この記事では、高齢者の転倒予防に大切なバランストレーニング(バランス運動)に関する知識を総まとめした記事となる。

 

リハビリ職(理学療法・作業療法士など)向けな情報も多いが、噛み砕いて解説しているので高齢者の健康増進に携わるスタッフさんにも活用できるのではと思う。

 

また、+αの補足として環境整備に言及していたり、記事の最後にはバランス運動・転倒予防に必要な追加情報もリンクしておくので、こちらも参考にしながら知識を深めていただきたい。

 

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目次

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バランスと転倒の定義

 

転倒予防に重要なバランス運動を考えるにあたって、まずは「バランス」と「転倒」の定義について考えてみる。

 

 

バランスとは

 

実は『バランス(バランス能力)』の定義は様々なものが存在するので、唯一無二の解答

は無い。

 

そんな中で、有名な定義としては以下の2つがある。

 

バランス能力とは、「身体重心の投影点」を安定性限界(stability lmits)と呼ばれる支持基底面内の範囲内に保持する能力

(Shumway Cook,WoollacOtt)

 

バランスとは、重力をはじめとする環境に対する生体の情報処理機能の帰結・現象である。支持底面に重力を投影するために必要な平衡機能に関わる神経機構に加えて、骨のアライメント、関節機能、筋力などの要素がある

(内山)

 

 

転倒とは

 

転倒とは、単純には「転ぶこと」だが、もっと難しい表現で定義すると以下になる。

 

『転倒とは、本人の意思に反して、足以外の身体の部分が床に接すること』

 

 

転倒予防の参考になるバランス評価テストの基準値(カットオフ値)

 

「バランスが悪い」っという表現は非常に曖昧である。

 

例えば、私たちがリハビリ(理学療法・作業療法)時に、「座位姿勢の保持が困難な人」に対して表現することも可能だし、「閉眼で1分以上、片脚立位保持が出来なかった若年者」に対しも、(余裕で出来る人の対比して)「あなたはバランスが悪い」と表現することが可能である。

 

つまり、「一人で座位保持が出来ない人」も「閉眼で片足立ちが1分しか出来ない人」も、(時と場合によって)どちらも「バランスが悪い」と表現されることとなる。

 

何が言いたいかというと、前述したバランスの定義はフワッとしているため、「何にフォーカスを当てた上で、バランスを考えるのか」が重要であり、それを度外視した際に「バランスの良し、悪し」に正解は無い。

 

そして、この記事では主に「高齢者の転倒」にフォーカスを当てた上で、バランスを述べている。

 

そうなると、「バランスが悪い=高齢者で転倒しやすい状態」を指すので、以下の評価をもとにしてバランスの良し悪しを評価していくこととなる。

 

※以下の基準値(カットオフ値)は「高齢者の転倒予防」にフォーカスを当ててバランスの良し悪しを考えるにあたって、一つの基準となり得る。

 

※クリックすると、各テストの詳細が基準値も含めて観覧できる。

 

テスト カットオフ値
膝伸展筋力 1.2Nm・kg
FRテスト 15cm未満
片脚立位保持テスト(開眼) 5秒以下
TUGテスト 13.5秒以上
歩行速度 毎秒1m未満(横断歩道が渡りきれない)
5回立ち座りテスト 14秒以上
立位ステッピングテスト 17秒以上

 

例えば上記一覧表のFRテスト(手が前方にどこまで伸ばせるか)に関して言えば、15㎝未満で転倒リスクが高いという報告があり、つまりは転倒にフォーカスを当てた場合においては(その報告のカットオフ値を当てはめるのであれば)「FRテストが15cm未満=バランスが悪い」と表現できる。

 

※しつこいようだが、例えば「アスリートのバランスの良し悪し」にフォーカスした場合においては、上記のテストは全くバランステストの体を成していないということになる(もっと難易度の高いトレーニングをベースラインにする必要がある。)

 

※当然、「一人で座位保持が困難」といった対象者のバランスとなると、これまた話が違ってくる。

 

ちなみに、バランスの定義をリハビリ(理学療法・作業療法)と関連付けた場合は、以下の表現が個人的に気に入っている。

 

