人間の記憶は認知バイアスの影響を受けている。

 

そして、記憶のバイアスは「ポジティブな内容」・「ネガティブな内容」のどちらを記憶に留め易いかにも影響を及ぼしてしまう。

 

今回は、そんなポジティブorネガティブどちらの内容を記憶しやすいかの傾向を調べる実験を2つ記載していこうと思う。

 

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目次

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記憶バイアスに関する一つ目の実験

 

①以下の3パターンの単語が書かれたカードを沢山用意する。

 

・ポジティブな単語カード
(喜び・愛・満足した・幸せ・休まったなど)

 

・ネガティブな単語カード
(恐れ・パニック・孤独・落ち込んだ・不安など)

 

・中立的な単語カード
  (机・ノート・エンピツ・パソコンなど)

 

 

②用意した①のカードをランダムに被験者へ見せていく。

 

 

③ひと通り見せた後に記憶に残った単語を答えてもらう。

 

 

④すると、うつ病と診断されている被験者は、他の被験者と比べて、(ポジティブな単語や中立的な単語より)ネガティブな単語を記憶し易いという結果が得られた。

 

 

※この実験から、抑うつ傾向を有した人は、(記憶バイアスによって)ネガティブな内容を記憶しやすい(ポジティブな内容はスルーしやすい)可能性が示唆されたと言える。

 

※ただし、その人が落ち込んでいなかったりといった精神状態ではポジティブな単語を覚えやすくなってしまう傾向にあるようだ・・・

 

 

記憶バイアスに関する二つ目の実験

 

二つ目の実験は、「被験者の人生における大きな出来事(自伝的記憶)について尋ねることで記憶バイアスを判断する」という実験である。

 

例えば20歳までに起こった出来事を5~6つ挙げてみるよう尋ねてみる。

 

そして、ネガティブな出来事を多く挙げるか・ポジティブな出来事を多く挙げるかを評価する。

 

人生には良いことも悪いことも起こっているはずなので、例えばネガティブな要素を含んだ記憶ばかりに返答が偏っている場合は、負の記憶バイアスがかかっている可能性がある。

 

あなたは、20歳までに起こったこと6つ挙げるとしたら、どんな記憶が蘇るだろうか?

 

楽しい出来事?

嫌な出来事?

 

※ただし、この実験も現在の精神状態が結果を左右してしまうことは否めない

 

 

2つ目の実験の欠点

 

2つ目の実験は非常に興味深い内容であるものの、欠点もある。

 

例えば、被験者が過去におけるポジティブな記憶ばかりを発言したとする。

 

しかし、「現在が悲惨な状況であるからこそ、現状との対比として過去を美化してしまっている(ポジティブな記憶を持っている)ということもあり得るので、その様な場合は抑うつ傾向で負の記憶バイアスを有している人でも、ポジティブな過去を記憶しているといったことになってしまう。

 

つまり、「今は落ちぶれてるけど、昔は○○だった」と昔を懐かしむようなネガティブな人は、過去についてはポジティブな物事を記憶していること言うことになる。

 

この様なことが起こる可能性があるため、何年も前の記憶を語ってもらう場合は注意が必要で、これらの記憶を聞くだけでは、その人が悲観的な人格か、楽観的な人格かまでは判断出来ないということになる。

 

その他の欠点としては、被験者の過去を知らない人物が自伝的記憶を評価しようとしても、被験者の過去にどんなことが起きたかを正確に知る術が無いという点だ。

 

つまり、ネガティブな記憶ばかりに偏った発言をする人は負の記憶バイアスが強い可能性があるものの、
本当に被験者の人生にポジティブな出来事が起こっていない可能性もあるからだ(検証する術がない)。

 

したがって、被験者の過去を正確に知っていない場合、記憶にバイアスがかかっているのか、信頼できる記憶なのかを、正確に判断することは難しいといえる。

 

この欠点を補うには、被験者の過去を知る人物(家族や友人など)に確かめることが有効となる。

 

 

慢性疼痛と記憶バイアス

 

慢性疼痛を有ているクライアントは、抑うつ傾向であることも多いとされ、負の記憶バイアスを形成している可能性がある。

 

そうなると、例えば再評価の際に改善傾向がどの程度か問診しても、ポジティブな要素があるにもかかわらず、抜け落ちてしまっていることもあったりする。

 

そんな際に、家族へも話を聞ける環境であれば、(家族は客観的な事実を記憶している可能性が高いため)問診に参加してもらうことも有効となる。

 

すると、家族から
「あなた、以前と同じで痛くて寝てることが多いと言うけど、今は座ってTV観たりが出来るようになってるじゃない」
とか
「あなた、以前と同じで痛みばかり気になって何も手につかないって言うけど、前と比べて家族で楽しく会話できる頻度は増えているわよ」
など、
実は(大なり小なりであっても)良い兆候が表れている事も多かったりする。

 

これらのことから、(クライアントだけに上手な問診を展開していくことで記憶のバイアスを修正しながら正しい情報を得ることも可能ではあるが)家族を問診へ積極的に巻き込んでいく事は、スムーズに効果判定のヒントを得るための有用な手段と言える。