この記事では大腿筋膜張筋(Tensor fasciae latae muscle)についての特徴を解説するとともに、リハビリ(理学療法)としてストレッチングにも言及している。

 

大腿筋膜張筋の基礎情報

 

大腿筋膜張筋の基礎情報は以下となる。

 

起始 腸骨稜の上前腸骨棘
停止 腸脛靭帯を介して、脛骨の外側顆ガーディー結節
腸脛靱帯は外側広筋の伸筋腱膜と合して大腿骨外側穎と腓骨頭に付着
作用 股関節の屈曲、外転、内旋
膝関節の伸展
下腿の外旋
神経 上殿神経
(L4-5)
筋連結 中殿筋/縫工筋/腸骨筋/大殿筋/外側広筋の筋膜と連結
~大腿筋膜張筋~
大腿筋膜張筋
~腸脛靭帯~
腸脛靭帯
~大腿筋膜張筋~
大腿筋膜張筋 リハビリ 理学療法
~腸脛靭帯~
腸脛靭帯 リハビリ 理学療法

大腿筋膜張筋の作用

 

大腿筋膜張筋に関しては、(若干ではあるが)書籍によって一部作用が異なっていたりする。

 

そんな中で、書籍:オーチスのキネシオロジーでは以下の作用に関しては、エビデンスがあると記載されている。

 

  • 股関節屈曲
  • 股関節外転
  • 股関節内旋
  • 膝関節伸展
  • 下腿外旋作用(相対的に大腿内旋)

 

ただし、膝関節の伸展作用に関しては、90°屈曲位を境に作用が逆転すると言われている点は、念のため補足しておく。

 

股関節における大腿筋膜張筋の作用は、屈曲・外転・内旋である。

 

また、腸脛靱帯を介して膝関節の運動に関与し、膝屈曲90未満では膝関節伸展運動に、膝屈曲90.以上では膝関節屈曲運動に作用する

 

また、膝関節の屈曲角度と無関係に下腿の外旋に作用する。

運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹より~

 

※関節の角度によって異なる作用を持つ筋は多く、大腿筋膜張筋もその一つという事になる。

関連記事⇒『胸鎖乳突筋は肢位によって作用が違うよ

 

ここから先は、大腿筋膜張筋の作用を「股関節」と「膝関節」に分けてフォーカスしていく。

 

 

大腿筋膜張筋の股関節への作用

 

股関節外転に関して:

 

大腿筋膜腸筋の断面積は腸腰筋や中殿筋・小殿筋と比較して非常に小さいが、大きな股関節の外転モーメントアームを有している。

 

 

股関節屈曲に関して:

 

屈曲モーメントアームは、腸腰筋よりも大きい。

 

これらの点から大腿筋膜張筋は、股関節の主要な外転筋群や屈曲筋群とまではいえない(最大筋力は腸腰筋の約16%.中殿筋の約12%程度にすぎないとの報告がある)ものの、大きな股関節外転および屈曲モーメントを発揮することが可能とされている。

 

 

大腿筋膜張筋の膝関節への作用

 

膝関節伸展時に大腿筋膜張筋は活動を示す。

 

また、大腿筋膜張筋は膝関節外旋(=下腿外旋)の補助を行う。

 

そして、大腿筋膜張筋の膝関節に対する重要な作用は、腸脛靭帯への付着を介して『膝関節の動的安定化』を担っている点であり、膝関節を内反させる外力が加わった際に活動する。

 

この点に関しては膝関節内側の『鵞足』を構成する筋群や膝窩筋と同様である。

※関連記事

⇒『鵞足と鵞足炎症

⇒『膝窩筋のダイレクトストレッチ/マッサージ

 

この『膝関節の動的安定化(膝関節を内反させる外力が加わった際の活動を含む)』という役割は、繰り返しの膝への刺激によって腸脛靭帯炎症を招く可能性がある。

 

 

大腿筋膜張筋と歩行

 

大腿筋膜張筋は、歩行時において立脚相,遊脚相ともに活動するが、特に立脚相での活動は着目すべき点と言える。

 

前述したように、立脚相において大腿筋膜張筋は、他の股関節外転筋群とともに骨盤の安定性に寄与している。

 

また以下の歩行イラストの様に、立脚相の初期以降における(下肢が固定された状態)での大腿骨に対する骨盤の運動として、股関節の内旋運動が生じる。

 