バランス能力は、姿勢保持や動作において、支持基底面と身体重心線の関係を適切に保ち、目的とする課題を安定に効率良く実行させる機能であり、安定に効率よく、また安全に日常生活を営むための基盤である。

 

※そして、この基盤が低下した状態を「バランス能力低下」と表現する。

 

バランス能力

 

バランスを構成する要素は沢山あるよ

 

内山氏によるバランスの定義からも分かるように、バランスを担うには多彩な身体機能(神経機構、骨のアライメント、関節機能、筋力・・・などなど)が複合的に作用する必要がある。

 

しかも、それだけではなく「環境に対する生体の情報処理機能の帰結・現象」にまで話を広げている。

 

つまり、バランス『(本人の持つ)バランス能力』に対して『動作の課題』『動作をする環境』が関連することで決定されるという事になる。

そして、ここまでダラダラと記載してきた文章を端的に示してくれるイラストが以下となる。

バランスの捉え方

 

高齢者の転倒予防に必要なバランスとは

 

前述したイラストを参考にして、高齢者の転倒予防に必要なバランスを考えた場合、以下の3つが重要ということになる。

 

①対象者自身のバランス能力の改善

②環境を整えることでバランス改善

③転倒リスクのある課題難易度を下げることでバランス改善

 

 

①対象者自身のバランス能力の改善

 

対象者自身の「バランス能力を構成する要素」を改善することは重要であり、そのためにはリハビリ(理学療法・作業療法)としてバランストレーニング(運動)が効果を発揮する。

 

 

②環境を整えることでバランス改善

 

高齢者になると、身体への不可逆的変化も起こってくるため「バランス運動による身体機能の改善」だけでなく、「いかに環境を整えるか」といった視点も、転倒予防に重要となってくる。

 

例えば「廊下や階段で転倒リスクがあるなら手すりを設置する」などが該当する。

 

 

③転倒リスクのある課題の難易度を下げることでバランス改善

 

※③は②の「環境を変える」と重複した要素も持った考えとなる(つまり、難易度を下げるために環境を整えるという事も多々ある)。

 

例えば、同じ「靴を履く」という動作でも「立って履く」のではなく、「座って履く」の方が難易度が低くなり、それら「対象者の能力に合った難易度の活動(行為)を提示する」というのもリハビリ(理学療法・作業療法)の一環として重要となる。

 

あるいは、「歩いてトイレに行くと非常に転倒リスクが高い」といった場合に、敢えてポータブルトイレをベッドの隣に設置するなども、このカテゴリーに該当する。

 

※これは、少しネガティブな発想に感じる人がいるかもしれないが、退院直後でバランスが不安定な時期であったり、徐々に身体機能が不可逆的に衰える要素を持っている高齢者に選択される手段の一つでもある。

 

※あるは、即自的な問題解決の手段として難易度を下げて、リハビリ(理学療法・作業療法)による身体機能の向上に伴い、再度難易度を上げていくという発想も当然あり得る(高齢者には不可逆的な要素がある一方で、可逆的な要素も多く持っており、それらはリハビリで改善できる可能性がある)。

 

もちろん、「活動と参加」を考えた場合に「同じ活動でも、複数の動作が可能であるほど参加に結びつく」との観点から、安易に低い難易度設定をしてしまうのは避けるべきケースもある。

 

この辺りの考えは、以下の記事でも深堀しているので参考にしてもらいたい。

⇒『活動と参加(+違い)

⇒『ADL(日常生活活動・日常生活行為)とは?

 

以降は、高齢者の転倒予防に必要なバランスに関して「バランス運動(トレーニング)」と「環境」にフォーカスを当てて、個々に記載していく。

 

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運動療法によるバランス能力改善で転倒予防(エビデンス)

 

前述したように対象者自身のバランス能力を改善させることが、転倒予防にとって何より重要となる。

 

そして、運動療法が転倒予防に結びつくとのエビデンスは多く存在する。

 

そんな運動療法に対するエビデンスの要約は以下の通り。

 

  • バランス運動、筋力増強運動、柔軟性運動、立ち上がり・歩行などの機能的運動を複合的に行った方が効果が期待できる
  • 1日60分、週2~3回、2~3ヶ月の運動療法が多い
  • 個別の種目や運動強度については不明な点も多い

