この記事では、リハビリ(理学療法・作業療法)や看護・介護を考える上で必須知識であるICF(国際生活機能分類)について、考え方や活用法を解説している。

 

図や例も用いながら紹介しているので、書き方がピンとこない人も参考にしてみてほしい。

 

目次

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ICFとは

 

ICFとは『生活機能・障害・健康の国際分類(International Classification of Functioning,Disability and Health)』の略語である。

 

ICFは人間の生活機能と障害について健康状態、心身機能・身体構造、活動、参加、環境因子、個人因子という6つの構成要素(小項目も合わせると1500項目)に分類しており、生活機能と障害の分類への多角的アプローチに用いることが出来る。

 

ICF(生活機能分類)では、すべての人間の健康状況を、第1部(生活機能と障害)、第2部(背景因子)の2部門に整理し、説明している。

 

さらに第1部の生きるための機能を、心身機能と身体構造、活動と参加の2つの構成要素に分けている。

 

そしてこれらを包括し、生活機能(functioning)としている。

 

第2部の背景因子の構成要素は、環境因子と個別因子に分けて説明している。

 

この分類から、人間の健康状態は各構成要素の相互作用により成立し、その関係は双方向性なものと解釈されている。

 

以下の表は「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版より」より引用したICFの概略であり、前述した内容を一覧表にしたものである。

 

ICFの概念

 

第1部:生活機能と障害

第2部:背景因子

構成要素

心身機能・身体構造

活動・参加

環境因子

個人因子

領域

心身機能・

身体構造

生活・人生領域

(課題・行為)

生活機能と障害への外的影響

生活機能と障害への内的影響

構成概念

心身機能の変化

(生理的)

 

身体構造の変化

(解剖学的)

能力標準的環境における課題の遂行実行状況、現在の環境における課題の遂行

物的環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境の特徴がもつ促進的あるいは阻害的な影響力

個人的な特徴の影響力

肯定的

側面

機能的・

構造的統合性

活動参加

促通因子

非該当

生活機能

否定的

側面

機能障害

(構造障害を含む)

活動制限

参加制約

阻害因子

非該当

障害

 

また、ICFの各構成要素の定義を示した図としては、以下の図が理解し易いと個人的には感じている。

 

プラス面

マイナス面

構成要素

身体系の生理的機能

(心理的機能も含む)

構成要素

著しい異変や喪失といった、心身機能または構造上の問題

心身機能

器官・肢体とその構成部分などの身体の解剖学的部分

機能障害(構造障害も含む)

個人が活動を行う時に生じる難しさのこと。

 

活動

課題や行為の個人による遂行のこと

活動制限

個人が活動を行う時に生じる難しさのこと

参加

人生場面への関わりのこと

参加制約

個人が何らかの生活・人生場面に関わるときに体験する難しさのこと

背景因子

環境因子

人々が生活し、人生を送っている物的な環境や社会的環境、人々の社会的な態度による環境を構成する因子

個人因子

個人に関係した背景因子である(年齢・性別・社会的状況・人生体験など)。

ただし、現在ICFでは分類はない

~中俣恵美:国際機能分類ICFにおける「生活機能をめぐる課題」、総合福祉科学研究2:p106,2011~

 

ICFは活用する者に思考するための「建築材料」を提供するものであり、誰でもこれを使ってモデルを作ったり、この研究したりすることができる。

 

この意味で、ICFは一種の言語とみなすことができ、それを用いて作られる文章の内容は、活用する者の創造性と科学的志向性によって違ってくる。

 

ICFの活用方法は様々だが、医療・介護におけるリハビリテーションの現場では「その人らしい生き方」を支援するための真のニーズを探求すること、またそれを実現するためのプログラムを立案することのために活用していく。

 

関連記事

⇒『ブログ:動機づけと欲求

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ICFにおける構成要素間の相互作用について分かり易く視覚化するために、下記の図式が用いられる。

 

ICFの図

 

この図式では、ある特定の領域における個人の生活機能は健康状態と背景因子(すなわち、環境因子と個人因子)との間の、相互作用あるいは複合的な関係とみなされる。

 

これらの各要素の間にはダイナミックな相互関係が存在するため、1つの要素に介入するとその他の1つまたは複数の要素を変化させる可能性がある。

 

これらの相互関係は必ずしも常に予測可能な一対一の関係ではない。

 

相互作用は双方向性である。すなわち障害の結果により、健康状態それ自体が変化することも意味する。

 

機能障害から能力の制限を推定したり、活動制限から参加の制約を推定することは、しばしば理にかなったことと思われるかもしれない。

 

しかし、これらの構成要素に関するデータを別々に収集し、その後にそれらの間の関連や因果関係について研究することが重要である。

 

健康に関する状況をすべて記載するのであれば、すべての構成要素が有用である。

 

 

ICFの例

 

例①:

機能障害(構造障害を含む)があるが、能力の制限はない場合
(例:ハンセン病で外観を損じても、個人の能力にはなんらの影響を及ぼさない場合)。

 

例②:

実行状況上の問題をもつが、機能障害も、能力の制限もない場合
(例:HIV陽性の人・精神障害回復者の、対人関係や職場での偏見や差別への直面)。

 

例③

介助なしでは能力の制限があるが、現在の環境のもとでは実行状況上の問題はない場合(例:移動の制限のある人が移動のための福祉用具を社会から提供されている場合)。

 