そして、この股関節内旋運動によって、非支持側の骨盤を前方へと推進させることを促進していると考えられている。

~画像引用:書籍:オーチスのキネシオロジー

大腿筋膜張筋と歩行
例えば、右下肢の遊脚相では骨盤右側の前方回旋が起こる。
そして左イラストの様に右下肢が立脚相に移行した時点からは、骨盤右側の後方回旋(相対的に骨盤左側の前方回旋)が起こっていくこととなる。
そして、イラストにおける右股関節は(遊脚相に起こった)外旋位から、この後は(骨盤右側の後方回旋に付随して)内旋運動が起こることとなる。
股関節は内旋運動が起こるのだが、足底は床に接地しているため脛骨は内旋しない(厳密には若干内旋するかもしれないが、大腿骨ほど内旋は起こらない)。
すると、(股関節の内旋によって)大腿骨は内旋するが、脛骨は内旋しないので、相対的に考えて『膝関節(下腿)は外旋している』と表現される。
そして大腿筋膜張筋は『股関節の内旋・膝関節の外旋作用』を持っているため、この様な運動連鎖を補助している可能性がある。
あるいは、大腿筋膜張筋は『股関節の屈曲・外転作用』をもっているため、股関節が内転しないようにしつつ(つまり股関節を安定化させつつ)、大腰筋などと一緒に立脚後期に起こる股関節伸展時に遠心性収縮を起こしている可能性がある。



大腿筋膜張筋の筋力低下が歩行に及ぼす影響はほとんど無いと言われている。

 

一方で、上記に記載したように「主要な筋群をサポートしている」ので、それらの筋が弱化すると大腿筋膜張筋への負担が強くなり、『筋緊張の亢進』といった機能異常が生じる可能性がある。

 

例えば、中殿筋や大腰筋が弱化していれば、それを補うような代償が大腿筋膜張筋に及ぶかもしれない。

 

※高齢者の一部にガチガチに大腿筋膜張筋が緊張している人がいるが、これらは弱化した中殿筋や大腰筋などを代償することで起きた反応な可能性もある。

 

※そういう人たちには、単に大腿筋膜張筋のタイトネスに対してアプローチするのではなく、弱化した筋(例えば中殿筋)の筋力強化なども併用していかなければ根本的な解決にはならない。

 

あるいは、アライメントの崩れなどが起こった状態(上記の運動連鎖が崩れた状態)でランニングなどを実施することで、膝周囲で腸脛靭帯(大腿筋膜張筋の延長上にある靭帯)が繰り返しの機械的ストレスを受け、『腸脛靭帯炎』を起こしてしまう可能性もある。

 

 

大腿筋膜張筋のストレッチング

 

ここまで記載してきた事からも分かるように、大腿筋膜張筋は筋力低下による問題よりも、過緊張によって生じる問題の方がフォーカスされやすい。

 

なので、ここから先は大腿筋膜張筋のリハビリ(理学療法)としてストレッチングを記載していく。

 

 

Ober’s test(腸脛靭帯の緊張・短縮度のテスト)

 

大腿筋膜張筋のストレッチングは様々な方法が言われているが、オーバーテスト(Ober’s test=腸脛靭帯の緊張・短縮度のテスト)をそのままストレッチングとして利用するという考え方がある。

 

そんなOber’s testの方法は以下となる。

 

  1. 側臥位(テスト側を天井側とする)
  2. 療法士は「テスト側の股関節伸展位・膝関節90°屈曲位」でキープしつつ、テスト側の股関節を内転するにまかせ下降させ、内転10°未満であれば「大腿筋膜張筋+腸脛靭帯の短縮あり」ということで陽性となる。

 

※腸脛靭帯自体は伸張性のない組織なため、結局は大腿筋膜張筋の伸張性を評価しているといった側面が大きい。

 

※骨盤が背側へ傾いてしまうと意味をなさないので、しっかりと固定する。

 

※ただし、10°未満というのはやや厳しい判断基準と言える。腸脛靭帯の機能異常がある場合においても内転10°くらい下降するケースは多い。つまり、Ober’s testが陽性か陰性かだけでなく、抵抗感や症状、代償運動の種類と程度など、付随して現れる所見の方が重要であったりする。

 

※非テスト側の下肢を屈曲させておくことで支持基底面が広くなり側臥位が安定する。

 

運動療法のための 機能解剖学的触診技術 下肢・体幹では、Ober’s testをアレンジしたテストといして、非テスト側の下肢を「最大屈曲位(=膝を抱える感じ)」にすることで骨盤を後傾位置に固定した肢位での評価方法が記載されている(この方法だと、通常のOber’s testで陰性となるケースでも陽性となる場合がある)。