 

※要約すると、ザックしすぎており何の面白みもないが、こんな感じになる。

 

また、バランス能力改善のため運動療法の基本的な考え方は以下となる。

 

  • やや不安定な動作課題(少し難しい課題)を実行する中で、運動学習(神経系の可塑性)を促す
  • 運動学習には課題特異性があるので、静的バランスと動的バランスの要素など、包括的な練習課題を選ぶ
  • バランス能力を構成する要素(柔軟性、筋力など)で、低下しているものがあれば、その改善を図る
  • 重心を移動できる範囲(安定性限界)、1歩でステップできる範囲を拡大し、身体動揺は減少させる
  • 課題や環境を変えて適応性を向上させる(二重課題、スピード、屋内と屋外など)

 

 

やや不安定な動作課題(少し難しい課題)を実行する中で、運動学習(神経系の可塑性)を促す

 

いわゆる「バランス運動」となると、片脚立位などといった不安定な動作課題を用いたリハビリ(理学療法)がイメージされやすいのではないだろうか?

 

これらバランス運動は、「難しすぎず簡単すぎず」といった個別のバランス能力に合った課題を提供する必要があり一概に言えないので、リハビリ(理学療法・作業療法)の腕の見せ所かも知れない。

 

そんな難易度を考えるにあたってヒントが詰まった表が以下となる。

 

転倒予防理学療法 バランスの課題

 

これらの要素を組み合わせることで無限にリハビリ(理学療法・作業療法)の幅は広がる。

 

 

運動学習には課題特異性があるので、静的バランスと動的バランスの要素など、包括的な運動課題を選ぶ

 

静的バランス・動的バランスのトレーニングとしては以下などが挙げられる。

 

静的バランストレーニングの例:

 

 

重心移動運動を用いたバランストレーニングの例:

  • 座位や立位での前後・左右へのリーチ
  • ボール渡し・ボール投げ・輪入れ

※ちなみに「重心移動運動を用いた練習」は、静的バランス・動的バランスどちらのリハビリ(理学療法)にも該当する可能性がある(つまり諸説ある)。

 

ステップ運動を用いたバランストレーニングの例:

  • 前後左右斜め方向へのステップ
  • ステップを伴うボール投げ
  • バドミントン、フリスビー

※ステップ運動を用いたバランス練習は「動的バランスの練習」に該当する。

 

応用歩行トレーニング:

  • 継足歩行、後ろ歩き、横歩き
  • 障害物を置いた歩行(跨ぐ、避ける)
  • 速い歩行、遅い歩行

※この様な応用歩行練習も、「動的バランスの練習」に該当する。

※静的バランス・動的バランスに関しては以下の記事で深堀している。

※これら二つのバランス能力にはキッチリとした統一見解が得られていないため、それらも含めて整理ができると思う。

⇒『動的バランス・静的バランス(+違い)

 

 

運動学習には特異性があるとされている。

 

例えば筋力トレーニングによってパフォーマンスを挙げようと思った際は、単に個別の筋トレばかりをするのではなく、「特異性の原則」に沿って実施したほうが「筋トレの目的としているパフォーマンスの向上」に繋がりやすい。

 

バランスで言うならば、屋外を歩行できるだけのバランス能力を獲得したいの出れば、屋内のリハビリばかりせずに屋外歩行をすべきだし、家事をするなどの動的バランス能力を獲得したいのであれば(どんなに難易度が高いとしても)静的バランスのトレーニングばかりていては「課題特異性」という意味では効果は得られにくいという事だ。

 

以下は筋力トレーニングに関する特異性の原則について述べた記事だが、バランス能力にも共通する点はあると思うので是非参考にしてみてほしい。

 

過負荷の原則と特異性の原則

 

そして、バランス向上を考えるにあたって体幹インナーマッスル(コア)の理解は必須である。

 

以下の記事は、インナーマッスルの基礎から、トレーニングのアイデアまで深堀しているので、観覧することでバランストレーニングの組み立て方も飛躍的に高まると思う。

 

インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニングとは?

