理学療法士の中で、エビデンス(科学的根拠)に基づく理学療法(EBPT)が提唱されてきている。

※エビデンスの重要性に関しては作業療法士も同様に言われている。

 

一方で、人間は機械ではない以上、「個別性」が存在する

 

また、「疾患」として一括にされているものの中にも「多様性」が存在する。

 

そして、これらの理由から「エビデンス」よりも、「自身の経験則を頼りにしつつ、その経験則に基づく治療に対する反応を確かめながら、臨機応変に修正を加えていく」といったスタンスを好む人もいる。

 

※つまり、エビデンスがあるかどうかは、あまり気にしないというスタンスの人もいるということ。

 

今回は、そんなエビデンスの必要性について考察してみる。

 

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理学療法にエビデンス(科学的根拠)は必要?

 

皆さんは理学療法にエビデンスは必要だと思っているだろうか?

それとも不必要だと思っているだろうか?

 

エビデンスの重要性は、理学療法の対象となるクライアントの疾患・病期によっても異なってくると思われ、以下の様な場合はエビデンスは重要になってくるのではと、個人的には感じている。

 

  • 内科的疾患
  • 術後の理学療法

 

 

内科的疾患に対する理学療法

 

 

例えば、内科的疾患(心疾患・糖尿病疾患)は客観的なデータに即した治療が行われることも多く、その治療の一環として行われる運動療法なども客観的データを基にされて実施されることが多く、エビデンスとしても蓄積されやすい。

 

そして、内科的疾患は必ずしも本人の主観が伴っていないことも多く、短期的な効果(1回の理学療法による効果)も把握しにくいため、「クライアントの現状に即した適切な理学療法」をエビデンスを頼りに選択することは非常に重要となってくる。

 

※もちろんエビデンス至上主義にはならずに、エビデンスをベースにした治療を選択しつつも、選択した治療の結果を客観的評価と符合させながら、更にクライアントに合った治療に軌道修正させることも大切となり、その際に自身に蓄積された経験則に基づく理学療法はヒントになるかもしれない。

 

※例えば呼吸器疾患における呼吸理学療法の中には、エビデンスが乏しい治療も存在するが、その様な手法がクライアントによって呼吸苦を改善さることができたというシングルケースは存在したりする。

 

 

術後の理学療法

 

あるいは、整形外科疾患の術後(他疾患の術後も同様かも知れないが)などもエビデンスは重要となってくる。

 

なぜなら、術後の回復過程は全ての人に共通しているため、それらの回復を手助けできるエビデンスのある理学療法を積極的に選択することは有意義となる。

 

そして、急性期・回復期の理学療法のエビデンスは蓄積されている。

 

※もちろん、術後の理学療法の役割は二次的障害の予防が中心であり、手術そのもののが起因している一時的な障害が原因で生じた問題は改善が難しい場合があるかもしれない。

 

※あるいは「術後の回復過程は全ての人に共通している」部分も多いが、例えば痛みなどは非常に個別性が強いため、エビデンスに即した理学慮法を提供しつつも、それら個別に有した機能障害にはエビデンスとは別の対処方法が必要となってくるかもしれない。

 

 

エビデンスは必要ない?

 

「痛みなどは非常に個別性が強い」と述べたが、「慢性的な痛み」となると複雑な要素が絡み合ってくるため、「エビデンス」といった型にはめた理学療法が効奏しないことも多くなる。

 

そして、慢性疼痛に関しては、自身の経験則(この様な訴えで、この様な刺激でこの様な反応を示す人には、この様な理学療法が適しているなど)が効奏する場合がある。

 

この様に記載すると、「であるなら、そういうパターンをエビデンスとして蓄積していけば良いではないか」と反論されるかもしれないが、慢性痛は多様性があるため(極端に言えば)クライアントの数だけ選択肢が(微妙にではあっても)異なってくる。

 

従って、仮にエビデンスとして蓄積していくとしても、メチャクチャ細分化されたフローチャートになってしまい、恐らく活用できない。

 

