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マリガンコンセプトの概要と講習会について

ニュージーランド出身のマリガンという理学療法士が発展させた学派です。

このコンセプトの核となるNAGS・REVERS NAGS・SNAGS・MWMSは、刺激を加えるor刺激(力学的負荷)を加えた状態で自動運動を実施しすることによって、患者の変化(痛みであったり可動域であったり)を評価します。

そして、良い変化が認められた場合はその刺激を治療として用い、変化が無ければその刺激は非適用と判断します。

また、マリガンコンセプトは無痛が原則なため、評価の時点で痛みが出てしまう場合でも非適用と判断します。

この『非適用』に関しては、もちろんマニュアルセラピー全般の絶対禁忌・相対禁忌も例外なく該当します(念のため)。

これらに加えて自分の技量、つまりアート的な要素も加味して判断する必要があります。つまり、「良い反応が得られない=非適応」という判断は熟達した操作を習得した人でなければ断言できないため、初心者には見極めが難しいところかもしれません。

実際の臨床では、微妙に原則から外れて微調整した方向に力を加えることで良い反応が得られる場合が多々あることも念頭に入れて評価しなければなりません(しかし、まずは原則的な方向に力が加えれることが大前提ですが)。

日本の講習会では、上半身編・下半身編として各3日間にわたって開催されます。計6日の講習でコンセプトの全体を網羅しないといけないため、理論的背景などの座学は必要最低限にとどめての実技中心(その中でもコンセプトの核となるものを中心に)の講習となっています。

※Mulligan Concept 公認講師(外人)による講習会は、日本徒手理学療法学会主催で行われることが多いです(理学療法士教会主催の講習会であった年もありますが)。

実技に関しては、各機能異常に対して効果が出やすいものを教えてくれますが、なぜ効果が出やすいのかの理由を深く掘り下げてまでは講義されないこともあります(時間的な問題で)。

ですが『何故このテクニックが効果的か』を考えれば、機能解剖的に理にかなった部分が多いことを理解できるため、そういう知識をしっかりと身につけておくと表面的なテクニックに終わらず他へも展開していきやすいと思います。

実際マリガンは様々な学派で勉強したことをベースにしつつ自分のコンセプトも発展させてきたため、コンセプトはカルテンボーンの関節運動学の原則に基づいていたり、カルテンボーンのテクニックを講習内に一部採用していたりするので、『海外の総合型学派』を勉強していれば理解が深まりやすいと個人的には思いました。

一例として、なぜ頚椎の機能異常に対しての頚胸移行部のREVERS NAGSで良い反応が得られやすいのかについて僕が受講した際に解説はありませんでしたが、(介入方法は違えど)理屈は他学派と共通していると思います。

また、日本では上半身編・下半身編合わせて6日間の講習会なのに対して、オーストラリアでのコースでは4週間かけて機能解剖も含めて他の徒手療法も総合して学ぶとのことなので、マリガンコンセプトも含めた総合的な筋骨格系理学療法を学びたい方(で英語のできる方)はそちらを検討してみても良いかもしれません。

マリガンの経歴

1954年:理学療法士の資格取得

1974年:徒手的療法の免許(Diploma of Manipulative Therapy)を取得

1988年:ニュージーランド徒手的理学療法協会(The New Zealand ManipulativePhysiotherapists Association)の終身会員

1995年:マリガンコンセプト指導員協会(The Mulligan Concept Teachers Association;MCTA)設立

1996年:ニュージーランド理学療法士協会(The New Zealand Society ofPhysiotherapists)の名誉会員

1998年:ニュージーランド理学療法学会(The New Zealand College of Physiotherapy)の終身会員

2003年:Otago大学理学療法学部名誉教授

2004年:アメリカ整形徒手療法学会(The American Academy of Orthopadic ManualTherapy)の特別会員

マリガンコンセプトの詳細

マリガンコンセプトの特徴

マリガンテクニックは、それが「適応」であり、尚且つ「適切」に用いられた場合は、クライアントの症状を直ちに改善させることが期待できます。

一方で改善しない場合は、用いたテクニックがそのクライアントに適応ではなかったか、あるいは正しく実施できなかったと考えます。

つまり、即時的効果が認められなかった場合は、そのテクニックを止めて別のテクニックを試みる(あるいはマリガンコンセプトという概念自体から離れて臨床推論するなどと方針を切り替える)必要があります。

