不良姿勢が、頸~肩・胸腰部へ与える影響

不良姿勢が頸~肩へ与える影響

不良姿勢では、構築学的に不安定であるが故に、姿勢の維持に過度の筋収縮を必要とすることがあります。

例えば頸部は頚椎の運動性が大きいことや重い頭部を支えているためかなりの負荷がかかるとされています。
そのため首を前屈位に長時間保持し続ける姿勢や、背中を丸めて顎を突き出すような姿勢は、頚部周囲筋を過緊張させ、肩凝りが起こり易くなります。

また、肩に関しては、上肢全体が体幹と胸鎖関節で連結されているだけで、頚部よりつりさげられているような状態と言えます。そのため僧帽筋や肩甲挙上筋をはじめ、肩甲周囲筋群には負荷がかかり易くなっています。
そして、これらの要素により軟部組織が過負荷になる可能性が不良姿勢によって高まってしまい、関節の柔軟性も低下させ、肩凝りが発生し易くなるとされています。

さらには頭部周囲・肩甲周囲筋群は、頸と肩の両方に関連していることが多いため、頚部と肩への負荷が重複され、さらに疲労し易くなってしまいます。

年齢と肩凝りの関係は以下のように言われています。

若年者:
骨の成長が筋・腱の成長より急速なために生じる、身体の柔軟性低下や不良姿勢に起因した例が多い。
働き盛りの年代:
仕事中の精神的緊張状態や不良姿勢の強制、過度の運動などに起因した例が多い
高齢者:
退行変性を基盤とした疾患の二次的な肩凝りが比較的多い。

不良姿勢が胸腰部へ与える影響

不良姿勢が腰部へ与える影響へ着目した場合、側湾や脊椎全体のアライメントを支持する腹筋・背筋のアンバランスと、前後方向への彎曲異常、腰椎不安定性、筋・筋膜の過負荷などが挙げられます。

そして、これら全ての要素は筋硬結の形成に繋がる可能性を秘めています。

※もちろん、立位姿勢においては、下肢の構造的・機能的問題(股関節・膝関節疾患、下肢の脚長差、扁平足などなど)からも影響を受けてしまいます。

これらのことから、身体に加わるメカニカルストレスが特定の部位に偏り易い不良姿勢(様々な機能障害)ではなく、メカニカルストレスが特定の部位に偏りにくい姿勢(ここでは良姿勢と表現する)を指導することは大切となってきます。

一方で、「一般的に言われている良姿勢」が重要となってくるものの、個別性(例えば積み重ねてきた生活習慣、加齢に伴う関節などの構造的変化、軟部組織の退行変性、遺伝的素因など)にも着目して臨床推論をしながら、その人に合ったオーダーメードな姿勢(環境の工夫も含めた座位・立位・あるいは特殊な姿勢など)の指導が理想となってきます。

更には次回来院時にその結果をフィードバックしてもらい、(必要に応じて)更なる臨床推論をしていくというように二人三脚で問題解決を図っていくことになります。

※個別性に着目した場合、良姿勢の保持のほうが容易に痛みを誘発してしまい、むしろ不良姿勢の方が楽な場合もあるかもしれません。
※関節機能異常・マッスルインバラスといった様々な要素を改善した上での良姿勢ということになりますが、ここでの詳細は割愛します。

姿勢は「完全なる静的」であってはならない

また、この良姿勢と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのは、「どの様な姿勢であったとしても、同一姿勢の保持は最終的には必ず痛み(や組織損傷)に結びつく」という原理原則です。

したがって、身体組織におかれている強い負荷・弱い負荷を変化させるためにも、姿勢は定期的に変化させることが望ましいと言えます。

詳しくはこちらも参照
⇒『HP:構造と機能の因果関係

そして、同一姿勢を保持し続けることによる弊害は、「損傷」というキーワードのみならず、このカテゴリーのテーマである筋疲労、血液やリンパの循環障害などとからめて考えても理解し易いと思われます。

更には、私たちは静的に姿勢を保持し続けているように見えたとしても、微妙な(あるいはハッキリとした)重心移動によって、メカニカルストレスが特定の部位に加わり続けることを避けていると言えます。

例えば、立位姿勢において「休めの姿勢」で両下肢に加わる強い負荷・弱い負荷を交互に変化させてみたり、座位姿勢において足を組み直してみたり、寝返りをしたりするなどです。

※寝たきりの高齢者に褥瘡が生じるのを予防するのも、同一姿勢を取り続けることによる弊害の結果と言えます。

従って、どんなに理想的な姿勢といえども、その姿勢を保持し続けることは以下の弊害をもたらす可能性を秘めています。

  • 身体構造の連続的なストレインを誘発する
  • 組織の生理学的環境を変化させる
  • 筋疲労の原因となる
  • 血行不良となる

例えば長時間の椅子座位で腰痛が出現するのであれば、その痛みに配慮した良肢位を指導しつつ、仙骨座りや足を左右交互に組んでみたりといった要素も組み合わせながら、特定の部位にメカニカルストレスが加わり続けないような指導することも重要となってきます。

更には、「必ずしも長時間の椅子座位を保持する必要がない」のであれば、臥位で過ごす(あるいは作業する)なども小まめに取り入れていくのも良いかもしれません。

※もちろん、臥位での作業であるからこそのメカニカルストレスが別の特定部位に派生するため、そこへの疼痛が出現してしまうこともあり得ます。したがって、それらの折り合いも付けながら、オーダーメードな指導をしていくということになります。
※ここまで記載して分かるように、一度の指導で終わらず、何度かクライアントとの話し合いを繰り返したほうが、より適切な指導が可能となります。また、断定的な表現を用いての指導よりも、日常においてクライアントが自身で考え、工夫し、微調整が可能となるよう「指導する内容の幅を持たせておく」ということも大切となってきます。

そして、この原理原則こそが重要であり「同一姿勢を保持し続けることにより最終的には疼痛が誘発される」という結果に行きつくまでの個人差を重要視し過ぎると、本質を見失ってしまうように思われます。

例えば、10分の同一姿勢保持で疼痛が誘発してしまう人と、1時間の同一姿勢で疼痛が誘発してしまう人の違いを考察することは、リハビリテーションにおいて重要となってきます。

一方で、原理原則を考えた場合には、まず重要な戦略の一つとしては疼痛が誘発する前に姿勢を変えてもらうことからスタートするといのも一つのポイントと言えます。
そして、この「10分の同一姿勢保持で疼痛が誘発される」という基準をベースラインとして、様々な効果判定が可能となります。

様々な刺激を加えると「結局なにが効果的だったのか」が分からなくなってしまうので、最初は「疼痛が誘発される手前で姿勢を変えてもらう」というシンプルな介入だけで効果判定してみるのも悪くはありません。

ここで、様々な徒手療法・運動療法なども織り交ぜても良いですが、シンプルな介入ほど「何が効果的だったのか」という因果関係が把握し易くなります。