この記事では、エクステンションラグの原因(内側広筋との因果関係含む)について、リハビリ(理学療法)にも言及しながら記載していく。

 

大腿四頭筋の筋力低下とエクステンションラグ

 

エクステンションラグ(extension lag)とは「他動運動では完全伸展可能であるが、自動運動では(15~20°程度の)最終伸展が出来ない状態」を指し、大腿四頭筋の筋力低下によって起こる伸展不全を指す。

 

このエクステンションラグは、端坐位での膝伸展自動運動で観察されることが多く、「自身の下腿程度の重さに抗して完全伸展出来ないほど筋力低下した状態」ということになる。
エクステンションラグ
膝関節のエクステンションラグ(伸展不全)は、膝術後や外傷後のリハビリ時に問題となることがある。

 

 

エクステンションラグが起こりやすくなる要素

 

膝関節が最終伸展に近づくにつれて以下が起こる。

 

  • (下腿の重みやハムストリングスの影響によって)屈曲トルクが最大となる
  • 大腿四頭筋の最大内的トルクの発生能は最小となる

    ※筋が短縮した状態(端坐位での膝関節伸展最終域では起始(ASIS)と停止(膝蓋粗面)がかなり近づいている状態)では力を発揮しにくい

 

一方で、立位や臥位(でのパテラセッティングなど)ではハムストリングスの抵抗を受けなかったり、下腿の重さが抵抗にならないといった要素が、エクステンションラグを起こしにくくしていると言われている。

 

※立位ではさらにOKCにより多くの共同筋が利用できるといった側面もある。

関連記事⇒『CKCとOKC(+違い)

 

 

更に「関節水腫」が加わると以下の理由でエクステンションラグが起こり易くなる。

 

  • 腫脹は関節内圧を増大させ、それは物理的に膝関節最終伸展を制限する。

 

  • 増大した関節内圧は大腿四頭筋の神経活動も反射的に抑制する。

 

従って、関節水腫を減じることは、膝関節のリハビリ(理学療法)の効率性を高める上で重要となる。

 

 

内側広筋とエクステンションラグの因果関係

 

内側広筋は障害により萎縮し易く回復しにくい筋とされ、膝伸展不全(extension lag)の原因として以前は考えられてきた。

 

しかし、その後に多くの検証がなされ以下の点が明らかとなった。

 

  • 膝伸展最終域において「内側広筋だけ特別な」筋活動を起こしていない
  • 内側広筋に麻酔をかけても膝伸展が可能(つまりエクステンションラグが起こらない)で尚且つ階段昇降も可能であったことが報告されている。

 

※内側広筋に麻酔をかけてもエクステンションラグが起こらなかったっという結果は、エクステンションラグと内側広筋の因果関係が無いことを示す決定的な事実と言える。

 

 

一方で、ここまで述べてきたように「大腿四頭筋の筋力低下」と「エクステンションラグ」の因果関係は当然のことながら存在し、エクステンションラグを改善したいと思うのであれば、「大腿四頭筋全体の筋力増強」が重要となってくる。

 

そして、「(端坐位における)膝関節の軽度屈曲~伸展域」というのは大腿四頭筋が短縮位での筋収縮が要求されるため、療法士が伸展位へもっていき、その位置を(介助下で)保持してもらうという等尺性収縮から開始する方法も選択される。

 

以下がエクステンションラグの動画となる。

でもって、25秒以降に療法士が運動を介助しエンドレンジまで可動させている。

 

 

もちろん、端坐位ではなく難易度の低い(エクステンションラグの起こりにくい)「背臥位でパテラセッング」を実施するところから始めても良い。

関連記事⇒『パテラセッティング(クアドセッティング)って効果ある?

