この記事では、片麻痺評価として有名な『ブルンストロームステージ』について記載していく。
目次
ブルンストロームステージとは
ブルンストローム(Brunnstrom)は片麻痺の回復過程をステージⅠ~ステージⅥまでの6段階に分けた。
各ステージの特徴は以下の通り。
回復段階Ⅰ(ブルンストロームステージⅠ):
運動の発現、誘発なし。
回復段階の初期で、弛緩性の完全麻痺の状態で、随意的筋収縮はもちろん連合反応もない状態である。
回復段階Ⅱ(ブルンストロームステージⅡ):
共同運動(またはその要素)の最初の出現(=痙性発現)。
共同運動の要素が連合反応として出現し、あるいは患者自身の随意的運動として、わずかに可能となる
※連合反応が最初に出現するのは「上肢では大胸筋など」「下肢では股関節内転筋群など」となる。
腱反射ははじめ消失しているが、徐々に回復し、やがて亢進状態となり、それにつづいて筋緊張が低緊張から高緊張状態(痙性)に変化する。
回復段階Ⅲ(ブルンストロームステージⅢ):
共同運動またはその要素の随意的発現(痙性著明)。
随意的な筋収縮は共同運動の形をとり、はじめは不十分な動きであるが、徐々に大きくなり、やがて完全な屈筋共同運動か、伸筋共同運動を起こすようになる。
しかし、共同運動をはずれた自由な運動を行うことはできない。
この段階では痙性が最も強くなり、連合反応・原始姿勢反射などの影響も最強となる。
回復段階Ⅳ(ブルンストロームステージⅣ):
基本的共同運動から逸脱した運動(痙性やや弱まる)。
共同運動パターンの支配力が部分的に崩れ、個々の動作の分離独立が一部可能となる。
回復段階V(ブルンストロームステージⅤ):
基本的共同運動から独立した運動(痙性減少)。
共同運動パターンの支配からより分離度の高い、独立した運動が可能になる状態である。
回復段階Ⅵ(ブルンストロームステージⅥ):
協調運動はほとんど正常。
共同運動の支配下からほとんど完全に脱し、自由な運動が可能となり。
動作のスピードや巧緻性も正常に近づいた状態である。
片麻痺の回復段階を評価するテスト方法
ブルンストロームは、前述した回復段階に沿ったテスト方法も発表している。
テストは、大きく分けて以下の3種類で構成される。
- 上肢テスト
- 下肢・体幹テスト
- 手指テスト
でもってブルンストロームステージは前述したようにステージⅠ~Ⅵまであり、以下のフローチャートに頭に入れておけば各ステージが整理しやすい。
上記の様に、随意運動が無い時点でステージⅠ or Ⅱであり、どちらであるかは『連合反応』の有無で判断する。
随意運動が(少しでも)あれば、その時点でⅢ以上である。
あとは、どの程度分離運動が可能かどうかで判断する。
『上肢』のブルンストロームステージ(回復過程)+テスト方法
上肢のブルンストロームステージに沿った回復過程+テスト方法・判定基準は以下になる。
stage Ⅰ | 随意運動なし(弛緩様) |
---|---|
stage Ⅱ | 基本的共同運動またはの要素の最初の出現。痙縮の発現期 |
stage Ⅲ |
基本的共同運動またはその要素を随意的に起こしうる。 痙縮は強くなり、最強となる。 |
stage Ⅳ |
痙縮は減少し始め、基本的共同運動から逸脱した運動が出現する。
①手を腰の後ろに動かせる。
②上肢を前方水平位にあげられる(肘は伸展位で)
③肘90°屈曲位で、前腕の回内・回外ができる。 |
stage Ⅴ |
基本的共同運動から独立した運動がほとんど可能。
①上肢を横水平まで上げられる(肘伸展・前腕回内位で)。
②上肢を屈曲して頭上まであげられる(肘伸展位で)。
③肘伸展位での前腕の回内・回外ができる。 |
stage Ⅵ | 分離運動が自由に可能である。協調運動がほとんど正常にできる。痙縮はほとんど消失する。 |
ブルンストロームステージ『Ⅳ』の判定基準:
テストⅣには3つの分離動作があり、そのうちどれか1つでも完全に可能であれば『Ⅳ』と判定する。
※3つの動作がすべて不十分であれば『Ⅲ』と判定する。
ブルンストロームステージ『Ⅴ』の判定基準:
テストⅤでも3つの分離動作があり、Ⅳと同様にどれか1つでも完全に可能であれば『V』と判定する
※3つの動作がすべて不十分であれば『Ⅳ』と判定する。
ちなみに、ブルンストロームステージが『Ⅳ』であることをを確定するためには『V』の動作がすべて不十分であることを確認しなければならない。
ブルンストロームステージ『Ⅵ』の判定基準:
テストVの3つの動作がすべて「完全に可能」であれば『Ⅵ』と判定する。
※可動域制限がある場合には、その可動域内で最終可動域まで動けば「完全に可能」と判断する。
テスト『Ⅴ』が完全に可能であれば、『Ⅵ』のテストが不十分でも『Ⅵ』と判定する。
※『Ⅵ』が完全に可能であれば麻痺は(測定不能なほど)ごく軽度であると考える。
『体幹下肢』のブルンストロームステージ+テスト方法
体幹・下肢のブルンストロームステージに沿った回復過程+テスト方法・判定基準は以下になる。
stage Ⅰ | 随意運動なし(弛緩期) |
---|---|
stage Ⅱ | 下肢の随意運動がわずかに可能 |
stage Ⅲ | 座位や立位で股、膝、足関節の屈曲が可能 |
stage Ⅳ |
①座位で足を床に滑らせながら、膝屈曲90°以上可能。
②座位で踵を床につけたまま、足関節の背屈が可能。
|
stage Ⅴ |
①立位で股関節を伸展したまま、膝関節の屈曲が可能。
②立位で患側足部を少し前方に出し、膝関節を伸展したまま足関節の背屈が可能。 |
stage Ⅵ |
①立位で股関節の外転が、骨盤挙上による外転角度以上に可能。
②座位で内側、外側のハムストリングスの交互収縮により、下腿の内旋・外旋が可能(足関節の内がえし・外がえしを伴う)。 |
ブルンストロームステージ『Ⅳ』の判定基準:
テストⅣには3つの分離動作があり、そのうちどれか1つでも完全に可能であれば『Ⅳ』と判定する。
※3つの動作がすべて不十分であれば『Ⅲ』と判定する。
ブルンストロームステージ『Ⅴ』の判定基準:
テストⅤでも3つの分離動作があり、Ⅳと同様にどれか1つでも完全に可能であれば『V』と判定する
※3つの動作がすべて不十分であれば『Ⅳ』と判定する。
ちなみに、ブルンストロームステージが『Ⅳ』であることをを確定するためには『V』の動作がすべて不十分であることを確認しなければならない。
ブルンストロームステージ『Ⅵ』の判定基準:
テストVの3つの動作がすべて「完全に可能」であれば『Ⅵ』と判定する。
※可動域制限がある場合には、その可動域内で最終可動域まで動けば「完全に可能」と判断する。
テスト『Ⅴ』が完全に可能であれば、『Ⅵ』のテストが不十分でも『Ⅵ』と判定する。
※『Ⅵ』が完全に可能であれば麻痺は(測定不能なほど)ごく軽度であると考える。
手指のブルンストロームステージに沿った回復過程+テスト方法
手指のブルンストロームステージに沿った回復過程+テスト方法・判定基準は以下になる。
stage Ⅰ | 弛緩期。 |
---|---|
stage Ⅱ | 指屈曲が随意的にわずかに可能か、またはほとんど不可能な状態。 |
stage Ⅲ |
指の集団屈曲が可能。鉤型にぎりをするが、離すことは出来ない。 指伸展は随意的にはできないが、反射による進展は可能なこともある。 |
stage Ⅳ |
横つまみが可能で、母指の動きにより離すことも可能。指伸展はなかば随意的に、わずかに可能。 |
stage Ⅴ |
対立つまみpalmar prehensionができる。筒にぎり、球にぎりなどが可能(ぎこちないが、ある程度実用性がある)。 指の集団伸展が可能(しかしその範囲はまちまちである) ※以下は、左がD型つまみ・右が指先つまみ |
stage Ⅵ |
すべてのつまみ方が可能となり、上手にできる。随意的な指伸展が全可動域にわたって可能。指の分離運動も可能である。 しかし健側より多少稚拙(イラスト右は手指の内外転) |
ブルンストロームステージの解釈
初回評価時の『意識障害』が軽度であればブルンストロームステージによりある程度予後予測が可能とされている。
例えば、発症後2週間以内に上肢・手指がブルンストロームステージⅣ以上であれば実用手、1カ月の時点でブルンストロームステージⅢ以下であれば廃用手となる可能性が高い。
※しかし、(意識障害が無くとも)高次脳機能障害や精神機能障害がある場合には、一度の評価ですべてを把握することは困難。
急性期・回復期においてブルンストロームステージは、麻痺の回復過程を継時的に評価するために用いられる。
特に急性期においてはブルンストロームステージの変化も大きいので、毎回評価をする必要がある。
ブルンストロームステージを動画で理解したい人にオススメの商品
ブルンストロームステージ(+テスト)を動画で理解したいなら、以下の書籍などがある。
以下は、アマゾンより引用した書籍の紹介文。
正しい測定・評価ができていますか?
