この記事は、高齢者の転倒予防に重要な『バランス評価テスト』をまとめた記事である。
バランス評価テストに関しては、基準値(カットオフ値)まで記載してあるが、大雑把な基準値のみ知りたい方は、この記事の最後に一覧を掲載しているので、それを観覧して頂きたいと思う。
また、記事の中盤には転倒予防・バランス改善のリハビリ(理学療法・作業療法)ヒントとなりそうなものもリンクしている。
記事の後半では転倒してしまう因子を「外的因子」と「内的因子」に分けて記載しているので、ぜひ自分の中で整理してみてほしい。
特に「外的因子」に関しては、ザックリと理解しておくことが訪問リハビリでは必須となる。
目次
なぜバランス評価が必要? バランス改善で転倒を予防しよう!
バランス評価テストを紹介する前に、内的・外的転倒危険因子の因果関係を解説するとともに、なぜバランス評価が重要なのかをざっくりと記載していく。
内的・外的転倒危険因子は、以下の様な因果関係を持っている。
~画像引用:転倒予防理学療法~
そして、以下の様に適切なリハビリ(理学療法・作業療法)を実施することで、転倒・骨折を予防していくことが重要となる。
~画像引用:転倒予防理学療法~
つまり、バランス評価テストを実施するのは、転倒リスクを把握するとともに、適切なリハビリを実施して転倒を防ぐことにある。
でもって、上記イラストの様に高齢者の転倒は「単なる打撲」ではなく、骨折につながることが多々ある。
でもって、骨折の後遺症が生活不活発病に結びつき、更にバランス能力低下⇒骨折といった負のスパイラルを形成してしまうことも多いため注意が必要だ。
関連記事
⇒『生活不活発病って何?廃用症候群と違うの? 徹底解説します!』
高齢者の転倒で起こり易い骨折って何?
高齢者は転倒により「打撲」では済まず「骨折」してしまうことが多々ある点を前述したが、これは加齢とともに生じる骨密度の低下(骨粗鬆症)も関係している。
関連記事
そんな高齢者の転倒で起こり易い骨折は以下の通り。
大腿骨頸部骨折・転子部骨折(大腿骨近位部骨折)
高齢者の転倒で生じやすい骨折として非常に有名である。頚部骨折はガーデンのステージ分類により血行障害が生じやすいタイプの場合は骨頭壊死になることが多いため、人工骨頭置換術を行うことも多い(転位の少ない場合でも骨接合を行う)。いずれの場合でも早期起立歩行をすすめる。
関連記事⇒『大腿骨近位部の骨折って何だ?原因・予防法・各手術方法も解説』
関連記事⇒『転倒による大腿骨骨折にヒッププロテクターは有効?無効?)』
橈骨遠位端骨折
転倒などで手をついたときに生じる骨折で、高齢者の女性に多い手関節部がフォーク状に変形するコーレス骨折が最も多い。
ギプス固定で手術しないケースもあるが、転位を防止する施策(キルシュナー鋼線で経皮的ピンニング)をしたり、中には手術(プレートによる内固定)を行う場合もある。
関連記事⇒『橈骨遠位端骨折をクリニカルパスや合併症も含めて解説!』
脊椎圧迫骨折
転倒してしりもちをついたりすると脊椎の圧迫骨折を生じることが多い。
胸椎の後彎と腰椎の前彎の移行部(胸腰椎移行部)は応力が集中するため、第11・12胸椎・第1・2腰椎あたりに多くみられる。
骨折によっては、脊髄の損傷に至る場合もあり、時に遅発性(少し時間が経った後)に麻痺を生じることもある。
関連記事⇒『脊椎圧迫骨折をリハビリ・手術方法も含めて解説』
上腕骨近位端骨折
高齢者の女性に多くみられる骨折である。
転倒した際に手を伸ばした状態で地面に手をついたときによく見られる。
若年者では局所に強く「てこの力」が加わり脱臼骨折になることもある。
関連記事⇒『上腕骨近位端骨折を解説!高齢者に多い4大骨折の一つ!』
リハビリ(理学療法・作業療法)に重要な転倒予防テストまとめ
ファンクショナルリーチテスト(バランス機能の評価)
片脚立位保持テスト(バランス機能の評価)
タイムアップ&ゴーテスト:TUGテスト(バランス機能の評価)
10メートル歩行テスト(歩行能力の評価)
5回立ち座りテスト(筋パワーの評価)
+ステッピングテスト(俊敏性の低下)
日常生活と関連のある14項目の検査から構成から構成される『BBS(Berg Balance Scale)』に関しては、以下を参照。
BBS(Berg Balance Scale)を動画でサクッと理解する!
