この記事では『バルサルバ(ヴァルサルヴァ法)』という用語について記載していく。

 

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ヴァルサルヴァ法(Valsalva maneuver)とは?

 

バルサルバ法(Valsalva maneuver)』に関してウィキペディアには以下の様に記載されている。

 

ヴァルサルヴァ法(バルサルバ法、英語: Valsalva maneuverとは、いきむ(息む)動作で呼吸が止まり、筋緊張が起こることで普段より筋力が発揮できる生理的な現象。

 

イタリアの解剖学者、アントニオ・マリア・ヴァルサルヴァ(英語版), 1666 - 1723) が使ったことから名付けられた。

 

冒頭の画像(バーベルを持ち上げようとしている外人)の様に、息を止めることで瞬発的に筋出力を高めることが出来るようだ。

 

でもって、虚弱高齢者では「低負荷な筋トレですら難易度が高く感じられてしまうこと」があり、その様なケースでは無意識にバルサルバ法を活用して運動を実施していることがある。

 

だが、バルサルバ法は「筋出力を一時的に高めることができる」というメリットもがある一方で、デメリットがあることも知っておかなければならない。

 

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ヴァルサルヴァ試験(Valsalva test)

 

バルサルバ法のデメリットを記載する前に、『ベッドサイドの神経の診かた(第15版)』を参考に、『バルサルバ試験(Valsalva test)』を記載する。

 

この試験を観覧してもらう事で、バルサルバ法によって起こる神経生理学的作用をイメージしてもらいやすいのではと思うので。。。

 

 

バルサルバ試験の方法

 

患者を半臥位にし、静かに呼吸させ、脈拍数と血圧が安定したら、深く息を吸いこませたまま、口を閉じ、約10~15秒間力ませて胸腔内圧を上昇(40~50mmHgに)させる。

 

その後普通の呼吸にもどらせて、この間の心電図と血圧を連続記録する。

 

 

バルサルバ試験で観察できる身体の生理学的反応

 

前述した方法によって胸腔内圧が上昇すると、正常者では以下の4相の順に血圧が変化する。

 

  1. 最初に血圧が上昇する(1相)

     

  2. 続いて血圧は下降する(2相)

     

  3. 胸腔内圧がもとにもどる瞬間にさらに血圧は低下する(3相)

     

  4. 続いて最初の値より上昇する(4相)

    ※血圧のover shootと除脈が出現

    ※一方で、 交感神経の障害では、4相の血圧のover Shootと徐脈の出現が消失する

 

 

バルサルバ法のデメリット(リスク)とは

 

『ベッドサイドの神経の診かた』から読み取れる「バルサルバ法のデメリット(リスク)」は以下の通り。

 

・バルサルバ法の最初(1相)と終わり(第4相)に『血圧上昇』が起こるリスク

・バルサルバ法の途中(特に3相)で瞬間的に『血圧低下』が起こるリスク

 

 

バルサルバ法による血圧上昇リスク

 

バルサルバ法の最初(1相)、つまり息んだ瞬間に血圧が上昇するのはイメージしやすいと思う。

 

※イメージしにくい人は、記事冒頭の筋トレしてる外人さんを、もう一度観覧してみてほしい(いかにも血圧が上がってそうだ)。

 

また、バルサルバ法の終わり(4相)にも血圧上昇は起こるらしい。

 

 

でもって、高齢者などは血管がもろくなっていたり、高血圧を有している(つまり、そもそも血圧が高めであったりする)場合がある。

 

そんな高齢者に対してバルサルバ法を運動療法に活用してしまうと、脳血管疾患・心疾患などを誘発してしまう可能性があったりする。

 

 

バルサルバ法による血圧低下リスク

 

バルサルバ法の途中(特に3相)で瞬間的に血圧低下が起こるリスクがある。

 

あなたは、バルサルバ法(つまり『息む(いきむ)』)という行為で生じやすいイメージとしては血圧上昇 or 血圧低下のどっちだろうか?