 

 

エクステンションラグの原因

 

ちなみに、(ここまで述べてきたことと重複する点も多いが)膝関節におけるエクステンションラグの原因として書籍:運動療法学では以下の様に記載してある。

 

  • 筋力低下
  • MMTの最終域で最も重力の影響を受けるのは膝伸展と肘伸展であり、lagが目立ちやすい
  • ハムストリングスの収縮
    (骨盤固定のためハムストリングスも収縮し膝伸展に抵抗)
  • ハムストリングスの短縮
    (10°SLRではlagがない場合など)
  • 痛み(反射性の抑制)
  • 腫脹(伸展域の方が関節内圧が高まり、大腿四頭筋に抑制をかける。

 

 

内側広筋に特別な作用は無いのか?

 

ここまでは内側広筋とエクステンションラグの因果関係は無いという点を記載してきたが、では内側広筋には特別な作用は無いのでだろうか?

 

実は、特別な作用を指摘する意見もあり、それは内側広筋の中でも『内側広筋斜頭線維』に関してである。

 

 

内側広筋斜頭線維の役割とは?

 

エクステンションラグと内側広筋の因果関係は否定されたが、内側広筋(その中でも内側広筋斜頭線維(VMO))には以下のような特別な作用があるとされている。

 

『膝蓋骨の安定性を高める』

 

 

でもって、ここでは内側広筋斜線維について記載していく。

※その前に、念のため以下が内側広筋となる。
大腿四頭筋:内側広筋
内側広筋の筋連結は以下になる。

  • 大内転筋(腱)
  • 大腿直筋(腱)
  • 中間広筋(腱)
  • 恥骨筋(腱膜)
  • 長内転筋(腱)
  • 短内転筋(腱膜)

 

後述するが、この中でも大内転筋は内側広筋の賦活に重要な役割を担っているとされている。

 

 

内側広筋斜頭線維とは

 

内側広筋の生理学的断面積は大腿四頭筋全体の約20~35%を占めており、内側広筋は以下の2つに分類されることがある。

  • 内側広筋を長頭(VML)
  • 内側広筋の斜頭(VMO)

内側広筋斜走線維 長頭
画像引用:オーチスのキネシオロジー

 

この分類は解剖学的・バイオメカニクス的分析に基づくものであり、内側広筋の機能を明確にしている。

 

そして、内側広筋斜頭線維(VMO)が有している特殊な機能が前述した『膝蓋骨の安定性を高める』というものである。

 

具体的には、膝蓋骨は下肢のアライメントの関係上、(内側広筋以外の)大腿四頭筋によって外側へ引っ張られやすいのだが、そんな膝蓋骨の「外側引っ張り」とバランスをとるように適応した筋こそがVMOとなる。

 

※VMOがほぼ内外側方向に走行して直接膝蓋骨に連結していることから、安定性を産生する上では理想的な走行となっているとされている。

 

 

膝蓋骨の安定性と「Q角」

 

大腿四頭筋の外側方向への牽引力を算出するための指標としては「Q角(Qangle)」というものがあり以下の2つの交点で形成される(画像引用:オーチスのキネシオロジー)。

 

Q角
  • 上前腸骨棘(ASIS)と膝蓋骨中央を結ぶ線
  • 膝蓋骨中央と脛骨粗面を結ぶ線

 

Q角の値の一般的基準値は10~20°

※ただし、女性の方が男性より有意にQ角が大きいとされている。

 

そして、このQ角が大きいほど膝蓋骨が大腿四頭筋によって外側へ引っ張られやすくなる。

 

大腿直筋や中間広筋は大腿中央に位置するため、膝蓋骨を大腿骨長軸方向に牽引する。

 

一方、大腿骨が脛骨に対して外側へ傾斜しているために膝蓋骨は近位外側へと引かれる。その上、外側広筋が膝蓋骨を牽引する方向は、大腿骨に対してやや外側へ向いている。

 

反対に、膝蓋靱帯は遠位方向に膝蓋骨を牽引する。

 

したがって、これらの合力は膝蓋骨を外側方向へと牽引する。

オーチスのキネシオロジー~より

 