 

 

バランス能力を構成する要素(柔軟性、筋力など)で、低下しているものがあれば、その改善を図る

 

バランスを構成する要素は多種多様であり、筋力や柔軟性も含まれるのは前述したとおりである。

 

そして、筋力トレーニングに関しては、『運動処方第6版』における高齢者の運動処方として以下を参考にしても良いかもしれない(あくまで目安として)。

 

  • 種目:
    殿部筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、胸部筋、広背筋、三角筋、腹筋などの主要な筋群を対象に8~10種目以上行う。

 

  • 強度・反復回数:
    10~15RMで、主観的運動強度12~13(ややきつい)くらいになる強度

 

  • 頻度:
    少なくとも2回/週の頻度でトレーンニングし、同じ筋群のトレーニングは2日以上間隔を空けて行う。

 

ここでは非常にザックリとした解説であるが、もっと深堀された「高齢者の筋力トレーニング」について知りたい方は以下の記事も参考にしてもらいたい。

⇒『高齢者の筋力トレーニングの効果・強度・回数・内容を紹介!

 

 

また、柔軟性の向上に関しては骨格筋のストレッチングとして以下の記事でも言及しているので、こちらを参考にしてもらいたい。

 

※必ずしも、高齢者向けでは無い内容も含まれているが、活用出来そうなものがあれば実施してみてほしい。

 

ストレッチング、ちゃんと知ってる?

 

 

もし観覧しているのが理学・作業療法士さんであれば、『関節自体の動きを向上するさせる手法』として関節モビライゼーションも必須スキルとなってくるので以下も併せて観覧してみてほしい。

 

※習得が比較的簡単なものを中心に、ポイントも押さえながら解説している。

 

モビライゼーションとは!定義/適応・禁忌/方法を紹介

 

 

重心を移動できる範囲(安定性限界)、1歩でステップできる範囲を拡大し、身体動揺は減少させる

 

「立位で手をどこまで伸ばせるか」といった支持基底面内で重心(厳密には足圧中心)を移動できる範囲のことを『安定性限界』と呼ぶ。

 

また、安定性限界を超えた際に、ステップすることで(新たな支持基底面を形成することで)バランスを崩さず姿勢を保てる範囲のことを『予測的安定性限界』と呼ぶ。

 

そして、安定性限界を拡大すること、予測的安定性限界を拡大することは、ともに高齢者の転倒予防に重要である。

関連記事⇒『安定性限界と足圧中心(COP)を分かりやすく解説)

 

※これらのリハビリ(理学療法)に関しては、ここまで記載している内容と重複するので割愛する(例えば、リーチング動作やステッピング動作は、そのままリハビリにつながる)。

 

 

課題や環境を変えて適応性を向上させる(スピード、屋内と屋外、二重課題など)

 

課題や環境を変えて適応性を向上させることは、(前述した)『特異性の原則』の観点からも理にかなっている。

 

また、単調なバランストレーニングと比べて、以下のリハビリ(理学療法)も高齢者の転倒予防として一つのアイデアとなる。

 

ボディイメージを高める運動:

 

姿勢や運動の変換運動:

  • 起き上がり、立ち上がり
  • 方向転換、急な停止と開始

環境を変えて難易度を高めるという意味では道具を用いるのも良い。

※道具を用いることで、同じ運動でも難易度は大きく異なってくる。

 

例えば、以下はバランスクッションを用いたトレーニングとなる。

 

 

 

関連記事⇒『バランスボード・バランスクッションでトレーニング

 

あるいは、バランスボールの活用も、バランストレーニングとして有効である。

 

以下では、そんなバランスボールを用いたトレーニングに関して深堀しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。

 

バランスボールによるリハビリ(理学療法)

 

 

また、「高齢者の転倒」と「二重課題」の因果関係が指摘されている。

 

例えば、高齢者では「会話をしながら歩行をしていると、足が止まってしまう(Stops walking when talking)」といった現象が起こる事があり、この様な二重課題(この例だと歩行と会話という二重課題)をこなす能力が衰えてくると、転倒にも結び付きやすいという考えだ。

 

二重課題は『デュアルタスク(Dual task)』とも呼ばれており、そのデュアルタスクを考慮したトレーニングは高齢者の転倒予防としても活用されている。

 

