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オペラント行動療法の活用例

 

オペラント条件づけに基づく行動理論(オペラント行動療法)

行動療法』は1950年代に、それまで主流であった精神分析論の批判から発展した方法で、学習理論に基づく行動変容を行う心理療法です。

 

行動療法の学習理論はスキナーが用いた『オペラント条件付け』という概念に基づいているため、『オペラント行動療法(OCT: operant conditioning theory)』と呼ばれることもあります。

 

一方で、現在はオペラント行動療法以外にも様々な行動療法の概念が存在していることから、広義としての「行動療法」は、それらの総称と位置付けられている場合もあります。

 

このカテゴリーではオペラント行動療法を中心に、行動療法の具体的な活用例を記載していきます。

 

 

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コミュニケーションをとる際の活用(負の強化を防ぐ)

クライアントの痛みの訴えや行動に対して、セラピストは「執着し過ぎず傾聴する程度にとどめる」といった対応が適している場合があります。


この対応は、オペラント条件付けにおける「負の強化」を防ぎ、「痛み行動」を抑制する効果が期待できます。

例えば、クライアントの訴えに対して「それは辛いでしょう」とその痛みを理解してしっかりと受け止めることは大切ですが、痛みに執着し過ぎている人の場合は「痛みはどうですか?」などとセラピストから聞かず、クライアントが自分の痛みを訴えようとしてもうまくはぐらかして話題にしないといった対応を認知行動療法の一環として行うこともあります。

 

これはクライアントの痛みについて共感したり心配したりすることが「痛み行動」に拍車をかけるといった負の強化に繋がる可能性があるからです。


極端な例としては、セラピストが見ていないところでは他者と談笑しながら跛行無く歩けているにもかかわらず、実際のリハビリの時間になって歩いてみるよう指示を出すと、先ほどと異なり「こんなにも痛いのです」と言わんばかりの破行が出現しているといったケースです。

 

この様なケースでは痛みについて根掘り葉掘り聞いたり評価をしていくと、それだけでどんどん跛行が出現したりしてドツボにはまっていくこともあります。

 

他方で、痛みをスルーして、ADLや活動性の改善をベースラインとするような質問にシフトしたり、世間話をしながら対応すると、それだけで破行が緩和されることがあったりします。


特に具体的なリハビリ介入をしているわけでもないのに、ここまで良くも悪くも痛みや動作が変化してしまうのは興味深いものです。

 

ただし「クライアントの痛みをあえて無視することで負の強化を防ぐ」ことが大切な一方で、訴えを傾聴してあげるだけでスッキリして痛みが緩和してしまうクライアントも存在する点には注意が必要です。

 

あるいは、痛みを無視するということは一歩間違えれば、不安や怒りを助長させ、痛みの悪化につながる可能性もあるので、その点も踏まえながら活用していく必要があります。

 

また、外来リハビリにおいては痛みに執着しているからこそ来院しているクライアントも存在し、その様なクライアントに対して痛みについて聞かないといった対応は難しいと思われます。

 

そのため、入院患者や通所サービスの利用者に対して、活動・参加を目標に掲げているような際に有効な手段だと個人的には思っています。

 

 

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運動療法を実施する際のエクスポージャー法(段階的暴露療法)の活用

エクスポージャー法』とは、学習理論における「慣れ」の原理の応用法で、苦手とする行動や場面に繰り返しさらされることで不安や恐怖感が徐々に弱まってくることを狙っています。


エクスポージャー(exposur)とは暴露と訳されるため、『暴露療法』と呼ばれることもあります。

 

エクスポージャー法は行動療法の中心的な手法の一つで、主に不安障害の治療に用いられ、不安や恐怖を感じる対象が分かっている時には特に有効とされています。


具体例としては、人前に出たり、電車に乗ったりするなど不安になってしまう場合に、繰り返しその場面に物理的に身をさらすなどです。


これらの暴露によって自身に何も起こらないことが実感出来れば、そこからセルフエフィカシーやコーピングスキルが高まるとともに、この体験が正の強化因子として働くことになります。