献体肢のVMOの線維を選択的に切離すると、テストされた膝関節可動域を通して膝蓋骨の内側安定性は27%消失したとの報告がある。

 

したがって、内側広筋斜頭の筋力低下は膝蓋骨の安定性を減少させ、膝蓋骨が外側変位を起こし、膝蓋大腿関節の疼痛として現れることがる。

※膝蓋大腿関節の変位やMobilityに関する評価は以下も参照。

 

膝蓋骨の関節モビライゼーションを動画で理解

 

 

内側広筋の選択的トレーニングに関する議論

 

エクステンションラグの原因は内側広筋に限局した問題ではない点(問題は大腿四頭筋全体の筋力低下である点)は前述してきたが、その一方で、膝蓋大腿関節の機能障害(外側変位・不安定性・膝前面に痛みなど)を有している人の一部はVMOの好発的な萎縮や抑制が生じているとする意見もある(厳密に言うと、統一した見解は得られておらず、否定的な意見もある)。

 

従って、「エクステンションラグ」ではなく「膝蓋大腿関節の機能障害」に着目した場合は、様々なリハビリ(理学療法)の手段の一つとして内側広筋の選択的収縮は大切となってくるかもしれない。

 

ただし、そこで問題となってくるのは「内側広筋を選択的に収縮するトレーニングなど存在するのか」という疑問であり、この点に関しても(否定・肯定合わせて)様々な意見がある。

 

そんな内側広筋の選択的トレーニングを以下に2つ紹介する(参考:運動療法学

CKCとOKCのトレーニングを各1つずつ記載

 

 

OKCでの内側広筋斜筋の選択的トレーニング

 

膝蓋骨の外側変位や不安定性を伴う膝蓋大腿関節の痛み(要は膝前面の痛み)があり、内側広筋斜頭を選択的に強化しようと思った場合は、股関節の内転と伸展を組み合わせた運動を実施する。

 

※この運動は外側広い筋(VL)よりも内側広筋斜頭(VMO)をより強く収縮させる(=VMO/VL比が高い)トレーニングとされている。

股関節内転による内側広筋の収縮1
股関節内転による内側広筋の収縮2
  1. 対象者は側臥位で、患側下肢(左下肢)の股関節45°屈曲位とする。
  2. 療法士は健側下肢(右下肢)を外転位に保持する。
  3. 患側下肢を(股関節内外旋中間位にしたまま)、健側下肢に近づけるよう股関節内転・伸展してもらう。

 

 

上記の「股関節45°屈曲位からの伸展・内転」では内転筋群が収縮するが、その中で『大内転筋』の腱性部は内側広筋の起始としての役割をもち、大内転筋の活動は内側広筋の収縮効率も影響を及ぼすとされており、この点を活用した手法となる。

 

この点に関して、詳しくは以下の記事の「大内転筋」のコーナーも観覧してみてほしい

関連記事⇒『股関節内転筋群(長/短/大内転筋・恥骨筋・薄筋)について解説!

 

ただし、この手法は比較的運動機能の高いクライアントに対して活用できる方法と言える。

 

※高齢者など全般的な運動機能が低下しているクライアントでは、内転+伸展を伴う3次元的な運動が困難であったり、代償として健側下肢(外転位に保持した下肢)を内転させようとすることでの代償がみられることが多い。

 

※なので(運動機能の低い人に対しては)、次に記載する「スクワットを活用したエクササイズ」の方が簡便でおススメ。

 

 

CKCでの内側広筋の筋活動を高める方法

 

通常のスクワットに股関節内転筋の等尺性収縮を加えることにより、膝関節周囲筋(大腿四頭筋やハムストリングス)の筋活動は増加すると言われており、更に以下の特徴がある。

 

  • 増加率は大腿四頭筋よりもハムストリングスのほうが高い。
  • 増加率は外側広筋よりも内側広筋斜頭のほうが高い。

 

ただし、膝軽度(30°)屈曲位のみ筋活動が増加し、60°屈曲位では増加しないとされている。

 

