この記事では、急性腰椎捻挫(ぎっくり腰)の概要と、その対処法に関して、リハビリ(理学療法)も含めて解説していく。

 

目次

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急性腰椎捻挫(ぎっくり腰)と急性腰痛症

 

急性腰痛症はどの年齢にも見られ、文字通り「急に発症した腰痛」を指し、「ぎっくり腰」と一般的に呼ばれることも多い。

 

そして、この「ぎっくり腰」という用語は俗語であり、学術用語ではないと言われている。

 

ぎっくり腰は、脊椎脊髄用語辞典の検索にはなく、その中の急性腰痛(acute low back pain)の説明文の中に、「急激に発症した腰痛の総称で、原因は様々なある。

 

いわゆる“ぎっくり腰”と呼ばれるもので、椎間関節、仙腸関節の捻挫あるいは腰背筋や脊柱靭帯の断裂により発生する。

 

その他に椎間板ヘルニアの初期症状のことがある。神経症状は見られない。」と記載されている。

 

また、ICD-10分類にはその言葉は記載されていない。

プライマリケアのための整形外科疼痛マニュアル

 

でもって、医学用語としては「ぎっくり腰」に相当する用語は『急性腰椎捻挫(あるいは腰椎捻挫)』である。

 

腰椎捻挫による急性腰痛の発症は、きっかけがハッキリとしている場合もあるが、明らかな誘因なく発症する場合も多い(特に高齢者では誘因なく発症する場合も比較的多い)。

 

また、急性腰痛は「魔女の一撃」と称されるほどの激しく鋭い痛みを指す場合が多いが、「単なる腰部に限局した鈍痛程度」であったとしても、「急に生じた痛み」であれ急性腰痛と表現される(ただし、この場合は腰椎捻挫ではなく別の診断名がつく可能性もあるが)。

 

※例えば「草抜きを延々としていたら、数日前から腰の鈍痛が生じて治らない」など。

 

※この記事で表現する急性腰痛は、急性腰椎捻挫、いわゆる『ぎっくり腰(魔女の一撃)』と称される腰痛を想定している。

 

急性腰痛(ぎっくり腰)によって、一時的に痛みでほとんど動けなくなることもあるが、通常は数日(1・2週間程度)で痛みは和らぐことが多いとされている。

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腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)のきっかけ

 

腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)のきっかけとしては、以下が挙げられる。

 

  • 転倒
  • つまづき
  • 繰り返し重い物を持ち上げる動作
  • 不良姿勢
  • 長時間の前かがみ姿勢
  • 咳・くしゃみ

・・・・・・・・・・・・・など。

 

 

腰椎捻挫による急性腰痛(ぎっくり腰)の症状と原因

 

腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)は鋭い痛みが腰の中央や片側に出現し、さらに強い鈍痛が殿部、鼠ケイ部、大腿部にまで広がる場合がある。

 

この様な下肢の症状を(広義な意味で)『坐骨神経痛』と呼ぶことがある。

関連記事⇒『坐骨神経痛って何だ?

 

※ちなみに「急性腰痛」は「坐骨神経痛」と同様に「疾患(あるいは原因)」ではなく「結果」であり、急性腰痛の原因は以下の様に多様である。

 

  • 腰部の椎間板の問題(椎間板ヘルニアを含む)
  • 腰椎の椎間関節の問題
  • 腰椎の軟部組織のインピンジメント(挟み込み)
  • 上記の機能障害を引き起こしてしまうような他部位の機能障害
    (例えば仙腸関節・股関節の機能障害の結果として腰痛が起こるなど)

 

つまり、例えば上記の「椎間関節の問題」や「軟部組織のインピンジメント」などは腰椎捻挫という診断名で良いが、

 

椎間板ヘルニア・仙腸関節機能障害は腰椎捻挫とは異なる病態なため、同じ症状(急性腰痛症)であっても鑑別が必要である。

 

 

ちなみに急性腰痛では筋攣縮を伴うことが多い。

 

そして、この筋攣縮自体は結果であり原因ではないとする主張もある。

関連記事⇒『(HP)反射的短縮と筋ガーディング

 

