はじめに

このカテゴリーにおける「マイオセラピー」という用語は、「筋硬結(圧痛点・トリガーポイントも含む)へ直接的に徒手的圧迫を加えることで、筋・筋膜性疼痛症候群の症状へアプローチする方法」の総称を指します。

※従って、現在商標登録されている「マイオセラピー(myotherapy)」すなわち、マイオバイブ(MyoVib®)も併用した辻井洋一郎氏の提唱しているマイオセラピーとは同義ではない点に注意してください。

筋・筋膜疼痛症候群とトリガーポイントの歴史

  • トリガーポイントの概念を筋・筋膜疼痛症候群(MPS)として体系化させたのはジャネット・トラヴェルという医師でした。
  • トラヴェルはアメリカの第35代大統領のジョン・F・ケネディの主治医であり、長年苦しめられてきたケネディ元大統領の背部痛に関して「原因は椎間関節や椎間板ではなく、緊張し続けた背筋の虚弱が引き起こす一種の慢性痙攣である」と考えたとされています。
    そして、この考えのもとで圧痛点にプロカイン(局所麻酔薬)を注射針で注入すると、針を刺す際に刃物で刺すような痛みがあったものの、その後は硬結が弛緩して局在不明瞭な腫れぼったい痛みとなり、それもやがて消失したとされています。
  • そして、トラヴェルとサイモンが1983年にトリガーポイントと関連痛の領域をマッピングした『トリガーポイントマニュアル』を出版したことがきっかけとなり、トリガーポイントは注目されるようになりました。
  • トリガーポイントの多くは鍼灸のツボと一致していると言われています。
  • トリガーポイントの圧迫が引き起こす痛みは、筋・筋膜に分布する痛覚線維の過敏化によるものとなど諸説あり、過敏化を引き起こす内因性物質としては、ブラジキニン・プロスタグランジン、セロトニン(セロトニンは中枢では抑制系神経伝達物質だが、患部で産生されたセロトニンは発痛物質として作用する)、カルシウムイオンなどが考えられています。

用語整理(筋硬結/圧痛点/トリガーポイント/マイオセラピー/筋筋膜性疼痛症候群)

必ずしも正しいとは限りませんが、このサイトでは以下のように用語を整理して使用していきます。

筋・筋膜疼痛症候群:

筋・筋膜に過敏な痛みを有し、上記の『筋硬結(トリガーポイントも含む)』や、筋スティフネスおよび筋スパズムが、筋の一部または数か所に存在し、運動制限や筋力低下のほか、自律神経機能障害を併発する症候群の総称を『筋・筋膜疼痛症候群(MPS: myofascial pain syndrome)』と呼びます。

筋・筋膜性疼痛によって発する痛みには2種類あり、一つは急性期に見られる、その筋自体に発生する自発痛や運動痛であり、もうひとつはトリガーポイントの圧迫や筋収縮時の伸長などの機械適刺激により発生する遠隔部の関連痛です。

筋硬結により発生する痛みは循環障害による乏血が痛み伝導神経を感作した上に、筋収縮や圧迫などの機械適刺激がさらに加わることにより発生するものと考えられています。

マイオセラピー:

筋硬結(圧痛点・トリガーポイントも含む)へ直接的に徒手的圧迫による機械適刺激を加えることで、筋・筋膜性疼痛症候群の症状へアプローチする方法の総称を、このサイトではマイオセラピーと表現しています。

※従って、現在商標登録されている「マイオセラピー(myotherapy)」すなわち、マイオバイブ(MyoVib®)も併用した辻井洋一郎氏の提唱しているマイオセラピーとは同義ではない点に注意してください。
※トリガーポイント圧迫&リリース・ダイレクトストレッチング・コンプレスストレッチング・指圧・虚血圧迫法などと表現されるものもマイオセラピーとして包括して記載していきます。

筋硬結:

