伝統的マッサージの定義
マッサージには様々な方法がありますが、ここでいう『伝統的マッサージ』は欧米の医療現場・スポーツ現場で広く用いられているマッサージを指します。
欧米のリハビリテーション医療で用いる伝統的マッサージの定義は以下の通りです。
『神経・筋及び末梢循環へ作用し、治癒または改善を目的とし、手を用いると最も効果的な、生体組織を科学的・系統手に操作する方法』
ちなみに、国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」は、あん摩(中国から伝わった、東洋医学に基づく手技療法)、マッサージ、指圧の施術によって体を整える専門家とされています。
※東洋医学には「ツボ(足底のあるポイントを押すと肝臓に良いなど)」といった要素も含まれます。
マッサージの効果
ここでは具体的方法ではなく、伝統的マッサージの効果(作用)を簡単に記載しておきます。
伝統的マッサージの歴史や詳細な作用・方法は『書籍:アドバンス版 図解 理学療法技術ガイド』に記載されているので、気になる方は参考にしてみてください。
心理的効果
- 鎮静作用(不安抑制効果)
- 清明度増加効果
- 興奮作用(神経筋活動促進効果)
- 身体の状態に対する認識を深める効果
反射による効果
- 鎮静作用(筋弛緩効果)
- 興奮作用による筋収縮促進効果
- 鎮痛作用
機械的効果
- 皮膚(肥厚性瘢痕柔軟効果・可動性増加効果)
- 静脈・リンパ還流
- 骨格筋(筋肉痛軽減効果・筋疲労軽減効果・可動性増加効果)
- 結合組織(創傷治癒・瘢痕軟化効果)
マッサージの禁忌や注意点
禁忌
- 骨片などによる関節運動の制限
- 新鮮骨折あるいは骨折治療でも癒合後の日が浅い時期
- 捻挫・筋断裂・腱断裂
関節内あるいは周囲の急性炎症または感染症 - 五十肩、腰痛症などの急性期
- 関節運動や筋伸張時に起こる鋭い急性時疼痛
注意を有するもの
- 傷害後の筋・関節や、関節の不安定性を有するとき
- 高齢者や長期間の安静臥床後
- 反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)
- 軟部組織の拘縮や短縮が逆に関節の安定性や機能、ADLに寄与している場合
- 骨粗鬆症あるいは長期間のステロイド使用などによる骨粗鬆症の疑い
- 脳血管障害などの中枢神経系疾患の急性期
マッサージ基本手技の種類
軽擦法(なでる・さする)
軽擦法はセラピストの手掌や手指をクライアントの身体に密着させ、なで・さする方法です。
軽擦を行う際、身体に密着した手指で適度の圧を加えて、その圧を保ちながら求心性に末梢から中枢に向かい、筋肉の起始部から停止部まで、なで・さするっていきき、これを4~8回程度繰り返し行うのが基本です。
マッサージプログラムとしては、最初と最後に用いられる手技になります。
刺激度合いのポイントとしては、1回目は軽度の圧で主義を繰り返しながら行い、徐々に圧の強度を増し、終盤で元の圧に戻すのが効果的です(つまり繰り返し圧を加える際に、その都度の圧の加え方は重要なポイントとなります。
種類 | 特徴 |
---|---|
手掌軽擦法 | 手掌全体を皮膚に密着させて用いる方法。 両手掌面を用いて行う軽擦法では、両手掌を皮膚に密着させ左右の手掌で同時に行う方法と左右の手を交代性に用いて行い方法がある。 マッサージを行う部位に合わせて手および指の手掌全体を密着させて行う。 |
四指軽擦法 | 第2指より第5指をそろえた(計)4指の指腹部を皮膚に密着させ行う方法。 第2指より第5指をそろえた指の掌面全体を皮膚に密着させて行う。 手背部や足背部の骨間部に用いる場合は(計)4指の頭部を用いて行うと良い。 下肢部を行う場合は、手掌軽擦法の後、(計)4指軽擦法を行うこともある。 |
母指軽擦法 | 母指の指腹部を皮膚に密着させて行う方法。 マッサージを行う部位によって、母指全体、母指頭部、母指側部を用いて行う。 手背部や足背部に用いる場合は、母指頭部や母指尖部を用いて行うと良い。 |
二指軽擦法 | 第1指と第2指または第1指と第2・3指の指腹部や指頭部を用い、皮膚に密着させ行う方法。 バリエーションとしては、前腕外側部など用kいる部位によって、母指と示指を開き、指全体を皮膚に密着させて行うと良い。 |
指顆軽擦法 | 手で拳を握り、指の拳の背面を皮膚に密着させ、拳を回転させながら行う手技。 足底部や背腰部の脊柱両側の起立筋群で適応となりやすい手技。 |
手根軽擦法 | 手掌の下端(手根)部を皮膚に密着させ行う方法。 |
揉捏法(揉む)
揉捏法は母指や2~5指、手掌部、手根部などを用いて適度の圧を加え、輪状または線状に動かしながら揉む方法です。
種類 | 特徴 |
---|---|
