棘突起圧迫テスト(ドイツ徒手医学ではフェーダーテストと呼ばれている)について記載していく。

 

このテストは、文字通り棘突起を圧迫することで腰椎に対する副運動を評価すると同時に、疼痛誘発テストとしても用いることが出来る。

 

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目次

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棘突起圧迫テストの手順

 

棘突起圧迫テスト(フェーダーテスト)の手順は下記の通り。

 

①クライアントは腹臥位(必要であれば腰部の下へ枕を敷いて腰椎前彎を緩和させる)。

 

②セラピストはL5腰椎の棘突起を一側の母指・示指で摘む(自身の指を痛めないよう、鼻をつまむような形で保持する)。反対手はその上に重ねる。

 

③肘を伸ばし、体重移動により、棘突起を腹側へ押し込むように可動させる(カルテンボーンのグレードⅡまでの範囲・疼痛誘発に重きを置くのであればⅢでも良いが不安定性である可能性に注意すること)。

 

④L4→L3→L2→L1と上位分節へ移動し、②③を繰り返す。

 

 

棘突起圧迫テストの詳細な特徴

 

冒頭で、テストの目的は

 

①椎間関節副運動の評価

②疼痛が誘発されている分節の特定

 

と解説しましたが、もう少し詳細な特徴を記載しておく。

 

 

1)分節的な固定が出来ないので、厳密な分節テストにならない。

 

副運動テストは通常、関節に近い位置で把持することで固定し、反対側の手で可動させる。

関連記事⇒『HP:関節服運動テスト

 

例えば肩甲上腕関節の副運動テストでは、なるべく関節に近い位置で肩甲帯(肩甲骨)を把持した状態で、同じく関節になるべく近い位置で把持した上腕(上腕骨)を可動させる。

 

この固定がおろそかになると、肩甲上腕関節のみならず、肩甲胸郭関節などの他の関節も可動してしまうため厳密な評価が出来ない。

 

また、関節の小さな動きを感じるためにも関節の近くを把持することが望ましい。

これは針に糸を通す際に、針の穴の近くを把持しながら、糸のなるべく先端を持って操作したほうがコントロールしやすいのと似ているかもしれない。

 

しかし、このテストでは棘突起を腹側へ圧迫する際に、隣接した椎体を腹側からカウンターとして固定することが出来ません。ブヨブヨとした臓器が椎体の腹側に存在するため、圧迫した際は一分節にのみならず、多分節的に「脊柱のたわみ」様な動きが伝わりやすくなってしまう。

 

この点も含めて、いまいち副運動が把握できない場合もあり、その際は他の分節テストに切り替える必要があるかもしれない。

 

脊柱では関節運動を伴いながらの副運動テストもあり(例えば側臥位・他動的に股関節を屈曲していく連鎖として間接的に脊柱も可動させ、その際の分節的な動きを評価するなど)、それらの方が精度が高いとする報告もある。

 

個人的には、棘突起圧迫テストでは正常か過少運動性かの判断はつきにくい場合が多い反面、不安定性な場合は棘突起が(大げさにいうと)沈み込んでいく感じが分かりやす印象を受ける。

 

 

2)疼痛誘発テストも兼ねているので、副運動が分からなかったとしても、問題が生じている分節は少なからず特定できる。

 

このテストの良い点は(2)にあります。圧迫して疼痛が再現されれば、その上下どちらかの分節に問題がある可能性が示唆される。

 

そのため、例えばL4棘突起を押して痛みが誘発された場合、次のステップとしてL3/4 or L4/5のどちらに痛みが生じているのかをクライアントに聞いて判断していく。

 

圧迫した場所(L4棘突起)よりやや頭側であればL3/4、圧迫した場所あるいはやや尾側であればL4/5という事になる。

 

次に、問診により、L3/4・L4/5それぞれの回答があった場合は原因を下記のように考える。

 

  • L3/4が問題と思われる回答があった場合

    ⇒L4圧迫の際、L3/4には離解(というか関節包などへ伸張)刺激が加わっており、その刺激が疼痛因子かも。

 

  • L4/5が問題と思われる回答があった場合

    ⇒L4圧迫の際、L4/5には圧迫刺激が加わっており、その刺激が疼痛誘発因子かも。

 

フェーダーテスト

 