デュアルタスクトレーニングの例としては以下が挙げられる。

  • ボールを蹴りながら歩く(運動課題+運動課題)
  • 計算をしながら歩く(認知課題+運動課題)
  • トレイに物を載せて歩く(運動課題+運動課題)

 

デュアルタスクトレーニングに関しては、以下の記事で深堀しているので、興味がある方は参考にしてみてほしい。

 

デュアルタスク(二重課題)で転倒予防

 

 

運動を習慣化するための工夫

 

運動を習慣化するための工夫としては以下が挙げられる。

 

  • 運動は継続しないと効果がないことを伝える
  • ホームプログラムを作成し、実施方法などを指導する(資料を渡す)
  • 生活の中でできる運動を指導する
  • 個別に目標を設定する(対象者自身の行動目標)
  • 運動日誌などを作成し、対象者自身のモニタリングを促す
  • 運動を継続できたら、何らかの報酬を考える
    (欲しいものを買うなど→自己強化)

 

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高齢者のバランス改善・転倒予防に大切な環境整備

 

バランス改善・転倒予防に関して、ここまでは「対象者自身のバランス能力」にフォーカスを当てて記載してきたが、最後に「環境整備」にフォーカスを当てた解説をして終わりにする。

 

冒頭でも記載したようにバランスを構成する要素は多彩であり、更には「対象者自身のバランス能力」以外に「(動作の)課題」や「(動作をする)環境」 も影響してくる。

 

そして、高齢者の転倒予防を考えた場合は、上記を複合して考えていくことが重要となる。

転倒予防の包括的アプローチ

 

ちなみに、転倒の危険性が高い高齢者に対する環境(家屋)の調整が、転倒予防に有枝とする報告としては以下などがある。

 

過去1年間に転倒経験のない高齢者を対象に環境調整を行っても転倒者数の減少は認められなかったが、過去1年間に転倒経験のある高齢者に対して環境調整を実施した結果、対照群と比較し転倒者数は優位に減少した(RR 0.66, 95%信頼区間 0.54~0.81)。

 

対象者を転倒経験のあるものとない者を混合した場合には、環境調節の効果は減少したが、有意な転倒予防効果が認められた(RR 0.85, 95%信頼区間 0.74~0.96)。

高齢者の機能障害に対する運動療法より~

 

従って、リハビリ(理学療法・作業療法)としての環境調整は転倒経験のある対象者ほど重要になってくると言える。

 

ここでは、転倒予防に大切な環境整備に関する一例を記載していく。

 

 

手すりの設置で転倒予防

 

一番ベタな環境整備としては、廊下・階段・玄関・トイレなどに手すりを設置するという方法があり、これによって格段に転倒しにくくなったりする。

 

例えば、廊下の歩行用手すりでは、横手すりが効果的となる。

 

一般的に、手すりの太さは直径32~34㎜が握りやすいと言われており、施設用・住宅用ともに概ねこの高さに標準化されている。

 

ただし、手すりの使い方、使用目的によって取り付ける高さが異なってくる。

 

取り付けの高さは、標準化されたマニュアルには75~85cmとある。

※マニュアルに10cmも幅がある理由は使用目的に個別性があるからである。

 

歩行能力は高い人は、高い位置の手すりを軽く握るか、肘から手首までの前腕をのせて軽く握る程度で良かったりする。

※この場合には、手すりの高さは80~85cmが標準的な高さとなる。

 

これに対して、歩行能力が低い人は、低い位置の手すりを強く握る必要がある。

※この場合には手すりの高さは75~80cmが標準的な高さとなる。

 

施設では、対象者がどのような状態であるかによって高さを決めるが、全ての方に適した高さを選択することはかなり難しい作業である。

 

そのため施設では中間の高さである80cmに取り付けることが多いが、個人の住宅では、手すりを使用する高齢者の歩行の特徴に合わせて(もちろん身長にも合わせて)高さを選択することになる。

 

あくまで一般論での記載となるが、上記をベースにして対象者の状態に合わせた手すり設置を検討してみてほしい。

 

