オステオパシーテクニックの分類

筋骨格系に対するアプローチは理学療法以外にも様々ありますが、その中でオステオパシーについて分類しました。

オステオパシーに関しては、分類を『学派』ではなく『テクニック』として下記の4つに分類しました。

  1. 筋骨格系のテクニック
  2. 内臓へのテクニック
  3. 頭蓋・硬膜領域のテクニック
  4. 古典的なテクニック

に分類しています。

オステオパシーとは1874年にアメリカの医師であるアンドリュー・テイラー・スティル(Andrew Taylor Still)によって創始された徒手療法です。

オステオパシーに関する詳しい歴史はこちらで⇒カースケのリハビリblog

オステオパシーの基本理念は下記の4つですが、この理念には深い意味があり、教本によってはもっと掘り下げた解釈で記されているものもあります。

①身体は一つのユニット(単体)である ②身体は自己治癒力を持つ
③構造と機能は相互に関係し合う ④治療は①~③の基本原理に基づく

理学療法士の中にもオステオパシーの様々なテクニックを取り入れている人達が増えています。

そもそも筋骨格系理学療法は元をたどるとオステオパシーから発展してきたものだという主張もあり、逆にいうと筋骨格系理学療法の原点でもあるオステオパシーの概念は、理学療法士とって受け入れやすいものが沢山あります。

一方で、筋骨格系理学療法には馴染みの少ない着眼点に気づく事もできます。そもそもオステオパシーは筋骨格系にだけに着目して発展してきた訳ではないので、内臓・リンパ・自律神経など幅広い視点で身体を診ることのできるエッセンスが詰まっていると思います。

 ここでは、各テクニックを紹介する前にオステオパシーを学べる団体をまとめみたので、勉強されたい方はチェックしてみてください。理学療法士以外にも様々な職種の方が受講することが出来る団体です。

⇒日本におけるオステオパシー団体

※ここに記載されている団体を推奨しているわけでは決してありません!

※受講する際は自己責任でお願いします!

また、セミナーに関しては理学療法士のみを対象としたものも存在しています。その様なセミナーは筋骨格系が主ですが、他のセミナーと比べて理論や技術が同等な質にもかかわらず受講料が格安なため、理学療法士の方はまずそちらを探してみるのも良いかもしれません。

理学療法士でいたいのか、オステオパスになりたいのか

このサイトはあくまで筋骨格系「理学療法」のサイトであり、従ってオステオパシーを「テクニック」として分類し、既存の理学療法と相性が良いものを「取り入れる」といった視点で扱っています。

一方で、理学療法士として「理学療法ではなくオステオパシーをやりたいのだ」と思っているのであれば、前述した「オステオパシーの4つの基本理念」をベースとした哲学から学んでみても良いかもしれません。

ただし、その場合であっても「身体は一つのユニットである」という点は十分に考慮しなければいけません。

つまりは、全ての原因を一つの要素に集約して語っていたり、身体ユニットの一つであるはずの『中枢神経系』に全く言及していなかったりする団体に関しては、オステオパシーの理念とは外れているため、注意したほうが良いかもしれません。

関連記事
⇒『ブログ:理学療法士が知っておくべきプラシーボ効果とノーシーボ効果

※とにかく、上手い口車に乗せられて、高額の受講料を払わされるなど「カモ」にされないよう事前に十分吟味する必要があるという事です。

一方で、このサイトのメインテーマである筋骨格系「理学療法」にオステオパシーのテクニックを取り入れる場合にも注意点があります。

それは、オステオパシーの各テクニックを学んで枝葉を増やしても、EBPT(エビデンスに基づく理学療法)の根幹となる「(解剖・生理学・運動学のみならず、実証された)科学的根拠のある知識」や「クリニカルリーズニング(臨床推論)」「テクニックを活用するための評価」がきちんとできなければ、それぞれのテクニックに繋がりが持てず選択が困難になってしまうことを念頭に置く必要があると思います。

もちろん、慢性疼痛へEBPTを展開する場合においては末梢組織(筋筋膜、関節など)にばかりとらわれるのではなく、認知・情動な要素も含めた「中枢神経系の優位性」も考慮しなければならない点は言うまでもありません。

関連記事
⇒『徒手理学療法における一般的な評価・治療の流れ

筋骨格系に対するテクニック

以下には私が実際受講したものであったり、オステオパシーの中でも基本的なテクニックを載せています。

各テクニックに独自の評価方法もありますが、筋骨格系のテクニックに関しては(前述したように)理学療法のスタンダードな評価を参考にしながら取り入れていけば良いと個人的には思っています。

名前 コメント
直接法 関節モビライゼーションやスラストのように、機能解剖を考慮しながら可動域制限となっているバリアを越えるような力を加えるアプローチの総称です。
間接法 関節可動域制限となっているバリアとは反対方向へ可動させることで、間接的にバリアを解除させるようなアプローチを言います。直接法に比べると、理学療法士には馴染みが薄いかもしれません。日本で考案された『操体法』も、このコンセプトで考えれば間接法ということになるかもしれません。間接法は実際学んだことは無いため、ストレイン・カウンターストレインとの明確な違いは分かりません。
筋・筋膜リリース

現在では様々な筋・筋膜リリースのコンセプトが存在します。最近はやりのアナトミートレインなども筋・筋膜リリースのコンセプトの一つのようです(なんか、コメント浅すぎですね・・・)。

ストレイン・カウンターストレイン(SCS)

ローレンスH.ジョーンズというオステオパスが開発したテクニックです。『間接法』の一つにSCSが位置づけられていると考える人もいます。

この技術は、海外の理学療法士やカイロプラクターの間では(商標登録の関係からか)ポジショナルリリース(Positional Release)と呼ばれることもあります。