※疼痛誘発のみならず副運動の評価も兼ねているので、自身の判断も加味して様々な事を考えながらクリニカルリーズニングを展開していく。(もし、仮に副運動が大きいという所見+疼痛が誘発した場合、関節不安定性な可能性がある。

そして、その際の治療は、その部位の安定性を高めたり、他の動きが少ない関節へのモビライゼーションなどが選択枝として挙げられる)。

関連記事⇒『モビライゼーションとは!定義/適応・禁忌/方法を紹介

 

 

その他、棘突起圧迫テストのポイントは以下の通り。

 

①仙骨は上手く腹側へ押せないのでL5/S1の副運動であったり離開(というか関節包などへの伸張)刺激による疼痛誘発の評価はできない

 

②胸椎の評価には用いれない(関節面や棘突起の形状が腰椎とは異なるから)

 

 

※棘突起周囲は(問題が生じた際に)軟部組織が過敏になりやすい『疼痛ロゼット』というポイントであり、必ずしも椎間関節原性を示唆するものでは無い点にも注意が必要です。また、疼痛部位を問診した際に竹を割った様にハッキリとした回答が返ってこない場合もあり、その際は他のテストなども含めてクリニカルリーズニングしていくことになる。

 

※また、急性腰痛などの炎症により疼痛部位が広範囲にわたっていたり、軽微な刺激でも過敏に反応してしまうような状態の場合、(現時点においては)このテストは非適用となります。つまり、病期や症状を踏まえて、どんな評価が必要・不必要(あるいは禁忌)かを見極めることが大切で、手当たり次第にテストをすれば良いというものでは無いということになる。

 

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ここまでの、まとめ

 

まとめとして、この棘突起圧迫テストにより『関節が硬いか・正常か・不安定か』を評価すると同時に、疼痛が再現されるかどうかで『椎間関節由来の疼痛であるなら、どの分節、そしてどんな刺激が原因となっているか』を考える手段となる。

 

一方で、疼痛誘発を主目的とした場合、このテストだけでは筋・靭帯・椎間板など他の要素を疼痛原因から除外することは出来ないと言える。

 

そして、上記の情報を踏まえて、他の複数の評価でもクリニカルリーズニングしながら組み合わせていくことで少しずつ原因が絞っていく。

 

また、その際に棘突起圧迫テストと同様に『それぞれのテストの特徴」をしっかり理解しておくことが重要となる。

 

そして、これらと並行して試験的治療も実施しながら自身の仮説を証明していくことで明確な治療方針が打ち出せるようになってくる。

 

 

棘突起圧迫テストによる応用

 

この記事では、棘突起圧迫テストに関して、椎間関節の問題を中心に記載してきたが、最後に異なった視点での評価(そして治療)にもなり得るという事も記載して終わろうと思う。

 

例えば、あえて腹部の下に枕を敷かず腰椎の生理的前弯を出しておいて棘突起圧迫テストを施行したとする。

 

その際に疼痛の訴えがあったとすると、それを『関節副運動テストとしての椎間関節の視点』としてではなく、『椎間板理論に基づいた椎間板機能障害の視点』としても考えることが出来る。

 

そして、反復刺激を用いた後に、ベースラインの動作(評価前に疼痛が誘発されていた動作)をしてもらった際に症状が改善していれば「メカニカルな刺激によって痛みに変化が生じた(この場合は改善した)」ということでDerangement症候群と解釈するのもアリで、その判断を元に適切な治療を展開していくことも出来る。

 

これは、棘突起圧迫テストが厳密な分節テストになりにくいというデメリットを、多分節的に「脊柱のたわみ」様な動き、すなわち多分節にコンバーゲンス方向のオーバプレッシャーが伝わりやすいという後方Drangementにとってのメリットに変えての試験的治療ということになる。

 

※ただし、本来のマッケンジー法は原因を特定したりしません。原因は椎間関節か椎間板かなどと思考しながらのアプローチは、あくまで「マッケンジー法を総合学派の考えに組み合わせる」という意味で紹介しているに過ぎない点は了承してほしい。

 

個人的な臨床においても、この視点からの刺激の解釈によって、理学療法的診断、治療に結びつくことは多々ある。

 

これらのことから、一つのテストにおいても、視点を変えれば様々な刺激が加わっていることを意味し、単眼的に解釈しないよう注意しながら臨床を行うよう心掛けるようにしていきたいと思う。