最近、理学療法士・作業療法士の「開業」や「開業権」(整体を想定しているので、この記事では起業ではなく開業という表現を用いている)について、ネット上で賛否が白熱している場面を見かける。
今回は、そんな「理学療法士・作業療法士の開業・開業権」について私見を述べていく。
目次
理学療法士・作業療法士は将来、開業権を持てるのか?
理学療法士・作業療法士は将来、開業権を持てるのだろうか?
結論を最初に言ってしまうと、まず無理だろう。
※ここでいう「開業権」とはアメリカのように理学療法士を標榜して、医師の指示なしに自分達の判断で施術を行い、診療報酬(あるいは介護報酬)も得ることの出来る地位を指しているが、それは無理だという事になる。
なぜ無理かというと、時代の流れとして理学・作業療法士のみならず、医療・介護業界全てにおいて、報酬が削られる方向に向いているからだ。
そして、既に開業権を有している柔道整復師ですら、存在意義を問われてヤリ玉に挙げられる昨今において、それに逆行するような「理学・作業療法士の開業権」など、夢のまた夢という事になる。
理学療法士・作業療法士が整体院を開業する件
理学療法士・作業療法士が開業権を得るのは夢のまた夢だと前述したが、今度は「理学・作業療法士が、理学療法・作業療法を自由診療として提供する」のではなく理学・作業療法士が整体を自由診療として提供する」という目的での開業について考えてみる。
厳密に言えば、整体師という職種自体が「グレーゾーン」であるため諸手を挙げて自慢できるような職業ではない。
単純に、摘発されていないから「グレーゾーン」として成り立っているだけである。
従って、理学療法士が「理学療法士と名乗ったうえで、理学療法を標榜せずに行う整体」というのは、「そもそも整体自体がグレーゾーンな職業」である点も踏まえて考えた場合、「グレーゾーンの、その又グレーゾーン」ということになり、尚更のこと違法とも合法ともいえないアヤフヤな立ち位置ということになる。
でもって、理学療法士協会が最近になって、整体院を開業している理学療法士へ間接的に警鐘を鳴らすようになっている。
※最近出された通達文に関しては記事の最後に紹介する。
今も昔も開業している人達が掲示板やブログの書き込みレベルで袋叩きになることは以前からあったものの、協会自体が公の立場として警鐘を鳴らすことは無かったように思う。
※もちろん大前提として理学療法士・作業療法士として開業はダメだというのは法律で定められており、更には整体という名であっても開業は控えてほしいという思いはあっただろうが、それにあえて言及したりはしなかったということだ。
では、なぜ最近になって警鐘を鳴らし始めたのか?
その理由の一つには、やはり、開業している人達の「インパクトのある」悪い噂が協会に耳に入ってきて苦労しているのだと思われる。
そして協会としては、政治力をつけて診療報酬・介護報酬に影響を及ぼしたいと思っているので「変な輩が、整体と称しながらも理学療法士を名乗り、理学療法とはかけ離れた妙な事を始めて、理学療法に関する悪い評判が立ってしまうのは迷惑」と考えているのではないだろうか?
協会がこの数年で政治力を高めようと思えば思うほど、これらの噂は弊害となってくるため、警鐘を鳴らし始めたと言えるのではと思われる。
従って、整体院を開業している理学療法士は、今後も一層理学療法士協会からヤリ玉に挙げられ、肩身の狭い将来を辿ってしまう可能性も否めない。
※理学療法をしないのだから、理学療法士を名乗らなくても良いのではないか?
※やっぱりブランディングの一環なのだろうか?
ちなみに、PTジャーナル・第43巻第4号・2009年4月の以下の記載は、「理学療法士が開業して理学療法を提供することの解釈」や「理学療法士が理学療法以外(整体など)を提供することの解釈」が分かりやすく記載されているのではと感じる。
理学療法士及び作業療法士法の第2条では、「理学療法とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため(省略)理学療法士は医師の指示の下に、理学療法を行うことを業とする者をいう」とあり、中屋らも、独立して理学療法業務を行うことはできず、コメデイカルに関する法では「医師の指示」という文言に重要な意味をもたせていると述べている。
しかし、実際には、理学療法士の職域は「障害のある者」という文言にはとどまらず、保健・医療・福祉・行政・教育(養護教育)・スポーツジムなど多様化しており、その業務内容も、狭義の理学療法にとどまらず社会のニーズに合わせて適応的発展を遂げている。協会理事に問い合わせたところ「理学療法士の開業を否定する通知などはないが、理学療法士が理学療法士として理学療法を行うことを目的とした場合、保険の認可はおりず、事実上開業は難しい。理学療法士有資格者が自由診療で理学療法以外のことを行うのは制限がない。理学療法を名乗ると医師の指示が必要となり、行政指導が入るだろう」との回答があった。
協会が行った起業セミナーにおける説明では、「理学療法という名称は使用できないが、代わりにconditioningやbody careなどの別の言葉を使用するとコンプライアンスの範囲内となる」ということであった。
要は、理学療法士有資格者が行うサービスを「理学療法」と名乗ると法的な問題が発生するということである。
~引用文献:PTジャーナル・第43巻第4号・2009年4月~
開業セミナー療法士
先に述べておくが、私は理学療法士・作業療法士が勝手に整体院を開業することについては、中立的なスタンスだ。