 

※関連記事

⇒『自己効力感(セルフエフィカシー)とは

⇒『コーピングスキルを身につける

 

一方で、少しでも暴露が大きかった場合は、身体に何らかの不調を起こしてしまい、「やっぱりダメだ」といったコーピングスキルの低下を招くとともに、この体験が負の強化因子として働くことになります。

 

そのため、暴露療法は慎重に段階を追って進めるべきであり、このような進め方は『段階的暴露』と呼ばれます。

(例えば人前では赤面する人に対して、急に大勢の前に連れ出したところで赤面が治るわけではありません。まずは他人と2人でしゃべる、次は数分だけ外出してみる、などと段階的かつ慎重に進めて初めて暴露療法は効果を示します)


段階的暴露における難易度設定としては、例えば「想像エクスポージャー(不安を感じる場面を思い描いてイメージに慣れたり、言葉で表現したりしてみる)」から始めて、徐々に難易度の高い「現実エクスポージャー」へ進んでいくといった順序になります。

 

この様な段階的暴露療法は、痛みに対しても同様です。

 

 

~痛みにおける段階的暴露療法の概略~


痛みは今までの経験や記憶に照らし合わすことで生じています。

そして慢性痛に関しては、「痛い」と思わせているのは扁桃体・海馬・前頭前野といった脳部位が、あたかも痛みがあるようにイメージングしてしまっているケースが存在することが分かっています。


例えば、ホラー映画を見た際に動悸・寒気・鳥肌が生じたりした経験はないでしょうか?
あれは、スクリーン上の出来事であって自分たちは安全なはずなのに、ミラーニューロンが映画の内容を自身に反映させて「こういう危険な情報が見えているので気を付けましょう!」という感じになっています。
これは、いくら前頭前野が論理的に考えようとしたところで意識的にコントロールすることは出来ず、「怖い人はどうしたって怖いし、怖くない人は全く怖くない」ということが起こります。


このことを踏まえて、痛みに関してクライアントが経験・記憶したことと現状が異なる場合、その齟齬(すなわち認知バイアス)を修正していく必要があります。

 

そして、「思い込み」と「実際」の齟齬を修正するための手段の一つが行動療法の一つである『段階的暴露療法』です。


具体的には、「痛みが出現する」「痛みが悪化する」などと思いこんでいる行為に関して、実際は異なるのだということを段階的に体験することを通して認知バイアスを修正していくという試みとなります。

 

詳しくは『ブログ:慢性疼痛に対する段階的暴露療法の具体例』も参照にしてみてください。

 

慢性疼痛に対して段階的暴露療法を進めていくにあたっての注意点は、不安障害などの精神疾患と同様に「暴露が少しでも大きくなり過ぎないようにする」という事です。

 

「思い込み」によって「動かす=悪」と脳に刷り込まれて解釈されている場合、当然のころながら過剰に動かそうとすると(脳が大きく反応してしまい)痛みが誘発されてしまいます。

 

したがって、「悪いと思い込んでいることをやろうとしているわけではない」と脳に思ってもらう程度の極僅かな動きから開始して、「脳にバレないよう」に段階的かつ慎重に実施していくことが大切という事になります。


そして、一見順調に改善しているように見えても、途中で少しでも暴露が大きすぎた場合は、今まで築き上げた認知バイアスの修正が反故となる危険性があることも忘れてはいけません。


例えば、クライアントの中には「多少動いても大丈夫」ということが分かると、「ほどほどの活動」では満足出来なくなることがあります。

これはセルフエフェカシーが高まり過ぎてしまった状態で、自身の疼痛耐性閾値以上の活動に繋がってしまうことになり、疼痛増悪や疼痛残存による後悔とともに、ネガティブな体験・記憶を介して認知バイアスが戻ってしまうという事になりかねません。

 