あるいは改善がみられてたとしても、クライアントが院内にいる間程度にしか効果が持続しないのであれば、「短期な効果しか認められない」ということで継続してテクニックを使用し続けるかどうかは微妙となります(マリガンは書籍で非適応だと述べています)。

※ただ、長年可動域制限を有していた関節が劇的に改善する場合があるので、(それが単なる短期効果のみであっても)驚かれることがあります。
※そして、これらの効果は、セラピストへの信頼感・期待感へとつながることもあったりするので、プラシーボ効果としては(手品と同じような類な効果しか認められない場合も)多少の価値はあるのかなというのが私の臨床経験で思うところです。

マリガンコンセプトの最大の特徴は、臥位だけでなく座位や立位で自動運動を伴いながらのモビライゼーションを行なう点であると思います。

一般的な関節モビライゼーションは臥位で実施するものが多く、「自動運動を伴いながら」という点がマリガンコンセプト特徴とになります。

クライアントの訴えている症状は抗重力位であったり、尚且つ動作に伴って生じることも多く、そいういう意味では「現実の問題に直結する機能的なアプローチ」と表現できると思います。

※臥位での様々なアプローチによって「臥位における何らかの変化」がクライアントに起きたとしても、「抗重力位になった途端に変化が無くなる」あるいは「訴えている機能的動作での症状には変化がない」といったことが起こってしまうのは臨床でも経験したことがあるのではないでしょうか?そういった意味でマリガンコンセプトは問題解決に直結したアプローチが出来る可能性を秘めているので、知っていて損はないと思います。

セルフエクササイズも重要視する点が特徴的も特徴です。
(重複しますが)マリガンコンセプトが「テクニックの適応を見出し、適切な手技を実施すれば直ちに機能を改善する事が出来る」といった特徴を持っている反面、それは一時的な効果でしかない事も多い点に起因します。

つまり、マリガンコンセプトで改善された機能を維持するためには、「クライアントに機能障害の原因を理解してもらい、自ら治療に参加するような働きかけが大切」という視点が大切になります。

更には、クライアント自身に機能を改善し再発を予防するための方法をコーピングスキルとしてマスターしてもらうことは、セルフエフィカシー(自己効力感)という観点からも重要となります。

マリガンは、マリガンコンセプト以外の理学療法も同時に用いることを推奨している。

つまりは「自身が提唱している概念が万能と説くことはなく、様々な徒手理学療法の一つとしての活用を推奨している」ということになります。

※例えばマリガンは、坐骨神経性の側湾(側方変位:lateral shift)を起こしている腰椎の障害に関してはマッケンジー法を用いるなどと自身の著書に記載したりしています。

マリガンコンセプトのポイント

  • セラピストは解剖学とバイオメカにクスについて十分な知識を持つこと
  • 徒手療法の禁忌を熟知して、コンセプトにおける規則を忠実に守ること
  • 熟達したハンドリングや、(ハンドリングに追従してもらうための)適切な声掛けを身につけること

※特に、マリガンコンセプトは自動介助で適切な運動を誘導しながらモビライゼーションを加えるテクニックが多いのでハンドリング技術が乏しいと徒手療法の利点が無効となってしまう可能性があります(まぁ、書籍を読みながら練習していると自然と上達するとは思います)。