ただし単なる結果であったとしても、急性腰痛が遅延化すると、この筋攣縮自体が、腰痛の原因となり得る(筋・筋膜性腰痛の要素)

 

また、明らかな誘因なく発症するケースにおいていは、既に腰痛持ちであったり、急性腰痛の発症と寛解緩繰り返している場合も多いとされている。

 

つまりは関節不安定性や筋・筋膜性腰痛(筋筋膜性疼痛症候群)といった、急性腰痛を発症させるための素地を元々持っている場合もある。

 

 

腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)の合併症と遅延化のリスク

 

腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)は特別な治療をしなくとも発症から数週間で寛解することが多く、深刻な合併症を引き起こすことは稀である。

 

※ただし、急性腰椎捻挫が発症する以前から既に慢性腰痛症を有していた場合は、急性腰痛症が寛解した後も慢性腰痛症は残存し続ける、あるいは慢性腰痛症が悪化した状態で残存し続けることもある。

 

あるいは、(稀ではあるが)急性腰痛の原因が椎間板ヘルニアであり、下肢症状や膀胱直腸障害といった神経障害(馬尾神経症状)を引き起こすことある。

関連記事⇒『腰椎椎間板ヘルニア

 

また、過度な安静によって腰痛が遅延化するリスクがある点は覚えておいて損はない。

 

つまりは、急性腰椎捻挫(急性腰痛症)は「基本的には数週間で寛解する」という点を念頭に「過度な安静は避けるべき(動けるようになったにもかかわらず、完治するまでずっと安静にし続けることは避けるべき)」との考えが重要となる(以前は、ずっと安静にしておくことが推奨された時期もあるらしい)。

 

※長期安静にすることによって、腰部の二次的機能障害をもたらすリスクのほうが大きい。

 

安静(bed rest)⇒推奨グレードD エビデンスレベル1

 

急性腰痛では、積極的で持続的な活動や、普段の生活活動レベルを維持することが、仕事への復帰、慢性的な障害や再発予防に繋がり、良好な腰痛の転帰を生む。

 

一方、ベッド上の安静臥床は、回復を遅延させるだけで治療効果はない。

~引用:理学療法ガイドライン 背部痛P88

 

あるいは、腰痛発作時の記憶によって体を動かすことに過剰に恐れたり、特定の動作が自身に害を及ぼすという誤った認識を持ってしまうことがある。

 

そして、これらは「不安恐怖回避思考」と呼ばれ、(自身の認識が誤っていた場合は)予後に悪影響を及ぼす因子となり得る。

関連記事⇒『不安-恐怖回避思考に対する前頭前野の役割

 

ここからは、急性腰椎捻挫の治療を、リハビリ(理学療法)指導を中心に記載していく。

 

 

急性腰椎捻挫による発症時のリハビリ(理学療法)指導

 

腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)の発症時期に合わせて、適切なリハビリ(理学療法)指導を行うことが大切となる。

 

※まずは急性腰椎捻挫の発症直後に関してだが、この時期はリハビリ(理学療法)の指示が医師から出ない場合がほとんどだが、念のため記載しておく。

 

※もし、この記事を急性腰痛(ぎっくり腰)を有している人が観覧しているのであれば、何らかの参考にしてみてほしい。

 

急性腰椎捻挫の発症当初は、リハビリ(理学療法)というよりは、「安楽な姿勢を指導」や「腰に負担のかかりくい動作指導」といった患者教育や、急性腰痛の回復過程と言った情報提供などが中心となってくる(重複するが、これらは医師によってなされ、リハビリ・理学療法のオーダーとして回ってこないことも多い)。

 

 

安楽な臥位姿勢を指導して腰痛予防

 

安楽な姿勢は人によって異なる。

 

これは、急性腰痛(ぎっくり腰)という「症状」を起こしている「原因」が多く存在するということも理由の一つかもしれない。

 

つまり、腹臥位で楽になる人もいれば、膝を立てた(腰椎前弯を減少させた)背臥位が楽な人もいる。

 