 

私は新人の頃、前者の方がイメージとしては強かった。

 

しかし、バルサルバ法による血圧低下によって生じる「めまい」は転倒リスクになるので注意が必要である。

 

眩暈の原因に関しては、低血圧以外にも以下の記事で詳細に解説しているので興味がある方は観覧してみてほしい。

⇒『めまい(眩暈)の分類・原因・対処法例などを紹介

 

個人的には、「バルサルバ法による血圧低下で招いた失敗談」があるので、この記事の最後に紹介しておく。

 

でもって、ここからはバルサルバ法に対するリスク管理について記載していく。

 

 

高齢者に対するバルサルバ法の予防・対策

 

前述したように、高齢者などは、血管が脆くなっていたり、高血圧を有している場合がある。

あるいは、血圧が変動しやすく、低血圧を起こしやすい高齢者も多くいる。

 

そんな高齢者が筋トレ(っというか、そのレベルにも満たないような運動療法)時に(無意識に)バルサルバ法を活用してしまうのは避けたいところである。

 

でもって、バルサルバ法を抑制した運動療法を実施する上でのポイントは以下である。

 

『運動中に息を止めない』

 

まぁ、平たく言ってしまえば、この一言で終わりなのだが、もう少し頑張って話を広げてみる。

 

 

息を止めないための工夫

 

あくまで個人的にだが、まずは普通に運動療法を実施してみて、実施する中で「バルサルバを活用する人(あるいは、してしまいそうな人)かどうかを観察する。

 

でもって、バルサルバ法を活用しそうな人(要は、運動を息みながら遂行しようとする人)には「息を止めないように」と声掛けをする。

 

その声掛けの際には、なぜ運動中に息を止めてはいけないのか?というのを説明してあげると実践してもらいやすい。

 

ただし、バルサルバ法というのは無意識下でなされることが比較的多い。

 

つまりは、「息を止めてはいけないと理解はしているが、無意識に息んでしまっているケース」というのは非常に多い。

 

私たちにとっては簡単な運動であっても、高齢者や疾患を有した患者には難しい運動は多くあり、それら難しい動作を遂行しようとすると「ついつい息んでしまっている」というのはイメージしてもらいやすいのではいだろうか。

 

なので、「息を止めないように」という声掛けと同時に、「本当に息を止めずに運動ができているか」という観察(評価)も大切と言える。

 

 

一番手っ取り早いのは、数を数えてもらう事

 

一番手っ取り速いのは数を数えながら運動をしてもらうというものだ。

 

例えば、術後にベッドサイドで『SLR運動』を実施すると仮定しよう。

 

廃用性の筋萎縮(+ギプスの重さ・痛みなどが加算されるケースも)を呈した身体への運動は努力が伴い、バルサルバ法が活用されやすいこともある。

 

そんな際に

 

「SLR運動を10回、黙って実施する」と息みやすいが、

 

「SLR運動を10回、数を数えながら実施する」と、息まなくてすむ。

 

※息を吐かないと声は出ないので、自然な呼吸をせざるを得ない。

 

 

補足:等尺性収縮での運動+バルサルバ法のコラボにも注意

 

 

筋の収縮パターンには以下の様に様々な種類がある。

 

  • 求心性収縮
  • 遠心性収縮
  • 静止性収縮(=等尺性収縮)

 

 

でもって、『静止性収縮(等尺性収縮)では血圧が上がり易い』と言われているため、バルサルバ法と同様に高齢者には注意が必要である。

 

等尺性収縮とは、「一定の筋長を保ちつつ筋を持続的に収縮させ続けること」であり、その間は周囲の血管を圧迫し続けてしまうため、血圧は高くなる(筋収縮による末梢血管抵抗の増大によって血圧上昇)。

 

さらには、一定期間筋を収縮させ続けることに努力が必要な場合は、ついつい息みやすい(バルサルバ法を用いやすい)。

 

つまりは、『等尺性収縮+バルサルバ法のコラボによって血圧が上昇しやすい』ので高齢者などへの運動療法時には注意が必要と言える。

 

