この記事では意識障害の一つである『失神(syncope)』について記載していく。

 

目次

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失神とは

 

失神とは以下を指す。

 

『突発的、発作的に起こる、脳虚血に基づく一過性の意識障害。』

 

つまり、様々に存在する意識障害の一つに該当する。

 

失神は脳そのものの器質的障害ではないため、脳血流の改善とともに意識が速やかに回復する(あくまで一過性の意識障害)。

 

失神の持続時間は数秒から数分の事が多い。

 

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失神の原因

 

失神の原因は以下の通り。

 

1.心血管性

A)反射性

a)血管迷走神経性(vasovagal

b)situational

c)起立性低血圧

d)頸動脈洞性

e)迷走神経反射性

B)心原性

a)器質的心疾患による

b)不整脈性

2.非心血管性

A)脳血管障害性

B)代謝性

C)心因性

 

※各失神における緊急度は、以下の通り。

 

  • 入院精査が必要な失神⇒出血による失神・心原性失神・一過性脳虚血発作による
  • 入院不要な失神⇒上記以外の失神

 

ここから先は、上記分類における各失神について記載していく。

 

 

 反射性失神とは

 

『反射性失神』とは、血圧および心拍調節を行っている自律神経反射の異常により起こる失神を指す。

 

末梢血管が拡張することによよる「血圧低下」と、心抑制による「高度徐脈」のいずれか、あるいは両者が起こって脳血流の低下が生じ、失神を起こしてしまう。

 

 

 心原性失神とは

 

『心原性失神』とは、心拍出量が十分でないため起こる失神を指す。

 

突発し、立位以外のいずれの姿勢でも失神が起こるのが特徴。

 

 

 脳血管障害性失神とは

 

『脳血管障害性失神』とは、全身血圧の低下が原因ではなく、脳(特に椎骨脳底動脈系)に虚血が起こって生じる失神を指す。

 

脳血管障害性失神には以下も含まれる。

 

  • 椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作

    失神だけでなく脳幹部・小脳・後頭葉の虚血症状として、眩量,四肢麻溥・対麻痺・複視・半盲・小脳失調症状などを伴う

    ※問診で「失神発作と同時に脳幹・小脳症状を認めなかったか」を確認

 

  • 頸椎症による椎骨動脈圧迫に伴う血流低下

 

  • 脳底動脈片頭痛(若い女性で脳幹部虚血症状を伴う後頭部拍動性頭痛)

 

 

 代謝性失神

 

『代謝性失神』とは、低酸素血症あるいは脳代謝の基質であるブドウ糖が血中で低下することで起こる失神である(つまり、血圧に異常がなくても起こる失神)。

 

低血糖時失神は徐々に起こってくる。

 

「糖尿病患者が、インシュリン注射によって低血糖症状を起こして失神する」などがイメージしやすい。

 

※問診として、低血糖を起こすインシュリンあるいは経口糖尿病薬服用の有無を確認

 

 

心因性失神 

 

『心因性失神』とは不安状態・抑うつ状態あるいはヒステリーによって起こる失神を指す。

 

不安・抑うつ状態ではしばしば過換気による「気の遠くなる感じ」を失神と訴えることがある。

 

 

失神の種類を、問診によって推測

 

ここから先は、心疾患系失神のうち『反射性失神(血管迷走神経性・situation・起立性低血圧・頚動脈洞性・迷走神経反射性)』にフォーカスを当てて、問診時のポイントを記載していく。

 

失神は、問診で発症様式を明らかにするだけで診断が確定することが多い。

 

なので、患者あるいは目撃者に前駆症状の有無、発作時の姿勢(立位時のみ、姿勢に関係なく起こるなど)、労作運動時に生じるのか、失神発作が終ったあとすぐに気がついたかたずねるがポイントとなる。

 

 

血管迷走神経反射を疑う例

 

以下が当てはまれば、『血管迷走神経反射』を疑う。

 

  • 発作の引き金として、痛みや不快な場面に遭遇するなどの精神的ストレスがあったか
  • 前駆症として眼前暗黒感発汗、嘔気、倦怠感、身体のあたたかくなる感じ(末梢血管拡張による筋血流増大を反映)があったか
  • 顔面は蒼白(そうはく)となっていたか
  • 比較的速やかに意識が戻り、ぼんやりした様子が発作後なかったか