そのため、その人に合った安楽な姿勢を評価して指導する必要がある。

 

ちなみに、若年者や中年に生じた急性腰痛(ぎっくり腰など)は腹臥位が楽なケースが多い(まぁ、一概に言えないが)。

 

一方で、高齢者では(腹臥位以外に)以下の絵などが安楽な姿勢として推奨できる。

 

いずれにしても、数パターンの方法をポイントと共に丁寧に解説しておき、家でも実践してもらう。

 

臥位での工夫としては(腹臥位以外であれば)以下などが挙げられる。

 

ぎっく腰 楽な肢位
左絵は、膝下に丸めたタオルなどを入れて膝軽度屈曲位にした、いわゆる「安楽な姿勢」となる。
骨盤の傾きや脊柱のアライメントをよくするのに役立つ場合がある。

 

ぎっくり腰 ファーラー肢位
左絵がファーラー肢位となる。
通常の背臥位では痛くなる場合、膝関節が垂直になるように重ねた枕(実際はガッチリした椅子など)の上に下腿をのせる(のせるまでに痛みが誘発されないよう注意しよう)。
腰椎前湾を適度に抑え、かつ椎間板への圧縮力の軽減に役立つ場合がある。

 

腰痛 ナイトロール
側臥位での工夫となる。
左絵は頭を適切な高さの枕で支えつつ、「ナイトロール(夜間用の腰サポート具)」と両膝の間にクッションを入れている。
ナイトロールは脊椎の適切なアライメントを保つ役割があるため、椎間板ヘルニアでも有効な場合がある。膝の間にクッションを入れると、更にアライメントを整えることに役立つ。



※ナイトロールに関しては、バスタオルか何かを丸めて「太い帯」を作って腰周りに巻きつけるという方法でもOK(かなり太くしなければならないが・・)

 

※ただし、急性腰痛(ぎっくり腰)の発症時は炎症も伴っており「安静時痛」が出現する場合も多く、その場合は「完全に安楽な姿勢」というよりは「一番マシな姿勢」といった表現のほうが適しているかもしれない。

 

※炎症に対しては消炎鎮痛剤の併用により苦痛を減らすことが痛みの悪循環を断ち切る上でも有効である。

 

以下は安楽な姿勢に言及した動画なので、こちらも参考にしてイメージしてみてほしい。

 

 

※この動画では、前述した安楽な姿勢に加えて、抱き枕を活用するようなアドバイスもしている。

 

抱き枕を抱きつつ、その上に一側の下肢もの乗せることで身体への負担が和らぐ人も多い。単なる側臥位でも苦痛な人は是非試してみてほしい。

 

実際のリハビリ(理学療法)の現場においては、楽な姿勢をリハビリ室で突き止めるという方法もあるが、無駄に様々なパターンを検証する過程において急性腰痛(炎症)を悪化させる可能性もある点には注意する。

 

関連記事

⇒『リハビリ(理学療法)の評価持は、患者のイリタビリティーに注意せよ

⇒『(HP)リハビリ(理学療法)で注意すべき中枢感作・末梢感作を解説

 

※「楽な姿勢」を突き止めなくとも、丁寧に説明してあげる過程において、患者は「何となく、これが自分には合ってそう」というイメージを持てている場合も多い。

 

※一方で、楽な姿勢を突き止めることは、急性腰痛の原因を臨床推論する際にも役に立つ。もし、どうしてもリハビリ室にいる間に楽な姿勢を突き止めたいのであれば、問診に時間を割くことである程度、的を絞って検証する。

 

※一度目は複数パターンを提示して自分に合いそうなものを試してもらい、二度目の来院時に「指導した方法を試した感想」を問診する。もし「辛い」ということであれば、どんな方法を試したのか、正しく試せていたかなども含めて問診・微調整を行いつつ、(ここで初めて)「楽な姿勢を突き止めていく」という手法も間違えではない。

 

