この記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)で用いられるマッサージのうち、横断マッサージと機能的マッサージにフォーカスを当てて記載していく。

 

目次

閉じる

横断マッサージ

 

横断マッサージ(deep transverse friction massage)は、軟部組織(筋・腱・靭帯など)の病変組織に対して、線維走行を横断する摩擦刺激を加えるテクニックである。

 

こういうと「単なるマッサージ」と比べて少し難しいイメージを持つかもしれない。

 

しかし例えば、私たちの臨床で遭遇しやすい筋スパズムを伴う疼痛は「軟部組織の機能的変化」と表現することも出来るので、「筋スパズムを起こしている筋線維を横断する方向へ摩擦刺激を加えること」、つまりは横断マッサージによって主観的・客観的な変化を起こすことが可能な場合もある。

 

※ただし、横断マッサージは(前述した分かりやすい例のみならず)様々な用途で活用される。

 

スポンサーリンク

 

横断マッサージの治療目的

 

横断マッサージの治療目的は以下の通り。

  • 軟部組織の運動性維持
  • 線維の癒着の防止、癒着の剥離
  • 疼痛の緩和
  • 筋スパズムの減少

 

 

横断マッサージの治療効果

 

横断マッサージの治療効果は以下の様に言われている。

 

  • 機能的配列となっていない線維を機械的に分離し、横方向のコラーゲン線維の形成を阻止
  • 長軸方向のコラーゲン線維の形成を促進
  • 固有感覚受容器への刺激によって、正常な運動感覚や協調性の回復を促し、再損傷の危険性を軽減
  • 治療している筋と周囲の筋御反射性弛緩及び反射性充血
  • 機械的受容器への刺激による疼痛の軽減

 

 

例えば、膝関節屈曲の制限因子となり得る「膝蓋上嚢(膝蓋上包)」に対する横断マッサージ(フリクションマッサージ)は以下になる(これにより膝蓋上嚢の癒着予防目的などに用いる)。

 

膝蓋上嚢(膝蓋上包)に関しては以下の記事でも触れているので脅威がある方は参照してみてほしい。

⇒『パテラセッティングとは?目的・効果・方法・工夫などを徹底解説!!

 

 

横断マッサージの動画

 

以下の動画は、棘上筋腱に対する横断マッサージとなる。

 

棘上筋腱に関しては、もう少し速い振幅刺激を加える場合もある。

 

腱を傷めないよう、圧迫力には注意する。

※目的や効果は前述した項目を参照

 

 

 

以下は、棘下筋に対する横断マッサージとなる。

 

こんな調子で、その他の軟部組織へも活用していく。

 

もし腰部の横断マッサージを実施するのであれば、必要に応じて母指ではなく手掌を活用するなどといった工夫もなされる。

 

※腰部であれば「腕力」ではなく「体重移動」を活用して横断マッサージすることも多い。ただし、その場合における母指圧は指を傷めやすいため手掌を活用したりもする。

 

 

機能的マッサージ

 

機能的マッサージ(functional massage)は、筋に対して用いるテクニックで、「筋線維に対して縦断伸張(関節運動)を伴いながらの縦断マッサージ」を指す。

 

機能的マッサージの治療目的

 

機能的マッサージの治療目的は以下の通り。

 

  • 筋の外傷などによる瘢痕形成や癒着の改善
  • 筋緊張亢進や短縮による活動過剰な筋肉の弛緩
  • 疼痛(特に筋の伸張時痛)の軽減
  • 最適な血液循環と神経伝導の回復

 

 

機能的マッサージの治療効果

 

機能的マッサージの治療効果は以下の様に言われている。

 

  • 横断マッサージで記載した治療効果
  • 目的筋へののコントロールされた可動性と伸長性の改善
  • 反復性の筋の縦軸方向への伸張刺激が、縦軸方向の引っ張りに強い膠原線維の形成を刺激すること

 

スポンサーリンク

 

横断・機能的マッサージの違い

 

横断マッサージ・機能的マッサージはともに、機械的受容器を刺激して軟部組織の過緊張・筋スパズムを軽減させる働きがある。

 

そして、横断マッサージと機能的マッサージの、一番違う点としては「関節運動を伴いながらのマッサージかどうか」という点が挙げられる。

 

その意味において、筋に対して横断・機能的マッサージは、以下のような使い分けが可能である。

  • 痛みが強い場合は、関節運動により疼痛が増強・誘発される可能性がある。
  • したがって、関節運動を伴わないマッサージ(横断マッサージなど)が有効に使用できる。
  • そして、強い痛みが改善してきて関節運動が可能になってくれば、関節運動を伴うマッサージ(機能的マッサージ)が可能となる。
  • 可能ならば関節運動を伴った方が、関節の受容器を刺激するという観点から効果的な場合が多い。
  • また、私たちは日常で関節を動かしながら生活をしているため、関節運動を伴っていた方が「機能的」であると言える。

 

※これらの事も考慮しながら、横断マッサージ・機能的マッサージを選択していくこととなる。

 

※機能的マッサージが筋組織のみをターゲットにしているのに対して、横断マッサージは軟部組織(筋組織のみならず、腱や靭帯も含む)をターゲットに出来るという違もある。

 

 

横断・機能的マッサージの関連記事

 

実際の臨床では「横断マッサージだけ」や「機能的マッサージだけ」ではなく、様々なコンビネーションテクニック(運動療法も含めて)がなされる。

 

例えば、テニス肘における「長・短橈側手根伸筋」「総指伸筋」への横断マッサージ・機能的マッサージが、横断伸張・押圧(マイオセラピー)などとも併用されながらなされる場合もあり、興味がある方は以下も参照して頂きたい。

 

テニス肘に対するマッサージ治療

 

 

また、以下のリンク先サイトでも横断マッサージと機能的マッサージを併用した治療の進め方にも(少しだけ)言及している。

興味があれば参照して頂きたい。

 

横断マッサージと機能的マッサージの概要を解説!!

 

 

また、そもそも横断マッサージや機能的マッサージは、理学療法士が活用する数あるマッサージ方法の一部に過ぎず、実際にはこれ以外に多くのマッサージ方法が存在する。

そんなマッサージの種類については、以下にまとめているので参考にしてもらいたい。

 

理学療法士が用いるマッサージについて、違法性も含めて紹介!