近年、「殿皮神経の締め付け」が慢性腰痛の原因の一つと言われるようになってきている(特に上殿皮神経)。
今回は、そんな『殿皮神経(上殿皮神経・中殿皮神経・下殿皮神経)について記載している。
「殿皮神経の種類」と「圧痛点」
「殿皮神経の種類」と「絞扼によって生じる圧痛点」については以下の通り。
殿皮神経とは
殿皮神経は「腰部~殿部の皮膚感覚に関与する神経」で以下の3つに分けられる。
- 上殿皮神経(L1-3後枝の外側皮枝)
- 中殿皮神経(S1-3後枝の外側皮枝)
- 下殿皮神経(S1-3前枝)
「症状」と「圧痛点」
症状
上殿皮神経・中殿皮神経の絞扼によって生じる症状としては以下などで多種多様。
- 長距離歩行
- 長時間の座位保持
- 臥床時
※疼痛強度も「凝り感」程度から「激痛」まで千差万別。
圧痛点
腰痛の原因となりえる「上殿皮神経・中殿皮神経の絞扼」が生じている部位を押すと圧痛が生じる。
この圧痛は「腰痛・殿部痛の原因が殿皮神経由来である可能性」を示唆する所見となり、上殿皮神経・中殿皮神経の圧痛部位は以下の通り。
上殿皮神経障害の圧痛点
上殿皮神経障害の圧痛点は以下となる。
- 腸骨稜付近
- 腰部棘突起から6~7cm外方
中殿皮神経障害の圧痛点
中殿皮神経障害の圧痛点は以下となる。
- PSIS(上後腸骨棘)付近
- 腰部棘突起から3~4cm外方
上殿皮神経・中殿皮神経・下臀皮神経の解剖学
ここまで記載した内容と重複する部分もあるが、補足として「上・中・下殿皮神経の解剖学」について記載しておく。
上・中・下殿部神経にまつわる解剖学
背部の皮膚には、脊髄神経の後枝が分節上に分布する。
脊髄神経後枝はさらに内側枝と外側枝に分かれ、内側枝は上位の脊髄神経ほど発達して、内側方に向かい棘突起の近くで皮下に出る。
脊髄神経後枝 内側枝
腰神経と仙骨神経後枝の内側枝は皮枝をほとんど出さずに筋内で終わる。
脊髄神経後枝 外側枝
外側皮枝は下位の神経ほど発達がよく、最長筋と腸肋筋の間から出現し、外側下方に向かい、外側皮枝として皮下に出る。
特に第1-3腰神経後枝の外側皮枝は上殿皮神経となり、腸骨稜を越えて臀部の皮下に至る。
また、仙骨神経後枝の外側皮枝は、中殿皮神経として殿部内側部の皮膚に分布する。
上殿皮神経
腰神経(L1-5)前枝はL1-4はT12とともに腰神経叢を構成する。
一方で腰神経(L1-5)後枝は、腰部の筋と皮膚を支配する。特にL1-3の後枝の皮枝は、殿部の発達に引きずられ、長く伸びて上殿皮神経となる。
上殿皮神経の絞扼要因:
上殿皮神経は、胸腰筋膜や腰方形筋などを貫いてくる。つまり背部の筋筋膜皮膚の過緊張がこれらに影響を及ぼす。また上殿皮神経は、腸骨稜上縁を走行していおり、寝ている際に骨盤の縁がこの神経を圧迫して痛みを引き起こす可能性もある。
中殿神経
仙骨神経(S1-5)の後枝は、後仙骨孔から出て仙骨後方にある筋と皮膚を分節的に支配する。特にS1-3の後枝は、殿部の発達にひきずられて中殿皮神経となる。
中殿皮神経の絞扼要因:
中殿皮神経は、腸肋筋や多裂筋を貫いて出てくる。つまり、これら筋群の過緊張が中殿神経絞扼の要因となりえる。
後大腿皮神経と下臀皮神経
仙骨神経(S1-5)の前枝は、L4-5と合流し仙骨神経叢を構成する。その中でS1-S3に由来する後大腿皮神経は、梨状筋下孔を通って大殿筋の深層に出る。
坐骨神経とともに下行して、坐骨結節と大転子の中間付近で大殿筋の下縁から皮下に出て大腿後面を下行する。後大腿皮神経は、大腿後面の皮枝のほか、殿部に分布する下殿皮神経と会陰枝を分ける。
おまけ:下肢の皮神経一覧
最後に、上・中・下殿皮神経を含めた「下肢後面の皮神経」を掲載して終わりにする。
このイラストを通して、皮神経の全体像も把握してみてほしい。