PIRについて
PIR(Post isometric relaxation)は、ヨーロッパのLewitが考案したテクニックで、徒手的理学療法として一般的なテクニックの一つです。
目的は疼痛の緩和や筋の反射的短縮の改善やであり、ソフトなテクニックなためMET同様に構造的短縮は適応外となります。
ただし、日本ではPIRの教本として『Post isometric Relaxation‐等尺性収縮後の筋伸張法 』と題したものが出版されており、この教本では筋伸長もセットにしているという意味合いから構造的短縮も適用となるのかも知れません。
つまり、世界的に用いられている一方で、上記の教本では脊柱の分節的なテクニックに関しては記載されていないなど、、国や学派によって詳細は若干異なっているのかもしれません。
このHPではドイツ徒手医学のPIRを中心としたコンセプトや手順に、アメリカの文献を付け加えて記載しています。
評価としてのPIR
ドイツ徒手医学におけるPIRは、疼痛や反射的短縮に対する『治療手技』である前に、
疼痛や可動域制限の原因が筋の反射的短縮によるものなのか、靭帯や関節包などを含めた軟部組織の構造的問題なのかの鑑別のための『評価(試験的治療)』の意味合いがあります。
例えば、PIRの非常にソフトな収縮で可動域が改善された場合は反射的短縮であり、そのままPIRが治療手技として適用されます。逆に、PIRで可動域が改善されない場合は、ストレッチングであったり関節モビライゼーションであったりな他の手技の適用も評価していくことになります。
PIRの特徴
PIRの特徴は非常にソフトな等尺性収縮です。
ドイツ徒手医学では『拮抗筋が収縮しない程度』であったり『5g程度』と表現されるほどの刺激なため、組織を損傷させる可能性が低く、急性期でも評価・治療に用いることが可能です。
原理は簡単なので直ぐに臨床で用いることが可能です(脊柱に関しては機能解剖をある程度理解しておく必要がありますが)。
一方で、PNF法で用いられている固定筋・共同筋の概念を用いれば、更に応用的なアプローチとして発展させていくことも可能です。
ドイツ徒手医学では、脊柱の過少運動性が特定の分節に認められた場合は、PIR(筋の反射性短縮の改善)と関節モビライーション(非収縮性組織の硬さの改善)を連動して施行していきます。あるいは、PIRを試験的に用いて改善しない場合、その肢位のまま関節モビライゼーションに移行できるようにポジショニングが工夫されています(ただし、エンドフィールの評価で改善出来そうな硬さかどうかを評価した上でモビライゼーションへ移行すること)。
また脊柱に関しては、学習した弱い収縮をそのまま分節的なスタビライゼーションエクササイズに繋げていくことも可能です(その際は等尺性のみではなく様々な収縮様式で施行していくことも重要となります)。
PIRの各行程で狙っている神経生理学的原理
- 目的筋をの収縮はIb抑制を利用
- 新しく得られた可動域でのActiveなROMexはIa抑制(相反神経支配)と継時誘導を利用
※Ib抑制・Ia抑制に関しては以下も参照
⇒ブログ:伸張反射/Ib抑制/Ia抑制(相反抑制)を極めよ!!
