この記事では、疼痛と密接に関与しており、尚且つ徒手療法の作用機序としても用いられることもある「神経性炎症」について記載していく。

 

神経性炎症とは

 

神経性炎症とは、一次侵害受容ニューロン(主にC線維)における逆行性伝導(軸索反射・後根反射)によって放出される神経ペプチドによって起こる炎症性症状を含めた様々な作用のことを指す。

 

神経ペプチドには様々な種類が存在するが、一次侵害受容ニューロンの末梢側末端部・脊髄側末端部の両端において疼痛に関与する神経ペプチドとしては『サブスタンスP(SP)』『カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)』などがある。

 

※神経ペプチドには、SPやCGRPといった疼痛に関与する物質だけでなく、内因性オピオイドといった中枢神経において鎮痛に作用する物質も存在する。

神経性炎症

上記の図は『書籍:ペインリハビリテーション』より引用

※軸索反射に関しては『軸索反射とは』も参照。

 

以降の記事では、一次侵害受容ニューロンの末梢側末端部における神経ペプチドについて言及していく。

 

※念のため、(疼痛に関与する)神経ペプチドの脊髄側末端部での作用は以下の通り

①SPは『NMDA受容体の活性化』や『ワインドアップ』によって中枢性感作に関与する。

②CGRPの関与は不明である。

※関連記事⇒『中枢感作とは?脊髄後角で起こること!

 

 

神経性炎症によって生じる神経ペプチドの作用

 

侵害受容器から発生した活動電位の一部は、軸索反射や後根反射による逆行性伝導によって、別の侵害受容器(のポリモーダル受容器)に活動電位を到達させてしまう。

 

到達した活動電位によりポリモーダル受容器から神経ペプチド(SPやCGRPなど)が放出される。

 

※この神経ペプチドの放出こそが、ポリモーダル受容器の『効果器』としての作用である
ポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドは以下のように様々な作用がある。

 

  • 小動脈
    ⇒血管拡張

 

  • 小静脈
    ⇒血管透過性亢進・血漿タンパク質の漏出・発痛物質(BK・セロトニン)の遊離

 

  • 肥満細胞
    ⇒ヒスタミン放出

 

  • マクロファージ
    ⇒食作用

 

  • 好中球
    ⇒走化性

 

  • Tリンパ球
    ⇒増殖

 

  • 線維芽細胞
    ⇒増殖

 

  • 内臓平滑筋
    ⇒活動調整

 

上記の作用は身体において、それぞれに非常に重要な意味を持ち、徒手療法における様々な文献にも引用されている一覧であるため、覚えておいて損はないと思われる。

 

これらの一覧から、「神経性炎症は発痛作用以外にも様々な要素に関与している」ということが分かる。

 

そして、血管反応やこれらの様々な反応は組織損傷の治癒過程においては不可欠なものであり、神経炎症は生体防御反応の一種と捉えることができる。

 

実際、糖尿病の末梢神経障害により神経炎症が生じないことが、傷が治るのに時間がかかる理由とされている。

 

 

感覚神経から放出される神経ペプチドは神経栄養因子でもある

 

ここから少し脱線話をしていく。

 

感覚神経から放出される神経ペプチドは栄養因子でもあり、これが神経ペプチドを受け取ることができない組織は十分な生理活動が行えないとする説がある。

 

例えば、ラットの感覚神経を切る前後で、骨・腱・靭帯・半月板のコラーゲン代謝回転を観察する実験の結果、各部位ともにコラーゲンの代謝回転が悪くなっていた。

 

※特に骨におけるコラーゲンの代謝回転が顕著であった。

 

あるいは、神経障害が起こると、場合によっては以下のような現象が生じることも実験によって確認されている。

 

①筋緊張亢進(神経の感作による)

②(コラーゲン代謝回転低下で)軟骨ボロボロになる

 

これらの実験結果から、以下のような仮説を唱える人もいる。

 

『神経障害の結果として骨が脆くなることが分かっている。したがって、神経障害が骨粗鬆症の原因となり得る』

 

『脊椎変形や椎間板ヘルニアによる神経の圧迫が神経根障害につながるのではない。神経根障害の結果(コラーゲン代謝異常の結果)として脊椎変形やヘルニアが起こってくるのだ。』

 

※膝OAなども、同じ理屈でまず神経が障害されてコラーゲン代謝異常の結果として起こっているという理屈。

 

※また、神経障害が、骨・腱・靭帯・半月板などのコラーゲン代謝回転に影響を及ぼすことから、同様な理屈により、腱炎・腱骨膜炎・軟骨軟化症も起こるという仮説を唱える人もいる。

 

この様な考えのもとで「背部の深層筋における筋硬結は、脊髄神経後枝などの神経を圧迫することによる神経障害を誘発してしまうため、様々な部位におけるコラーゲン代謝回転へ影響を及ぼしてしまう」という仮説が存在する。

 

この考えを逆説的にとらえると「背部の深層筋における筋硬結の改善は、様々な部位におけるコラーゲン代謝を改善し、様々な部位の機能障害に対するアプローチとなり得る」(らしい)。

 

以上、余談終了。

 

 

神経炎症を徒手療法へ応用

 

ここから先は、神経性炎症を応用した徒手療法に関して一例を記載していく。

 

ディープフリクション

 

横断マッサージ(特にディープフリクションマッサージ)も、神経性炎症を誘発させる強度を用いることで、その後の循環改善を狙っている場合がある。

 

皮膚に対してマッサージ(外部刺激)を施行すると、侵害受容器が刺激を受け、細胞体から神経ペプチドが分泌され、中枢側に刺激を伝えるとともに、末梢側へも下降し、知覚神経末端からペプチドが分泌されて肥満細胞や内包平滑筋などに作用して血管を拡張したりといった作用が起こることが説明されている。

 

また、神経ペプチドは線維芽細胞にも作用する。

 

線維芽細胞とは組織の修復に重要な細胞で、アミノ酸を取り込んでコラーゲン線維を産生したり、基質成分を産生したりする(これらによって修復される)。

 

ディープフリクションマッサージによって再炎症を起こさせることで、組織の修復を早める効果があると言われている。

関連記事⇒『横断マッサージと機能的マッサージ(+違い)

 

 

神経性炎症が筋硬結・トリガーポイントへ与える影響

 

筋・筋膜における筋硬結(圧痛点・トリガーポイント)を伴う疼痛を、徒手による押圧により改善させる方法がある。

 

※一般的にはトリガーポイント圧迫リリース法・指圧などと呼ばれる。

 

これらによる疼痛改善機序には様々な説があるが、神経炎症における神経ペプチドが関与しているとする考えも存在する。

関連記事⇒『HP:トリガーポイント圧迫&リリース法

 

 

神経性炎症の関連記事

 

神経性炎症とは一次侵害受容ニューロン(主にC線維)における逆行性伝導(軸索反射・後根反射)によって放出される神経ペプチドによって起こる炎症性症状を含めた様々な作用のことを指す。

 

軸索反射とは

 

 

以下の記事に記載している『ルイスの三重反応』のフレアは神経性炎症によるものである。

 

ルイスの三重反応を解説