この事から、この手法によって内側広筋を強化する場合、深屈曲は必要ないということになる。

 

等尺性収縮の加え方は、療法士が徒手的に操作を加えればOK。

 

一方で、ゴムボールなどを膝に挟んで実施する方法ではスクワット中にKnee-inしてしまう可能性が高いのであまりお勧めできない。

 

これらを踏まえた上での「スクワット肢位での股関節内転等尺性収縮」の方法は以下となる。

 

  1. 肩幅くらいに両足を開き膝関節を30°屈曲する。

     

  2. その「スクワット肢位を保持した状態」にて股関節内転の等尺性収縮を加え、その力に抗してもらう。

    ※膝蓋骨が内に向かないよう(股関節が内旋しないよう)注意する。

     

  3. 数秒間保持して、膝関節伸展位に戻す。

 

 

繰り返しになるが、Knee-inしてしまうのはダメ。

 

Knee-inするということは、膝が外反位となることを意味する。

 

膝が外反位になるということは(前術した)Q角が増加することを意味する。

 

そして、Q角が増加するという事は、膝蓋骨が大腿収縮によって外側に牽引されることを意味する。

 

そして、そもそもこのトレーニングが「膝蓋骨の外側変位・不安定性・それに伴う膝蓋大腿関節の疼痛に対するアプローチである」という点を考えると、膝蓋骨が外側に牽引されるエクササイズというのは本末転倒になってしまう。

 

なので、トレーニング中はKnee-inしていないか常にモニタリングする必要がある。

関連記事⇒『そもそもKnee-in』って何なんだ?

 

余談として、Knee-inは股関節外転筋・外旋筋の機能障害でも起こるので、それらをトレーニングすることも大切な場合がある。

関連記事

⇒『中殿筋の筋力トレーニング

⇒『大殿筋の筋力トレーニング

⇒『外旋筋の筋力トレーニング

 

 

大腿四頭筋の関連記事

 

内側広筋は「大腿四頭筋」の一つであり、大腿四頭筋全てを解説した記事は以下になる。

 

この記事では「エクステンションラグの原因は大腿四筋全体の筋力低下と捉えるべき」とい体で解説してきたが、そんな「大腿四頭筋全ての筋力トレーニング」に関しても言及している。

 

大腿四頭筋のトレーニングを解説

 

 

以下の記事は、大腿四頭筋の中でも(筋力低下よりも)反射的短縮が問題視されやすい『大腿直筋』に関してストレッチングも含めて言及した記事になる。

 

大腿直筋のストレッチング

 

 

以下は、「大腿四頭筋をメインとしたトレーニング」と誤解されやすいSLR運動について言及した記事となる。

 

SLR運動のメリット・デメリット

 

 

以下は、大腿四頭筋における低負荷なトレーニングとして有名であり、この記事でも出てきたパテラセッティングに言及した記事となる。

 

パテラセッティング(クアドセッティング)って効果ある?

 

 

 

ここから先は、「筋力と筋出力の関係」を記載を記載して終わりにする。

例えば、「エクステンションラグが出現するクライアント」に対して何らかのリハビリ(理学療法)を実施して即自的な効果(つまりエクステンションラグの消失)が起こったとする。

つまり、「筋力が向上した」という事になるのだが、この際に起こったのは筋肥大ではない。

 

※筋肥大は即自的に起こったりはしない。

※例えば、腫脹が強かったり、痛みによって大腿四頭筋に抑制が生じていたりな場合はエクステンションラグが起こるかもしれず、これらが改善されたらエクステンションラグも消失する可能性がある。

※そして、この場合の「筋力向上」は(筋肥大によって起こっているのではないので)「筋出力の改善(あるいは向上)」と言い換えることが出来る。

 

そんな「筋力と筋出力」については以下を参照して頂きたい。

 

「筋力」と「筋出力」の違いを基に高齢者の筋トレを考察!