その他、自宅での歩行に関しては、引っかかり易いもの(絨毯・コードなど)が高齢者の動線上に無いかも確認しておいたほうが良いかもしれない。

 

※リハビリ職種(理学療法・作業療法)の学生さんなら、自身の学校の手すりの高さや太さを調べてみて、記事の内容と合致しているか検証してみるのも勉強になると思う。

 

 

立ち上がりのための環境整備

 

椅子からの立ち上がりも一概には言えないが、肘掛け付き椅子を利用したほうが立ち上がりが楽で、バランスを崩しにくいケースもある。

 

両手で肘かけをプッシュして立ち上がる動作は椅子座面に手を突いて立ち上がるよりも支える位置が高いので、立ち上がりやすくなる。

訪リハの環境整備 肘掛け椅子の使用

  • ただし、高齢者はかなり前傾姿勢になっているので肘掛けの先端を握ってしまい、バランスを崩して椅子ごと前方に転倒する危険性がある点には注意を要す。
  • また、立ち上がり動作の安全性は、使用する椅子の形状によってかなり影響を受けるため、身体の状況に適した椅子を使用し用することが望ましい。
  • あるいは、テーブルに手や肘をついて立ち上がるという方法もある。
  • いずれにしても100%正しい方法は無いので、いくつものパターンを知っておき、対象者を分析しながら指導してあげるのが良い。

 

最も立ち上がりにくいのは、ソファーのように座面が柔らかく殿部が沈む椅子となる(座面の高さが低いものも多い)。

低い座面からの立ち上がり

  • くつろぎ易いので好まれ部場合もあるが、立ち上がり動作は難しくなる。
  • 活発な立ち座りには不向きなため、立ち上がり動作のバランスや動作能力が低下した方にはお勧めできない。

 

また、和式生活をしており、「床からの立ち上がり動作」が必要にもかかわらず、転倒してしまいやすい人もいる。

 

床面に座っている状態から立ちあがろうとして転倒する場合には、脊柱の変形による重心位置の変化や下肢筋力の低下から、殿部が持ち上がりにくい、床に手をついた後に立ち上がれない、といった原因が考えら得る。

 

この場合には、座面から30~40cm程度の高さの椅子や台を壁際に設置するだけでも、非常に楽に(なおかつ安全に)立ち上がることが出来るようになる場合がある。

訪リハの環境整備 床からの立ち上がりに台を使用

※椅子や台の上に手や肘をついて片膝立ち、両膝立ちの姿勢から立ち上がると、常に体幹を安定させることができ、後方への転倒を予防できるのでおススメである。

 

 

夜間照明に工夫して転倒予防

 

また、日中と夜間では自宅の雰囲気はガラッと変わるので、必要に応じて照明を工夫することが大切になってくることもある。

 

転倒予防 照明

 

 

ヒッププロテクターについて

 

皆さんは、ヒッププロテクターを着用した高齢者を見たことがあるだろうか?

ヒッププロテクター 頭部保護帽子

地域性が影響しているのかもしれないが、着用している人を私は見たことが無いし、おススメしている人の話を聞いたこともない。

 

ただし、一般論としては、ヒッププロテクターを着用することで「転倒時の骨折時発生率を予防できる」というのは事実の様である。

 

興味が無い人には観覧する価値が無いと思うのでここでは割愛し、興味がある方は以下の記事を観覧してもらいたい。

 

大腿骨頸部骨折の予防にヒッププロテクターは有効か?

 

 

転倒しやすい環境と解決法まとめ

 

転倒しやすい環境や解決法について記載してきたが、最後に一覧表にまとめたものを紹介して終わりにする。

~鈴木隆雄::転倒・転落の疫学.総合リハ,32 : 205-210,2004より引用~

 

