理学療法士協会は「エビデンスを使用する5つのステップ」として下記の5つを掲載している。

 

  1. 患者の臨床問題や疑問点の抽出と定式化(PICOの設定)
  2. PICOに基づいた患者の臨床問題や疑問点に関する情報の検索
  3. 得られた情報の批判的吟味(critical appraisal)
  4. 得られた情報の患者への適用の検討
  5. 適用結果の評価

 

そして、前回紹介した記事

 

『理学療法学』に載っていた「背部痛に対する理学療法診療ガイドライン活用法」

 

のリンク先にある「ガイドラインに従ってもEBPTにならないの?!」の『3話目』にも記載されているように、

 

理学療法ガイドラインでは上記の5つのステップのうちの「1と3と5」が抜けているという表記からも、

 

「ガイドラインに従った理学療法=EBPTではない」ということが分かる。

⇒5ステップについて詳しくは「PT協会:EBPTの実践手順」も参照

 

そのため、前回紹介した記事のリンク先にある背部痛や徒手理学療法のガイドラインは非常に興味深く参考になるが、

 

他方で、「運動療法・徒手療法に対する一定のエビデンスが存在するとしても、個別に適した方法で提供されなければ意味がない」というのは陥りやすい落とし穴なため注意が必要だと思う。

 

そして、どの様な方法が適しているかの判断は、教科書レベルで学べることもあるが、経験の積み重ねであったり独学では学べなかったりな要素もあるのではと思う。

 

また、実際に徒手理学療法における評価・治療を展開していく際には、ガイドラインや教本に記載されている方法論的な「サイエンスな部分」のみならず、力加減やベクトルなど様々な「アートな部分」に治療成績が左右されることになる。

 

つまり、この「アートな部分」が一定のレベルに達していることが担保されなければ、例えガイドラインで強く推奨されており、実際に目の前の患者さんに対しても有益な手段であるにも関わらず、結果に結びつかない可能性がでてくる。

 

兎にも角にも、臨床でガイドラインを活用する際には、「サイエンス」と「アート」の両輪が備わっていなければならないということだ。

 

例えば、前回投稿したリンク先のガイドラインには「亜急性期から慢性期の頚部痛に対し、運動療法にマニピュレーションやモビライゼーションを組み合わせることで、短期から長期的な疼痛や身体機能の改善効果が得られるという強いエビデンスがある」と記載されている。

 

しかし、これを患者さんに適用しようと思った場合、頚部に対するモビライゼーションだけでも無数にある。

 

※加える刺激は持続的伸張or振幅or SNAGS(マリガン)⇒持続的伸張であれば離開or滑り、離開であれば特定or非特定・滑りであればディバーゲンスorコンバーゲンス方向のどちらを用いるかなど(具体的な刺激の種類は「各学派が提唱している関節モビライゼーション」も参照)。

 

そして、その中のどれを運動療法と組み合わせることが最良の結果に結び付くのかといった判断ができるだけの知識(サイエンス)が必要になる(そもそも目の前にいる患者さんに適した運動も一概には言えないはず)。

 

更には、その知識(サイエンス)を活用できるだけの技術(アート)を有していて初めて「短期から長期的な疼痛や身体機能の改善効果が得られる」といった結果に結び付くのだと思われる。

 

実際の臨床においては、技術(アート)を有していない状態で、関節モビライゼーションについて浅くしか記載されていない教科書の典型的な知識(これはサイエンスとは呼べない)を、本当に精通した知識(サイエンス)無しに当てはめても、結果に結び付くケースはあったりする。

 

しかし、それでは場当たり的で、なぜ良くなったのか、なぜ効果が無かったのかといった思考が出来ず、延々と「テクニックの当てはめ」に終始してしまい、「表面的な治療の幅」を増やすことは出来ても、それらを「深化」させたり、様々と組み合わせた応用したりといった「進化」に結びつかないのではと考える。

 

そのため、いつまでたっても『ビギナーズラック的』であるため、治療成績が安定せず、逆に疼痛悪化などにつながってしまう可能性すらあり、さらには「この方法は効果が無い」といった安易なレッテル貼りにつながることもあるだろう。

 

これらのことを踏まえて、今後も『サイエンス』と『アート』のどちらも大切にしながら、質の高い経験値を積みつつ、臨床に取り組んでいきたいと思う。