※脊柱のテクニックを行なう際は、常に椎間関節の治療面に対して直角または平行に動かすようイメージすることが重要です。

※全ての脊椎椎間関節の方向を熟知しておくことがポイントです。

テクニックの分類

NAGS(椎間関節自然滑走法)

  • 振動的モビライゼーションである。
  • C2~Th7の椎間関節に用いることが出来る。
  • 中間から最終域での椎間関節のモビであり、治療する関節の治療面に沿って腹頭側へ動かす。
  • 患者の耐性に応じて段階的に行なう。
  • ごくわずかな不快感は生じるかもしれないが、決して痛みを起こしてはならない。テクニックが巧妙で穏やかでなければ疼痛が出ない保証はないので注意する
  • イリタビリティーに対する検査としても活用できる

※関連記事
⇒『HP:用語解説(イリタビリティー)

  • 座位にて実施する。
  • 高齢者に対する穏やかな優しいケアと一緒に用いる場合がある。

REVERSE NAGS(逆椎間関節自然滑走法)

  • 上位胸椎(頚胸以降部)に対してのみに施行されるテクニックである。

※具体的には他動的に頭を背側へ後退させるように動かすテクニック
※例えば、前方へ頭が出ている患者に対して上部胸椎の硬さを取る際に用いる

NAGSが「下位椎体に対して上位椎体関節面を腹頭側へ滑らせるテクニック」なのに対して、このテクニックでは上位椎体に対して下位椎体関節面が頭側へ滑る(椎間関節のコンバーゲンスさせるイメージ)

SNAGS(持続的椎間関節自然滑走法)

  • 脊柱(後頭~仙骨)に適応できる。
  • 脊柱の運動と組み合わせて椎間関節の「位置を整復」するもので、四肢の運動を組み合わせることもある。
  • 安全で、痛みがなく、応用するのが簡単(特に頸椎)
  • 書籍『マリガンのマニュアルセラピー』には以下のような記述があり、臨床で用いていて的を得ていると感じる内容もも多いと感じます。
セラピストの治療法の中にSNAGSが含まれていれば、時間に無駄が無くなる。例えば、検査で頸の伸展と右側屈で痛みによる制限を確認できたら、クリニカルリーズニングや他のテクニックを施行する前に、まずSNAGSを試そう。改善すれば他のテクニックは必要ない。SNSGSで効果がなかったり、無痛で施行できなければ適応ではないので二度と使わず、そこから頭を切り替えれば無駄が減る。

一方で、(重複した記載になりますが)SNAGSは他の徒手療法と同様に筋骨格系に対する治療プログラムの一つに過ぎないことを十分に理解することた大切。

腰部や下部・中部胸椎にSNAGSを行う場合は、長さが調節できるベルトと治療台が必要(ベルトを持っていなくとも、講習会に参加するとベルトがもらえる。)

※関連記事
⇒『マリガンコンセプトにおけるSNAGSの原則

SELF SNAGS

  • 家で日常的に行なえるセルフエクササイズである。
  • 患者にやり方を示す前に、脊柱モデルを用いてこの方法がどんなものなのかを全て説明する。これにより、彼ら自身でその構造をはっきりと知り、エクササイズの目的を理解することが可能となる
  • 患者が症状を呈している時に教えるのが重要。そのため初診日、その他の手段を始める前に指導することが薦められる。症状を呈していてこそ、患者は正しく理解することが出来る。

MWMS(運動併用モビライゼーション)

  • 運動を併用しながらの関節モビライゼーションの総称を指す。
    したがって、前述した「SNSGS」も運動併用モビライゼーションに含まれる。
  • 脊柱のMWMS(=SNAGS)や、四肢のMWMSの他に、上肢の運動を伴った、頚椎・上部胸椎に対するモビライゼーション」も存在し、これはSMWAMSと呼ばれる。

おすすめ書籍

もっと詳細なコンセプトの内容は教本やDVDを参考にしてください。

関連記事
⇒『ブログ:マリガンコンセプトの即自的効果

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