  • 急性腰痛は炎症を伴っている場合もアリ、その様なケースでは寒冷療法(氷で患部を冷やすなど)が有効な場合もある。
    例えば、痛みが出現した当日は2時間ごとに15分程度を目安に患部を冷やすなど。

 

  • また、医師に鎮痛剤を処方してもらい、用法・用量に従い正しく服用することが大切となる。
    痛みは不快な情動を伴うため、鎮痛剤は有効に使いたいところである。
    稀に「薬に頼りたくない」と鎮痛薬に不快感を示す人ももいるが、痛みは感作を引き起こすため、日常生活に留意することと並行して薬剤によって痛みを断ち切ることが慢性痛への移行を食い止めてくれる可能性もある。

 

  • 重複するが、過度な安静は禁物である。
    したがって、「完全なる安静」は2~3日を超えないようにする(あくまで目安ではあるが)。
    3日過ぎても「全く動けない」場合は、医師へ相談する。

 

 

安楽な座位姿勢を指導して腰痛予防

 

また、椅子座位であれば、座面の高い椅子であるほど腰椎前彎を保持しやすい。

あるいは、座面に浅く座ったほうが腰椎を前湾し易い(逆をいいうと座面に深く腰掛けているほど、腰椎を前湾位に保持しにくい)。

 

一方で、浅く座るという事は背もたれのサポートを受けれないといことで、安楽とは言えないため、クッションや座布団などを背もたれと体幹の間にできた隙間に挟み込むことで「腰椎前腕をキープしつつ安楽な姿勢」を作り上げるのも良いかもしれない。

 

まとめてとして、急性腰痛が多少落ち着くまでの間は「座面の低い椅子に座らない+座面に浅く座る+背もたれと体の隙間に座布団などを挟み込む」などで対策してみる。

 

 

あるいは、座面の後ろ1/2に「畳んだバスタオル」を敷いて、その上に腰掛けるだけでも腰椎前彎の保持しやすさは変わってくる(職場など、座面の高さを自分の思い通りに変えれない環境に有効。椎間板ヘルニアだけでなく、慢性腰痛を含めた多くの腰痛症に使える指導となる。前述した手段は職場では大仰で格好悪いといった場面での提案となる)。

 

※この手法は、椎間板ヘルニアだけでなく、慢性腰痛を含めた多くの腰痛症に使える指導となる。指導する前に、是非自身でも体験してみてもらいたい。「畳んだバスタオル」の厚みがどの程度がベストかなども体験してみてほしい。

 

また、いかなる安楽な姿勢であっても、同一姿勢を持続的に保持することは苦痛を伴う(例え臥位でも・座位でも)

関連記事⇒『構造と機能の関係を理解しよう

 

なので、「安楽な姿勢(っというよりは苦痛が少ない姿勢)」を数パターン発見しておき、それをルーチンに繰り返すという手法の方が現実的である。

 

っとなると、人によっては苦痛を伴いにくい体動方法の指導も大切となってくるかもしれない。

 

 

苦痛を伴いにくい動作指導

 

急性腰痛(ぎっくり腰)の場合は、臥床動作、起き上がり動作、立ち上がり動作などに関して、必要に応じて指導を行う。

 

※動作指導はクライアントの症状に合わせて実施していくのが基本だが、ここでは「炎症を伴っており、腰椎後湾で腰痛が増悪し易いパターン」を中心に記載していく。

 

急性腰痛(ぎっくり腰・椎間板ヘルニア)の対処方法としては、以下がポイントとなる。

 

  • 腰椎を後湾させない(特に椎間板ヘルニア)

     

  • 腰部のローカルマッスル(多裂筋・横突間筋・棘間筋など)を(なるべく)リラックスさせての動作

     

    ローカルマッスル(多裂筋・棘間筋・横突間筋など)の収縮が起こっただけで鋭い痛みが生じる場合があり、その場合はいかに体幹をリラックスさせつつ体動させるかがポイントとなることもある。
    高齢者などでは椎間板機能障害以外の要因で急性腰痛(ぎっくり腰)が出現している可能性もあり、その場合は腰椎前彎のキープというよりは「いかにインナーマッスルをリラックスさせた状態で、慎重に動作をするか」が大切となってくるかもしれない。
    ※急性腰痛の原因は椎間板損傷以外にも様々が考えられ、例えば靭帯・関節包の問題であったとっしても、インナーマッスルの収縮によって筋が付着しているこれら非収縮組織も刺激を受けてしまう可能性がある(あるいは腹圧の変化も痛みを誘発する刺激になったりする)。