手掌揉捏法 | 手掌部を用いて、輪状または線状に揉む方法。 |
手根揉捏法 | 手掌の下端(手根)部をっ用いて、輪状または線状に揉む方法 |
母指揉捏法 |
母指を用いて、輪状または線状に揉む方法。 全身・各部位のいずれでも多く用いられる。 |
四指揉捏法(2~5指) | 手指の2~5指の四指をそろえ、その指頭部や指腹部を用いて揉む方法。 |
把握揉捏法 | 手掌と四指(2~5指)の手掌面全体を用いて、目的の筋肉を把持し、一定の把握圧を加えたまま、輪状または線状に動かしながら揉む方法である。 揉み方としては筋肉の走行に従い、あるいは筋肉を直角に把持したまま一定の把握圧を加え、その圧を保ちながら、輪状または線状に前後・左右にリズミカルに動かしながら揉んでいく。 |
櫓盪(ろとう)揉捏法 | 両手の手掌全体を患部に密着させ、ゆっくりと押したり引いたり、あたかも小舟の櫓を漕ぐように揉む方法。 主に腹部に用いられる。 |
その他の揉捏法として、肘頭部・前腕部を用いて行う揉捏法もあります。
その他の揉捏法は「より強い刺激を加えたい時」や「施術者の母指などを用いて行う揉捏法が弱く、強い揉捏法を行いたい時」などに用いる方法です。
この方法は強刺激となり、揉み返しが生じないか十分注意が必要です。
圧迫法(押す)
圧迫法は母指や手掌、手根などを用い、漸増・漸減に垂直に圧を加えながら押す(ゆっくり押し、ゆっくり離す)方法を指します。
圧迫法は、強く圧すると後に痛みを残すこともあるので、押圧の度合いに注意が必要です。
マイオセラピー(トリガーポイント圧迫&リリース法)も、このカテゴリーに該当する。
種類 | 特徴 |
---|---|
母指圧迫法 | 母指の腹部を皮膚にっ密着させ漸増・漸減委垂直に圧を加えながらゆっくり押す方法。 ①片手母指圧迫法: 片手の母指を用いて行う方法。 例えば背部・腰部を行う際は、脊柱の両側(脊柱起立筋群)に左右の母指をそれぞれ充て、両母指同時に圧迫する。 ②両母指圧迫法: 左右の母指を用いて同時に押圧する方法。 左右の母指を重ねて押圧する方法と、左右の母指をそろえて押圧する方法があり、より強い刺激を加えたい時などに用いると効果的。 |
手掌圧迫法 | 手掌全体を皮膚に密着させ圧迫する方法。 ソフトな刺激圧を加えたい時や背部など広い部分に用いる際に適している。 両手の手掌を脊柱両側など体表面に同時にあて圧迫する方法と、両手の手掌を重ねて圧迫する方法がある。 |
手根圧迫法 |
手の掌面の下端部(手根部)を用いて圧迫する方法。 腰背部や下肢部などに多く用いる。 |
把握圧迫法 | 手掌と2~5指の手掌面全体を用いて、目的の筋肉を把持したまま、漸増・漸減(握るようにゆっくり圧を強め、ゆっくり緩める)に圧迫する方法。 持続把握圧迫法と間欠把握圧迫法がある。 |
※その他に4指圧迫法や2指圧迫法などがある。
強擦法(強く揉みこねる)
強圧法は按捏法やディープフリクションとも呼ばれ、揉捏法と軽擦法とが混合した手技で、マッサージ特有の手技である。
『ディープフリクション』
『ブログ:動画も交えてマッサージを分かり易く解説!!』
強擦法には、母指などを用い線状や輪状に指を動かし、患部を按捏する(押し・揉み・こねる)方法と、母指などを用い皮下に圧を加えながら強く撫でさする方法がある。
ディープフリクションの特性上、患部に強い刺激を加えるため、マッサージ中や後などに痛みなどが出現する場合があり、クライアントには十分説明するとともに注意して用いる必要がある。
叩打法(叩く)
叩打法は手や指などを用い、一定のリズムで体表面を叩く方法です。
振せん法(ふるわす)
振せん法はクライアントの上肢や下肢の先端を把持し、脱力させた上・下肢を細かく振り動かす方法です。
また、セラピストの2~5指先端や手掌部んどをタイ表面にあて、細かく振るわす方法もあり、前者を牽引振せん法、後者を指端振せん法・手掌振せん法 と呼ばれます。
マッサージのエビデンス
理学療法士協会の推奨ガイドラインにおいて、腰部に対するマッサージは『推奨グレードA~B』『エビデンスレベル2』と比較的高めとなっています。
また、他部位であってもマッサージは有効とする文献が散見されています。
ただ、マッサージ以外にも言えることですが、『ガイドラインで推奨される内容を施行する』=『EBPTを実践している』ということにはならない点には、注意が必要です。
詳しくは
⇒マッサージの効果を検証した文献
日本において理学療法士がマッサージを用いても良いのか??
インターット上で、あん摩マッサージ指圧師の方々が、資格を有していないにもかかわらずマッサージをサービスとして提供している他職種の方々を非難している場面をよく見かけます。
はたしてマッサージを他職種(理学療法士も含む)が施行してはいけないのでしょうか?