 

 

 

Ober’s testの肢位では、大腿直筋の制限や大腿神経の問題によって「膝関節90°屈曲が困難なケース」もあり、その場合は「Ober’s testの変法」として膝関節を(90°屈曲位ではなく)伸展位で股関節を内転していき、短縮の有無を評価する。

 

※この変法を「Ober’s test」として記載しているテキストも多いが、いずれも正しい。

 

※股関節内旋位になってしまっている場合は、大腿筋膜張筋が弛緩して股関節内転が可能となるためオーバーテストは偽陰性となるため、変法を用いる際はこの点に注意する。

 

 

大腿筋膜張筋のストレッチング

 

オーバーテストと殆どが重複するが、以下が大腿筋膜張筋のストレッチングとなる。

 

  1. 側臥位(テスト側を天井側とする)
  2. 療法士は「テスト側の股関節伸展位・膝関節90°屈曲位」にキープしたまま、内転・外旋方向に可動していく。
    股関節は内転していくので、それをアシストしつつ外旋方向にも誘導するような操作を加える。

 

 

大腿筋張筋のセルフストレッチング

 

また、以下の様なセルフストレッチングも可能であり、ランニングを再開した際などは、柔軟体操として実施しても良いかもしれない。

 

大腿筋膜張筋のストレッチ

イラストは、左大腿筋膜張筋をストレッチしている。
左股関節を伸展・内転・外旋位にする。

 

更に、体幹を右側屈させることで起始部を停止部から引き離すことで、伸長刺激を増やす。

 

ポイントは股関節を軸にして「くの字」に体を折った状態で、重力に任せて下に落ちていくイメージ。

 

なので、実際にイラストの状態で支持物を把持出来る環境が良い(じゃないとバランスを崩さないよう姿勢も保持しなくてはいけないのでリラックスできない)。

 

動画としては、以下を参照。

 

動画①:立位でのセルフストレッチング

 

2分15秒から3分20秒までは立位でのストレッチングを実施している。

 

立位でのストレッチングでは、前額面・矢状面から観察できる点がおススメ。

 

特に矢状面では、「股関節を伸展している」「骨盤が後ろに残っているのは×。ちゃんと骨盤を前へ突き出すのが○」などのポイントを視覚的に理解しやすい。

 

 

 

動画②:片膝立ち位でのセルフストレッチング

 

片膝立ちでのストレッチングについては以下の動画もお勧め。

 

解説が長いが、4分くらいからチョロっと観覧するだけでも理解が深まると思う。

 

※「台を近くに寄せ過ぎたら、骨盤を外側へシフトできないからダメだ」とか、(英語が分からなくとも)何となく言いたいことは伝わってくる。

 

 

どちらの動画も、大腿筋膜張筋のストレッチングであるが、厳密には他の筋群もストレッチングされており、例えば中殿筋の短縮が強い場合は、そちらの伸長を優位に感じる事も当然ある。

 

なので、「実践しても、大腿筋膜張筋じゃなくて中殿筋の伸長を感じてしまうから間違いじゃないか?」と突っ込まないように。

 

 

動画③:テニスボールを用いたセルフストレッチング

 

テニスボールなどを用いて大腿筋膜張筋のダイレクトストレッチング(マッサージ)も筋スパズムを伴っている場合などは効果的な可能性がある(動画では筋膜リリースと表現)。

 

中殿筋でも一般的に活用される方法であるが、場所を少しずらせば大腿筋膜張筋へのアプローチにもなる。

 

 

念のため、中殿筋に関しては以下を参照

⇒『中殿筋に対するテニスボールでのストレッチング

 

 

その他の治療法

 

筋短縮のみが問題であるケースでは前述したストレッチングが有効である。

 

一方で、筋スパズムによって大腿筋膜張筋に鈍痛が生じている場合においては、「筋膜リリース」あるいは「母指球による軽擦法」による反応が良いので多用している。

関連記事⇒『マッサージの種類・効果・方法・違法性

 

もちろん、前述したセルフストレッチングも筋性疼痛に有効であるが、高齢者の場合は必ずしも動画の様な方法が実施できない場合もあり、その様な場合においてはストレッチングよりもこれらの方が即自的な効果を示しやすいと感じる。

 

 

関連記事

 

大腿筋膜張筋の延長上に位置する「腸脛靭帯」が炎症を起こすことがあり、そんな『腸脛靭帯炎』に関する解説は以下になる。

 

腸脛靭帯炎の解消・予防に必要な情報を公開