筋硬結とは、触れると結節状に硬い「しこり」のことを指します。
筋硬結には筋線維に平行な帯状やひも状のもの、結び目や結節状のものがあり、圧痛硬結(tendernessspot, tenderness stiffness)や収縮結節(contractionknot)・索状結節(taut band)とも呼ばれます。
また、結節内の圧痛点はトリガーポイント(Trp:trigger point)と呼ばれ、圧迫によって離れた場所に関連痛(referred pain)を誘起ことがあります。

圧痛点:

圧迫すると痛みを感じる部分の総称を『圧痛点』と呼びます。
この「圧痛点」は筋硬結にも存在していることが多いとされています。
※一方で、筋硬結内にのみ圧痛点が存在するわけではありません。例えば線維性筋痛症にみられる圧痛点は、広範で非特異的な軟部組織の痛みであり、必ずしも筋硬結内に存在しているわけではないということになります。あるいは、内臓などを圧迫する際に起こる痛みも『圧痛点』と呼びます。

トリガーポイント:

筋硬結内の圧痛点を押した際に、『ジャンピングサイン(飛びあがるほど痛み)』が起こることがあります。

また、刺激した部位から離れた部位に『関連痛』が引き起こされる場合があります。

この様に、筋硬結内の圧痛点が活性化されていたり、関連痛が生じたりする刺激部位のことを『トリガーポイント』と呼びます。

単なる圧痛点(筋硬結を伴わない圧痛点)に対する局所的な治療は効果がない場合が多いとされています。

これは、圧痛点の病因がはっきりしないことに加えて、例えば線維性筋痛症のクライアントは「中枢神経系(大脳辺縁系など)による痛みの処理過程に機能障害があり、末梢の組織には機能障害がない」といった理論とも辻褄の合う考え方だと感じます。
一方で、筋硬結を伴う圧痛点(特に筋・筋膜性疼痛に関連するトリガーポイント)への特異的治療は、筋・筋膜性疼痛が筋機能障害に起因することから、劇的に効果がある場合も多いとされています。

圧痛点とトリガーポイントの特徴

圧痛点(筋硬結を伴わない圧痛点) トリガーポイント

EMG

訴えのある部位の筋膜組織には必ずしも異常性があるとは限らない。

隣接した組織が放電休止の間、安静時放電活動を認める。

組織の質感

必ずしも質感の変化は認められない。

組織への軽い触診でも圧痛または痛覚過敏の所見が認められる場合がある。

筋組織に索状硬結(細いロープ状の硬いシコリ)が明確に触知される。

部位

広範囲の圧痛や全体的な痛覚過敏

様々な骨格筋に認めるが、外傷(広範位損傷)後や過使用、筋スパズムの長期化した筋に生じる傾向がある。

~書籍:ヤンダアプローチより~

トリガーポイントの診断基準

筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)におけるトリガーポイント(Trp)の臨床的診断基準は以下の通りです。

必須基準

  • 筋に触知可能な索状硬結(細いロープ状の硬いシコリ)が存在する。
  • 索状硬結内に鋭敏な圧痛点が存在する。
  • 圧痛点の圧迫により痛みの訴えが再現される
  • 筋を受動的にストレッチさせようとしても、痛みによる可動域制限が起こる。

確認すべき項目

  • 局所単収縮反応の視認または触知
  • 圧痛点への針刺入による局所単収縮反応の誘発
  • 圧痛点の圧迫による痛みまたは知覚異常
  • 索状硬結の圧痛点における自発的電気活動を筋電図により確認

活動性トリガーポイントと潜在性トリガーポイント

トリガーポイントは活性性と潜在性に分類されます。

活動性トリガーポイントは常に痛みがある(安静時・活動時ともに痛みがある)というのが特徴です。

一方で、潜在性トリガーポイントは、前述した「必須基準」「確認すべき基準」を満たすという点では活性性トリガーポイントと同じですが、常に痛みがあるわけではなく「触診時のみに痛みが誘発される」という点が違いとなります。

