静的視診と動的視診

全身に対する視診を考えた際は、以下の2種類に分類されます。

  • 静的な視診(立位・座位・臥位姿勢など)
  • 動的な視診

動的視診に関して

「動的な視診」とはクライアントが困っている動作を実施してもらい、大雑把に問題点へ当たりをつけるために用います。
また、問題点への仮説を立てるにあたって、身体における運動連鎖や筋・筋膜による連結という視点も重要となってくるかもしれません。

あるいは、問診時に「今現在の症状」として訴えていたものが、「実際にやってみてもらうと再現されない」ということもあったりするので、本当に症状が誘発されるのかの確認にも用います。

クライアントの訴えが「今現在」に再現出来るのであれば、それをベースラインとしてアプローチしていき、最後の再評価時に「今現在の症状」に変化があるかの効果判定に活用していきます。

以降の解説は、動的視診ではなく「静的な視診」にフォーカスして記載してきます。

 

問診時に得られた疼痛に関する情報を視診にて確認していく

静的視診における姿勢評価では、問診時に確認した、各姿勢(立位・座位・臥位)時における疼痛変化も(必要であれば大雑把でも良いので)確認しておきます。

すると、問診時には「姿勢によって痛みは変化しない(良くなったり悪くなったりしない)」と言っていたものが、実際は変化が生じている場合があります。

例えば痛みの原因を「侵害受容性疼痛」という限局した視点で見た場合、もし何らかの変化が姿勢によって全く起こらない(極論として寝ているときも痛い)のであれば、変化が起こる場合に比べて侵害受容性疼痛における「メカニカルな要素」よりも「炎症性な要素」の優位性が高いのかもしれません。

関連ページ⇒HP:ペインリハビリテーション・侵害受容性疼痛

 

もちろん、実際は病期など様々な要素を加味しながらリーズニングしていくことになります。

例えば椎間板の機能障害による急性痛であれば、立位よりも、座位の方が苦痛なケースが存在するかも知れません。この辺りの姿勢による様々な弊害はパリスアプローチが勉強になるため、手元にある方は参照してみて下さい(ページの最後にリンクも貼っておきます)。

あるいは「5分くらい座っていると腰が痛くなる」などでは、自宅と同一条件下での座位姿勢で問診をしていくと時間が省けます。すなわち、5分程度経過した時点で症状が再現されるかの確認と同時に、姿勢がどの様に変化するかといった「問診と視診(静的姿勢評価)の同時進行」という視点も大切です。

 

立位姿勢のチェックポイントと不良姿勢とマッスルインバランス

立位姿勢のチェックポイント

姿勢のチェックポイントは、細かく言及すればきりがありませんが、(大雑把には)以下の点をチェックしていくのが一般的です。

重心線が以下を通る姿勢が望ましいとされています。

①矢状面:
耳垂→肩峰→大転子→膝関節前部(膝蓋骨後面)→外果の前方
②前額面:
外後隆起→椎骨棘突起→殿裂→両膝関節内側間の中心→両内果間の中心

 

様々なタイプの不良姿勢

矢状面における不良立位姿勢は以下の様なタイプがあります。

※あくまで一般的なタイプという事になります。

  • 後彎前彎型(kyphosis-lordosis posture)
  • 後彎平坦型(sway-back posture)
  • 平背型(flat-back posture)
  • 前彎型(lordosis posture)⇒軍人型(military posture)とも呼ばれる。

つまり、一概に不良姿勢といっても様々な姿勢があり、どの様な不良姿勢を呈すかによって、各組織へのメカニカルストレスが不均衡になってしまい、一部の組織が過剰な負担を強いられる可能性が出てきます。

 

前方頭位姿勢による弊害

不良姿勢でよく見かける「前方頭位」によって予測される構造・生体力学的問題は以下のように言われています。

  • 頸椎前弯の増強
  • 頸椎の椎間板後方線維輪の脊柱管内への突出
  • 黄色靭帯の脊柱管内への突出
  • 脊柱管容量の減少
  • 椎間関節への負担
  • 上部頸椎の後屈位による環椎後方すべり位での固定
  • 後頭下筋群の短縮
    ※その結果から大後頭神経の圧迫そして頭痛が生じる危険性
  • 上部胸椎の後弯増強、それによる可動域制限
  • 肩甲帯前方突出、それによる胸筋短縮・肩関節挙上・外旋制限

 