また、系統別・治療手技の展開 改訂第2版 でSCSの執筆を担当した方が、『SCSを参考にしつつも、オリジナルに発展させた技術』と称して『マッスルペインリリーフ(MPR:Muscle Pain Reliefe)』と名づけていたりします。そして、系統別・治療手技の展開 改訂第3版 では掲載手技ががSCSからMPRへ変更となっています。

MPRに関しては、『深筋膜上の明確な点である協調中心(center of coordination)を治療対象とした、筋筋膜に対する治療』という点がSCS異なっているとのことです。

一方で、実際の治療手順に関して、少なくとも四肢の筋に対しては①発痛点を特定②発痛点の圧痛が軽減し、その部位の緊張が緩むような肢位で90~120秒保持する③ゆっくりと中間肢位へ戻す③発痛点の再評価 という流れで、SCSとほぼ同じです。

要は治療対象である発痛点を『協調中心(center of coordination)』ととらえるか、『圧痛点(tender point)』ととらえるかの違いといったところでしょうか・・・

マッスルエナジーテクニック

フレッドL.ミッチェルというオステオパスが開発したテクニックです。オステオパシーの学派にしては珍しく『クライアントの筋収縮を利用する』という能動的なコンセプトを持っています。

内臓系に対するテクニック

名前 コメント
内臓マニピュレーション 学んだことはありませんが、オステオパシーとしては有名であったり、系統別・治療手技の展開第一版にも書かれているので載せました。各系がそれぞれ関連し合っているという意味での『身体は一つのユニットである』という基本理念により、スティルの時代から内臓に対するアプローチは存在したようです。そして、近年ジャン ピエール バラルというフランスのオステオパスの内臓マニピュレーションによって脚光を浴びるようになっています。この他にも内臓テクニックは様々あり、例えばクラシカルオステオパシーでは内臓系という一つの系だけでなくリンパ系や自律神経系(や筋骨格系も含めて)も包括した全身調整を行っていきます。内臓だけに重点を置いた講習ではないものの、クラシカルオステオパシーを学ぶことで、内臓も含めて『身体は一つのユニットである』ということへの理解が深まるのではないかと思います。

頭蓋・硬膜領域のテクニック

名前 コメント

サザーランドの頭蓋領域のオステオパシー

頭蓋オステオパシーとはサザーランド(William Garner Satherland)というオステオパスが最初に提唱した頭蓋に対するテクニックです。頭蓋オステオパシーは様々な名称で呼ばれており、今では様々な学派(カイロプラクティックも含めて)が派生しています。下記に記載されている頭蓋仙骨療法も、サザーランドの頭蓋オステオパシーから派生したコンセプトです。
頭蓋仙骨療法

頭蓋仙骨療法はDr.ジョン・E・アプレジャーが提唱した概念です。

頭蓋仙骨療法の講習会は、アプレジャー・インスティチュート・ジャパンが主催しており、私も2009年にCST-I ・ CST-IIを受講しています

ただし、他の学派も模倣したものであったり、アレンジしたもので講習会を開いたりしています(中には従来の頭蓋仙骨療法とは全く別物も堂々と混じったりしています)。

個人的には、適用を見極めて実施することで効奏するケースもあり、重宝しています。

古典的なテクニック

名前 コメント
スティルテクニック  
クラシカルオステオパシー

J.M.リトルジョンというオステオパスによってイギリスで発展したコンセプトです。師事していたA.T.スティルが解剖学を徹底して重要視していたのに対して、リトルジョンは解剖学のみならず生理学も重要視していたと言われており、それがコンセプトにも反映されています。そして現在は、リトルジョンを師事していた中の一人であるJ.ワーナムによって考案された『ルーチンに行う全身調整』を基盤としたテクニックを行います。

講習会はイギリスのみならず日本をはじめ様々な国で開催されています。ただし、本国であるイギリスのオステオパスが必ずこのコンセプトを学んでいるというわけではなく、米国のオステオパシーに影響されている人々も非常に多いようです。僕は講習会に参加するまでイギリスの全てのオステオパスがこのコンセプトを学ぶのだと思っていましたが、この辺の誤解は『日本の理学療法士=必ずAKA-Hを学んでいる』と海外(のAKA-Hを紹介したり講習会を開催している国々)の理学療法士に誤解されがちなのと同じなのかもしれません。

ちなみにイギリスのオステオパスはアメリカと異なり医師ではなく、理学療法士と同じような地位とのことでした。

※スティルの提唱した理念の一つである『身体は一つのユニットである』という言葉は、症状を訴える部分のみならず常に全身に着目することが大切だという意味の他に、筋骨格系・神経系・内臓系・頭蓋・硬膜系・リンパ系など、どの系に問題があっても、それは他の系に派生するという意味もあります。そのため、このサイトは『筋骨格系理学療法の世界』と題していますが、筋骨格系だけでなく、他の系に関しても載せています。

※オステオパシーには徒手的介入を重要視する学派がほとんどです。この徒手的介入方法には目から鱗な考えであったり効果的な手技が多く存在しますが、運動療法についてはあまり語られません。もちろん表面的には『運動療法も大切』と運動療法を肯定している学派も多いですが、それらの学派であっても内容は徒手療法のおまけの程度の抽象的な場合が多いです。そのため、理学療法士として学んでいる専門的な運動療法をいかに併用させていくか、クライアントがセラピストの手から離れて身体を自己管理できるレベルまで到達できるかまで考えることは、理学療法士としての醍醐味であり、臨床展開の幅を広げるのに重要なポイントだと思っています。