活動性トリガーポイントが潜在性に変化することもあるし、潜在性トリガーポイントが活動性に変化することもあります。

疾患名ではなく所見(筋硬結・圧痛点・トリガーポイント)を大切に

筋・筋膜性疼痛症候群が単独で生じている症例は、必ずしも多くない印象を受けます。

例えば、ケネディ―元大統領は椎間板手術、変形性脊椎症による側湾・脚長差などの構造的問題や、トリガーポイント以外の様々な機能的問題があったとされ、トリガーポイントはそれらの二次的機能異常と考えた方が妥当なのではないかとの見解も見られます。

もちろん、トリガーポイントが一次的な機能異常と生じている場合もあり、その痛みを除去すれば再発しないということもあるかもしれません。
事実として、トリガーポイントへのアプローチにより即時的変化を体験できる症例、あるいは数回のトリガーポイントへのアプローチによって持続的な症状変化へも結びつく症例も存在します。

ですが多くの症例では、トリガーポイントが生じる要因にも着目し、トリガーポイントへのアプローチのみならず、一次的な問題についても考察・介入していくことが大切となってきます。

また、一次的な問題が不可逆的な要素であるとするならば、「身体構造・心身機能」という側面のみならず、「環境」という側面への考慮が一層重要となってくるかもしれません。

どんな介入をすべきかは様々ですが、本人が主体的に治療参加するためのアドバイスとしては後述する「筋・筋膜疼痛症候群の特徴」に記載してある『活動障害』『原因』『誘因』などが参考になると思います。

筋筋膜性疼痛症候群の特徴

罹患筋:
  • 脊柱起立筋・殿部筋(大殿筋・中殿筋・梨状筋など)肩甲骨周囲筋など
    ※常に持続収縮や過収縮を強いられ易い抗重力筋・姿勢保持筋に生じやすい
痛みの特徴:
  • 安静時痛なし
  • 自発痛・運動時痛・圧痛あり
  • 筋病態・所見
  • 筋硬結とトリガーポイントの存在
  • トリガーポイントの圧迫による関連痛の誘起
神経症状:
  • なし
  • 活動障害:
    • 体幹前屈制限
    • 体幹後屈によるこむら返り(Cramp)と痛み
    • 中腰姿勢困難
    • 長時間の同一姿勢保持困難
原因:
  • 筋傷害
  • 筋に対する過負荷
  • 過剰な筋疲労
誘因:
  • スポーツや重労作
  • 突発的な体動
  • 不良姿勢、長時間の同一姿勢保持
  • 不良姿勢での作業・生活動作(不良な作業環境)
  • 筋への持続的圧迫
  • 長期の不動化
  • 精神的ストレス

筋硬結の器質的・機能的変化

筋硬結には、以下の様な器質的変化・機能的変化が確認されています。

筋の器質的変化(組織学的変化)

筋の硬結部における器質的変化(組織学的変化)として、現時点では以下が挙げられています。

  • 局所の浮腫
  • プロテオグリカンの増加
  • エネルギー供給と酸素流入の低下
  • pHの低下または酸性化
  • 血小板(セロトニンの放出)の増加
  • 核の増加
  • 肥満細胞(ヒスタミンの放出)の増加
  • ミトコンドリアの変化
  • 筋線維サイズの変化(タイプⅠ線維の萎縮)
  • グリコーゲンの増加
  • 収縮フィラメントの溶解とZ帯の蛇行破壊
  • Regged redおよびmoth-eaten線維のような筋線維変性像の出現
    ※Regged red線維:赤色ぼろ線維→形態以上に陥ったミトコンドリアが赤く赤色した線維
    ※moth-eaten線維:虫食い線維→筋原線維の配列の乱れで網目構造が崩れて虫が食ったように見える線維

そして、これらは阻血による筋ジストロフィー様変化と解され、また局所の循環障害であろうと解釈している人もいます。

筋の機能的変化

筋硬結を有する筋の機能的変化としては現時点で以下が挙げられています。

  • 硬結が存在する筋の終板の機能障害
  • 電気的活動亢進による局所的な単収縮反応
  • 筋に分布する侵害受容ニューロンの炎症メディエーターによる感作

筋硬結(トリガーポイント)の発生メカニズム

筋硬結の発生メカニズムには関しては、線維性結合組織炎説、外傷原因説、酸素欠乏原因説、炎症説、慢性筋スパズム・虚血原因説、結合組織異常説、酸素欠乏による筋代謝障害節、など様々な提唱されています。