 

 

椅子からの立ち上がり時における腰痛予防

 

例えば、「急性腰痛に配慮した椅子からの立ち上がり」を考えると、肘掛け椅子が望ましい。

腰痛 立ち上がり

両側の肘かけ(のやや後方)を把持しながら、(極端な表現をすると)腰椎をのけ反った状態(腰椎前彎)を維持しつつプッシュアップの力で立ち上がる(要は立ち上がる際の重心の前方移動を行わない)といった方法であれば、多少は苦痛が和らぐ可能性がある。

※ただし、座面が低い椅子だと難しい(逆に座面の高い椅子ほど容易)。

 

 

臥床動作時の腰痛予防

 

次に、臥床動作時における腰痛予防について記載していく。

 

ここでもポイントは、「腰椎前彎を保持しつつの臥床動作」ということになる。

 

具体的には、立位で腰椎前湾を保ちながらゆっくりと片膝をベッドへ乗せ、そのまま突っ伏せるように(あるいは腰椎前彎を保ちながら体の側面を慎重にベッドへ接触させていき側臥位となるように)臥床する。

※う~うん・・・イメージ湧くかな・・・

 

そして、体が臥位に馴染んだ後に好きな体位に変える(背臥位が好きならその体位)。

 

あるいは、高齢者では「腰椎前彎のキープした上での体動」というよりは、ローカルマッスル(多裂筋・棘間筋・横突間筋など)の収縮させせずリラックスした状態での臥床動作が適している場合もある。

なので介助者は、その点も留意しながら臥床動作を介助してあげる。

 

もしかすると、高齢者が電動ベッドを使用しているのであれば、電動機能を上手く活用できる場合もあったりする。

 

 

起き上がり動作時の腰痛予防

 

起き上がり動作時の腰痛予防も、前述したように腰椎前彎のキープがポイントとなる場合が多いため、まずは慎重に腹臥位となり、腰椎前弯を保ちつつベッドからゆっくり脚を降ろして、立位となる。

 

※う~うん・・・伝わるかな・・・・そっくりそのまま実践するというよりは、個別に多少アレンジする必要がある。

 

高齢者の起き上がりは、臥床動作時のポイントと同様。
また、急性腰痛を抱えた高齢者を介助する場合、「(どうせローカルマッスルが収縮してしまうのであれば)自分のタイミングに合わせた収縮したほうが楽な場合もあるので、無理やり介助者のペースで起き上がらせようとしないよう注意が必要(高齢者が動かしやすい方向への動きをアシストしてあげるという介助方法が大切)。

 

以下の動画の1分30秒からが、起き上がり動作に関してのヒントになると思われる。

 

本当の鋭い痛みを伴う急性腰痛であれば、こんなに簡単には起き上がれないかもしれないが、「なるべく体幹を真っ直ぐにした状態で、上肢の力を最大限に活用しつつ起き上がる」という点が何となくヒントになる(高齢者を介助する際のヒントにもなるかも)。

 

 

側臥位になって両脚をベッドから垂らし、手で支えて横から上体を起こす。背臥位のまま直線的に起き上がらない。

腰痛 起き上がり

また、この動画では前述した「安楽な肢位」に関しても時間を割いて言及されており、イラストも交えられているので理解もし易い。

 

ただし、腹臥位(うつ伏せ)は「安楽な肢位」として推奨していない。

 

ただし、実際には腹臥位が好奏するケースも多々ある(特に若年者・中年)ため、先入観は持たないほうが良い。

 