また、反応は随時変化していく場合もある。

 

例えば、前回の症状には好反応を示した理学療法が、今回は好反応を示さないといったことも起こることもあり、その都度の臨機応変な対応が求めらることもある。

 

※これは、前回の治療がその場しのぎであった可能性もあるし、前回の治療が好奏した結果として別の機能障害が浮き彫りになった結果かもしれない。

 

いずれにしても、「最初からエビデンスという枠に当てはめて考える」よりも、「まずは自身の得意とする治療コンセプトを臨床推論しながら実践していき、それでも難渋するようであればエビデンスも活用しみる」という方法のほうが好奏するケースも多い。

 

※ただし、大前提として「自身の治療コンセプト自体にエビデンスが存在するか(単なるプラシーボ効果な類の呪い(まじない)なだけではないのか」は知っておいたほうが良い。

 

※呪いめいた治療コンセプトを活用するなというのではなく、エビデンスにも目を向けておいたほうが客観的にコンセプトを活用できるという事である。

 

※つまりは、「自身が用いている治療コンセプトのエビデンスがどの程度かを知った上で、呪いめいたことをする」のと「全く知らない上で、呪いめいたことをする」のは異なってくる。

 

 

自衛隊の話

 

少し脱線話をする。

 

自衛隊が海外で活動する際のマニュアルの話である。

 

「自衛隊は日本の自衛のために存在している隊」ということになっており、自衛隊側から他者を攻撃してはならない。

 

他者から攻撃された際に初めて「自衛のための戦闘」を行うことができるのだ。

 

そして、海外の活動は「戦闘地域」ではなく、「非戦闘地域」に限られる。

 

また、「戦闘をしても良いかどうか」は自衛隊のマニュアルとして非常に細かく規定されているのだが、このマニュアルに関しては賛否両論ある。

 

例えば「非戦闘地域」での活動中に流れ弾が飛んできた際に、自身を守るために戦闘しても良いような気がする。

 

しかし、相手に日本を攻撃する意思は無く「たまたま」流れ弾が自衛隊側に飛んできたのであれば、応戦するすることで日本も標的にされる可能性があり、日本の国益を考えれば(わざわざ海外に出向いてまで、他国の事情に首を突っ込んでいる以上、戦闘はせず多少の被害があっても)逃げたほうが得策な場合もある。

 

この様な理由から「非常に細かく規定されたマニュアルに沿って活動するのは重要だ」という意見が存在する。

 

 

一方で、上記は理想論であるとの主張もある。

 

そもそも、マニュアルは細かく規定されすぎていて、(学者は規定を作っていて楽しいかもしれないが理想論であり)現実的ではないという意見だ。

 

例えば、前述したように「流れ弾」が飛んできた場合に「このケースは戦闘しても良いのか?」などと分厚いマニュアル本を確認していたら、そのタイムロスで死んでしまう事もあるだろう。

 

かといって、臨機応変に戦闘をして後で「細かすぎるマニュアル」を確認したら「実は戦闘をしてはいけなかった」と判明されれば、戦闘した罪を問われるこ可能性が出てきてしまう。

 

そう考えると、一分一秒が命取りになる現場において、マニュアルは大まかであるほうが助かるといえる。

 

つまりは、マニュアルに規定される内容は「1000箇条の戦闘回避リスト(ネガティブリスト)」ではなく、「50箇条の戦闘条件リスト(ポジティブリスト)」であるほうが望ましいという考えだ。

 

※例えば、「生命に危険を感じたら戦闘をしても良い」というシンプルなものであれば、細かすぎないので現場で判断して行動しやすい。

 

※もちろん、それによって生じるデメリットも考えなければならないため、議論が尽きないわけだが・・・

 

話を理学療法のエビデンスに戻すと、前述したように様々な場面でエビデンスが重要となってくるものの、一部の場面(慢性疼痛など)では、様々なエビデンスに囚われるよりも「自身の経験側などに基づく判断+臨床推論」によって治療したほうが効率的と言える。