ここでは、筋硬結(圧痛点・トリガーポイント)を「虚血原因説」にフォーカスを当てて解説した後に、「不良姿勢」とも関連付けて考えてみようと思います。

筋硬結と循環不全

筋硬結と循環不全の因果関係に関して「伊東文雄,筋感覚研究の展開,辻井洋一郎選,p92,協同医書出版社,2000」では以下のように記載されています。

  1. 局所短縮している部分には運動神経終末(それに対応した筋線維側の終板)があり、過剰疲労や過負荷を受けると、運動神経終末からアセチルコリン(ACh)が過剰分泌される。
    そこで運動神経終板に強くて持続的な脱分極が起き、筋小胞体(SR)からCa2+が大量かつ持続的に放出される。これにより、筋線維の局所が持続的な短縮を起こすので、エネルギー要求が増す。
  2. しかし、筋内圧の上昇により筋肉内における周囲の血管が圧迫されて阻血が生じる(エネルギー供給が低下する)。阻血状態に陥るということは、酸素分圧が低下し、「エネルギー供給源となるリン酸結合」をもつATP、ADP、クレアチンリン酸が欠乏する。
  3. これらの機序によりエネルギー危機が終板部周辺に見られ、それを修復しようとして肥満細胞やシュワン細胞から種々の炎症物質(痛覚過敏物質)が放出され、侵害(Ⅳ群)神経終末や自律神経終末を刺激して痛みを起こす。
  4. さらに筋肉から痛覚神経のインパルスが交感神経の反射活動を高めて局所の虚血をもたらすばかりでなく、筋肉内の局所に交感神経節節後線維から反射活動によって放出されるノルアドレナリンが痛覚受容器の感作(末梢神経感作)に寄与する。
    ATPが欠乏すると、アクチンとミオシンの連結橋が切れないままにとどまって、収縮を維持し、「こり」となり「痛み」も生じる。

したがって、これらの悪循環によって生じた痛み関しては、筋の弛緩、血液の循環促進が重要となってきます。
そして、さらに重要なのは「それらの根本原因を突き止め、それに対してアプローチをしていくこと」という点です。(例えば姿勢、適切な動作、生活習慣)。

一方で、加齢による不可逆的変化が身体構造に生じている場合は、根本原因の解決は不可能な場合もあり、その際は環境の整備、あるいは対処療法的な手段も重要となってくるかもしれません。

筋硬結と不良姿勢

トリガーポイントにおける実験としては、「前脛骨筋に毎日4週間、筋肉に負担をかけるために食塩水を注入すると、トリガーポイントの痛みが増加した」という報告があり、これは不良姿勢で筋肉に負担をかけると痛みが増加する可能性があることを示唆します。

また他の報告では、「筋に負担をかけ続けると60分間でトリガーポイントが出現すること」や、「耳垂から第7頸椎へおろした線と、第7頸椎からおろした線の角度が小さい姿勢ほどトリガーポイントが出現しにくい」などと言われています。

これらのことから、トリガーポイント自体に着目したアプローチも重要ですが、それと同じくらい「特定の筋に過剰な負担がかかるような姿勢・行為になっていないか」といった視点も大切となってくるのかもしれません。

また、不良姿勢と筋硬結・トリガーポイントの関係は以下も参照してみて下さい。

関連ページ
⇒『不良姿勢と筋硬結/トリガーポイント

筋筋膜疼痛症候群に対する様々なアプローチ方法

筋筋膜疼痛症候群に対するアプローチはマイオセラピー以外にも様々存在しています。

例えば、不必要に安静や固定療法を長引かせること(長期の不動化)は末梢性・中枢性感作を惹起し、慢性痛へ移行を助長することになるので、炎症期や亜急性期を過ぎれば、できるだけ早期から積極的かつ自発的に運動を開始する方が良いとされています。