ちなみに、アマゾンにて超高評価を得ている『自分で治せる! 腰痛改善マニュアル』では、マッケンジー法を考案したロビン・マッケンジー氏のリハビリ(理学療法)中の失敗?によって『治療を3週間つづけても一向に良くならなかった腰痛患者さんを腰椎伸展位なままベッドに放置してしまった結果、腰痛が劇的に改善してしまった』 というエピソードが記載されている。

 

スミスさんの治療に取りかかろうと治療室に入った私は、それを見てあわてましたが、彼の言葉にさらにびっくりしました。

 

「この3週間で今が一番いいですよ」
実際に太ももの痛みはすっかりなくなり、右の腰とお知りに合った痛みは、腰の真ん中に移動していました。

 

しかも腰を後ろにそらしても、激しい痛みは起こらなくなっていたのです。

 

治療代から降ろして立たせると、彼は腰をまっすぐに伸ばして立つことができ、太ももの痛みもなくなったままでした。

 

何が起こっているのか分かりませんでしたが、試しに次の日もスミスさんに同じ姿勢をとらせてみたところ、腰の真ん中に残った痛みもすっかりなくなっていました。

~自分で治せる腰痛マニュアルより~

 

ただし、もちろん腹臥位(うつぶせ)を含めた腰椎伸展が腰痛に良い影響を与える場合もあれば、そうでは無い場合もあり、この事は注意しておかならない点であり、マッケンジー法においても強調されている。

関連記事⇒『マッケンジー法に対する誤解を解説!

 

また、何の評価もせずに画一的な伸展運動を推奨する事への警鐘は、至る所で散見される。

 

腰痛の運動療法として普及しているマッケンジー体操は、主に腰椎の伸展運動によって椎間板内圧を減ずる作用があるため椎間板性腰痛には有効であると考えるが、椎間関節腰痛に対してはむしろ腰痛を悪化させる。

 

筆者が診た慢性腰痛の中には椎間関節性腰痛であるにも関わらず、画一的な伸展動作を行わせる体操の処方によって症状が慢性化していた人が数人いる。

 

最適な運動療法を処方するためには、病態を正確に評価することが必要であることを再認識したエピソードである。

腰痛の病態別運動療法より~

 

 

腰痛に対するマッケンジー法のエビデンスとしては、理学療法士ガイドラインには以下の様に記載されている。

 

マッケンジー療法は,1 週間以内の急性腰痛に対しては,教育,安静,アイスパック,マッサージなどの治療に比べ疼痛や機能障害の改善に有効である。

 

また,急性,慢性,再発性の腰痛に対するマッケンジー療法は,教育指導のみを行った場合と比べ6 か月後に疼痛と機能障害の有意な改善を示し,1 年後も機能障害の有意な改善を示す。

 

一方で,発症から12 週後の腰痛では,マッケンジー療法よりも活動性を維持するように指導する方が機能障害を有意に改善する。

 

また,亜急性から慢性の腰痛に対するマッケンジー療法は,筋力トレーニングや徒手療法と比べ疼痛や機能障害の改善効果に差はなく,その効果について明確なエビデンスは得られていない。

~理学療法ガイドライン 背部痛 P59 より~

 

※個人的には、急性腰痛・慢性腰痛などに関係なく、メカニカルな負荷で評価を実施して適用となるケースはあるが、理学療法ガイドラインにおいては、この様な記述となっている。

 

少し話が脱線したが、前述してきた動作指導は、様々な急性腰痛に有効な可能性があるため、患者を評価しながら必要に言応じて指導してあげてほしい。

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急性腰椎捻挫の初期リハビリ(理学療法)と活動指標

 

急性腰痛症が発症してから2~3日経過して、動けるようになるまで痛みが緩和された場合はリハビリ(理学療法)として低負荷な運動療法を試みてみる。

 

また、日常生活においては、疼痛を誘発・悪化させてしまうような動作は引き続き控える。

 

※「過度な安静を避ける」というのは「疼痛を誘発・悪化させてしまう様な動作は控えつつ、出来そうな活動は実施する」という意味であって、激痛が伴う動作も含めて積極的に活動するという意味ではない。

 