片麻痺機能検査(Brunnstrom stage)は、 片麻痺の回復過程をステージ化した評価法であり,検査自体の可否判定だけでなく、その動きを注意深く観察し、他の基本動作と結びつけることが重要である。
また、協調性検査は目的とする運動を的確に遂行できるか図るものである。
その運動メカニズムは複雑であり、情報の収集・伝達の感覚入力系、情報の整理・運動プログラム立案の中枢機構、運動遂行の運動出力系の、どの障害に対し注目すべきか、動作分析や他の検査を参考に実施する必要がある。
本書では、これらの難易度が高い検査について、初学者が容易に視覚で検査動作を学べるように工夫がされている。
また、判断が困難な検査判定については、基本動作と異常動作の違いと判別が深められるよう症例動画を収録。
臨床経験を補完できる充実した内容となっている。
異常動作のイメージ構築から、動作の評価力が身に付く評価・測定のスタンダード化を目指した一冊である。
以下は、出版元の三輪書店が提供しているサンプル動画となる。
タイトル通り、ブルンストロームステージだけでなく、協調性検査も内容に含まれた書籍である点には注意してほしい。
ブルンストロームステージの問題点
ブルンストロームテストは6段階のステージ表示により片麻痺の機能を評価するが、上田らは以下を問題点として上げている。
- 個々のテスト項目の可・不可の基準が不明確で、検者の判断に委ねることが多い。
- 各ステージの総合判定の基準が不明確である。
- ステージⅤの判定基準が不明確である。
- 回復が長期にわたる片麻痺のテストとしては大まかすぎる。
上田らは上記の問題点を改善するために、ブルンストロームテストを基にした12段階片麻痺機能法を考案した。
上田式片麻痺機能テストに関しては以下の記事を参考にしていてほしい。
ブルンストロームテストの進化形!上田式片麻痺機能テスト(12段階片麻痺機能法)を紹介します!
ブルンストロームテストは、海外において、既に廃れた評価法である
とある徒手療法の研修会において、講師より「海外でブルンストロームテストを行っているセラピストなど存在しない」「ブルンストロームテストがここまで認知されている国は日本くらい」などといった説明を受けた記憶がある。
日本では国試レベルの知識であり知らない人はいない、そして、ある程度臨床でも(上田式片麻痺機能テストと同様に)活用されているであろうブルンストローム法ではあるが、海外では状況が異なるようだ。
そもそもBrunnstrom stageの意味づけが果たして適切であるか。
十分な議論もなされないまま今に至っていること自体、検討されなければならないと考えている。
Brunnstromの概念に重力との関係や関節の基本的なシステム、あるいは脳のシステムなどについて十分な考慮がなされた形跡はない。
世界ではほとんど利用されることのないこのテストの意義については多用している我が国の理学療法士たちの責任によって議論されるべきであろう。
~吉尾雅春:脳血管障害に対する理学療法のエビデンス.理学療法学40(4),pp241,2013年~
Question1:
日本で一般的に用いられているBrunstromによる運動機能の回復段階は、欧米ではあまり用いられないと聞いたことがありますが、本当ですか?
Answer:推奨グレードB
その通りである。今回20年間の欧米の論文でBrunnstrom stageが用いられていたのは数本で、いずれも著者は日本人であった。
~『理学療法診療ガイドライン ダイジェスト版 第1版』より引用~
今注目されている『SIAS』という評価法について
『ブルンストロームテスト』や『上田式片麻痺機能テスト』が運動機能にフォーカスをあてたテストなのに対して、脳卒中に対して運動機能のみならず高次脳機能など多面的な評価テストとして開発されたものとして(日本で開発された評価法としては)『SIAS』があり、詳しくは以下の記事で解説している。
SIAS(脳卒中の機能評価法)の特徴や詳細を解説
関連記事
以下の記事は、脳卒中片麻痺に関連する用語や評価などをまとめた記事になる。
合わせて観覧してもらう事で、理解が深まると思う。