目的

  1. 等尺性収縮後弛緩による筋原性疼痛の緩和
  2. 等尺性収縮後弛緩による反射性短縮の改善
  3. 筋収縮を用いた関節モビライゼーション
  4. 低緊張または筋力低下した筋の緊張改善・体幹の分節的スタビライゼーション

PIRとの相違点

そもそもPIRはMETから派生したテクニックと言われることもあって、目的はPIRと似通っていまが下記のような相違点が特徴です。

1.2に関して
PIRは問題筋に対して等尺性収縮を加えて、Ib抑制による弛緩を狙います(その後新しく得られた可動域でのActiveなROMexでは相反抑制の作用も利用しますが)。
一方でMETでは、問題筋ではなく拮抗筋へ等尺性収縮を加えて、相反抑制を利用しての弛緩も狙うケースがあります。例えば寝違えの様な急性の痛みと可動域制限がある場合、痛みや恐怖感により問題筋を収縮させることが困難な場合があったりなど、拮抗筋を収縮させることによるアプローチの方がうまくいくケースがあります。
2.に関して
METもPIRと同様に関節モビライゼーションやマニピュレーションへ移行しやすい肢位に工夫されているが頚椎~上部胸椎に関してはPIRの方が目的の分節以外を閉鎖しやすくセラピストにも負担が少ないよう工夫された肢位なため、正確な関節への評価・治療が試行しやすい印象を受けます。 
3.に関して
PIRには無いコンセプトです。ちなみに、ドイツ徒手医学では『筋収縮を用いて関節モビライゼーションを行うこと=MET』・『等尺性収縮後弛緩テクニック=PIR』と定義しており、METは③のことのみを指しています。
また、METは開発当初は骨盤帯治療に特化したアプローチだったこともあってか、骨盤帯の位置変位に関して非常に緻密な評価・治療をしていきます(ドイツ徒手医学では様々な理由からコンセプトは簡略化されています)。
4.に関して
PIR同様に①②の肢位を利用して分節的なスタビライゼーショントレーニングも可能です。その際は、等尺性収縮のみならず様々な収縮様式を段階的に用いていくことが重要となります(特にPIRとの相違点はありませんが一応記載しておきました)。
他の文章と少し重複しますが、拮抗筋が弱化している場合は問題筋のスパズムが一時的に改善されても根本的な問題解決になりません。そのため、拮抗筋の積極的な収縮により不均衡を改善させなければならないということになります。
そして、最終的には分節的なエクササイズから更に機能的なエクササイズへ移行していき、再発予防や新たな身体状態への学習に繋げていきます。この考え方は一般的な評価・治療の流れと同じです。

筋収縮を用いた関節モビライゼーションの例

『筋収縮を用いた関節モビライゼーション』の簡単な例として、ドイツ徒手医学で用いる『左腸骨後方回旋変位に対するMET』⇒『腹臥位・膝屈曲位でPTが固定した状態で、大腿直筋の収縮により、腸骨を前方回旋させる方法』を記しておこうと思います。

  1. 治療ベッドに腹臥位となる。
  2. 右端に寄って、右下肢をベッドから降ろす(安定させるため足底接地出来る高さに治療台を調整する)。
  3. PTは他動的に患者の右足部を頭側へずらしていき、右股関節屈曲⇒右PSISの尾側への動きが触知できるた時点で止める。(これで右股関節屈曲→右腸骨後方回旋を介して仙骨が固定され、左腸骨を可動させる準備が整う)。
  4. PTは左PSISを触知しながら、左膝関節を他動的に屈曲させ、大腿直筋の緊張によりPSISの頭側への動きが触知できる角度で止める。
  5. PTは④の状態を保持した状態から、クライアントに『左膝を曲げようとするので止めておいて』と指示し、膝を屈曲させようとする動きに抗させることで左大腿直筋を収縮させる。
  6. すると、左膝関節はPTによって固定されているため、左大腿直筋の起始部である左ASISが尾側へ引っ張られ、左腸骨前方回旋が起こる(仙骨は右下肢のポジショニングにより固定されているため、つられて動くことは無いので十分なモビライゼーションが可能)。

上記が『筋収縮を利用したモビライゼーション』の一例です。

自身の筋収縮を用いることで他者の力で動かされるのと比べて過剰なストレスが関節に加わるリスクを予防できます。

また、更に強い力が必要なケースだと判断される場合は、クライアントの筋収縮と同時にPTが軽い徒手を用いて前方回旋をアシストすることも可能です。

ちなみに、高齢者で腹臥位がとれない場合でも、側臥位になることで腹臥位と同様に実施可能です。

ただし、仙骨(仙腸関節)機能異常に対する本場の?METにはの上記の様な単純なものだけでなく、3次元的な評価・治療も必要となります。となると、クライアントにも3次元的で複雑な筋収縮が求められます。このクライアントの筋収縮が少しでもズレていれば治療にはなりません。何が言いたいかというと、能動的なアプローチであるが故に、その様な収縮が実践出来るだけの理解力がクライアントに無ければ非適用となります。また、本場の?METには骨盤帯のみならず脊柱全般を含めてアクロバティックな肢位を要求される場合もあり、高齢者には実践できないケースもあります。