例④

逆方向の影響がある程度ある場合
(例:手足を使わないことが筋萎縮の原因となる場合、施設入所が社会生活技能の喪失につながる場合)

 

 

 

ICFの例を、図を用いて紹介

 

以下の図は『通所けあ2006 vd4 no5』より引用している。

※ここまで述べてきたICFの概念を、上手く症例にあてはめていると感じる。

ICFの図

 

後輩のAさんは、対象者の実践していた能力である「2階事務室への書類運搬」を介助していた。

 

これは、できること(2階まで階段昇降)まで介護したことになる。

 

Aさんの善意である介助は、結果として駅のホームでしっかり立っていられなくなるような下肢筋力低下の間接的要因の一つとなっている。

 

しかし、「先輩のためです」と言い、「自分のことは自分でやってください」と心を鬼にしてつき離す方が良いのか、「疲れてくる午後の書類運搬は、手伝わせていただきます」とする方が良いのかは、プロフェッショナルな介護者の裁量能力となる(この様な裁量能力の重要性は『ICFの活動と参加』でも解説している)。

 

 

ICFの例を、図を用いて紹介:リハビリ(理学療法士・作業療法士向け)

 

リハビリ(理学療法・作業療法)でICFを活用するヒントとして、『書籍:続 障害別・ケースで学ぶ理学療法臨床思考』からも2つ例を引用しておく。

 

ICFの概念を活かすことは重要だが、「きっちりした図を作ろう」と杓子定規に考えず、自身が臨床活用しやすい(考えが整理しやすい)ように模式図をガンガンアレンジしても構わない(学会発表などで活用するなら別かもしれないが)。

 

※例えば、実際のリハビリ(理学療法・作業療法)内容を付け加えてみたり、マイナス面・プラス面の両方を記載してみたり。

 

 

例1:肺癌により右下葉の切除術を受け,無気肺を発症した63歳男性

 

ICFの図

 

 

例2:1カ月の入院にて活動量が減少し、その結果運動耐容能の低下した90歳女性

 

 

『ケースで学ぶ理学療法臨床思考シリーズ』は、上記図のように「症例に対する臨床思考をICFも活用しながら展開していく」ため、

リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)がICFを学ぶには参考になるかもしれない(値段が高いので、興味があるなら、まずは立ち読みして内容を確認してから購入しよう)。

 

 

 

 

ICFにおける各要素の定義を総まとめ

 

念のためICFにおける各要素の定義を列挙しておく。

※引用:奈良勲監修:標準理学療法学,日常生活活動学・生活環境学.医学書院,東京.2001

 

心身機能と

身体構造

(body function and structure

前者は生理学的、心理学的な心身の機能、

後者は器官や四肢などの解剖学的な部分とその組み合わさったもの

機能障害

(impairment)

心身機能や身体構造の異常な偏位や欠損により問題をもつこと

活動

(activity)

全体としての個人による行為や活動の遂行

活動の制約

(activity limitation)

個人による活動の遂行の困難さ

参加

(participation)

健康状態、心身機能や身体構造、活動、背景因子との関係のもとでの生活状況への関与と種類の程度であり、その種類、持続性、質の面で制限されることがある。

参加の次元は社会であり、その社会的レベルにおける健康状態の結果を示す。

参加の制限
(participation restriction)

障害をもった人にとっての不利益であり、環境や個人という背景因子により生じたり拡大したりする。

文化の標準により異なる価値観が付随し、他の人々と比べて相対的なものである。

背景因子

(contextual factors)

外的な環境因子と内的な個人因子からなる

環境因子

(environmental factors)

自然環境(気候や地勢)、人工環境(道具,家具建築環境)、社会の態度、習慣、規則、ならわしや制度そして他者から構成される、人生と生活にとってのバックグラウンド

個人因子
(personal factors)

健康状態にも障害にも属さないその人の特徴から構成される、人生と生活のバックグラウンドのことで、年齢、人種、性別、教育歴、経験、個性、性格スタイル、才能、その他の健康状態、体調、ライフスタイル、習慣、養育歴、ストレスの対処方法、社会的背景、職業、および過去現在の経験を含む

 

上記の定義だけではピンとこないと思うので、「理学・作業療法士が知っておくべきICFまとめ一覧」で各要素の詳細を合わせて確認してみてほしい。

 

 

ICFを活用して成長しよう!!

 

ICFをリハビリ(理学療法・作業療法)・看護・介護で活用するのは難しいと感じる人は多いようで、私もその一人である。

 

しかし、ICFの理解が深まっていくうちに以下のような恩恵も受けれており、特に維持期・生活期のリハビリテーションを提供する上では必須の知識であると感じている。

 

  • 多角的な視点からの常にバランスのとれた評価や介入方法を模索出来るようになった。

     

  • 得意・不得意(着目し易い視点・しにくい視点)が存在してしまっているが、不得意(着目しにくい視点)にもきちんと配慮できているかを振り返るためのツールになっている。

 

 

ICFの関連ページ

 

リハビリ(理学療法・作業療法)・看護・介護を考える上で、ICF(生活機能分類)による「人間を包括的に捉える視点」は重要になってくる。

 

以下のリンク先に、ICFをまとめた記事があるので、興味があればこちらも参考にしていただき、問題解決に役立てていただければと思う。
※リハビリ(理学療法・作業作業療法)向けな記事もあり、看護・介護に従事している人達には関係ない記事もあるので、それらはとばして読んで頂きたい。

 

理学・作業療法士が知っておくべきICFのまとめ一覧