この記事では、関節モビライゼーション・ストレッチング・ROMexなどの関節可動域を改善するための治療選択をする上で大切となるエンドフィールの種類を記載していく。

 

目次

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エンドフィールとは

 

エンドフィール(最終感覚)とは「他動運動の最終域で感じる抵抗感」を指す。

※諸説あり。

 

※例えば「自動運動最終域で、他動的な角運動を施行した時又は並進運動時の最終的感触」を指すこともある。

 

エンドフィールは他動運動における可動域が制限されるポイントにおいて、療法士がどの様な感覚を持つかで表現していくこととなる。

 

そして、どの様なエンドフィールであったかによって、様々な解釈をしながら臨床推論に活用していく。

 

エンドフィールの解釈はいくつかあるが、「正常なエンドフィール」「異常なエンドフィール」と分けて以下に記載してく。

 

エンドフィール

~正常~

・骨と骨の衝突

・靭帯・関節包性

・軟部組織の衝突感

・軟部組織の伸張

 

肘関節伸展

前腕回内外や肩関節の外旋

膝関節屈曲

SLR

~異常~

・速い筋スパズム

・遅い筋スパズム

・抵抗感の消失

・弾性抑止

 

傷害後の防御性収縮(つまり筋ガーディング)

関節不安定性や痛みによるスパズム

急性炎症・腫瘍・心理的原因による防御反応

半月板損傷

 

※『骨と骨の衝突』の中には「異常なエンドフィールに該当するものもある(例えば、関節リウマチなどで関節の軋轢を伴うなど)

 

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正常なエンドフィールの種類

 

正常なエンドフィールの種類は以下の3つとなる。

 

骨性エンドフィール

関節包・靭帯性エンドフィール

軟部組織性エンドフィール

 

ただし、「正常なエンドフィール」が「正常とは逸脱した状態」であるが故に起こってしまうこともある。

 

 

骨性エンドフィール(Hard:硬い弾性)

 

硬く、弾力のないエンドフィール。

 

正常な骨性エンドフィールでは、痛みは生じない。

 

例えば、正常な肘関節の伸展最終域で認める。

※「尺骨の肘頭」と「上腕骨の肘頭窩」との接触)

 

正常可動域に達する前に骨性エンドフィールが認められるなら、骨折・関節リウマチ・変形性関節症などのによる骨変形によって起こっている可能性もある。

 

※軋轢音を伴うこともある。

 

※異常な骨性エンドフィールな場合、これ以上の関節可動域が改善されないこともある。

 

※ただし、リウマチなどでは構成運動(関節包内運動)にも操作を加えることで、エンドフィールの変化(可動域の変化)が起こることもある。

 

 

関節包・靭帯性エンドフィール(Firm:固定された弾性)

 

固定された弾性のエンドフィールは、「骨性エンドフィールよりは弾性があるが、軟部組織性・筋性エンドフィールよりは弾性が乏しい」という中間的なエンドフィールとなる。

 

正常な前腕回内外や肩関節外旋の最終域は「関節包・靭帯性エンドフィール」である。

 

例えば前腕回外最終域では「下橈尺関節の掌側橈尺靭帯、骨間膜、斜索の緊張」などによってエンドフィールを感じることが出来る。

 

 

軟部組織性エンドフィール(Soft:柔らかい弾性)

 

軟部組織性エンドフィールは「軟部組織接触性エンドフィール」と「軟部組織伸張性エンドフィール」に細分類される。

 

 

軟部組織接触性エンドフィール(soft tissue approximation):

弾力性のある軟部組織(特に筋)が圧迫されて運動が止まるエンドフィール。

正常な膝関節の屈曲(正座をした際には、ハムストリングスと下腿三頭筋の圧迫し合うことによって運動が止まる)などが該当する。

 

※厳密には、踵部と臀筋群の圧迫と表現したほうが正しいかもしれない。

※いずれにしても、膝屈曲の最終域におけるエンドフィールが、「軟部組織接触性エンドフィール」ではなく、「関節包・靭帯性エンドフィール」であるならば、それは「異常なエンドフィール」と表現できる。

 

ちなみに、関節に腫脹が生じている場合などでも、軟部組織接触性エンドフィールとなる場合がある。

 

 

軟部組織伸張性エンドフィール(tissue stretch):

弾力のある硬いバネ様のエンドフィール。

軟部組織(主に筋を指している)が伸張されることによるエンドフィールを指す。

例えばSLRテストで他動的にハムストリングスが伸張された際における最終域でのエンドフィール。

 

※SLRテストは神経系に問題があるかを評価するテストだが、陽性かどうかの判断指標に「可動域制限」「痛み」がある。

 