具体的には、長時間の座位(特にソファーや座面の深い椅子など)、車の運転、体幹の前屈が疼痛を誘発するケースが多い。もちろんケースバイケースであり、評価をもとに理学療法士が丁寧に指導してあげたほうが良い場合も多い。

 

あるいは、座位・立位を含めた抗重力位で腰痛が悪化してくる場合は、小まめに臥床することで腰部への負担を軽減させる。

 

※「過度に安静し続ける」のではなく、この様にして可能な範囲で活動していくことが重要となる。

 

※例えば、過度に安静にし続けるとインナーマッスル(多裂筋など)はどんどん萎縮してくる。すると、腰椎における分節的な安定性が損なわれたりなどで、これが腰痛を遅延化させてしまう可能性もある。

関連記事⇒『インナーマッスルの段階的リハビリ(理学療法)を解説!

 

 

リハビリ(理学療法)としの運動療法としては具体的には以下などが挙げられる。

 

  • ペルビックチルト(骨盤を無理のない範囲で前後傾するなど)
  • マッケンジー法に準じた理学療法(伸展運動や屈曲運動を患者の反応に合わせて)

 

※ただし、冒頭の「急性腰痛の症状と原因」でも記載したように、急性腰痛は「症状」であり「原因」は異なる。

 

※そのため、急性腰痛の提言に合わせて、「原因(あるいは機能)」を評価し、その評価結果に合わせたリハビリ(理学療法)を展開していく必要がある。

 

 

また、脊柱のモビライゼーションや軟部組織モビライゼーションなどの徒手療法が適用となる場合が出始める。

 

 

  • 軟部組織モビライゼーション(マッサージ・マッスルエナジーテクニックなど)も疼痛を誘発しないものを選んで適用していく。
    急性腰痛は筋の循環不全によって筋ガーディングから筋スパズムへ徐々に移行して行く可能性があるため、これら関節や軟部組織のモビライーションは、これら悪循環を断ち切る目的もある。
    ⇒『持続的な筋収縮と交感神経作用による痛みの悪循環

 

 

急性腰痛の原因は様々であり、原因によっては(前述したマッケンジー法の他に)以下などの徒手療法は即自的な変化を起こせる手法と言える。

 

 

 

  • 椎間板ヘルニアの一部
    ⇒マッケンジー法

 

また、「もともと慢性腰痛を有ていた上での急性腰痛発症」であれば、筋筋膜性腰痛などの機能障害と急性腰痛の症状が混在しているため、慢性腰痛に対するアプローチを実施してあげれば多少楽になる場合もある。

 

単純な例で言えば、筋硬結に対するマイオセラピーなど

 

 

急性腰椎捻挫の中期以降におけるリハビリ(理学療法)と日常生活

 

急性腰痛症(ぎっくり腰)が発症して1・2週間後(日常生活が行えるまで回復した後)には、無理のない範囲で家事や仕事を含めた日常生活動作を再開する。

 

※1・2週間経過しても、まだ日常生活が行えないレベルな場合は、医師や理学療法士に相談しアドバイスを求める。

 

※高齢者の急性腰痛は、1・2週間で収まらない場合もあり、多少考えが異なってくる。

腰への負担が軽減され、違和感を覚えることなく日常動作を行えるようになった場合におけるリハビリ(理学療法)の目的は、「二次的に生じた機能障害の改善」や「急性腰痛再発の予防」となる。

 

※ただし、腰痛が改善されれば、もうリハビリ(理学療法)に訪れない可能性もある。

 

※一方で高齢者の場合は、介護保険でのリハビリ(通所リハビリ・訪問リハビリなど)を利用している場合もあり、その場合は引き続きリハビリ(理学療法・作業療法)が実施されることも多い。

 

急性腰痛がある程度改善された後のリハビリ(理学療法)としては、急性腰痛による代償姿勢などによって生じた筋のマッスルインバランス(一部の筋は弱化していたり、一部の筋は短縮していたり)の改善を含めて実施していく。

 

※ウォーキングなどの有酸素運動も(無理のない範囲で)勧めていく。

 

 