先ほどのPTジャーナルにも記載している通り、理学療法士が整体をすることは「違法とはならない」し、他者の職業選択の自由を何人たりとも口を挟むことなど出来ないとも思っている(当然のことではあるが)。
理学療法士・作業療法士という国家資格を有しながらも、あえて独立開業している(あるいは、しようとしている)人達の気持ちも何となく分かる。
従って、その人達を非難する気は一切ない。
また、整体師として「まっとうに」開業して成功を収めている人達は尊敬に値するとすら思っている。
しかし、その様に「まっとうに」開業して成功を収めている人達は一握りに過ぎないと思われる。
そして、これら一握りの人達以外は、廃業するか、セミナー講師として生計を立て始める。
※開業セミナー療法士と命名することとする。
よく開業セミナー療法士は「自分一人で治せるクライアントは限られている。なので、私の技術を多くのセラピストに伝えて、多くのクライアントを救いたい。すなわち、これは社会貢献なのだ」といった主張がなされることがある。
本当に、片腹痛い主張である。
そもそも、その様な戯言をほざいている開業セミナー療法士は腐るほどいる。
なので、わざわざ社会貢献をせずとも、同様な主張をする他の(腐るほど存在する)開業セミナー療法士が代わりにやってくれるはずである。
従って、そんな戯言をほざく暇があるのなら、「まっとうに」本職へ精を出を出すことで、社会貢献をしてもらいたいものである。
また、開業セミナー療法士の中には、雇われセラピストを開業の道へ誘おうとする輩も存在する。
わざわざ他人に勧めるほど開業にはメリットがあるのだろうか?
(まぁ、他人にメリットがあるかどうかはともかくとして)少なくとも開業セミナー療法士にとっては、雇われセラピストを開業の道に引きずり込むメリットはあるだろう。
なぜなら、右も左もわからない彼らに「手を差し伸べる親切心」と称してセミナーを開けば、お金がぼったくれて、自身の養分に出来るからだ。
あるいは、セミナーで募った仲間たちに「レベル○○」や「○○認定講師」などと資格を与えて、認定講師である彼らに講習会をさせて、その一部を創始者として徴収することも思いつくかもしれない。
こうなってくると、ねずみ講そのものと言える。
わざわざ開業したセラピストの末路として、この様な道をたどる哀れな人たちも出てくるということになる。
理学療法士・作業療法士の開業にメリットはあるのか?
最後に、理学療法士・作業療法士が整体師として開業することにメリットはあるのかについて考えて終わりにする。
ここまで記載してきたように、「まっとうな」整体をして、なおかつ成功を収める理学療法士・作業療法士は一握りだと思われる。
そして廃業したり、(廃業しないにしても)セミナー講師として他の開業セラピストをカモにする側に回って生き延びたりするセラピストも多いと言える。
そして、これらの現状も合わせて「自分だったら、そこまでして整体という職業にしがみつきたいか」という事を考えてみると、自ずと開業によるメリット・デメリットが浮き彫りになってくる。
「自称、成功している」と言っているセラピストのよく観察してみてほしい。
大抵はセミナー講師などをしつつ「成功している」と表現している。
「整体」のみを生業としつつ成功をしている人は一握りである。
セミナー講師をしつつ「整体」で成功していると豪語する人もいるが、そこまでの技術があれば施術料を値上げすれば良い。
そもそも、彼らが自由診療を始めようとしたきっかけは、「自分の技術に見合う報酬がもらえていない。診療報酬という枠にとらわれず、実力を試してみたい」といった動機の人も存在するのではないだろうか?
ならば、セミナーなど開かずに、技術に見合うだけ施術料金を値上げすれば良いだけだ。
人気があるのだろう?
予約が埋まってしまっているのだろう?
であるならな、そこそこの値上げをしても急に客が激減してしまうなどあり得ない。
従って、安心して値上げをすれば、セミナー講師などしなくとも「更に整体だけ」で食べていける。
純粋に臨床が好きな人間はそうするのではないだろうか?
こんなことを言うと、「高額な施術料を徴収してしまうと、低所得者が私の施術を受けることができない。金持ちだけが私の施術を受けれるという値段設定は、私の本望ではない」などと屁理屈を言う人も出てきそうではある。
しかし、であるならば最初から開業などしなければ良い。
まっとうに病院などで診療報酬の枠内で、あなたが施術を行えば、皆を平等に救うことができるのだ。
したがって、この主張は支離滅裂という事になる。
そもそも、そこまで高い技術を持っていれば職場に口コミでクライアントは集まるし、すると自身に付加価値が生まれ、「診療報酬内で稼げるセラピストとしての価値」以上に(経営者から)思えてもらえるはずである。
したがって、「自身の技術が報酬(給料)に反映されていない」とった金銭的な理由で職場を辞めて開業している時点で、その人物には技術がなかった可能性も否めない。
話が脱線したが、「(自称)開業で成功している」と言っているにもかかわらずセミナーを開催している理由を、他に考えるとするならば「クライアントを真剣に診るよりも、セミナーでお金をふんだくったほうが楽にお金を稼げる」「収入源を本職以外にも確保しておいたほうが良いというリスクヘッジ的な考え」「一人での開業は時として孤独を伴うため、たまには仲間と和気あいあいとしたい」といったところだろうか。
いずれにしても、なぜ「大成功をおさめている」「本業で稼げている」と言っている人間が、値上げではなく、なぜ有限で貴重なはずの「時間」をわざわざセミナーに割くのか不思議でならない。
社会貢献なのか?
