この記事ではモノアミン神経の一つである「ドーパミン神経」と、そこから分泌される神経伝達物質であるドーパミンについて記載していく。

 

目次

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ドーパミンとは

 

ドーパミンは、脳を興奮させる興奮物質の一つである。

 

興奮物質とは、神経細胞を刺激し、興奮させることで必要な働きをさせる化学物質のことを指す。

 

ドーパミンによって起こる興奮は一般的に、快感に作用することで知られている。

 

従って、よく興奮状態にある人が「アドレナリンが出ている」と表現することがあるが、その興奮が気持の良さも伴っているのだとすれば「ドーパミンが出ている」という表現の方が適しているのかもしれない。

 

※ちなみに、ドーパミンは脳内でノルアドレナリンにも変化する

関連記事⇒『ノルアドレナリンの基礎知識

 

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ドーパミン神経系について

 

ドーパミン神経系の主要なものには下記の2つがある。

 

・A9ドーパミン作動性神経系の興奮

・A10ドーパミン作動性神経系の興奮

 

 

A9ドーパミン作動性神経系の興奮

 

黒質(A9)から線条体へ投射する系で、運動の発現に関与する。

 

そして、この系におけるドーパミン分泌が不足してしまうことがパーキンソン病へ結びついてしまう事となる。

 

 

A10ドーパミン作動性神経系の興奮

 

腹側被蓋野(A10)から側坐核や前頭前野へ投射する系で、動機づけ・報酬学習に関与し、以下の2つの系が存在する。

 

・側坐核へ投射する系

・前頭前野(大脳辺縁系の前方部)へ投射する系

 

 

  1. 側坐核へ投射する系:

    「A10から側坐核へ投射する系」が、快情動を引き起こすとされている(快情動により報酬系にも関与する)。

    また、モルヒネなどのオピオイド系鎮痛薬の鎮痛効果には、A10ドーパミン神経も関与している。

    モルヒネやマリファナによる多幸感や薬物依存症は、薬物が腹側被蓋野などのドーパミン神経を抑制しているGABA神経を抑制するために、抑制の抑制(脱抑制)によりドーパミン神経が活性化するために生じる。

    いわゆる「ランナーズハイ」も、脳内にあるモルヒネ様物質(内因性オピオイド)の一つであるエンケファリンを脳内に注入すると、ドーパミンとは逆に、脳内自己抑制は抑制される。

    エンケファリンは欲求レベルを下げて満足を引き起こすような快情動を引き起こすと考えられている。

     

  2. 前頭前野(+大脳辺縁系の前方部)へ投射する系:

    動機づけや報酬系に関与しており、この経路はある種の適応行動の重要性を評価したり、強化したりする役割を持っている。

    ⇒実験により、ドーパミンが快楽だけでなく、期待に関与することが分かっている

 

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動機づけや報酬系としての役割

 

前述した「側坐核へ投射する系」と「前頭前野(大脳辺縁系の前方部)へ投射する系」は相互に作用し、動機付けや報酬系に関与することとなる。

 

A10から前頭前野や側坐核へ投射されるドーパミン神経細胞の興奮は「行動を起こした時に得られる、期待される報酬の量」と「行動をとった結果、実際に得られた報酬の量」の誤差(予測誤差)に応じて興奮し、興奮の度合いに比例して、行動を起こすのに関与した神経結合のシナプス伝達効率を向上させることが分かっている。

 

このドーパミン神経細胞の興奮と側坐核の神経連結が強化されることによって強化学習が起こる。

 

したがって、期待値と結果の差がプラスとなると正の強化が起こり、マイナスとなるとその連結において負の強化が起こる。

 

そして、ドーパミンと鎮痛の関係でいえば、ドーパミンが出が良いか悪いかではなく、「ドーパミンを出して行動したことが、良い結果(報酬)に結びついたかどうか」が重要であると言える。

 

もし、ある動作をしても痛みが出なかった場合は、その行動は「強化」されるだろうし、痛みが出てしまったり「弱化」してしまうであろう。

 

あるいは、「自分の痛みを周囲に伝えることで、皆が心配してくれる」という報酬が得られたのであれば、その報酬を得ようとして悪い方向にドーパミンが働き、痛みの悪循環を助長してしまう。

 

この意味からもドーパミンが「適度な量」で分泌され、なおかつドーパミンによって起こった行動が「良い結果(報酬)」に結び付くことが大切と言える。

 

一方で、リハビリに対して過大評価して「期待値と結果の差がマイナス(想像したよりも大した効果が得られなかった)」となると負の強化が起こりやすいということになる。

 

また、様々な社会的要素から痛みの完治を急いでいるにも関わらず、結果がそれに追いつかない場合も、負の強化が起こりやすい。

 

理学・作業療法士と患者側の信頼関係は、患者の情動においてこのような負の強化が起こると崩壊していく可能性がある。

 

ここでの解決策として、理学・作業療法士と患者側との間で報酬の予測(目標)を細かく設定し、常に目標と結果の関係が正になるように目標の水準を過大にしないよう進めていく必要がある。

 

こうした正の報酬予測は前頭前野の働きを活性化させ、下降性疼痛抑制系を作動させることが示唆されている。

 

また、正の報酬は、他者から信頼されることによっても生まれる。例えば、自己のとった行動に対して、他者が信頼のおける表情を与えるだけで、側坐核の活性化が生じることが人の脳で明らかになっている。これはもろ刃の剣であり、患者から発せられる言動や表情、そして行動に対して不信感を抱く表情や言動を医療者側が行うと負の強化が生じる可能性がある。

 

 

ドーパミンと病気・不調の関連性

 

ドーパミンによって起こる病気の代表例には「統合失調症」や「パーキンソン病」がある。

 

統合失調症はドーパミンの分泌が多すぎることによって起こる。

 

ドーパミンは前述したように「快感を司る神経伝達物質」なため、過剰になると興奮が続き、妄想・幻覚・幻聴などが起こってしまう。

※また、統合失調症とまではいかなくとも不安症に陥ってしまう事もある。

 

一方でパーキンソン病は、ドーパミンの分泌が少なすぎることによって起こる。