この記事は、高次脳機能障害の一つでり、認知症の中核症状でもある『記憶障害』について記載していく。

 

目次

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記憶とは

 

記憶とは、人間の認知機能の根幹をなす要素の一つである。

 

でもって、記憶には『記銘』『保持』『再生』という機能で成り立っている。

 

 

そんな『記憶』の種類(あるいは分類法)は様々だが、記憶の日常生活上の特性を表す用語に以下がある。

 

日常記憶(everyday memory):

日常記憶は、日々の生活において自然な文脈の中で機能している記憶の機能

 

展望記憶(prospective memory):

展望記憶は、将来何をするべきかに関する記憶機能

 

でもって私たちは毎日の行動の中で、日常記憶や展望記憶が機能しているために、さほど努力を払うことなく日々起床後に計画的な行動が保証されている。

 

また、自らの記憶の能力に対する認識とされるメタ記憶(metamemory)も機能しており、忘れないようにメモすることや、過去の情報を確認する作業を日々行っている。

 

 

記憶の分類

 

一般的な記憶の分類例として、『即自記憶』『短期記憶』『長期記憶』という種類分けがある。

 

 

でもって長期記憶は、更に以下へ細分類される。

・命題記憶(エピソード記憶+意味記憶)

・手続記憶

 

ちなみに認知症は、長期記憶は比較的保たれやすい傾向にあるとされる。

 

※さっき伝えたこと(即自記憶)や数日前の出来事(短期記憶)は忘れているのに、若いころの記憶(長期記憶)は覚えていることが多い。

 

 

また、臨床的に頭部外傷や脳卒中を原因として記憶障害と診断される場合、通常はこの様な長期記憶(の中のエピソード記憶)を指し、他の記憶システムは保持されていることが多い。

 

そのために残存機能を拠り所にしたリハビリテーションをすすめることが記憶障害リハビリの基本となる。

 

※ただし、病変局在によってはエピソード記憶は正常で意味記憶が障害される症例もみられる。

 

 

記憶障害とは

 

記憶障害(memory disorder)とは以下を指す。

 

脳損傷または心因で起こる情報の登録、保持、再生の障害。

即時記憶は保たれるが、受傷時以降の新しい記憶が獲得できない(=前向性健忘)を示しやすい。

 

 

記憶障害の原因

 

記憶障害の原因疾患としては以下などが挙げられる。

 

脳卒中

頭部外傷

認知症

・ウェルニッケ脳症

・ヘルペス脳炎

 

・・・・など

 

でもって、記憶のの回路とされる以下などのに病変、あるいはそれらとネットワークを有する病変によって生じる。

・内側辺縁系

・側頭葉内側面

・前頭葉眼窩面

・視床内側核

 

・・・など。

 

 

記憶障害に対するリハビリ

 

記憶障害とは「新たらしいことが思い出せない、覚えたことを忘れてしまう、思い出せない」などの障害なのだが、軽度の場合は、訓練や生活の工夫によってそれ自体が改善することがある。

しかし、中等度~重度お場合は、残った機能で補う(代償)方法を考える必要がある。

 

そんな『記憶障害に対するリハビリ』として以下の4つについて記載していく。

 

  • 自立度の目標設定・能動性の誘発
  • 補助具の活用
  • 誤りをさせない学習法
  • 間隔伸張法
  • 自伝的ビデオ

 

 

自立度の目標設定・能動性の誘発

 

記憶障害の重症度に応じて、対象者の自立度を向上させる課題を設定していく。

 

例えば、以下な感じ(あくまで一例)。

 

  1. 病棟内の道順の習得

  2. 病棟内生活の自立・日課表の習得・記憶の補助具の習得・・など。

  3. 通院の自立・昼の独居が可能

  4. 買い物の自立・通学・就学、さらに復職就労の実現

 

対象者の能動性を引き出すことを主眼に要望を聞きだし、目標設定とその達成のための課題に関する話し合いを重ねていく。

 

 

補助具の活用

 

記憶の補助具(memory aids)の使用を習得する。

 

例えば、記憶の補助具としてのメモリーノート、システム手帳や電子機器(スマホなど)が活用可能となることは、記憶すべき情報を外的に保持する代償システムを構築することになる。

 

※記憶が思い出せなくとも、補助具によって思い出すことが出来る。

 

また、前述したメタ記憶の改善にもつながる。

 

特にメモリーノートの習得と活用は最初に取りくむリハビリ課題の一つとなる。

 

まずはスケジュールを参照して定時に確実に記入していうことから始める。

 

メモリーノートを日常生活の中で自主的活用へと定着させていくには、応用訓練など様々な状況を設定してのリハビリを考える必要がある。

 

 

誤りさせない学習法

 

誤りをさせない学習法(errorless learning)は、
誤りを経験する学習法(errorful learning)に比べて、
記憶障害を有する対象者の学習成績が優位に向上するとの知見によって支持されている。

 

健常者は誤りを犯しても、そのエピソードを学習しており、次の施行時には誤りを犯したというエピソードを記憶しておらず、逆に潜在記憶による学習効果が機能して、誤りを排除できない。

 

例えば、重度の記憶障害者に対する自分からトイレ、食堂などへの道順学習に際しては、最初の施行から正しい道順が学習できるように援助する。

 

最初の施行で誤った道順を学習すると、同じ誤りを繰り返し、それが迷子(徘徊)へとつながる。

 

 

間隔伸張法

 

間隔伸張法(spaced retrieval)は以下を指す。

 

学習すべき情報や行動パターンを、再生時間を次第に延長することで長期記憶へと転送することを目的とする手法

 

再生や再認の時間をまず1分から開始し、成功したら2分、その後5分、10分へと延長していく。

 

失敗した場合には成功する再生時間へ戻して施行を繰り返す。

 

 

自伝的ビデオ

 

重度な記憶障害とともに、病識欠如・作話などが認められるなどのケースにおいて、前述した記憶障害に対するリハビリテーションでは限界が存在する。

 

でもって、現実見当識情報と患者自身のリハビリ場面を取り込んだムービーを作成して視聴させる訓練が、self awareness と記憶障害の改善に有効であることが報告されている。

 

※残存している自伝的記憶を刺激することなどで、メタ認知の改善を図る手法と言える。

 

 

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