にしてはキッチリお金も徴収しているが?
偉ぶりたいのか?
※まぁ、受講生を相手にしておいたほうが、楽な商売ができるという事なのかもしれない。
また、何かの病気にかかった場合はどうするのだろうか?
インフルエンザにかかったり、急なアクシデント(家族も含む)に見舞われた場合は数日休業せざるをえない。
当然、福利厚生などとは無縁であり、長期入院した時点で収入源は断たれてしまう。
従って、よっぽど物好きでなければ、(整体しか選択肢がないならまだしも)理学療法士・作業療法士の資格を有しているにも関わらず、あえて整体師としての開業することにメリットは感じない。
※そもそも、なぜ開業権のある柔道整復師や按摩マッサージ指圧師ではなく、開業権の無い理学・作業療法士になったのかと、その時点で首をかしげたくなる。
終わりに
ここまで、理学療法士・作業療法士の「開業権」や「開業」について述べてきた。
わりと過激な表現を用いてみたが、観覧者それぞれの心に、何か響くものがあれば幸いである。
また、「理学療法士の開業権・開業」について「お金」と絡めながらの内容(例えば、開業の目的はお金であるといった論調)が中心な記事となってしまったが、一方で、理学療法士・作業療法士が開業する目的は必ずしもお金では無いと思われる。
例えば、「制度や職場という狭い枠に縛られず、自分の思うようにクライアントの悩みを解決してあげたい」との熱い思いから開業に踏み切った理学・作業療法士も存在すると思われる。
そして、この様な崇高な思いを開業後も抱き続けている人達は、セミナーを開いたり、派手派手しいことはしないかもしれないが、細々とでも楽しみながら仕事をしている可能性もあり、それらの人々が好きでやっていることを非難する気は一切ない。
※あるいは、(開業しているのに、何故わざわざ理学療法士・作業療法士になる必要があったのか?などと前述したが)病院へ就職したものの馴染めなかったり、病院という閉鎖的な世界に幻滅して理学療法士・作業療法士を辞めたい思ったものの、折角なら学んだ知識や技術を何かに生かせないかと考えた末に、開業へ踏み切った人もいるかもしれない。そして、その様な人達にとやかく言おうという気も一切ない。
最後にもう一度言うが、私は理学療法士・作業療法士が(整体という名目で)開業することには中立的な立場である。
※理学療法士、作業療法士の(整体としての)開業に関して肯定的な価値観も持ってはいるが、どうしようもない人々に対して、敢えてフォーカスした記事を作成したに過ぎない。
多種多様な意見が存在すると思うので、様々な意見に触れて、自身でも考えてみるのも面白いのではないだろうか?
理学療法士教会の半田会長からの「開業」・「開業権」に関する通達
最後に、「保険適用外の理学療法士活動に関する本会の見解」と題した理学療法士協会会長から理学療法士各位への通達文(H27年の1月30日)を紹介して終わりにする。
最近、理学療法士が施術所、患者宅等において脳卒中後遺症患者、腰痛・頸肩腕障害患者等に対し、医療保険、介護保険を利用せず、理学療法を実施する行為を宣伝したホームページが見受けられます。また、各地から理学療法士による違反行為としての指摘を受けております。
身分法上は、「理学療法士とは、厚労大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下、理学療法を行うことを業とする者をいう。」となっています。したがって、理学療法士が医師の指示を得ずに障害のある者に対し、理学療法を提供し、業とすることは違反行為となります。
本会としましては、理学療法士の「開業権」及び「開業」については、現行法上、全く認められるものではないとの見解に立っています。
ただし、身体に障害のない方々への、予防目的の運動指導は医師法、理学療法士及び作業療法士法等に抵触しませんが、事故あるときには、他の法的責任が免除されることはありません。医師とのしっかりとした連携の上で、より安全で効果的な運動指導を行うことが求められます。
会員諸氏の真摯な行動を強く要望します。
理学療法士・作業療法士のメリット・デメリットの関連記事
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理学・作業療法士のフリーランスは将来が危うい!
理学・作業療法士に関連する記事を以下のリンク先にまとめています。
※リハビリテーション業界全体に関するニュースなどの雑感も含めてまとめています。
このテーマに関しては、多種多様な意見が存在するため、それら多様な意見の中の一つとして記事を楽しんでいただければと思います。
特にまとめページを通じて、新人の理学療法士・作業療法士さんに「この業界について考えるきっかけ」として何かしら響くものがあれば嬉しいです。