あるいは、クライアントのセルフエフェカシーの問題のみならず、セラピストも、クライアントが痛みなく動作を遂行できた場合、「もう少しリハビリの強度・頻度を高めれば、もっと早く元気になってくれるのではないか?」と欲が出てくることがあるかもしれません。


もちろん、その考えのもとで強度・頻度を上げることが正解な可能性もありますが、不正解であった際のリスク(今まで気づきあげてきた認知バイアスの修正が反故になるリスク)も頭の片隅に入れておいたほうが良いかもしれません。


また、責任が負えるクライアントであれば、セラピストは「あえて慎重姿勢」なスタンスをとり、クライアント自身で微調整してもらうことが望ましいとされています。


私の経験としても、自己責任で判断できるクライアントの場合は、「セラピストが慎重姿勢な中、あえて自身で考え抜いて攻めの姿勢を選択した」といった自己決定により疼痛が悪化したとしても、「セラピストが言った事を守れば良かったな。次回はもう少し控えよう」程度の認知バイアスしか形成されず、あまりリハビリに支障が出ないケースが多い印象を受けます。

 

これは恐らくセラピストへの信頼関係が影響しているのではと思われます。


もし仮に「セラピストに強度・頻度を上げるよう指示されて、その通りに実施したら痛みが悪化した」となるとセラピストへの信頼感は失墜します。


※ちなみに、もし仮に「セラピストが慎重姿勢であったにも関わらず、自身の判断で強度・頻度を上げても、痛みは悪化せず、効率的にリハビリ目標を達成できた」となっても、セラピストの信頼感は失墜しないことがほとんどです。

 

「結局のところ痛みが悪化したという点では同じではないか?」と思うかもしれませんが、セラピストへの信頼感が保たれているかどうかは、治療成績に関与する因子(プラシーボ効果など)を考える上でも非常に重要な要素となってきます。

関連記事⇒『セラピストが知っておくべきプラシーボ効果とノーシーボ効果

 

このことから、もしセラピストが「クライアントはもう少し攻めの姿勢を持っても良い(悪化しない)とは思うが、悪い結果をもたらす可能性少はあるな」と思うのであれば、セラピストは慎重姿勢をとりながら、上手くクライアントに攻めの姿勢を自己決定するよう誘導するしてみるのも一つの手段かもしれません。

 

 

 

余談になりますが、脳卒中片麻痺に用いられるミラーセラピーも「段階的暴露療法」の一環として運動器疾患の痛みに用いられる場合があります。

例えば右手にアロディニアを有している場合、左手を鏡によってあたかも右手のように見立てて、左手(脳は右手だと騙されている)に刺激を与えても痛くないことを段階的に学習することで、痛みが改善するという考えです(詳しくはペインリハビリテーションも参照)

 

 

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日常の活動や自主トレ提案する際の活用

「生活不活発病」によって疼痛が悪化される可能性があったり、実際のエビデンスとしても安静にしすぎることであったりによる弊害が示されています。


つまり、「活動レベル」や「運動の強度・頻度」が低すぎることは良くない訳ですが、一方でこれらが高すぎることも、痛みリスクを高めることにつながってしまう点には注意が必要です。

 

これらの設定に関して、まずはクライアントの耐久性を評価した後に、ベースラインを決めていきます。

そして、その際の指標として、通常は「時間」あるいは「距離」を用います。

 

 

耐久性の評価:

例えば時間であれば、座位耐久性の評価としては「疼痛の再燃または疲労が生じるまでにどれくらい長く座位保持可能かどうか」ということになります。

ただし、実際の臨床では「長時間の活動による影響が直ちに感じられず、翌日に影響が出ることもある」といったケースも存在するため、一度に最適な設定が難しいケースも存在します。
したがって、耐久性とベースラインを設定する過程では、試行錯誤が期間が必要となります。


