以前「整形外科枕の作り方」という記事の基となった「スゴ腕外来」というTV番組内で、認知行動療法関する内容も放送されていたので記事にしてみた。

 

内容は、『慢性腰痛症に対する認知行動療法』となる。

 

認知行動療法について興味のある理学療法士・作業療法士さんは観覧してみてほしい。

 

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目次

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認知行動療法と慢性腰痛

 

「治療の第一歩は腰痛の原因は腰に無いということを分かってもらうことです」

 

TV番組でこう語るのは、福島県立医科大学付属病院 整形外科医の大谷晃司先生だ。

 

この病院の最先端で画期的な治療法が評判を呼び、全国から慢性腰痛を患った人々がやってくるとのこと。

 

「10回以上も手術を受けて、うちの病院に来た時は全く歩けない人がいたが、(その画期的な治療によって)本当に良くなって、歩けるようになって退院したのです」と大谷先生は続る。

 

この病院では、およそ3週間の入院プログラムを組んで、その「画期的な」腰痛治療を行っており、この治療法こそが「認知行動療法」である。

 

 

慢性腰痛を抱えた50代前半の男性

 

番組内容は、「50代前半の男性の治療」を追っていくというシングルケースで成り立っている。

 

番組の冒頭では「50代前半の男性(⇒以降はAさんと記載)」が以下のようにインタビュー及び問診に答えていく場面から始まる。

 

『5年くらい前から腰痛を患っていて、耐えがたい痛みのために苦しめられ、時には歩くことすらままならない。病院を5つ受診して、4つめの病院ではもう手術するしかないと言われた。しかし、手術に踏み切れず、藁をもすがる思いでこの病院へ来た。』

 

更にAさんは続ける。

 

『普段の生活に支障が出ている。かなり厳しい。箸より重たい物は持てない。怖くて持てない』

 

診断名は「腰椎分離すべり症」。

確かにCTでもL5椎体がS1に対して腹側へ滑っているのが分かる。

 

 

Aさんに対する様々な検査

 

Aさんに対して画像所見、問診、神経伝導性検査、整形外科的テストなど、様々な検査をしていくこととなる。

 

その中で、興味深いテストだったのが以下の2点。

 

①BS-POP問診票(びーえすぽっぷもんしんひょう)

②腰椎分離部に対するブロック注射

 

 

BS-POP問診票

 

①のBS-POP問診票は以下の様な項目で成り立っており、一見すると腰痛とは関係なさそうな項目も並ぶ。

 

・泣きたくなったり、泣いたりする事はありますか?

・いつもみじめで、気持ちが浮かないですか?

・いつも緊張してイライラしていますか?

・ちょっとしたことが「癪(しゃく)」に障って腹が立ちますか?

・食欲は普通ですか?

・1日の中では朝が一番気分が良いですか?

 

また、追加として「妻に対する不満」や「仕事の年収に満足しているか」なども聞いていく。

 

BS-POP問診票は、ランススケールや、StarT Back testなどと同様に、痛みの感覚的側面以外(認知・情動的側面など)にフォーカスした質問で、中枢神経の優位性がどの程度かを調べる一環として用いることが可能である。

 

ちなみに、本来の(正式な)BS-POP問診票は上記の質問とは若干異なる。

※先生が、患者が回答しやすいように番組では少しアレンジして活用したのかもしれない。

 

正式なBS-POP問診票については、以下で詳しく解説しているので興味がある方は参考にしてみてほしい(問診票をダウンロードもできるようにしている)。

⇒『BS-POP質問票! 疼痛の精神医学的側面をチェックせよ!

 

 

腰椎分離部に対するブロック注射

 

Aさんは「腰椎分離すべり症」ということが画像所見で示されており、その腰椎分離部へブロック注射を施してみる。

 

そして、原因が「腰椎分離部」であるならば、ブロック注射で患部が麻痺されたことになり、痛みの感覚的側面はブロックされることとなる。

 

この様に、「改善がみられた場合は原因確定」、「改善がみられない場合は別に原因を求める」と推論していくために用いる治療を『診断的治療』と呼ぶ。

 

関連記事⇒『知っておいて損はない!診断的治療と試験的治治を分かり易く解説

 

 

そして、Aさんは「ブロック注射によって、腰痛に変化が無かった」と発言したため、「腰痛の原因は腰椎分離部ではなかった」ということが示された。

 

※Aさんには認知バイアスを有している可能性があり、であるならば腰椎分離症が腰痛に与える影響が「全く」無いと決めつけるわけにはいかないが、少なくも「腰椎分離部以外にも原因はある」ことは紛れもない事実と言えそうだ。

 

そして番組は以下のように進行していく。

 

「分離症に伴うすべり症があるというのがレントゲン上の診断であり、一見すると腰の神経症状があるように思えるものの、腰痛の原因は無いということだ。では原因はどこにあるのか?」

 

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Aさんの検査結果

 

Aさんの検査結果を伝える際、大谷先生は「腰痛の原因が、腰では無く脳にある可能性」を指摘した上で、以下のように続ける。

 

