恐怖の回路の解剖学的理解からも、病的なレベルの不安を治療する新しい方法が考えられる。
それは、扁桃体や恐怖そのものに焦点を合わせるのではなく、扁桃体を鎮める役割を持つ大脳皮質の中枢に働きかける方法である。
感情をコントロールする中枢を強化すれば、恐怖心をコントロールしたり、不安を恒常的に弱めたりすることも可能となるのではないだろうか。
この考えをもとに、感情をコントロールする能力を高めるための、多くの薬理学的療法や認知療法が考案されてきた。
恐怖の標準的な消去プロセスとは、脳内に新しい記憶を効果的に打ち立てることで行われる。
そして、このプロセスで恐怖心が抑制されるのは前頭前野の『内側前頭前野(+眼窩野)』である。
この領域から延びる神経は扁桃体に直結しており、恐怖の反応を抑制するには絶好の解剖学的配置と言える。
この内側前頭前野の細胞を直接刺激すると、扁桃体の活動が著しく減退することが確認されている。
つまり、『前頭前野を含めた皮質上の制御中枢』を活性化させれれば、恐怖の回路を落ち着かせることが出来る可能性があると言える。
他方で、この内側前頭前野が損傷されると、恐怖の解除が出来なくなることも、ラットを使った研究から確認されている。
PTSDを発症する人は、これらの制御中枢がもともと発達不十分な可能性も言われている。
暴行事件に合うなどの深刻なトラウマを経験した人に、トラウマに関連する映像を見せながら脳スキャナーで観察を行ったところ、PTSD発症者は非発症者に比べて、内側前頭前野が小さく、その活性度も低いことが確認された。
制御中枢の活性度が高い人は、フラッシュバックは発汗などのPTSDの症状が出たとしても、その程度は比較的軽くすむ。
これらのことからも、『内側前頭前野を含めた制御中枢』を活性化させることは、不安障害を改善するために重要と言える。
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