実施には20分程度の時間を要するが、総得点が高く、小さな変化も検出できるため、総合的なバランス評価バッテリーとして多くの研究で利用されているため、是非一度観覧してみてもらいたい。
ちなみにBBSのカットオフ値は「45点」であり、45点未満であれば「室内での転倒危険性あり」と判断される。
転倒予防・バランス改善のためのリハビリ(理学・作業療法)ヒント記事まとめ
転倒予防・バランス能力改善のための運動療法は数多く存在するが、その一例(っというかヒント)を以下に示す。
まずは、バランス練習を段階的に行っていくうえで参考になりそうな記事としては以下がおススメ。
インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニングを解説
以下のタンデム肢位・タンデム歩行なんかも簡単に出来るトレーニングで応用もし易い。
タンデム肢位・タンデム歩行をリハビリ(理学療法)に活用
転倒・転倒予防を含めた高齢者のリハビリ(理学療法)関しては、「ロコモティブシンドローム」「サルコペニア」「フレイル」といったキーワードが最近注目を集めており、それらを解説した記事としては以下も参考にしてみてもらいたい。
ロコモティブシンドロームを予防と改善も含めて解説!
サルコペニアとフレイル(+違い)
ちなみに、握力はサルコペニアの診断基準の一つとして採用されており、理学療法士・作業療法士の皆さんもクライアントの握力を測定したりする頻度は多いのではないだろうか?
でもって「私の握力は強いの?弱いの?」などと聞かれることが結構あると思う。
そんな際は以下の記事を参考に、年齢に合った平均値を教えてあげてほしい。
握力測定の方法と平均値(年齢別)を紹介
転倒予防(転倒リスク)のカットオフ値まとめ
前述してた転倒予防の指標となるバランステストのカットオフ値を一覧にしたものである。
こちらからでも、気になるテストにジャンプすることができる。
ここに記載されいるテストは、そのままリハビリ(理学療法、作業療法)として活用できる要素も持っているので、そういった意味でもてテストを理解しておくことは意義がある(経験年数に関係なくリハビリに応用でき、なおかつ凡庸性の高いトレーニングとなり得る)。
テスト | カットオフ値 |
---|---|
膝伸展筋力 | 1.2Nm・kg |
FRテスト | 15cm未満 |
片脚立位保持テスト(開眼) | 5秒以下 |
TUGテスト | 13.5秒以上 |
歩行速度 | 毎秒1m未満(横断歩道が渡りきれない) |
5回立ち座りテスト | 14秒以上 |
立位ステッピングテスト | 17秒以上 |
転倒の危険因子
念のため、転倒の危険因子も列挙しておく。
転倒の危険因子は以下の2つに分類される
⇒身体的な転倒危険要因(内的因子)
⇒環境的な転倒危険要因(外的因子)
身体的な転倒危険要因
基本的属性 | 年齢80歳以上、女性 |
---|---|
身体機能 | 筋力低下、バランス能力低下、歩行能力の障害、 視力障害、排尿・排便障害 |
医学的問題 | 脳卒中後遺症、パーキンソン症候群、関節疾患、 起立性低血圧、高血圧、不整脈 |
認知・心理機能 |
認知障害、抑うつや不安、転倒恐怖 関連記事: |
薬剤 | 睡眠薬・鎮痛薬・抗不安薬・抗うつ薬・降圧薬・ 薬剤の数・薬剤感受性の変化 |
転倒の既往 |
ちなみに、転倒の内的危険因子の相対的危険比は以下の通り。
危険因子 | オッズ比 | 範囲 |
---|---|---|
筋力低下 | 4.4 | 1.5~10.3 |
転倒歴 | 3.0 | 1.7~7.0 |
