この記事は、握力測定の方法と、年齢別の平均値(高齢者含む)を記載していく。
理学・作業療法士の皆さんは、高齢者の体力測定として握力を測る機会もあるのではないだろうか?
でもって、「どの程度が平均なの?」と聞かれることも多いと思うので、そんな際の参考にして頂きたい。
握力測定の目的と方法
握力測定の目的は、『手指屈曲筋群の粗大筋力』を評価することである。
握力測定は簡便であり、他の筋力検査とも相関が高いと言われており、張力もKgで現れるため客観的に捉えることができる。
他の筋力検査とも相関が高いというのはポイントで、『握力が弱くなった=他の筋力(全身の筋力)も衰えてきている』っと拡大解釈して考えることが出来る可能性がある。
この様な理由から、高齢者のサルコペニアの診断基準の一つとしても握力測定が採用されている。
関連記事⇒『今注目されているサルコペニアを分かりやすく解説』
一方で、高齢者の中には「箸が持てなくなった(あるいはボタンが留ることが出来なくなった)。握力が低下したからだ」と言う人もいるが、これは「手指の粗大筋力」というよりは、それ以外の要素(例えば手指の巧緻性低下など)による影響の方が大きいと思われる。
※握力が限りなくゼロに近くとも、箸を上手に使用できる人がいるため。
握力測定の方法(第二関節を直角にする)
測定肢位は『立位で、上肢を下垂した状態』となるのが基本となる。
~画像引用:http://www.taishukan.co.jp/sports/test/howto/akuryoku.htm~
握力計の握りの間隔は「手指基節骨基部から指尖までの長さの半分(orやや長め)」を目安とする。
※あるいは、「PIP関節(いわゆる第二関節)がきちんとグリップに引っかかる(PIP関節90°屈曲=PIPが直角な)状態」というのを目安にしても良いとされる。(こっちの方が簡単)
セラピストは以下の様に指示を出す。
「筋や関節を痛めないよう注意しながら思いっきり握ってください」
一般的に測定は左右交互2回ずつ実施する。
2回測定する場合は、最高値、平均値のいずれかを採用し、次回以降の測定でも同一条件で行う。
ちなみに、高齢者で立位が不安定な人であれば、端坐位で握力測定しても構わない(立位姿勢が基本とはなるが)。
その際は、上肢を(立位での測定と同様に)下垂位で実施する。
※稀に、大腿の上に握力計を乗せて実施しようとする人がいるので、気を付ける。
※そして、以降の握力測定でも同一条件にて実施する。
握力測定の平均値
握力測定における男女の平均値は以下になる。
~「現代の体育スポーツ科学、高齢者の運動と体力」を参考~
- 男性平均値:40~45㎏
- 女性平均値:26~30㎏
また、年齢別の平均値は以下となる。
~文部科学省 H26年度体力・運動能力調査結果を改編したもの~
|
握力 |
|||
年齢 |
男性 |
女性 |
||
平均値 |
標準偏差 |
平均値 |
標準偏差 |
|
20~24 |
46.46 |
7.32 |
28.24 |
4.60 |
25~29 |
47.26 |
7.35 |
8.15 |
4.66 |
30~34 |
47.36 |
7.25 |
28.73 |
4.61 |
35~39 |
47.64 |
6.95 |
28.97 |
4.47 |
40~44 |
47.23 |
6.83 |
29.12 |
4.58 |
45~49 |
46.62 |
6.28 |
29.21 |
4.68 |
50~54 |
46.31 |
6.29 |
28.04 |
4.42 |
55~59 |
44.90 |
5.90 |
27.51 |
4.18 |
60~64 |
42.87 |
6.42 |
26.01 |
4.13 |
65~69 |
39.77 |
5.67 |
24.72 |
4.15 |
70~74 |
37.46 |
5.71 |
23.75 |
4.00 |
75~79 |
35.02 |
5.68 |
22.34 |
3.93 |
握力測定の意義
握力測定の目的は、『手指屈曲筋群の粗大筋力』を評価することであり、握力数値は他の筋力検査とも相関が高いと言われていると前述した。
そんな「握力測定の目」について、文献『高齢者に行う握力測定の意義』を引用して終わりにする。
本研究では、高齢者の握力測定の意義について検討するため、大腿四頭筋筋力、片足立ち保持時間、最大歩行速度、10m障害物歩行、6MWT、足把持力、上体起こし、身体組成を検討し、握力との関係について検討した。
単相関分析の結果、握力と有意な相関が認められたのは、足把持力、大腿四頭筋筋力、骨格筋量、上体起こし、片足立ち保持時間、10m障害物歩行、6MWTの7項目であった。
中でも足把持力、大腿四頭筋筋力、骨格筋量などの筋力に関連した項目との相関が高い。
※ただし、上記の結果はすべての高齢者に該当するとは限らず、一般化するには課題があることも記述されている。
また、仮に相関があるからと言って、それを逆説的に考え「握力を強化するだけで、上記の様々な要素が改善する」という考えは飛躍しすぎていると言える。
恐らく上記運動機能との因果関係は、生活不活発病(活動性が低いことによって起こる弊害の総称)が関係していると思われる。
つまり、活動性が低下していると、握力も低下するし、それ以外の骨格筋も全般的に低下するし、いざ動こうとしてもスピードは遅いし転倒もし易いと言った具合だ。
そして、例えばTUGテストやファンクショナルリーチテストの様に『動的バランスや静的バランスといった要素を総合的に評価する要素をもったテスト』は転倒予防目的のリハビリ(理学療法・作業療法)にも使えるという事になる。
一方で、握力は『局所の筋群を鍛えること』で改善できてしまうので、ここで述べたような総合的な指標(例えば転倒予防など)の改善するためのリハビリ(理学療法)には向かないのではと考える。
※例えば、(生活不活発だと筋力全般が低下するなどの理由から)握力と大腿四頭筋筋力の因果関係が分かったからと言って、握力を鍛えたら大腿四頭筋も強化されると言ったわけではない。
ダラダラと述べてきたが握力測定の意義として、ここで述べたような「運動機能全般が衰えている可能性を探るための一つのツール」ということになる。
そして、握力の年齢別平均値や、定期的に測定してきた数値の変化を追って現時点での運動機能をザックリと把握し、必要に応じて様々な運動を実施して生活不活発病の予防に努めていくことが重要と言える。
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