腰痛予防と運動

 

適度な運動やローインパクトなエクササイズを定期的に多なう事は、腰痛の予防や軽減が期待できるとされている。

 

例えば「適度なウォーキング」を行う事は、腰周囲全ての筋肉にとって穏やかな運動となり、腰痛を解消するための運動として、とても有効とされている。

 

この際のウォーキングは(腰に大きな問題が起こらないのであれば)散歩ではなく、きびきびと速いペースで歩くことをが推奨されえいる。

 

また、水泳(水中ウォーキングを含む)は腰痛を含めた様々な運動器疾患に有用な運動とされている。

 

水中は浮力によって関節に負担をかけない運動である点がポイントと言える。

 

ピラティスは腹筋の強化、骨盤の安定化、インナーマッスル(体幹深部筋)の強化を図るのに有効である。

 

インナーマッスルの強度が高まれば、脊椎をしっかりと支えることが出きることを意味する。

 

 

腰椎捻挫による急性腰痛症(ぎっくり腰)を再発しないための動作指導

 

もし急性腰痛の原因が椎間板ヘルニアでは無かった(単なる急性腰椎捻挫だった)としても、急性腰痛(ぎっくり腰)を繰り返している人は椎間板ヘルニアを起こしやすいと言われている。

 

そのため、腰痛(ぎっくり腰)を再発しないための動作指導は有効である。

 

ディスクワークであれば、不良姿勢を出来るだけ避けるとともに、同一姿勢を避ける(足を組み替える、あえて短時間だけ不良姿勢をとる、少しだけ立位の時間を設けるなど)が重要となる。

関連記事⇒『(HP)構造と機能の因果関係

 

また、『急性腰痛発症時のリハビリ指導(の「安楽な座位姿勢を指導して腰痛予防」)』に記載されている内容も、役に立つと思う。

 

※その他、自宅での対策として、自分に合っていない環境(机・椅子など)であれば変えてみるという方法もある。

 

重たいものを持ち上げる際などは、十分膝を曲げてしゃがむなどして「腰椎の生理的前湾曲」をキープしつつ持ち上げることも大切となる。

腰痛 持ち上げ動作

 

以下の動画は、腰椎後彎曲で重たいものを持ち上げることが腰部へ及ぼす影響を分かりやすく解説してくれている。

 

 

この動画では「腰椎前彎位で持ち上げることの重要性」を示してくれているが、これだけでは不十分である。

 

実際に重たいものを持ち上げる際は、(動画の様な「腰をかがめた状態」で持ち上げるのではなく)、十分に膝を曲げてしゃがみ込み、自分の体に重りを密着させた状態(なるべく近づけた状態)で、背筋を伸ばしたまま(腰椎前彎をキープしたまま)立ち上がる(持ち上げる)のが理想である。

 

腰痛 台を使う

 

 

 

 

片脚を台の上に乗せると、楽になる場合がある。

 

腰痛 運搬

荷物を運搬する際は、腕を伸ばした状態では(腰部を含めた)体幹に無理な力がかかる。

 

腰椎の生理的前彎をキープし、なるべく荷物を体に引き付けて把持する。

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腰痛の関連記事

 

腰痛に関連する疾患の基本的な考え方をまとめた記事一覧が以下になる。

 

多面的なアプローチをする前提条件として、必要最低限必要な知識が掲載されている。

 

また、「疾患」としてだけでなく、腰痛全般に通じる治療のヒントも掲載しているので、通して観覧して頂ければ腰痛への理解が一層深まると思う。

 

奇をてらっていないので、理学療法士だけでなく、柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師・整体師の方々にも(療法士の主義・主張に関係なく)取り入れやすい内容だと思うので、是非一読してみていただきたい。

 

※腰痛に悩んでいる一般の方々は、少し専門用語も交えて解説してあるので、動画も観ながらであれば(多少は)役立てて頂けるかもしれない。

 

脊柱管狭窄症のリハビリ(理学療法)ポイントを解説!

 

仙腸関節の痛みを治療しよう

 

椎間板ヘルニアの対処法