この記事では、クラインフォーゲルバッハ(Klein-Vogelbach)が提唱した運動学における『カウンターウェイト』と『カウンターアクティビティー』という用語について記載していく。

 

リハビリ(理学療法・作業療法)の用語の一つとして、興味がある方は参考にしてみてほしい。

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目次

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カウンターウェイト・カウンターアクティビティーとは

 

Klein-Vogelbachの運動学では、バランスを取る戦略を基本的に3つに分けられる。

 

・カウンターウェイト(counter weight)の活性化

・カウンターアクティビティー(counter activity)

・カウンタームーブメント(counter movement)

 

※今回、カウンタームーブメントは割愛。

 

 

カウンターウエイトの活性化

 

『カウンターウェイトの活性化』は支持面の内部で重心線の通る位置(支点)が変化しないように、身体内部の働きでつりあいをとってシーソーのようにバランスを取る戦略が該当する。

 

外部環境との間に変化が起こらないように固定点をつくり、身体の重量を利用して内部環境を変化させるバランスの取り方である。

バランス 股関節戦略

 

 

 

例えば手を前方へリーチする際に、臀部を後方へ引いておくことで、前後のつりあいがとれてバランスがとりやすくなる。

 

片脚立位は、「静的姿勢保持」なためカウンターウェイトと言う表現が適切かは不明だが、「釣り合いをとるようなバランス戦略」としてイメージしやすいため記載してみる。

 

以下の写真では下肢を屈曲したり、体幹を側屈したりすることで、矢状面上・前額面上で釣り合いをとろうとしている。

片足立位保持 エラー

 

※左写真⇒前後方向で釣り合いをとっている

 

※右写真⇒右脚の重みを、体幹左側屈させることで釣り合いをとっている

 

~画像引用:転倒予防理学療法の資料~

 

 

 

例えば、「こんにちは」とお辞儀をする際は、カウンターウェイトとして臀部が自然と後方へ移動する。

 

ぜひ以下を試してみてほしい。

 

背中(臀部も含む)を壁に当てた状態(臀部が後方へ引けない状態)で、お辞儀をする。

 

恐らく難しい(前方へバランスを崩す)と思われる。

 

これはカウンターウェイト出来ず、安定性限界から重心が外れてしまったということを意味する。

 

 

 

 

カウンターアクティビティー

 

『カウンターアクティビティー』とは「目的を遂行するために移動する身体に対して、移動に拮抗する筋の活動で速さや移動量を制御してバランスをとる戦略」が該当する。

 

外部環境の変化を探索、知覚して筋の活動や緊張を利用して内部環境の変化と相互関係を持たせながらバランスをとる。

 

バランス 足関節戦略

 

 

例えば手を前方へリーチする際に、安定性限界ギリギリまで重心を移動させている。

前述したカウンターウェイトの活性化による「釣り合いをとる戦略」とは異なり、十分な筋活動や、高度なバランス能力が要求される。

 

 

片足立位保持①

 

 

前述した「カウンターウェイトを活性化させた片脚立位」とは異なり、股関節(や体幹)を真っ直ぐにしているため、それだけ難易度の高いバランス能力が求められる。

 

~画像引用:転倒予防理学療法の資料~

 

 

例えばイラストの様に、カウンターウェイトの様に重心の釣り合いが取れるような戦略を取るのではなく、床反力の変化に見合うだけの筋活動でバランスを制御する方法がカウンターアクティビティーになる。

 

これは言い換えると、「床反力の変化に見合うだけの筋力を有していること」が前提条件なため、例えば虚弱高齢者では(筋力を必要としない)カウンターウェイトによる姿勢制御を好み、カウンターアクティビティによる姿勢制御は苦手だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カウンターウェイトの活性化」と「ウンターアクティビティー」の組み合わせ

 

日常生活においては、「カウンターウェイトを活性化させつつカウンターアクティビティーを利用する」など同時に活用していることの方が多い。

 

例えば、右側へリーチング時には、以下の様な組み合わせがあり得る。

平衡反応 カウンターウェイト

 

運動の広がり:

⇒右側へのリーチング

 

支援活動:

①カウンターウェイト

⇒頭頸部・左上肢・両下肢の矢印方向への運動(これによって釣り合いをとっている)

②カウンターアクティビティー

⇒右股関節の伸展方向への筋収縮と左側筋の筋収縮

 