ただし、ハムストリングスの短縮が強くてもSLRで可動域制限は起こる。

また、ハムストリングスが伸張されることで「伸張痛」を訴えることもある。

「ハムストリングスの伸張痛」と「坐骨神経痛」は全く痛みの質が異なるものの、中には分かり難い痛みも含まれる。

そんな際にも、エンドフィール(最終感覚)を吟味することは鑑別の手助けの一つとなり得る。

SLRのエンドフィールは(坐骨神経痛によって生じるような異常なエンドフィールでなければ)軟部組織伸張性エンドフィール(弾力のある硬いバネ様のエンドフィール)となる(エンドフィールも分かり難い場合もあり、確実にエンドフィールで鑑別が出来るといっている訳ではない)。

そんなSLRテスト(ラセーグテスト)に関しては、以下の記事でも深堀しているので、こちらも参考にしてもらいたい。

関連記事:

⇒『ラセーグ徴候とは?!ブラガードテストやSLRとの関係も解説

⇒『SLRテストを動画で解説!

 

 

異常なエンドフィール

 

ここからは、正常では起こりえない、異常なエンドフィールについて記載してく。

 

異常なエンドフィールは以下の3つに分類される(諸説あり)

 

筋スパズム性エンドフィール

無抵抗性エンドフィール

弾性抑止性エンドフィール

 

 

筋スパズム性エンドフィール(muscle spasm)

 

他動運動中に突然運動が遮られるようなエンドフィールで以下の2つが含まれる。

 

※筋スパズム性エンドフィールが、以下の2つを意味しているわけではなく、以下の2つを含むという解釈。

 

早い筋スパズム(early muscle spasm)」性エンドフィール:

運動可動域の早期に出現(多くは運動開始とともに生じる)。

炎症や急性期の症状を意味している。

リンク先サイトに記載してある筋ガーディングが起こっていれば「筋スパズム性エンドフィール」になるかもしれない(例えば寝違えで起こった急性頚部痛など。

 

遅い筋スパズム(Late muscle spasm)」性エンドフィール:

最終可動域の付近で認められる。

不安定性がある関節において、運動に対して過敏になることで起こることが多い。

例えば、股関節唇損傷で不安定性を呈した股関節周囲筋によって生じるエンドフィールなどが該当するかもしれない。

どちらのエンドフィールも、関節が動かされた際にそれを保護する、もしくはさらに組織が損傷されないように無意識に作用するものと考えられる。

 

 

無抵抗性エンドフィール(empty)

 

痛みや恐怖心などによって、他動運動中に突然起こるエンドフィール(これによって他動運動がとまってしまう)。

 

療法士は構造的なエンドフィールが感じられず、さらにそれ以上動かす事が出来ない状態となる。

 

「無抵抗性エンドフィール」を起こす要因となる「痛み」に関しては以下が挙げられる。

 

  • 急性滑液包炎、関節外の膿腫・腫瘍によるもの
  • 骨折あるいは急性炎症の過程
  • 心因原性の状態に対する疼痛あるいは二次的な筋スパズム

 

そして、「無抵抗性エンドフィール」を無視して療法士が関節を可動しようとすると、上記による強い痛みが誘発されてしまうこととなる。

 

 

弾性抑止性エンドフィール(springy block)

 

跳ね返るようなエンドフィール。

 

半月板のある関節内に生じることが多い(例えば、膝の半月板損傷によって、関節がブロックされた状態や完全伸展が不可能な際のエンドフィール)。

※その他、肩関節関節唇・股関節関節唇など

 

関連記事⇒『「股関節唇損傷」を徹底解説!急性外傷後・変形性股関節初期の痛みの原因かもよ?

 

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エンドフィールを見極めて、治療方法を選択しよう

 

どの様なエンドフィールかを把握することで、適切な治療を選択していく。

 

例えば、エンドフィールが「軟部組織性」であばストレッチングが適用となるかもしれないし、「関節包・靭帯性」であれば関節モビライゼーションが適用かもしれない。

 

また、エンドフィールによっては「選択してはいけない手法」、さらには「可動域制限の改善自体を試みてはいけない場合」もあるかもしれない。

 

ここでは、「無抵抗性エンドフィール(empty)」を例にして、治療選択を考えてみる。

 

このエンドフィールの一部は、「組織損傷による急性期は脱したものの心因性の防御性収縮が起こっている状態」で運動途中にも関わらず恐怖によって他動運動を止めてしまっている場合がある。

 

あるいは筋ガーディングの結果として、「筋の循環不全により新たな疼痛因子が筋自体に生まれた状態」となっており、この痛みに対する恐怖によって他動運動を途中で止めてしまっている場合もある。

 

そして、これらは恐怖感をうまく取り除いてあげる(認知へ働きかけるアプローチ)によって緩和される可能性もあるだろう。

 

「認知へ働きかけるアプローチ」と聞くと、難しいイメージを持つかもしれないが、これらのアプローチも単純なものから複雑なものまでピンキリである。

 

単純なものでいえば以下の試みも「認知へ働きかけるアプローチ」と言える。

 

痛みが出現すると思い込んでいる関節へ愛護的な他動運動を施すことで、痛みが出現しない事を(意識下or無意識下で)体感してもらう。

 

※これを出発点として、必要に応じて複雑なアプローチが必要となる場合もあるが)

関連記事⇒『認知行動療法をリハビリ(理学療法/作業療法)にも応用しよう

 

 

この様なアプローチは、誰もが大なり小なり臨床でも実施しているのでなないだろうか?