歩行能力低下 | 2.9 | 1.3~5.6t |
バランス機能低下 | 2.9 | 1.6~5.4 |
補助具の仕様 | 2.6 | 1.2~4.6 |
視力障害 | 2.5 | 1.6~3.5 |
関節障害 | 2.4 | 1.9~2.9 |
起居動作能力低下 | 2.3 | 1.5~3.1 |
抑うつ | 2.2 | 1.7~2.5 |
認知障害 | 1.8 | 1.0~2.3 |
年齢(80歳以上) | 1.7 | 1.1~2.5 |
※米国老年学会によって、転倒の危険因子に関する16の先行研究の結果から各因子の店頭に対するオッズ比をまとめたもの。
文献)American Geriatrics Society, British Geriatrics Society, and American Academy of Orthopaedic Surgeons Pane on Falls Prevention. Guideline for the prevention of falls in older persons. J Am Geriatr Soc 49(5):664-672.2004
環境的な転倒危険要因
段差 | 敷居、戸口の踏み段 |
---|---|
床の状況 | カーペットの端・めくれ・ほころび、 滑りやすい床、床面のでこぼこ |
照明 | 暗い照明、急速な照明変化 |
履物・衣類 | 不適切な履物(スリッパ・サンダルなど)、 足が引っ掛かりやすい衣服 |
障害物 | 電気のコード、通り道の障害物 |
ベッドルーム | ベッドの不適切な高さ、 ベッド周囲の家具の不適切な配置 |
手すりの不備 |
これら環境的な転倒危険要因は、訪問リハビリなどで即自的に問題解決可能な要素でもあるので、しっかり覚えておく必要がある。
問診で内的因子・外的因子を確認
「転倒の再発を予防」を考えた場合、原因が内的・外的因子のどちらなのかを把握すると的確なアプローチが可能となる。
でもって評価の際は、以下の問診が役に立つと思う。
内的因子の確認
一年以内に転倒したことはありますか?何回くらい転倒しましたか?
何をしている時に転倒しましたか?
立ち上がった時にふらついたりしますか?
近視・遠視はありますか?
何かお薬を飲んでいますか?どの様なお薬ですか?
外的因子の確認
どの様な場所で転倒しましたか?
どのように転倒しましたか?(つまづいた、滑ったなど)
転倒をした場所に、何か障害物はありましたか?
だれか近くにいましたか?(ぶつかって転倒・避けようとして転倒)
高齢者のバランス評価の上級者向け記事
脳卒中を起こしたことのある高齢者は、脳卒中の数週間~1年後から失神のように見えるてんかん発作を繰り返すようになることがある。
あるいは、自律神経の障害や貧血や立ちくらみなど血圧低下による失神は高齢者では珍しくない。
たとえ失神自体が問題なくとも、めまいや失神は高齢者の転倒・骨折の原因となるため、出来るだけ予防や対処に努める必要がある。
ここでは、そんな「転倒リスクを高める要素」である『意識障害』『失神』に関する記事である。
堅苦しい記事なので、この記事はすっ飛ばして後述する「永久保存版!バランストレーニング」のほうが参考になると思うが念のため紹介しておく。
ジャパンコーマスケール-意識障害の意味・評価法・原因を考える
失神とは(意識障害シリーズ)―症状・原因・問診のコツを完全網羅!
関連記事
以下の記事は、転倒予防に重要なバランスについての包括的な記事となる。
バランスについて網羅した作りになっているので、バランスのリハビリ(理学療法)に興味がある方は、是非一度観覧してみてほしい。