マッスルインバランスについて

不良姿勢における弊害について、このページでは機械的ストレスの不均衡によって生じる「マッスルインバランス」にフォーカスを当てて記載していきます。

私たちの身体特性によって短縮し易い筋・弱化し易い筋が存在しています。
そして、不良姿勢を呈することによって、筋の硬さ、筋の弱化といった不均衡が生じてしまい、ヤンダはこれを「マッスルインバランス」と呼びました。
これらの不均衡を呈する要素は以下のように言われています

  筋の硬さ 筋の弱化
収縮性・神経学的構成要素 反射的短縮
(辺縁系の活動・トリガーポイント筋スパズムなど)
相反抑制
関節原生の筋弱化
偽弱化
トリガーポイントによる筋力低下・疲労
粘弾性・適応性の構成要素 構造的短縮 伸張性筋弱化
硬さによる筋弱化

~『書籍:ヤンダアプローチ―マッスルインバランスに対する評価と治療

 

そして、各々の問題要素に適した徒手療法・運動療法を用いることでマッスルインバランスを解消していくことが問題解決の糸口となり得ます。

また、姿勢評価はマッスルインバランスの「当たりをつける」という目的で用いることができ、この際の仮説を基に、詳細な評価へ進んでいくことになります。

ヤンダの筋分類は以下のようになります。

優位または短縮しやすい筋 延長または弱化しやすい筋
頸部伸筋群 頸部前方の屈筋群
僧帽筋上部・肩甲挙筋 広背筋
大胸筋鎖骨部線維 僧帽筋中・下部線維
小胸筋 菱形筋
脊柱起立筋・梨状筋 腹筋群
腸腰筋・大腿筋膜張筋 大臀筋
ハムストリングス 大腿四頭筋
股関節内転筋群 中臀筋
下腿三頭筋 下腿の背屈筋群

~『書籍:正しく理想的な姿勢を取り戻す 姿勢の教科書』より~

ただし、『姿勢の教科書』では上記の分類は厳密なものではない点を念押ししつつ、以下のように記載されています。

ヤンダは、緊張性もしくは相動性のみの筋は存在せず、いくつかの筋は両方の特徴を兼ね備えている可能性があるとした。いずれにせよ、筋は機能障害により硬く、もしくは弱くなる傾向を持っている。

 

また、ヤンダによると「硬い筋」or「弱化した筋」といったキッパリとした区分ではなく、「硬いために弱化している筋」という解釈もあり、これらの詳しい整理は書籍を参照にしてみてください。

※例えば、反射的短縮やトリガーポイントを伴った筋は本来の機能を発揮しにくく、「硬いために弱化している筋」という解釈があり得ます。

 

マッケンジー法から視診(姿勢評価)を考える

姿勢による悪影響が強く、であるからこそ姿勢矯正や日常生活指導を試みるだけで(特殊なアプローチをするまでも無く)改善してしまう疼痛も存在し、この様な疼痛をマッケンジー法では「ポスチャルシンドローム」に分類します。

※マッケンジー法では不良姿勢で痛みが出現する場合は、その際の痛みをベースラインとして、良姿勢に姿勢矯正をした際の反応を評価していきます。

 

例えば、「座位姿勢のおける痛みを訴えるクライアント」に問診をする際、座位が明らかな不良姿勢である場合、時おり「座っている今の姿勢で痛みが出ますか?」との質問を時折挿みます。

そして「痛みが出てきた」という回答が得られたら、(問診を中断して)座位姿勢における姿勢矯正を試みて、出現した痛みに変化が起こるかどうかを評価していきます。即時的に痛みに変化(仮に消失したとすると)が起こると、クライアントは自身の痛みに姿勢が影響していることの自覚に繋がり、セルフエフィカシーの向上・コーピングスキルの獲得につながります。

※マッケンジー法において、姿勢矯正で何らかの反応を示す場合は「ディスファンクションシンドローム」は除外され、「ディレンジメントシンドローム」「ポスチャルシンドローム」な可能性を示唆します。

※不良姿勢によるメカニカルストレスの弊害については、「指反らしテスト」としてクライアントに自覚してもらうという手法おススメです。

 

この評価をするにあたって、必須な条件は「訴えが今現在の症状であるかどうか(あるいはリハビリ中に再現できる痛みか)」という点です。

これは「反応重視学派全般」の評価において必須条件となる場合が多いポイントとなります。

この点は、これは筋骨格系要素に起因する頭痛も同じです。

例えば、「頭痛に悩んでいる」という人に反応重視型なアプローチをする場合、ベースラインは「頭痛」となるので、「今現在、頭痛が起こっていない」となると反応重視型なアプローチではなく、総合重視型な学派の思考でのアプローチとなってきます。
※これは姿勢のみならず、動作による痛みが主訴な場合も同様です。