マッサージは医師・あん摩マッサージ指圧師の業務独占となります。
業務独占とは『特定の資格を有する者に一定の領域の業務(ここではマッサージ)を行うことが許されることをいう』とされており、この文言からは、上記以外の資格ではマッサージを行ってはいけないという事になります。
つまり、巷の柔道整復師が開業している接骨・整骨院であったり、無資格者などが開業している整体院であったりでマッサージを行うことは、厳密には違法行為と言うことになります。
では、理学療法士の場合はどうでしょう?
理学療法士協会には下記のように記載されています。
理学療法士及び作業療法士法第15条第2項には「理学療法士が、病院もしくは診療所において、または医師の具体的な指示を受けて、理学療法として行うマッサージについては、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に関する法律(昭和22年法律第217号)第1条の規定は適用しない。」とあります。
マッサージは医師、あん摩マッサージ指圧師の業務独占であり、その対象は私たちと異なり、障害のあるものに限定していません。
したがって、理学療法士が病院もしくは診療所以外でマッサージを生業として行うことは、たとえ相手が身体に障害のない者であったとしても法律に抵触します。
理学療法士がマッサージを行うことが出来るのは、病院もしくは診療所内において、医師の具体的な指示がある場合のみとなります。
・・・・・・・・つまり、医師・あん摩マッサージ指圧師の業務独占であるものの、「医師の診療補助行為としての理学療法」という限定条件のもとであればマッサージを施行しても良いということになります。
反面、理学療法士という資格を有しているとしても、整体院のようなものを起業して、そこでマッサージを行うことは違法行為と言うことになります。
※ただし、実際は「手もみ」「ほぐし」などと称して(マッサージを施行しているのではない主張のもと)、マッサージと似たことが民間サービスとして行われているというのが現状の様です。
これらの理学療法士における「起業」や「マッサージ」などについて更に詳しく知りたい方は、理学療法士協会HP内の『保険適用外の理学療法活動に関する本会の見解』も参照してみてください。
理学療法士協会からの苦言
最後に、少し話は脱線しますが「起業」に関しての、理学療法士教会からの苦言も記載してみます。
理学療法士協会が発行する「JPTA NEWS No299」において、将来構想戦略会議の対策本部長の一人より以下のような苦言が掲載されていました。
理学療法士の数は爆発的に増加しましたがその半面、質の低下や作業療法士やマッサージ師、整体師などとの境界が問題になるなど、理学療法士のアイデンティティを問われる状況になっています。
医療、介護関係施設だけでなく理学療法士の職域が拡大し、理学療法士の起業も増加してきました。
理学療法士の起業は職業選択の自由として保障されるべきものです。
しかし、ごく少数ですが理学療法士の名称を使用し、「医は算術」であるかのような明らかに金儲けのためのセミナーを開催する団体や、科学的とは思えない手技を売り物にする施術所を開設するものも散見され、他団体より協会としての対応を求められています。
医療専門職として専門職倫理に従う行動を求められることは理学療法士に限らず医療職全般に共通する義務です。
会員であるなしに関わらず違法という判断がなされる例が理学療法士の仲間から出ないよう、理学療法士の名称独占、業務独占に関する解釈や理学療法士・作業療法士法はもちろん医師法、保健師・助産師、看護師法等医療関係法規について会員に周知徹底する必要があります。
何かあれば訴訟されるこの時代に会員を守るためには、協会として起業ガイドラインの作成や法律相談、弁護士の紹介等の施策が必要です。
理学療法士の職域を拡大するためにも他の医療職団体と協調してこれまで培ってきた信頼関係を失うことのないよう努力していかなければなりません。
上記の苦言以外にも、理学療法士協会として理学療法士の起業(の一部)に苦言を呈す場面が増えてきている印象を受けます。
以前は黙認されていることが多かったことからも、理学療法士による呪い(まじない)めいたセミナーや、怪しげな整体院などが増えてきているのだと思われます。
私は起業(理学療法を看板に掲げずに行う整体)に関しては中立的な立場ですが、あまりに目に余る行為が横行すると、将来は制度的な縛り(理学療法士とプロフィールに謳うのも禁止、謳いたいのであればライセンス制など)が設けられるなどで、起業者自身の首を絞めかねないのではと危惧しています。
もちろん、理学療法士だということを隠して実施するのであれば問題ありませんが、理学療法士だと明かすとなると「クライアントが国家資格を有しており、医学における専門的知識を基に整体をしてもらえると信じていた」にもかかわらず、呪い(まじない)めいた事をされたということで、協会に(なんかかの形で)クレームが届いたりすることもあるのではと感じます。
う~ん、難しい問題ですね。
呪いめいたことはしたいけど、(隠していないところをみると)やっぱり「理学療法士」としての肩書はほしいということなのでしょうか?
ちなみに、開業に関しては以下のブログ記事でも言及しているので、もしよければ寄ってみて下さい。
⇒『将来も理学・作業療法士は開業権ムリ!メリットも無し!』
⇒『理学・作業療法士が開業「出来ない」のと「しない」のは違う』
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