 

そして、自衛隊における「ポジティブリスト」すなわち、「必要最小限の禁忌事項だけに留意しつつ現場における各々の能力に応じた治療方法の選択」のほうが効率的なのではと考える。

 

 

理学療法士の将来性を考えた際のエビデンス

 

ここまで、臨床におけるエビデンスの必要性について考えてきた。

 

一方で、理学療法士・作業療法士の将来性を考えた場合、エビデンスの蓄積は必須となってくる。

 

エビデンスとは、理学療法・作業療法にはどのような効果があるのか、どのくらいの割合で良くなるのか、このような症状にはこの方法が効くだろう、などと実際の治療を行う前の予測を立てるときに必要となる判断材料である。

 

ちなみに、この予測と言うのは、理学療法・作業療法のみならず、医療において一般的に行われているものである。

 

※例えば、医者はインフルエンザにかかったクライアントに対して、エビデンスのある薬を処方して、その薬による効果を予測する。自身の経験則に基づいて急に呪いめいた治療を選択することは無い。

 

そして、超高齢化社会においてこれからも伸び続けるであろう医療福祉の費用は、今後も国家予算をひっ迫し続けることは容易に想像がつく。

 

そんな中で、「個人的な経験則のみで、この様な治療でクライアントが良くなるはずだ」と言いはっているだけで、何の科学的根拠も蓄積されていないものに、国が今後も予算をつけつづけてくれるとは到底思えない。

 

従って、理学療法士・作業療法士が今後も存続していくという意味でもエビデンスは重要となってくると思われる

 

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エビデンスって必要か:終わりに

 

最近は、理学療法士の将来性を憂いている人たちが増えている。

 

そして、それらの中には、理学療法士の専門性として、治療に特化したことがなされていない(例えば「基本的・応用的動作」や「活動・参加」がクローズアップされており、「心身機能」の着目がおざなりになっているなど)ことが、将来性に暗雲をもたらしている原因だと考えている人達もいる。

 

そして、「理学療法士の専門性を再考しよう!」と声高に叫んでいたりする。

 

 

一方で、それらの人達が、ここで述べたエビデンスをどれだけ重要視しているかというと、疑問が残る。

 

前述してきたように、エビデンスに基づく理学療法であろうと、そうでない理学療法であろうと、結果が出ているのであれば(個人レベルでは)何ら問題ない。

 

しかし、「理学療法士の将来性」などといった壮大な視点で物事を考えるのであれば、もっとエビデンスの蓄積に努めるべきである。

 

にも関わらず、そういう人に限って「呪いめいて、エビデンスの蓄積が全くなされていない治療概念」に傾倒していたり、治療と称してその場限りの自己満足に終始していたりすることがある。

 

従って、(壮大な問題意識を持つのであれば)まずはお国に自身が用いている治療概念のエビデンスを示すことが、理学療法士の専門性云々を語るよりも先決な課題となってくる。

 

 

介護予防の必要性が言われ始めて数年が経ちました。

その結果、いくつかの都道府県や市町村でご当地体操が産声を上げました。

近年、いくつかのご当地体操を見学しましたが、10数年前の風船バレーを思い出しました。

年齢・性別・能力・嗜好性を問わず、理学療法士は風船バレーに熱中していたのです。

何故に現在、その風船バレーはほとんど姿を消したのでしょうか?