マッケンジー法の分類こちらも参照⇒『認定セラピストの理学療法士が解説!マッケンジー法の効果・誤解

 

姿勢の評価は問題点のスクリーニングとしての意味がある

機械的ストレスが弊害となっているのであれば、良い姿勢であることは望ましいことです。
そのため、姿勢の評価を行い、マッスルインバランスを解消したり、良い姿勢に整えてあげたり、更には適切な運動療法などで機能的な体を維持することは、痛みから身を守るためにも重要です。

他方で、「視診で発見した歪み」の矯正に固執するわけではありません。
例えば「姿勢の歪み」と「クライアントの訴え」が必ずしも一致しているわけではなく、姿勢の評価はあくまで「問題点に当たりをつけるためのスクリーニング」に用いることが一般的で、さらに詳細な評価へ進むためのきっかけに過ぎません。

これは、加齢とともに姿勢が不可逆的なものとなっていることからも言えることで、年齢を重ねれば重ねるほど、姿勢評価の目的は、『姿勢の矯正』ではなく『問題点に当たりをつけるための手段』という意味合いが強くなってきます。

また、上記の発想は「身体構造・心身機能」に着目しているものの、高齢者となるともに姿勢評価の目的はICFにおける「生活機能」に着目した問題解決のツールとしての意味合いが強くなってくるかもしれません。

あるいは若年者においても、姿勢に歪みがあるのは自然なことです。そもそも人間は利き腕・利き足がある時点で非対称になっていくはずです。
そのため、姿勢を意識するとともに、定期的な運動によって、マッスルインバランスを予防し、これら(当然のように存在する)非対称性(や歪み)が助長されないよう、日々リセットしていくという視点は大切となってくるのかもしれません。

※その様な視点を持った場合は、ピラティスやヨガといった自身のボディーイメージを内省しながらのエクササイズは一つのツールになり得ると思われます。

更に重要なのは、仮に良い姿勢であったとしても長期間の同一姿勢保持は一部の組織への過剰な負担につながるため、最終的にはクライアントに弊害を及ぼす可能性を秘めているという点です。

したがって、メカニカルストレスが分散し易い「良い姿勢」の獲得は重要ですが、それと同じくらい「姿勢を変換する」といった視点も大切になります。

これは、私たちがどんなに寝心地の良い姿勢であったとしても睡眠中には必ず寝返りをうつのと同じです。
また、自身で寝返りが困難なクライアントに対して「良い姿勢で寝てもらう」という視点以上に、定期的な体位変換が大切」という視点が褥瘡予防に大切なのと同じです。

例えば椅子座位で腰痛が生じてしまうクライアントに対して、セラピストが姿勢矯正をすると腰痛が消失したとします。
であるならば、その姿勢を保持するような指示・環境整備が重要となります。
ただし、それと同様に足を組む・足を組み返す・あえて仙骨座りをする・良い姿勢に戻すといったようにメカニカルストレスを様々な方向に逃がすことが大切です。

これは筋や神経系における阻血を予防するという意味でも重要です。
もちろん、マッケンジー法における後方ディレンジメントと判断された場合では、長時間の仙骨座りは疼痛につながる可能性はありますが、短時間の保持で痛みが誘発されないと確認できたのであれば、ほんの数分・数十秒でも、仙骨座りに姿勢を崩すことは好影響をもたらすと思われます。

この概念は加齢による不可逆的な要因で「いわゆる良い姿勢」をとることが困難なクライアント対しても問題解決が可能な視点として重要です。

もっと詳しくは構造と機能の因果関係を参照。

 

おススメ書籍

このサイトでは姿勢のチェックポイントを大まかにしか記載していませんが、詳細なチェックポイントは「書籍:姿勢アセスメント」「書籍:姿勢の教科書」などを参考にしてみて下さい。


特に以下の「姿勢の教科書」は姿勢はもちろんのこと、脊柱に関する基本情報も豊富で、なおかつエクササイズも充実しているなど、最近では類をみないほどの費用対効果を誇る書籍ではと感じます。

正しく理想的な姿勢を取り戻す 姿勢の教科書

byヨメレバ

※書籍のレビュー記事も書いたので参考にしてみてください
⇒『ブログ:姿勢の教科書 | 新人理学・作業療法士にオススメな書籍

また、不良姿勢による弊害に関しては、「書籍:パリスアプローチ 腰・骨盤編」では更に詳細な内容が記載されているのでおススメです。

パリス・アプローチ 腰,骨盤編―評価と適応

byヨメレバ