そして、この早期離床の考えは筋硬結・トリガーポイントの予防という観点からも理にかなった対策と言えます。

これは、「筋硬結が・トリガーポイントが局所の循環不良によって生じる」という仮説だけでなく、「筋硬結・トリガーポイントは神経感作の結果である」とする別の仮説の観点からも言えることだと思います。

関連ページ
⇒『感作(末梢・中枢神経感作)と脳の可塑的変化

また、早期離床に運動を併用しようと考えた際は、「局所のみの運動」に着目するのではなく、ウォーキングなどの有酸素運動によって、全身の(血流のみならずリンパなども含めた)循環改善に着目したほうが効率的です。
また、心地よい有酸素運動は自律神経系などにも働きかけるといった相乗効果により痛みの悪循環を断ち切るとともに、認知・情動的側面への刺激により下降性疼痛抑制系の賦活にも作用する可能性を秘めています。

もう少し具体的な治療方法としては、一般的な運動療法・姿勢や動作の再教育・指導、物理療法がよく行われています。
※ストレッチングに冷却スプレー(cold spray)噴射を併用する方法が、筋・筋膜疼痛症候群が世界的に紹介された当初は提案されていましたが、現在は多用されていないようです。

以降は、徒手理学療法にフォーカスを当てて記載してきます。

筋硬結(圧痛点・トリガーポイント)に対する徒手理学療法

ここから先は筋・筋膜性疼痛症候群の筋硬結(圧痛点・トリガーポイント)に対する徒手理学療法にフォーカスを当てて、以下に一覧表を記載します。

※以下に示したのはあくまで例です。例えば、各種マッサージや筋膜リリースも軟部組織テクニックで反応が得やすいもの・あるいは自身が得意とするものをまずは活用してみるということでも良いと思われます。

テクニック 特徴 問題点及び注意点
マイオセラピー

・静的アプローチ
・セルフエクササイズも可能

(テニスボールを用いるなど)

・トリガーポイント圧迫&リリース・ダイレクトストレッチング・コンプレスストレッチング・指圧・虚血圧迫法などと表現されることもある。

いずれにしても筋硬結をダイレクトに圧迫することにより改善を図る方法である。

・圧迫が強すぎて反射性の防御収縮を生じてしまい、筋緊張が亢進する危険性。

・圧迫が強すぎて、トリガーポイントの傷みを悪化させる危険性。

・クライアントのセルフエクササイズにおいても、リスク管理を指導しておかなければ、上記の問題が起こる可能性がある。

PIR
(+ストレッチング)

・静的・動的アプローチ

・患者の筋収縮を利用する

・Lewit techniqueと呼ばれることもある。
等尺性収縮に呼吸と目の動きを強調させるのが特徴。

・筋硬結を含む筋に痛みを生じない程度の穏やかな伸張を加えたまま、吸気に合わせて最大10~25%の等尺性収縮を3~10秒行わせ、この間、眼球運動は動かす方向を見させる。

・収縮後はゆっくりと呼気に合わせ患者はリラックスする

・刺激の与え方に客観性が乏しい

・患者が筋収縮の強さや運動方向を適切に理解できない可能性。

・筋緊張が低下した状態では、逆に筋緊張を亢進させる危険性。

・不十分な方法ではかえって、伸張反射を引き起こしてしまう危険性。

ストレイン・カウンターストレイン

・静的アプローチ

・セルフエクササイズも可能な場合もある

・筋の圧痛点を有する身体各部を他動的に最も痛みが少ない楽な姿勢を取らせることで、筋紡錘を短縮させ、不適切な固有受容器活動を減少もしくは抑制し、筋緊張を緩和し痛みを軽減する。

