スタティックストレッチングのポイント

1.筋の伸張スピードについて

素早く筋を引き伸ばしてしまうと伸張反射が生じてしまうため、出来る限りゆっくりと伸張位まで可動していくことが大切となります。

速度に関しては、『等速度でストレッチングした際に伸張反射が発現しない角速度は5°/秒以下である』との文献があり、一つの目安になるかもしれません。

私の臨床ではもっと速くに伸張させてしまっているな~と考えさせられる数値ですが、皆さんはどうでしょう?

2.筋の伸張強度について

理学療法士が他動的に筋を伸長する場合は、最終可動域付近に発生する筋性のエンドフィールを目安とします。エンドフィールより更に強く筋を伸長することにより疼痛が発生すると防御性収縮が助長されることや、伸張時は疼痛が生じなくとも筋損傷が生じており後に遅発性筋痛が現れる可能性があります。

セルフストレッチングを指導する際は、本人の主観により強度を決定する必要があるため、個人的には「筋肉が伸びて心地よく感じる強さ」「伸ばした後に体が楽になる位の強さ」という表現をよく使います。しかし、声かけによる伸張強度の受け止め方には個人差があるため、特に「強く伸ばし過ぎて翌日などに痛みが生じた場合は、少し弱め伸ばしてみて下さい」などの言葉添えにより、自身でモニタリング・微調整するよう促すことも重要と思います。

また、筋の伸張強度が不十分な場合でも効果は半減してしまうのですが、スタティックストレッチングに関しては、(強すぎない程度で、なおかつクライアントが伸張感を得られているのであれば)厳密な伸張強度よりも、事項で紹介する『筋の伸張時間』のほうが重要です。

3.伸長時間について

ストレッチングの持続時間に関する記載として、以前は10秒程度と表記されているものも多かったですが、最低でも20秒~30秒とする教本や文献が多くなっています。

Magnussonらは、

ハムストリングスに対するスタティックストレッチングに関して、静的トルクはストレッチング開始5秒程度ではほとんど変化しないが、ストレッチングの時間経過とともに減弱し、20~30秒でトルク20~30%減弱する

と報告しています。

また、

大腿四頭筋に対する伸張時間として、10・20・30・60秒で設定した結果、30秒・60秒で有意に膝屈曲可動域が増加した

という報告もあります。

これら以外にも多くの研究で、静的トルク・動的トルクなどの指標を用いて研究がおこなわれていますが、「伸張時間が長いほど、筋緊張低下・可動域改善の効果がある」という結論が出ています。

しかし、長時間の伸張効果を検証した研究にはラットを使用した文献が多く、伸張後の痛み(オーバーストレッチングによる筋損傷)の有無にまで言及されているか疑問です。また、臨床においても、「長時間ストレッチングをすればするほど可動域が改善されて即自的効果を実感できたが、翌日に強い遅発性筋痛が生じてしまった」という経験は自分自身であったりクライアントであったりで一度は体験したことがあるのではないでしょうか?

これらのことから、オーバーストレッチングによる筋損傷のリスクを予防するためにも、「短時間すぎず、長時間過ぎず」ということで20~30秒程度が推奨されているのだと思われます。

また、人体における特定の筋に対しては、一度に長時間の持続伸張を加えなくとも、数回に分けてトータルで同様な時間伸張した場合でも、同程度な可動域改善効果が得られたと報告もあり、リスク管理として活用できそうな報告だと思います。

伸長時間に関する文献の注意点として、効果的な伸張時間は対象筋の形態や大きさ・生じている反射的・構造的短縮の程度によっても変わってくるため、文献はあくまで目安であるという点だと思います(伸張強度に関する文献に関しても同じことが言えます)。

4.頻度について

1度に実施する回数:
Boyceらはハムスストリングスに関して「15秒のスタティックストレッチングを10回行った結果、膝伸展可動域の可動域改善効果は1回目が一最も効果的で、5回目までが有意に改善し、それ以降は効果が認められなかった」と報告しています。
この文献でセット数を検討するのであれば、3~5回程度が適切で、時間がない時は1回だけでも良いということになります。
さらに、これらの情報を基準として、臨床で検証を繰り返せば、自ずとそれぞれの筋に対しての効率的な回数はどれくらいなのかといった経験値も蓄積してくるのではないでしょうか?
1日・1週間に実施する回数:
3~5回を1セットとして、1日に何回実施し、それを週に何回のペースで継続すれば効果的かは不明です。
しかし、即時的効果がある一方で元に戻り易い筋緊張を神経生理学的な抑制や筋・筋膜への機械的な伸張刺激を小まめに加え続けていく方が、効果的な気がします。
ただ、長期的な効果を得るために最も大切な事は、1日・1週間での回数以上に、数か月にわたって確実に施行するだけのモチベーションだと思われます。
これらのことからも、クライアントを見定めながら、モチベーションが萎えないような設定をするとともに、構造的短縮はすぐに良くならないため焦らず継続する旨を伝える必要があると考えます。
また、温熱療法(自宅では入浴)も併用するとより効果的かもしれません。

5.息を止めない事で交感神経の興奮を予防する