「脳の機能が痛みに対して、上手く働いていなくて痛くなっている(可能性がある)。だから私だったら1の痛みを1として感じるのかもしれないけど、Aさんは1の痛みが10にも20にも100にも1000にもなっている(可能性がある)」

 

更に大谷先生は、痛みに関して以下の要因が影響していることが分かっていると続けて語る。

 

・家庭問題

・子供の進学の問題

・会社での問題

・将来への漠然といた不安

・・・・・・・・・などなど

 

そして、「MRIなどで脳のDLPFCとかああいうようなものが萎縮してたりだったりとか、様々な知見が出てきている」と大谷医師は付け加える。

 

 

これらのことを踏まえて番組は以下のようにまとめている

 

・DLPFCの萎縮によって「ちょっとした痛みであっても痛く感る」であったり、「痛みが起きるのではと不安になっただけで腰が痛くなる」といったことがある

 

・不安やストレスといったネガティブな感情によって脳や伝達機関の機能障害が生じ、体の痛みが強く感じられるのだことがある

 

 

暴露されたAさんへの対応

 

「あなたの痛みの原因は腰ではなく脳にある可能性がある」と言われたAさんは以下のように問い直す。

 

「私が特別だということですか?」

 

すると大谷医師は「全然特別じゃない」と強調した上で、「心配しなさんな、沢山いるんだから」と付け加える。

 

そして、非特異的腰痛と判断されたAさんの慢性腰痛に対する治療が始まることとなる。

 

※Aさんの発言はもっともであり、この発言には様々な思いや感情が含まれていると思われる。

 

※そして、重要なのは中枢神経系の関与の暴露自体ではなく、どの様な方法で暴露するかということだ。

 

※その意味で、大谷先生の声のトーンや表情、発言内容は凄く良かったと感じる。

 

※また、この暴露に至るまでに様々な評価、特に「腰椎分離部へのブロック注射」での診断的治療は認知バイアス修正に大きく寄与したのではないだろうか?

 

※もしかすると、Aさんは注射が効かなかったことを「注射が効かないほどに私の腰椎分離部の痛みはひどいのだ」と解釈して、負の情動・痛み行動恐怖不安思考などの悪循環に繋がっていたかもしれない。

 

※そんなAさんに対して「腰椎分離部のブロック注射が効果がなかった」ことが何を意味するかといった事実を告げることは、Aさんの上記の認知バイアスに対して大きなパラダイムシフトを促すことになったと思われる。

 

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慢性腰痛に対するリハビリに認知行動療法を活用

 

この病院で行われている「最先端で画期的な治療」とは認知行動療法のことだった。

 

認知行動療法に関しては、同病院の菊地 臣一医師が関わって作成された「NHK 腰痛治療革命」が反響を呼んだことでも有名だ。

 

認知行動療法は、文字通り「認知療法」と「行動療法」の2つから成り立つ。

 

そしてAさんのケースでの「認知療法」としては、画像検査や腰椎分離部へのブロックなどを元に、腰には問題ないことを繰り返し、繰り返し伝えるといった手段が用いられている。

 

※私たち理学療法士は読書療法や、自身の経験を語るなどの手段を用いるが、医師は腰椎分離部へのブロックなど「診断的治療」の結果を活用できる点は強みであり、これは認知バイアスの修正にも効果的だと思われる。

 

※「腰椎分離すべり症が腰痛の原因である」という構造・病理的思考から解放されることは、(本当に分離すべり症が原因でないとするならば)プラシーボ効果という点でも鎮痛が期待できます。人は思い込むだけで痛みを感じてしまうのだ。

関連記事⇒「プラシーボ効果とノーシーボ効果

 

医師により認知療法と並行して、理学療法士による行動療法も実施されていた。

 

Aさんのケースでは、腰を少しずつ動かしていく場面が放送されていた。

 

背臥位・端座位で腰を動かすリハビリが選択され、端座位では簡単な前屈運動から始めるが、Aさんは腰を動かさずに過ごしていたため、不安や恐怖を感じさせる動きとなっている。

 

理学療法士は「痛みます?」「あまり急に戻ると痛みが出たりするのでゆっくり戻れますか?」などと腰痛が出現しないよう注意しながら、段階的暴露を実施していく。
行動療法を始めて3日目にはAさんはバランスボールに座ってのエクササイズに挑戦していた。
また、最終的にはエアロバイクに挑戦し、挑戦当初は腰を気遣いながら慎重に漕いでいたが、数日後には理学療法士と談笑しながら不安なく漕げるようになっていた。

 

『腰を実際に動かして「動けるんだな」と思ったり、「痛みがあっても動かせば軽くなるんだ」と思わせることがコツなんです。』

 

『出来るんだという自信が出てくるだけで、痛みの感じ方を柔らかくする作用があることが分かっています。恐れず体を動かすことが非常に重要』

 

と大谷先生は語る。

 

関連記事としては、以下の姉妹サイトも観覧してみてほしい。

 

認知行動療法とは?痛みリハビリ(理学療法・作業療法)への応用