・筋の圧痛点の診断と痛みが軽減する肢位を見出す能力が必要。

・治療終了後は、少なくとも3日間は筋肉に痛みを生じるような運動と姿勢は避けることが必要

ここから先はマイオセラピー(トリガーポイント圧迫治療)にフォーカスを当てて、改善機序を解説していきます。

マイオセラピーの改善機序

マイオセラピー(トリガーポイントを圧迫することで機械的な侵害刺激を入力する治療)による鎮痛のメカニズムの入口は、ポリモーダル受容器であると考えられています。

そして、ポリモーダル受容器の反応により痛覚系が刺激されることで鎮痛系が働き、痛みや自律神経を調節するというのがマイオセラピーの鎮痛メカニズムにおける仮説の一つとなっています。

もう少し具体的には以下のような機序になります。

  1. ポリモーダル受容器が反応する
  2. 痛覚系中経路を経由し、痛み感覚や自律神経系(交感神経)へ影響を及ぼす
  3. 痛み感覚や自律神経系への影響を抑制するために、下降性疼痛抑制系などの鎮痛機構が賦活される(内因性オピオイド、アドレナリン、ノルアドレナリンなどが分泌する)。

※関連記事
⇒『ブログ:下降性疼痛抑制系とは?

※侵害刺激に反応するポリモーダル受容器は、徒手による圧迫のみならず針による機械的刺激にも反応し、お灸による熱刺激・(お灸の成分であるモグサによる)化学的な刺激にも反応します(機械的・熱・化学的な刺激のいずれにも反応する感覚受容器は、ポリモーダル受容器しか存在しません)。

したがって、鍼灸による鎮痛効果も同様な機序によるものではないかという仮説も、マイオセラピーと全く同様な理屈で存在しています。

ここまでは、マイオセラピーを考える上で重要となるポリモーダル受容器を「受容器」としての側面を記載してきました。
ですが、ポリモーダル受容器は「効果器」としての側面も有しており、以降は「ポリモーダル受容器の効果器としての作用」と「神経性炎症」について記載していきます。

神経ペプチドによる神経炎症の影響

痛み刺激を受け取る受容器である「ポリモーダル受容器」は、受容器としての役割だけでなく、「効果器」としての役割も持っており、効果器による作用もマイオセラピーの鎮痛機序とされています。

つまり、軸索反射などによってポリモーダル受容器から放出されるサブスタンスPなどの神経ペプチドにより惹起される神経性炎症が鎮痛機序に関与しているという考え方です。

具体的には、筋硬結(圧痛点・トリガーポイント)の主病態が局所乏血だと仮定すると、マイオセラピーなどによる徒手的な機械的刺激で興奮したポリモーダル受容器から放出される神経ペプチドが起こす神経性炎症により筋硬結の循環障害が改善し、鎮痛につながるという解釈です。

神経性炎症とは

皮膚をひっかくと発赤しますが、これは一次求心性ニューロンであるポリモーダル受容器が興奮し、その終末で放出されるサブスタンスPなどの神経ペプチドが血管などに作用することに起因します。
その神経ペプチドの前駆体は後根神経節細胞体で合成され、その95%は末梢側へ運ばれると言われています。※中枢側末端では神経伝達物質として働きます。

末梢側で放出されたペプチドは小動脈の拡張、小静脈の透過性亢進、肥満細胞からのヒスタミン放出を促すことにより、その局所の発赤、発熱及び腫脹(これに痛みを加えると急性炎症反応の4徴候となる)を誘起します。
この現象が神経性炎症です。

※関連記事
⇒『ブログ:神経性炎症とは?疼痛や徒手療法との関連性を解説

長々と解説してきましたが、ザックリと要約すると、神経性炎症によるマイオセラピーの機序は以下になります。

徒手的な圧迫刺激によってポリモーダル受容器を興奮させる。興奮したポリモーダル受容器からの刺激の一部は軸索反射などにより末梢へ戻り、ポリモーダル受容器から(効果器の作用として)神経ペプチドが放出し、神経ペプチドによって神経性炎症を起こす。この様にして、あえて機械的刺激によって神経性炎症を起こして局所乏血を改善させる