最近の報道ニュースでは、震災における高齢者の肺炎がクローズアップされることがあり、肺炎と密接に関わっている誤嚥や、その予防としての口腔ケアに注目が集まっている。

 

今回は、そんな誤嚥性肺炎(不顕性肺炎)の予防に重要となる口腔ケアに関して、バイオフィルムにフォーカスを当てて記載していく。

 

目次

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口腔ケアで除去すべきバイオフィルムとは

 

私たちの口腔内は通常、食べ物のカスなどのタンパク質が歯間や歯周ポケットなどにこびりついており、それらを栄養源あるいは吸着のきっかけにするなどして、細菌にとっては絶好の繁殖環境となっている。

 

そして、私たちの就寝中は、これら細菌が繁殖しているため、起床時は口腔内に「ネバネバ感」を感じてしまうことがあるり、このネバネバ感は「バイオフィルム」による影響だと言われている。

 

バイオフィルムとは多数の細菌で出来た塊のことを指し、このバイオフィルムは外層に膜を形成し、殺菌の塊全体を覆ってしまうことで外界からの攻撃をシャットアウトしてしまう。

 

従って、膜の内部には菌自らの独立した環境をつくって増殖していくこととなる。

 

そして、睡眠中に口腔内の雑菌が歯間、歯面や歯周ポケットなどで増殖し、バイオフィルムの外膜はヌルヌルした糊状の状態を生み出し、これを放置すると歯周病や歯肉炎、虫歯、不快な口臭などの原因となる。

 

※バイオフィルムには抗菌薬は効かないため、歯ブラシなどでこすり落とさなくてはならない。

 

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バイオフィルムの全身への影響

 

口腔内のバイオフィルムは、歯科領域の病気だけでなく、全身の病気にも深くかかわっていることが最近指摘されるようになっている。

 

例えば誤嚥性肺炎は、唾液に含まれたバイオフィルムの一部などが、誤って気道内に吸い込まれ、肺へと侵入して感染を引き起こすというものである。

 

従って、飲み込む力が弱くなった高齢者は注意が必要となる。

関連記事⇒『誤嚥予防の基礎知識

 

※つまり、病院や介護施設による口腔ケア(口腔内洗浄)には、バイオフィルムの繁殖予防という意味が含まれている。

 

 

バイオフィルムの除去

 

バイオフィルムには抗菌薬は効かないため、歯ブラシなどでこすり落とさなくてはならないと前述したが、それだけでは不十分な場合が多い。

 

何故なら歯周ポケットを含めて、ブラシ(や歯間ブラシ)の届かない部位がどうしても存在してしまうからだ。

 

そして、バイオフィルムの除去するために、歯ブラシや歯間ブラシに+αとして、効果が期待されているものがマウスウォッシュ(液体歯磨き)である。

 

水道水で口をゆすぐだけではスッキリしない「ネバネバ感」が生じたとしても、マウスウォッシュ(液体歯磨き)をすると、口の中がすっきりしてネバネバ感が消える。

 

これは液体歯磨きに含まれている成分がバイオフィルムを破壊して内部に浸透し、殺菌を死滅させているからである。

 

※ただし、マウスウォッシュをやりすぎると、口腔内の正常な細菌叢(ノーマルフローラ)も破壊して体調を崩してしまう可能性があるので、ほどほどに。

 

※ただし、歯ブラシや歯間ブラシを十分に実施することが前提条件ではある。

 

※歯ブラシや歯間ブラシを十分に使用せずして、マウスウォッシュに頼っても効果は期待できない。

 

 

高齢者を守ろう!口腔ケアの重要性!

 

阪神淡路大震災、東日本大震災が起こった後の数週間、高齢者による肺炎が続出し、その中には死亡した人たちもいる。

 

※例えば、東日本大震災では、震災後3か月の間に225名が肺炎で入院しそのうち25名が死亡していた(死亡率23%)との報告もあり、肺炎患者の9割は65歳以上の高齢者であったとされている。

 

そして、この様に肺炎が起こった理由は誤嚥性肺炎と言われいる。

 

私たちの口腔内では雑菌が繁殖されており、特に寝ている時間帯の繁殖率が高い。

 

そして、就寝中に「知らない間に唾液を少しずつ飲むことなどによって生じる誤嚥」は高齢者で頻回に起こっており、この様にして起こった誤嚥を100%防ぐことは不可能と言われている。

 

従って、口腔ケアによって口腔内の菌を減らすことが、「唾液とともに(菌が気管に侵入してしまうことで)生じる肺炎」を予防するのに重要となってくる。

 

そして、震災後は非難して安静、すなわち寝ている機会も多くなり普段以上に雑菌が繁殖しやすい。

 

また、様々なストレスや緊急を要す課題に直面し、口腔ケアは後回しにされやすい。

 

更には、口腔ケアに必要な「水分」自体が被災地には不足していることもあるだろう。

 

不顕性誤嚥とは、「知らない間に唾液を飲むことなどによって生じる誤嚥」を指し、つまりは、食事中に本人・あるいは周囲が気づくような症状を有さずに生じる誤嚥が、かなりの割合を占めているということだ。

 

ちなみに、この記事で主に扱ってきた「食事時の嚥下や嘔吐など逆流で生じる誤嚥」は顕性誤嚥と呼ぶ。

 

最近起こった九州の大震災では、エコノミー症候群の危険性が取りざたされているが、それと同様に口腔ケアも認識し、誤嚥性肺炎に警鐘を鳴らしていく必要があるのではないだろうか?

 

熊本地震後、熊本県内の災害拠点病院になっている国立病院機構熊本医療センター(熊本市中央区)で、肺炎による入院患者数が前年同期と比べて倍増していることが西日本新聞の取材で分かった。

 

熊本赤十字病院(同市東区)でも2割近く増加。

 

地震による関連死疑い20人のうち、熊本県外に転院後に死亡した男性(87)は誤嚥(ごえん)性肺炎だったと確認された。避難生活が長期化する中、歯磨きなどの口の中のケアが不十分になると、特に高齢者は口の中の細菌が気管に入って引き起こす誤嚥性肺炎の危険性が高まるとされ、専門家は注意を呼び掛けている。

 

・・・中略・・・・・

 

神戸常盤大短期大学部の足立了平教授(口腔保健学)によると、阪神大震災の関連死921人のうち約24%を肺炎が占め、その多くが誤嚥性肺炎とみられるという。

 

東日本大震災でも危険性が指摘された。

 

足立教授は「誤嚥性肺炎は重症化すれば死を招く恐れがあるが、継続的な保健指導と啓発で命を守ることもできる」とケアの重要性を訴える。

 

西日本新聞より引用~

 

 

関連記事

 

誤嚥を予防するために必要な知識を以下にまとめているので、高齢者のリハビリに携わる方はこちらも是非参考にしていただきたい。

 

誤嚥予防の基礎知識