 

厚生労働省では30年同時改定に向けてエビデンスの無いものは認めないという見解を繰り返しいっています。

先日、厚生労働大臣にお会いした時も「政治と科学」と言われるように政治家による政策にあまりに科学的要素がないことを指摘されていました。

そのようなことから厚生労働省ではあらゆる衣装行為のデータ化を進めています。

リハビリテーション医療も当然です。

大臣に対して、理学療法士が介護予防に関わったら、ある市町村で介護予防が下がったという資料を見せた時も何故下がったかが分かるようにしなければ意味がないと指摘されたのです。

筋力なのか、バランスなのか、痛みなのか、意欲なのか、社会的要素なのか、それが大事だということです。

 

~『JPTA NEWS 20017,6,No307』の半田会長の言葉を引用~

 

 

理学療法のエビデンスを探すヒント

 

この記事の最後に、理学療法のエビデンスを探すヒントとして、論文の検索サイトを列挙しておこうと思う。

 

J-STAGE(無料観覧可能)

 

トップページの右上にある検索ボックスを以下の様に「誌名」に切り替えて、『理学療法』と入力して検索すると様々な雑誌がみれる。

 

無料で尚且つ興味深い文献も多いので、ぜひ活用してみてほしい。

 

検索サイトはこちらから⇒『J-STAGE

 

調べたい論文が特になくとも、理学療法で検索したらいろいろ出てくるので、自然と興味がわいて論文にアクセスしてみたくなるはずだ(無料だから、どんどん活用しよう)。

 

 

 

CiNii Articles(無料観覧可能)

 

検索サイトはこちら⇒『CiNii Articles – 日本の論文をさがす 

 

アクセスすると、デカデカトした検索フォームが出てくるので、興味があるキーワードを入力してみよう。

 

検索したいキーワードがパット思いつかない人は、とりあえず『マッケンジー』とでも入力してみてほしい。

マッケンジー法に関する日本の論文がポロポロとでてくる。

 

 

なんだかんだで参考になる理学療法士教会の情報

 

理学療法士教会が運営するサイトの情報も勉強になる。

 

疾患別のエビデンスが知りたい方は、まず以下を参照してみてはどうだろうか?

 

⇒『理学療法士学会 診療ガイドライン

 

PDFファイルとして以下がダウンロードできる

 

・ダイジェスト版の診療ガイドライン

・全体版の診療ガイドライン

・分割版の診療ガイドライン

 

オススメは分割版ガイドラインの目次を参考に、興味がある疾患のガイドラインをダウンロードしてみることだ。

 

あるいは、ダイジェスト版はQ&A方式も用いながら堅苦しくない表現でガイドライン・エビデンスを解説しているので、新人さんにはとっつきやすいと思う。

 

このガイドラインに関しては、他にも以下の記事も作成しているので合わせて観覧してみてほしい。

⇒『「理学療法学」に載っていた「背部痛に対する理学療法診療ガイドライン活用法」

 

 

また、理学療法協会では以下のページもある。

英語論文を日本語翻訳してくれているので、英語論文が読めなかったり、サクッと海外の最新の得たい人と思っている人には重宝すると思う。

 

⇒『解説付き英語論文サイト – 公益社団法人 日本理学療法士協会

 

 

有料な検索サイトもあるよ

 

有料な検索サイトも簡単に列挙しておく。

 

⇒『メディカルオンライン 医療文献検索サービス

※見放題1000円/月、全文ダウンロードは1論文あたり500円~など。

 

⇒『Medical Finder

※理学療法ジャーナルは、ここから観覧可能。ただし、観覧するにあたって論文1件ずつに費用がかかる。

 

 

エビデンス関連記事

 

エビデンスに対する私見

上記はマニュアルセラピーを含めたリハビリ(理学・作業療法)エビデンスに対する私見を含めた記事一覧である。

これらの記事を観覧して頂ければ、私のエビデンスに対するスタンスが何となく理解して頂けると思う。

※そして、エビデンスに対するスタンスは療法士によって大きく異なるため、多様な考えに触れて、自身のスタンスを確立してみてほしい(どれが正しくて、どれが間違っているといった絶対的なものはない)。

 

 

また、この記事では『呪いめいたリハビリ(理学療法・作業療法)』っといった類のキーワードが何度も登場したと思うが、この点に引っかかった方(で、尚且つ興味がある方)は以下の連載コラムも合わせて観覧してみてほしい。

 

理学療法士・作業療法士が知っておくべき「プラセボ効果」のまとめ一覧