 

そして、この様にアプローチしていると可動域が拡大し、エンドフィールも「無抵抗性エンドフィール(empty)」から「筋スパズム性エンドフィール(muscle spasm)」などへ変化するかもしれない。

 

そして、筋の循環障害などによって「筋スパズム自体が根本的な疼痛の原因」となっている場合は、『PIR(Post isometric relaxation)』などを愛護的に実施することによって筋スパズムが改善し、更に可動域が拡大し、更に別のエンドフィール(例えば、関節包・靭帯性エンドフィール)に変化していくかもしれない。

 

※ちなみに、PIRなどの軽微な筋収縮自体にも恐怖感があるのであれば、『ストレインカウンターストレイン』を用いてみるのも良いかもしれない。

 

※例えば個人的には、頚部に筋スパズム(+筋原性の疼痛)を有しており、その筋が伸張される方向への恐怖感も有しているケースにおいては、ストレインカウンターストレインをよく使う。

 

※つまり、筋スパズム改善の方法は幾つもあり(腰部であれば『マイオセラピー』などでも良いかもしれない)、自身の有いしているスキルや、クライアントの反応が良いものを活用すれば良いということになる(手技の優劣は存在しない)。

 

 

また、関節モビライゼーションを施行する際にも、脊柱などで細かな筋群(多裂筋など)がはりめぐらされている場合においては、エンドフィールを確認して(筋原性の要素も感じ取れるのであれば)PIRを何度か施行後に、関節モビライゼーションへ移行するという手法もよく用いられる。

 

更に言うと、関節は多様な収縮組織・非収縮組織が張り巡らされており、その中には解剖学的な名称が与えられていないような細かで個別性のある組織も存在する。そして、エンドフィールが「靭帯・関節包性」などと言っても、厳密には「それらが優位な状態」なだけということになる。

 

つまり、関節モビライゼーションではそれらマニアックな組織(収縮性組織であったり、非収縮性だが可塑性に富んだ組織であったりも含む)も伸張されており、関節モビライゼーションの効果は、実はこれらマニアックな組織に変化を起こした結果という解釈も成り立つ。

 

※もちろん、関節周囲の筋膜(広義の膜組織として、高密度平面組織シート、更にはこのネットワークを靭帯と腱の形で局所高密度化したものも含めて)にも刺激を加えているということになる。

 

例えば「膝関節のモビライゼーション」といってもACLやPCLなどの太い靭帯へ即自的な変化を起こそうとしているわけではない。

 

これらの点を理解したうえで以下の記事を観覧してもらうと、理解も深まり治療技術も向上すると思う。

⇒『モビライゼーションとは!定義/適応・禁忌/方法を紹介

 

・・・・・話をエンドフィールに戻す。

 

「早い筋スパズム(early muscle spasm)性エンドフィール」の中でも急性痛を庇うための「筋ガーディング」によって起こっている場合には、その様に庇うだけの理由があり、治療は控える必要がある(あるいは改善させること意味が乏しい)場合があるかもしれない。

 

一方で、「筋ガーディングが必要な因子が取り除かれているにもかかわらず残存している筋スパズム」は、それ自体が疼痛誘発因子へ移行する場合があり、除去する必要が出てくるかもしれない。

関連記事⇒『筋ガーディングと筋スパズムの違いと対策

 

あるいは、「遅い筋スパズム(Late muscle spasm)」性エンドフィールであれば、「この様な筋スパズムを起こさなければならない原因」を考える必要性があるかもしれない。

 

例えば関節不安定性を補うための筋スパズムであれば、それらの筋スパズムを除去することで一時的な疼痛緩和は得られても関節不安定鋭は残存したままであり、それだけでは筋スパズムは再発する可能性がある。

 

従って、筋スパズムの除去+αとしての対処が必要な場合も出てくるかもしれない。

 

 

エンドフィールまとめ

 

臨床で関節を動かしていると、自然とエンドフィールを分類できるようになるので、新人さんも焦る必要はない。

 

また、エンドフィールは(前述した分類のように)竹を割ったようにすっぱりと分けれるとは限らない。

 

例えば、「関節包・靭帯性エンドフィール」とは言っても、それらの要素が優位なだけで、軟部組織性の要素も多少は加味されていたりする。

 

 

関連記事

 

エンドフィールも一つの指標としながら、以下に挙げる関節モビライゼーションや軟部組織モビライゼーションなどの治療選択をしていくこととなる。

 

モビライゼーションとは!定義/適応・禁忌/方法を紹介

 

ストレッチングを動画で解説!

 

横断マッサージと機能的マッサージ(+違い)