度として10の質問を掲載していく。

 

 

 

自己効力感(セルフエフィカシー)を測定する10の質問

 

自己効力感(セルフエフィカシー)の測定を以下の「一般性自己効力感尺度」と呼ばれる10の質問によって調べることができるので、ぜひ自身の自己効力感が高いかどうかをチェックしてみてほしい。

 

  1. 私は、一生頑張れば、困難な問題でおいつも解決することができる

     

  2. 私は、誰かが私に反対しても、自分が欲しいものを手にするための手段や道を探すことができる

     

  3. 目的を見失わず、ゴールを達成することは私にとって難しいことではない

     

  4. 予期せぬ出来事に遭遇しても、私は効率よく対処できる自身がある

     

  5. 私は入り色な才略にたけているので、思いがけない場面に出くわしたとしてもどうやって切り抜ければよいのか分かる

     

  6. 必要な努力さえ惜しまなければ、私は大体の問題を解決することができる

     

  7. 自分の物事に対処する能力を信じているので、困難なことに立ち向かっても取り乱したりしない

     

  8. 問題に直面しても、いつもいくつかの解決策を見つけることができる

     

  9. 苦境に陥っても、いくつも解決策を考え付く

     

  10. どんなことがおころうとも、私はいつもそのことに対処することができる

     

 

自己効力感(セルフエフィカシー)の高め方

 

自己効力感(セルフエフィカシー)は以下の4つの因子によって形成されると言われている。

 

従って、これらの因子を体験することによって自己効力を高めることができる。

①達成体験

実際に自分自身で行動して、達成できたという体験のこと。

これが最も自己効力感を定着させると言われている。

まだ仕事の地震が形成されていない新入社員に「やれば出来る!」という自己効力感を養うには小さな仕事でも構わないので成功体験を味わう機会を与えることは効果がある。

 

②代理経験

他者が達成している様子を観察することによって「自分でも出来そうだ」と学習すること。

例えば、自分と近い立場の人が、不可能だと考えられていた偉業を達成すると、それが代理体験となり「自分たちにもできるのではないか」という自己効力感が発生することがある。

他者のブログを読んで影響を受け、「自分もやってみよう!」と行動に繋がることも、代理経験に該当するケースがある。

院内におけるクライアント同士のイドバタ会議で、ポジティブな行動に繋がることも、代理経験に該当するケースがある。

 

③言語的説得

他者から達成可能であることを言語で繰り返し説得されたり、励まされたりする体験のこと。

親から「あなただったら出来る」「才能があるからあきらめずに続ければなんとかなる」と言われ続けて育った子供は自己効力感が高くなるかもしれない。

ただし、言語説得のみによる自己効力感は、容易に消失し易いと言われている。

つまり、セラピストが上手に理屈を説明することで「出来るかもしれない」という自己効力感を高めることが出来るかもしれない一方で、それだけでは実際の行動に結びつかない可能性も高い。

 

④生理的情緒的高揚

苦手だと感じていた場面で、落ち着いていられたり、赤面や発汗がなかったりする体験は自己効力感が強められると言われている。

 

 

痛みにおける自己効力感(セルフエフィカシー)

 

痛みを抱えている人は「これをしたら痛みが悪化する」というように自身で決めつけて、行動パターンが狭くなってしまいがちである。

 

しかし、これまでとは違う行動をしてみることで「あれ?意外と出来たな!」とか「一人でも対処が出来るんだ」というような新しい発見が出来ることもある。

 

この嬉しい発見こそが、「もう少し自分でやってみよう」「自分の力でもっといろんなことが出来るんじゃないか」というように、その人の考え方をどんどんと変えていくきっかけになる。

 

例えば、以前に放送されたNHKの番組で、腰が痛くなると思い込んでいる動き(番組内では腰椎伸展として紹介)を実際に実施して大丈夫だった」という事実は、生理的情緒的高揚をもたらし、自己効力感を高めることに繋がったといえる。

 

痛みとセルフエフィカシー

 

 

自己効力感の適正化

 

これまで述べてきたように、「自己効力感(セルフエフィカシー)を高めること」はポジティブなイメージを与えてしまうが、自己効力感が高いことが必ずしもポジティブであるとは限らない。

 

例えば、骨折術後に医師が荷重制限を出しているにもかかわらず「もう大丈夫だろう」という自己判断のもと言いつけを守らず、取り返しのつかないことになったり、
「最初は10分の散歩から始めましょう」と歩行時間を設定しても、「10分じゃ大した運動にならないと思って30分歩いてしまった」とのことで痛みが悪化したり、
あるいは、加齢により若いころよりバランス能力が低下しているにも関わらず、「これくらい出来る」と無理をして転倒をしたり。