 

※運動の広がり:

例えばリーチングの際などに、体中に伝播する運動を意味する。

 

※支援活動:

例えばリーチングの際などに、「運動の広がり」を合目的にするための制動・制御機構(倒れないための戦略)を意味する。

 

理想的な反応は、カウンターウェイト・カウンターアクティビティーを状況に合わせて上手く組み合わせることの出来る能力と言える。

 

しかし脳卒中片麻痺・高齢者などは、環境に適した組み合わせが出来なかったり、どちらかと言うとカウンターウェイトに頼った姿勢戦略になりがちであり、カウンターアクティビティーに焦点を当てたリハビリ(理学療法・作業療法)が『より機能的な身体能力の獲得』に大切な場合がある。

 

日常生活における座位姿勢は、「静的」な座位保持能力に加え、重心移動を伴った「動的」なの力も必要である。

 

座位でのズボンの上げ下げでは、左右に重心を移動させ片側の殿部を浮かし脱衣及び着衣を行うことや、最後の修正時の上肢の操作がこれにあたる。

 

また、動的な座保持になると支持基底面は狭くなるため、支持面との関係から不安定になりやすい。

 

運動・感覚面の再教育として(頭頸部・体幹の)立ち直り反応、(四肢の)平衡反応に加えて、脊柱・骨盤の可動性、固定性を増し、さらに頭部・体幹、四肢の機能を獲得する必要がある。

 

(平衡反応の一つである)保護伸展反応を鍛え、とっさの転倒による不慮の事故と転倒に対する恐怖心を取り除くためにも必要である。

 

またリハビリとしては、対象物に体幹から向かっていくようなリーチングを可能にするためには、機能的運動力学における『運動の広がり』と『支援活動』を理解する必要がある。

生活機能障害別・ケースで学ぶ理学療法臨床思考より~

 

静的・動的バランスに関しては以下も参照

⇒『静的バランス・動的バランス(+違い)

 

支持基底面と重心の関係は以下も参照

⇒『支持基底面/重心/重心線を解説!

 

平衡反応・立ち直り反応・保護伸展反応に関しては以下も参照

⇒『立ち直り反応(反射)・平衡反応 の違い

 

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摂食動作とカウンターウェイト・カウンターアクティビティー

 

安定した摂食動作(食事を口に運ぶまでの動作)のためには、まず安定した座位保持能力が必要となる。

 

そして、安定した座位保持能力として大切な機能は以下の通り。

・まず座位保持に必要な関節可動域が確保されている

・足底と殿部による広い支持基底面が確保されており、そしてその中に重心が投影されている

 

そして、上記の「支持基底面の中に重心が投影されるため」には体幹筋・股関節周囲筋を中心とした筋の同時収縮による体幹・股関節などの固定作用が必要となる(静的バランスの要素)。

 

※ただし、不良姿勢になるとカウンターウェイトの要素が高くなり、体幹の筋活動は少なくてすむ場合もある。

 

また、摂食動作においては上肢の運動が必要不可欠となるが、その際にもカウンターウェイト・カウンターアクティビティーのどちらを優位にするかといった戦略が各々で異なってくる。

 

たとえば右側で食事道具を把持した場合、右上肢を口に運ぶことで左側に比べてより大きな関節モーメントが発生し、右側へバランスが崩れる。

クラインフォーゲルバッハの運動学

 

そのため、右側ではそのモーメントと均衡を取るための力が必要となり、例えば以下の様なバリエーションがある。

カウンターウエイト

 

 

 

左上肢で右上肢と同様な運動を行い左右のバランスを取る(カウンターウェイトの活性化)

 

 

カウンターウェイト2

 

 

 

左側に体を傾けながら、右側の上肢を挙上する」といったように、右側に発生する慣性モーメントを補償する(カウンターウェイトの活性化)

 

 

カウンターアクティビティー

 

 

 

左側の体幹筋を収縮させる(カウンターアクティビティー)

 

 

あるいは、「左側に体を傾けながら、右側の上肢を挙上する」といったように、右側に発生する慣性モーメントを補償するといった方法が挙げられる。

 

 

関連記事

 

立位における「足関節戦略・股関節戦略」という用語は、カウンターウェイト・カウンターアクティビティと似た要素があるので、一緒に観覧すると理解が深まるのではと思う。

 

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