認知不協和説(cognitive dissonance)』とは「心理学的に矛盾する2つあるいはそれ以上の信念を持つこと」とされている。

 

不協和によってつくられた緊張状態は、その人が一番真実だと思いたい信念を増幅することによって、その人の不協和を減らすように動機付けする。

 

※このような動機付けは『確証バイアス』を起こす。

 

 

例えば、自分の全財産をなげうって、以前から大好きであった新車を、念願の思いで購入したとする。

 

しかし隣人がやって来て、「あなたの車は雑誌でも取り上げられるほど有名だよね。ただ、自動車の専門家が、その車のことをボロクソに批評をしていたよ」と、あなたに告げたとする。

 

その際、あなたは認知的不協和を経験する。

 

この情報に対するあなたの反応としてあり得そうなものは、(隣人に黙ってくれと望む以外に)車の特性を詳細に検討することだろう。

 

そして、新車を購入した自分の選択は賢明なものであるという確証が強まるような情報を意識的に集めることで、「隣人が言っていることなど無意味である」ということを自分に納得させることだろう。

 

 

クライアントが医学的治療を受ける際は、「自分が受ける治療は症状を軽減してくれる」と信じていることがほとんどだ。

 

しかし万が一、自分が信じているほどに症状が改善しなかった場合は、この信念との不一致が起こり、認知的不協和を引き起こすことになる。

 

するとクライアントは、症状に対する「自身の感じ方」を変えることによって不協和を弱めようと努力し、実際に症状は低下することもあるとされている。

 

この認知的不協和のレベルが高ければ高いほど、それを弱めようとする動機付けは強く働く。

 

 

例えば、手術はクライアントにとってリスクの高い選択肢となる。

 

そして、「リスクが高いだけ、他の治療を選択した場合より良くなるはずだ」という信念に繋がる場合がある。
そして手術で思うような結果が得られなかった場合は非常にレベルの高い認知的不調和を引き起こし、それを弱めようとする動機付けによるプラシーボ効果も高くなる可能性がある。

 

以前にプラシーボ効果の実験を紹介したが、この実験におけるプラシーボ(偽手術)が実際の手術に匹敵するほどの効果を示したことは、この動機付けが関与したのかもしれない。

関連記事⇒『プラセボ効果の実験

 

 

一方で、プラシーボ効果とノーシーボ効果は紙一重であるという点も忘れてはならない。

 

例えば、手術における期待感は、さほどの効果がなかった場合においても認知的不協和によるプラシーボ効果で改善を実感することがあるかもしれないが、
手術による効果が得られなかったことにより(期待感ではなく)絶望感が生じることも当然あり得る。

 

すなわち、期待感が裏切られたことによるノーシーボ効果が不安や恐怖を駆り立てて、従来以上の症状悪化に拍車をかけるという事もあり得るということだ。

 

私たちの臨床においても下記のような動機付けが存在する。

 

  • 研修会で、自身が信頼している指導者のデモンストレーションで治療を受けたものの、あまり変化を感じにくかった場合に、「そんなはずはない」と(無意識に近い)自動思考が出現し、その認知的不協和によるプラシーボ効果によって変化を体感することができた。

     

  • 肩書き(認定療法士・多くの研修会に参加してきたなど)を多くアピールしたり、治療をする前に「いかにこの治療が効果的か」「いかに多くの人を改善させてきたか」をアピールしたりといった行為によって「この人なら痛みを治してくれる」という信念を持つ。
    しかし、実際は大したことがなかった場合、「こんな凄い人に診てもらっているのに治らないはずはない」と(無意識に近い)自動思考が出現し、その認知的不協和によるプラシーボ効果によって鎮痛を体感することができた。

 

これらの例からも分かるように、これらの信念は「ハロー効果」「後光効果」といたものによって一層の強化が生まれることが多いとされている。

 

すなわち、「いかに自分が凄い人間か」をアピールするのは、マーケティング以外に、この効果も狙っている場合がある。