PIRの手順
PIRの手順
- 目的筋に合わせてクライアントのポジショニングを決める。
また、クライアントがリラックスできているということを確認する。 - 目的筋をわずかな抵抗が感じられる点(病理学的バリア)まで引き延ばした肢位をとる。
その際に、はずみをつけることは避ける。 - クライアントに、目的筋を最小限の力で5~10秒間、静かに収縮させる。
セラピストはこれに同等の対抗力で抵抗し、等尺性収縮を作り出す。
収縮時には可能な限りクライアントに息を吸わせる。 - クライアントに息を吐かせながら力を抜いてもらい、筋を完全にリラックスさせる。
セラピストはバリアで感じられた抵抗が減少したかどうかをモニターする。
もし抵抗が減少していれば、新たなバリアが感じられる場所(すなわち、かすかな抵抗増加が感じられる場所)まで、自動又は他動的に引き伸ばす。 - 上記の過程を3~5回繰り返す。
- 新しく得られた可動域でActiveなROMexを行う。
リラクゼーションが得られない場合は以下の方法を試す
- クライアントが、収縮相では確実に息を吸い、リラクゼーション相では吐くようにする。
- クライアントは収縮方向に視線を向け、次いでリラックスするときにはストレッチ方向を見る。
- 収縮時間は30秒まで延ばしても良い。
- 可動域中間位から始めて、制限されたバリアに向けた、拮抗筋による等張性抵抗運動を1~3回用いても良い。
PIRと視覚共同運動
視覚共同運動は目と身体の運動の神経生理学的関係に基づくものです。
この関係は興味の対象の視覚的追跡を促進するためや、ADL中に身体の方向付けを助ける役割があります。
例えば上を見上げれば、それによって頚椎および体幹伸筋群の活性化がもたらされる一方で、屈筋群は抑制されます。
同様に右を見れば頸部および体幹の右回旋に関わる筋の活性化、左回旋にかかわる筋の抑制が起こります。
こういった関係は体幹筋系で顕著ですが、四肢筋系を治療する際にも使用できる考え方です。
また、目の運動と治療しようとする筋の作用との間に直接な関係がないときは、クライアントにその身体部分が収縮中に動くはずの方向に目を向けさせます。つまり、指示に対するクライアントの反応を評価し、それにしたがって変更を行っていきます。
もし患者が過剰な動きをするようなら、ただ望ましい方向を見ることだけを考えるように伝えたり、力を抑えるようにと声を低めて行ったりします。
方法
- 特定の方向を見るように指示を、目的筋の等尺性収縮の指示とともにクライアントに与える。
例えば後頭下筋群のPIRには、筋を穏やかに等尺性収縮させながら、上を見る(額の方を見る)ように指示す(小さな筋群なので収縮は意識させずに視線+呼吸だけで改善されることも多い)。 - 収縮を止めてリラックスよるようクライアントに指示しながら、目的筋が緩んだなら動かす方向を注視させる。
例えば後頭下筋群の場合は顎またはつま先の方を見させる。 - クライアントと共同作業をするときには単純な事が重要である。そのため、作用が3つの面にわたる筋を治療する際は、ただ1つの面または優勢な2つの面のみでの眼球運動で、通常は目的筋に望みの抑制と拮抗筋の促進を十分に達成させることができ、しかも複雑な運動に関する混乱と不安を避けることができる。
例えば頭部関節(C0/1/2)において左後方の筋群が反射性短縮を起こしていた場合(頭部関節の組み合わせとしては伸展・左側屈・右回旋)、屈曲・右側屈・左回旋方向へ可動させていく訳だが、だからといって三次元的に動かされた頭部から更に「左下を向いて下さい」と伝えるよりは、シンプルに「鼻先をみて下さい」といった声掛けの方が理解しやすく良い反応が得られやすい。
PIRと呼吸共同運動
一般に吸気は筋活性化を増強し、呼気は筋リラクゼーションを増強します(例外あり)。
呼吸の指示は、クライアントの自然な呼吸リズムの中で行う時に最も効果的とされています。したがって始める前に施術者はクライアントの呼気を観察し、それに合わせて指示を出す。最高の成果を上げるには、自然な呼気も吸気も短縮されないようにします。
一方で、呼吸指示にうまく反応するクライアントもいれば、治療中の筋、更には全身を過剰に活性化させ、その結果、PIR後に総合的な筋緊張が高まるクライアントもいます。
そのため、呼吸指示はその個人から望ましいレベルの反応を引き出せるように、色々変更を加えるべきです。
患者の呼吸指示に関して最低限試すべきレパートリーとしては、「大きく息を吸って」「もう少し大きく息を吸って」「しっかりと大きく息を吸って」などがあり、声の調子もそれに合わせて反応を減らしたり、軽くしたり、際立たせたりするのにふさわしい調子を用いることもポイントです。
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