 

 

補足検査:

血管迷走神経性失神が疑わしい例では斜面台(tilt table)で60°起こし、45分間血圧・脈拍を測定し、血圧低下と共に失神が生じないか検査を行う(tilt table test)。

 

 

シチュエーショナル失神(situational syncope)を疑う例

 

排尿・排便・咳嗽発作のように「一定の動作の後にだけ生じる」のであれば『situational syncope』を疑う。

 

 

起立性低血圧を疑う例

 

以下が当てはまれば、『起立性低血圧(性失神)』を疑う。

 

  • 症状は立ちくらみのようか。
  • 既往に消化性潰瘍がないか
  • 既往にパーキンソン病は無いか
  • 脱水や長期臥床が基盤にないか
  • 「起立性低血圧を生ずる可能性のある薬物」を服用していないか

 

「起立性低血圧を生ずる可能性のある薬物」としては以下などが挙げられる。

※()内は薬品名

 

・亜硝酸製剤(二トロールなど)

・βブロッカー(インデラール,テノーミンなど)

Ca拮抗薬

・prazosin(ミニプレス)

・硫酸キニジン(硫酸キニジン,アミサリン)

・methyldopa(アルドメッド)

・利尿剤

三環系抗うつ剤(トリプタノールなど)

・フェノチアジン系薬剤(ウィンタミンなど)

 

  • 起立性低血圧に関する補足:

    起立性低血圧による失神か疑われる時は、自律神経系の異常によるものでないか、便秘、排尿困難の有無を確める。

    深部反射(腱反射)が保たれているか、手足の先の知覚(少なくとも痛覚と音叉による振動覚)が保たれているか、末梢神経障害の有無を知るため検査する。

    脊髄障害が疑われれば、反射亢進と病的反射の有無を調べる。

     

    起立性低血圧の詳細は以下の記事でも深堀しているので合わせて観覧してみてほしい。

    ⇒『起立性低血圧 (廃用症候群シリーズ)

 

 

頚動脈洞失神を疑う例

 

以下が当てはまれば『頚動脈洞失神』を疑う。

 

  • 首を大きく回したり、伸展した時あるいはワイシャツのカラーで首をきつく圧迫した時に失神が起こった。

 

  • 上記で起こっており、尚且つ高齢の男性

 

 

迷走神経反射性失神を疑う例

 

以下が当てはまれば『迷走神経反射性失神』を疑う。

 

  • 発作の時に迷走神経を刺激するような原因(食道腫瘍、食道鏡・気管支鏡の検査中、胆石発作、胸腹膜の刺激、舌咽神経痛)などがなかったか。

 

 

器質的心疾患による失神を疑う例

 

以下が当てはまれば『器質的心疾患による失神』を疑う。

 

  • 既往に心雑音、心疾患がないか。
  • 労作時に失神が起きていないか。
  • あるいは立位でない時に失神が起きていないか。

 

 

不整脈による失神を疑う例

 

以下が当てはまれば『不整脈による失神』を疑う。

 

  • 既往に虚血性心疾患がないか
  • 症状が突発していないか

 

 

関連記事

 

失神の一つであり、廃用症候群によっても生じやすくなる『起立性低血圧』に関しては、以下の記事で深堀している。

 

起立性低血圧 (廃用症候群シリーズ)―対処法や予防法も紹介するよ!

 

 

失神は『意識障害』の一種である。そんな『意識障害』について(失神も含めた)種類や原因・評価方法を解説した記事が以下になる。

この記事ではゴチャゴチャと「失神の原因」を列挙してきたが、基本的に以下で述べている「意識障害を起こす原因」は全て失神の原因にもなり得る(こう考えるとシンプルに物事を整理できると思う)。

 

3-3-9度方式(ジャパンコーマスケール)-意識障害の意味・評価法・原因を考える

 

 

「てんかん」や「痙攣」は、意識障害・失神と関連し合部分もある。

以下の記事を合わせて観覧してもらうと、これらの考えが整理できると思う。

 

てんかんと痙攣の(+違い