認知再構成法について
認知行動療法において、認知バイアスを修正する手法は多くありますが、その中でも『認知再構成法』はよく用いられる手法です。
これは「自分の考えを用紙に記入して整理する」という方法であり、『コラム法』とも呼ばれています。
コラムとはシートに書かれた枠のことで、一般的には7列の枠で構成されたものを用いて、下記の内容を記していくことになります。
- 1.状況:
- 不快な感情が生じた場合を具体的に取り出す
- 2.気分:
- 1で取り出した状況から、「気分」を抽出し、点数化する
- 3.自動思考:
- 1で取り出した状況で、頭に浮かんだ「考え」を抽出する
- 4.考えの根拠:
- 3の自動思考を裏付けする、客観的事実を探す
- 5.考えの反証:
- 4の自動思考に合わない、反する客観的事実を探す
- 6.適応的自動思考:
- 根拠と反証をふまえて、状況について再度考え、バランスのとれた新しい考えを導く。
この時に物事の良い面だけを見つめた「ポジティブシンキング」はネガティブシンキングの裏返しでしかありません。
そのため、ここで導きたい適応思考は、良い面も悪い面も適切な重みで考慮し、未来へ繋がる考え方であることが望ましいと言われています。 - 7.気分の変化:
- 6の適応的思考を踏まえて感情のスコアをつけ直して(点数化し)、2でつけた点数と比べてみます(たいていの場合、2より6の点数が低くなっています)。
一番重要なのは5の反証を客観的事実として見つけることができるかで、その為には下記の様なポイントがあります。- 第三者の立場に立って:
- 「もし他の人が私と同じ根拠を口にしたら、何といってあげるだろうか?」
- 過去や未来の自分だったら:
- 「5年後にいまを振り返ったら、どう考えるだろうか?」
- 過去の経験を踏まえて:
- 「以前にも同じようなことはなかった?その時はどうした?」
※ここでは7列の枠を用いた方法を記載しましたが、2・3列のものを用いても構いません。
※あまり気構えると二の足を踏んでしまうので、最初は少ない列のものから始めてだんだん増やすのも良いかもしれません。
認知再構成法の実際
ここでは以下を例とした、2列と7列の認知再構成法を記載してみます。
『出来事:経営者に収益をもっと伸ばせと急かされた』
『感情:怒りと憂鬱』
2列のコラム法
その時の考え | 自分は経営者に評価されていない |
別の視点での考え | 自分は経営者に評価されているからこそ、更なる結果を期待されているのかもしれない。 |
7列のコラム法
状況 | ○月○日に経営者から「もっと収益を出せないのか?」と言われた。 |
認知(考え) | 十分結果は出せているのに、自分は経営者に評価されていない |
感情 | 怒り(80点)、虚無感(50点) |
考えの根拠 | 結果が出せていることを評価しているのであれば、更に収益を上げろなどと言わないはずだ |
考えへの反証 | 毎年、他のセラピストでは考えられないくらい積極的に研修へ行かせてくれている。これは、結果を評価してくれている表れではないのか? |
合理的思考 | 私の能力を高く評価してくれているからこそ、更なる結果を求めていると考えることも出来るのではないか? |
心の変化 | 怒りが減って(20点)、虚無感が消失した(0点) |
この認知再構成法を用いることで、自分の認知をとらえ、認知バイアスなどの問題がないか検証したり、認知の流れを整理したりすることが出来ます。
ソクラテスの問答について
哲学者のソクラテスは弟子達と心理を追求するときに、自分の意思を直接伝えず質問を繰り返すことで、弟子に気づきを促すよう工夫したとされています。
この様に「工夫された質問を繰り返すことで、相手を自発的な気づきへと導く手法」を『ソクラテスの問答』と呼びます。
『ソクラテスの問答』は、患者さんを何らかの発見へと導くために『Guided Discovery(導かれた気づき)』とも呼ばれますが、誘導尋問のような強引な方法とは異なり、この手法には以下のポイントがあります。
- 当事者が自問し、自ら発見できるように問いかける:
- セラピストではなく、当事者によって問題解決が図れるような気づきを促す。
- 適度に制限を設けたオープンクエスチョンを用いる:
- 気づきを促すためにYes or Noで答えられるようなクローズクエスチョンではなく、オープンクエスチョンを用います。ただし、漠然としすぎた質問では、考えすぎてしまい、時として疲労感や拒絶感が出現してしまいます。
そのため、「オープンでありつつも、答えやすいように方向性・具体性を持たせた質問」をしていくことが大切になります。
答えやすい質問であれば、患者さんは何か考えられそうな気になります。
このような「適度に制限を設けたオープンクエスチョン」によって、自分の認知や感情、行動の特徴に自ら気づくことができてきます。 - どんな回答があっても相手の発現を尊重し、発言に関心を示す:
- セラピストを信頼できなければ本音は引き出すことができません。そのため、セラピストの言葉・態度に対する当事者の反応に気配りしながら、共通の課題に向かって「協同的」雰囲気を作ることが必要になります。
患者さんがどの様な気づきにたどり着いても、それを尊重してあげることで初めて信頼関係が築けて、本気で自分自身のことを話してくれるようになります。
ソクラテス問答の効果
- 問題に気付く(質問をきっかけに、自分の生活を具体的にふり返り、問題に気付く)。
- 誤解が解ける(当たり前だと思っていた悩みに、意外な思い込みがあったと気づき、気持ちがふっきれる)。
- 自己解決するための自信が養われる(セラピストがソクラテスの問答を繰り返すことで、患者さんは問答の方法が自然と養われ、セラピストがいなくとも自身で問答を繰り返して自己解決できるようになる)。
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