この様な等尺性収縮による血圧上昇を予防するには以下などが有効である。

 

  • 運動負荷を低くする

    ※運動負荷が高いほど、筋収縮による末梢抵抗は増大するし、努力量増大によってバルサルバ法も活用してしまいやすい。

 

  • 等尺性収縮の収縮時間を短くする

 

また、(身も蓋もない話ではなるのだが)リスクの高い患者に対しては等尺性収縮を活用せず、別の筋収縮様式に変更するというのもアリである(むしろ、一番これを推奨する)。

 

 

数を数えるのは有効だよ

 

しつこいようだが、血圧の変動を可能な限り予防するために「運動中に数を数えてもらう」というのは有効で、これは等尺性収縮を用いた運動でも同様である。

 

先ほどのSLR運動の例では、反復運動(つまりは等張性収縮)の回数を数えてもらうというのを例にした。

 

でもってSLR位を保持する(等尺性収縮)であれば、保持する秒数(10秒や30秒など)を数えてもらえば、息むことによって生じる血圧上昇は予防することが出来る。

 

※この記事とは関係ないかもしれないが、筋の収縮様式の特徴などは以下の記事で紹介しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。

 

筋の収縮様式(求心性/遠心性/静止性/等尺性/等張性収縮)の違い

 

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私のリハビリ失敗談

 

最後に、私のバルサルバ法における失敗談(血圧上昇ではなく、低下を起こしたしまったパターン)を記載して終わりにする。

 

まさか、この程度の負荷で・・・・

 

私は高齢者に対して運動療法を実施していた。

 

っといっても心疾患・呼吸器疾患を合併している虚弱高齢者であったため、運動負荷は低くせざるをえず、バルサルバ法を運動に活用しないよう(要は運動中に息を止めないよう)説明・観察しながら実施していた。

 

でもって、最初はベッド(プラットホーム)上での運動+歩行練習がメインだったが、運動機能が改善したこともあり、立位でのバランス練習も追加してみようと考えるに至った。

 

立位バランス練習も段階的に進めていこうと考え、まずは『静的バランス』のリハビリとして『PNFのリズミックスタビリゼーション』を選択した。

 

刺激の方向・順番などは『背臥位におけるフックライング(Hook Lying)』と同様な手法を取った。

 

また、初回であったという点、静止性収縮に該当する刺激である点を考慮して、極軽微な負荷量(健常者にとっては、外乱刺激に感じない程度の微量な負荷)を選択した。

 

その結果、実施中はふらつくことなく立位姿勢を保つことが出来たのだが、刺激を解除した瞬間に立ちくらみを起こし、後方のプラットホームに倒れこんで(座り込んで)しまった。

 

本人は「急にクラッとしちゃったよ」と言っていたので、恐らくはリズミックスタビリゼーションを解除した瞬間に(前述したバルサルバ法の4相あたりに一致してしまい)起立性低血圧に類似した症状が起こったのだと思われる。

 

私は以下の点で完全に油断していた。

 

  • 今までバルサルバ法に留意しつつ運動療法を実施し、問題がなかった。

 

  • 立位でのリズミックスタビライゼーションは初めての試みではあったが、極軽微な刺激を用いており、「この程度の刺激で患者が息むはずがかない」という先入観を無意識に持って(息んでいないかの観察より、バランスを崩さないかの方に注意を集中させて)しまっていた。

 

幸い、座り込んだ直後から意識は清明なままだったが、今でも印象深い症例として記憶に残っている。

 

※上記でリンクした用語を以下に並べてみたので、興味がある方は参考にしてみてほしい。

 

⇒『静的バランス・動的バランス(+違い)

⇒『PNFの拮抗筋テクニック(リズミックスタビリゼーションを含んだ記事)

⇒『コアマッスルの段階的トレーニング(フックライングを含んだ記事)

⇒『ジャパンコーマスケール-意識障害の意味・評価法・原因を考える

 

 

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