思考錯誤する際は、「まずは最大限の活動をしてもらって、そこから徐々に漸減していく」というパターンと、「まずは比較的低めの活動をしてもらって、そこから徐々に漸増していく」というパターンが考えられますが、学習理論の観点からは、後者が正しい選択ということになります。


他方で、後者を選択した際の注意点として、頑張り屋であったり、リハビリへの期待感が過剰であったりな人は、提案に対して「簡単すぎる・全然疲れないから意味がない・この程度の運動では何も変わらない」といった思考につながってしまう可能性もあります。

なので、こちらの意図を十分に伝えておくことが大切です。

 

 

ベースラインの設定:

クライアントの痛みに対する耐久性が評価できれば、次のステップとして適切なベースラインを決めていきます。
ですが、ベースラインの設定に関する価値観は患者さんだけでなく、セラピストによっても千差万別です。

例えば、座位耐久性の50%をベースラインに設定する人もいる一方で、80%を推奨するセラピストもいます(どれが最適か、どれが間違っているかということは一概に言えません)。
ただし、ベースラインを高めに設定してしまうことは、モチベーションにも影響してしまい、途中で辞めてしまうといった可能性は考慮したほうが良いかもしれません。

この点を考慮に入れ、「何かをしすぎることも良くないし、しなさ過ぎるのも良くない」というバランス感覚を大切にしつつ、それぞれの患者さんに適した「ほどほど」なポイントを見つけることが、痛みリスクや継続性という点で重要になります。

更に言えば、連続した活動だけでなく、小まめな休憩をはさみながら一つの活動を遂行するという考えも大切になってきます。

自主トレーニングや運動として、取り入れやすい一般的なものとしては、ウォーキング・ストレッチング・ヨガ、テレビ体操、サイクリングなどを低負荷で実施する程度が望ましく、これらはADLにも直結し易いとされています。

また、これらの活動・運動に関して、次項で述べる「痛み日記」に記載していくとが認知の歪みを修正する手助けになります。

 

 

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ゴール設定を工夫する際の活用(正の強化を促す)

ゴールとは「目的を規定し達成すべき目標を設定すること」を指します。


ゴールを設定することは、クライアントの課題遂行、および彼らが難しいと思っている仕事や社会的な活動委への参加を助けるのに役立ちます。


痛みによって抑制されがちなADLや作業、運動など適応行動に注目したゴールを掲げ、それらが達成された場合に称賛、報酬を与えます(これを正の強化と呼びます)。

 

ゴール設定の際に大切なポイントは下記の要素です。

  • 具体的であること
    ゴールをきわめて明確にする。漠然としたゴールは避ける。

  • 測定可能であること
    客観的に測定できる目標にしなければ、効果判定は主観に頼らざるをえないため、バイアスがかかってしまう。

  • 活動に則していること
    「実際に何かを行うこと」を目標に含めること

  • 現実的であること
    目標達成が現実的であることが大切。目標達成を妨げる要因は多々あり、痛み以外でも、例えば資金不足などがあげられる。

  • 時間を区切っていること
    目標を達成するまでの期日が設定されることが大切。

目標設定をクライアントだけに任せてしまうのは危険です。
なぜなら、目標が不明瞭になってしまうケースが多いからです。

そして、目標が不明瞭だと、課題を遂行した際も正の強化は生まれにくくなります。

 

また、期日に関しても、慢性痛を有しているクライアントは時間内あるいは期間内にとうてい達成できないような目標設定することがあります。

ですが、このような目標を設定してしまうと、達成できない際に失望し、挑戦への諦めに繋がりかねないため注意が必要です。

「正の強化」を与えるためには、長期目標のみならず、小まめに短期目標を設定しておくことが大きな意味をもちます。
そして、日々の細かな目標達成を積み上げていくことで、大きなゴールへの達成が可能になります。

 

これらのオペラント行動療法により、「痛みは治ったか」ではなく「痛みもあるけれど、あれもできる、これもできる」という実感を認知させていくことが、治療の主眼になってきます。

 

 

 

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