 

つまり、「自分の現在の能力を高く見積もりすぎてしまう」という場合には問題がある。
したがって自己効力感に関しては、「高める」というより「適正化する」という表現の方が良いのかもしれない。

 

前述したNHKの番組では、慢性腰痛を有した患者の中には、「腰を反らすことに恐怖感を覚える」ケースが多いとされている。

 

そして、その人たちの中には
「恐怖を感じているが、腰を反らしても大丈夫な人」
「恐怖を感じていて、腰を反らしたら痛みが出てしまう人」
の2パターンが存在すると思われる。

 

そして、前者に関しては「反らしても大丈夫にも関わらず、出来ない」という自己効力感が低い状態にあるため、「腰を反らしても大丈夫だ」という適正な水準にまで自己効力感を高めてあげる必要がある。

 

他方で、後者は「実際に痛いから腰を反らさない」のであって、自己効力感が低いとは言えない。

 

あるいは、痛みを誘発しやすい動作に関しても、恐怖をものともせず果敢に動かし過ぎる人達も少なからず存在しており、この人達はむしろ自己効力感が高いことが問題といえる。

 

※鎮痛薬によって痛みを感じにくくなっているクライアントも(組織修復が不十分にもかかわらず)自己効力感が高まりやすい。

⇒関連記事『痛みは生きていくうえで必須なものである

 

この例からも、自己効力感が高いことも、低いことも、問題となる可能性があり、「適正な水準に近づける」という考えが大切になってくるのではないだろうか。

 

 

恐怖-回避思考が強いかどうかで治療選択が変化する可能性

 

最後に『書籍:ペインリハビリテーション』の一部を引用して終わりにする。

 

この記事は、恐怖-回避思考が強いかどうかも考慮することの大切さを示しているのではと感じる。

 

痛みの知覚の変調は、注意・記憶といった脳の認知機能によっても起こる。

 

それらの情報を統合するのも前頭前野である。前頭前野は大脳辺縁系からの自己の情動に関する情報、そして他の大脳皮質領域(頭頂葉、側頭葉など)からの自己および外部の認知に関する情報を統合して、自己の痛みの状態を評価している。

 

患者から発せられる痛みの状態に対する言動は、この評価を介したものであり、情動や認知の側面によって最終的に述べられる痛みの程度は変調してしまう。

 

だからこそ、患者から述べられる言葉に対して傾聴し、それを理解しようとする意思を表し、それに対して共同注意し、問題ととらえ解決していこうとするプロセスを絶えず行いながら医療者は患者とともに生きなければならない。

 

Georgeらは急性腰痛患者に対して、不安―回避モデルに基づいた教育(FAPT:fear-avoidance-based physical therapy)と段階的負荷を行った標準的な運動療法群(SPT:standard care physical therapy)を比較した。

 

その結果、不安-回避志向が高い人はFAPTがより効果的であり、不安―回避志向が低い人はSPTがより効果的であることを報告している。

 

こうした研究結果は、個人の志向性など心の状態が違えば治療の選択を変えていくという臨床意思決定が求められることを示している。

 

その意思決定の多様性こそが患者が求めている治療であり、その多様性をもたらすためには、基礎から臨床の幅広い情報を求め、その情報に基づいて思考を循環させていくことが必要である。

 

 

「疼痛と自己効力感」の関連記事

 

痛みは恐怖-回避思考モデルによって悪循環にはまってしまう可能性がある。そして、この悪循環を断ち切るためにも自己効力感は重要である。

 

恐怖-回避思考モデルによる悪循環

 

 

自己効力感を高める方法の一つとして「痛み日記」があり、その日記に「ペインスケール」も活用する方法もあったりする。

※これによって、記憶バイアスの修正が期待でき(長期的には注意バイアスの修正)、認知行動療法における手法の一つとなる。

 

痛み評価テスト(VASなどのペインスケール)の臨床活用法

 

 

自己効力感と対局な言葉として、『学習性無力感』という用語があり、リハビリや看護をするにあたっては、こちらも重要な知識だと思われる。

 

学習性無力感・・・失敗によるネガティブ感情に注意せよ!

 

 

自己効力感と似た言葉として、『レジリエンス』という用語があり、こちらもリハビリ・看護のみならず多くの分野で注目されているので是非チェックしてみてほしい。

 

レジリエンスを身につけよう!

 

 

痛みのリハビリ(理学療法・作業療法)として、今注目を集めている『認知行動療法』についてまとめている。

認知行動療法の基本的な部分にも十分言及しているので、「痛み治療」のみならず、認知行動療法に興味がる方は是非チェックしてみてほしい。

 

外部リンク)認知行動療法とは?痛みリハビリへの応用