問題点

解決方法

通路

家具や物が多く、通り抜けるのに狭い

電気のコードがある

敷居などの段差

家具の配置換え、整頓

コードは壁沿いに留める

目立つ色のテープを貼る、段差を解消する

照明

明かりが暗い

反射する

スイッチが遠い

100ワット以上のランプに交換する

ギラツキを抑えたランプを使用

枕元にライトスタンドを設置、音に反応するライトを設置

床面

カーペットやラグの端のめくれ

ラグの滑り

水で濡れている

両面テープで貼り付ける

除去、滑り止めマットの利用

水を拭く

いす

不安定、座面が低い

安定感や肘かけのある椅子に取り換える

台でかさ上げをする

ベッド

不適切な高さ

マットが柔らかすぎる

ベッドの交換、台でかさ上げする

マットを硬いものに交換する

階段

手すりが無い

階段が滑る

暗い

両側へ手すりを設置

段の端に滑り止めのレールを設置

天井と足元にライトの設置

風呂場

洗い場や浴槽内が滑る

滑り止めマットの設置

トイレ

トイレの高さが不適切

手すりをつける

障害物

新聞広告、買い物袋などすべりやすい物が床に散乱

整理整頓

杖の利用が不適切

身長に合った杖を使用する

履物

スリッパを利用

かかとの付いた滑りにくい室内履きを用意する

 

 

画像引用・主な参考文献

 

この記事は「転倒予防理学療法」の資料を主な参考文献としている。

 

また、この記事で使用している(カラーの)画像は全て「転倒予防理学療法」の資料となる。

 

 

 

高齢者に多い4大骨折

 

「高齢者が発症しやすい4大骨折」というのがあり、具体的には以下の通り。

・脊椎圧迫骨折

・上腕骨近位端骨折

・大腿骨頸部骨折

・橈骨遠位端骨折)

 

でもって、これらの詳細関しては以下の記事で解説しているので興味があれば観覧してみてほしい。

 

⇒『大腿骨近位部の骨折って何だ?原因・予防法・各手術方法も解説

 

⇒『橈骨遠位端骨折(コーレス骨折など)を解説!『治療のクリニカルパス』や『合併症』も。。

 

⇒『脊椎圧迫骨折(胸椎・腰椎の骨折)を解説するよ

 

 

高齢者の転倒予防・バランス関連記事

 

ここかから先は、高齢者の転倒予防やバランスを考える上で参考になる記事を紹介していく。

※ここまで記載した中で、既に紹介した記事も重複している点は了承して頂きたい。

 

知らなきゃ損!バランス評価テストのカットオフ値まとめ

 

高齢者の転倒リスクを判断するためのテストが網羅されており、各々の記事にもジャンプできる。

また、転倒危険因子として、身体的(内的)因子・環境的(外的)因子に言及することで、この記事を補足している。

 

 

支持基底面と重心と重心線

 

バランスを考えるうえで、支持基底面・重心・重心線は基本となり、在り来たりな内容かもしれない。

ただ、臨床経験を重ねるごとに「なんだったかな?」って感じで基本的なことを忘れてきたりするので、そんな人は復習がてらに観覧してみてほしい(学生さんにも参考になると思う)。

個人的には、ここに掲載した動画が気に入っている(笑)

 

 

立ち直り反応と平衡反応(+違い)

 

立ち直り反応と平衡反応は頻繁に聞く用語であるが、臨床では「反応をきちんと評価してアプローチにつなげれるかは重要」だが、用語の違いを厳密に考えたりする機会(必要性)は減るのではないだろうか?
例えば、立ち直り反応と平衡反応はグレーゾーンな部分もあり、文献によって記載してる内容も異なっていることもある。
ただ、そういうのが整理出来たら、(意外と)臨床が一段と楽しくなったりもする(違いが分かったからといって、臨床に変化が起こることは無いかもしれないが)。
興味があるかはた是非ご一読を♪

 

 

安定性限界と足圧中心(COP)について

 

先ほどの「立ち直り反応と平衡反応」の記事は「読んだからと言って参考にならない記事」かもしれないが、こちらは臨床に活かせるヒントが掲載されていると思う。
ちなみにこの記事では、立姿勢を想定しているのでCOPを『足圧中心』と表現しているが、厳密には『圧中心』となる。
※例えば端座位における支持基底面上のCOPは「足圧中心」ではなく「圧中心」と表現することになる。
ここに記載した内容は、バランスにおける評価や運動の分析、組み立ての基礎となり得るので、おススメの記事である(視覚的にも理解しやすい記事となっている)。

 

 

足関節戦略と股関節戦略(+違い)

 

この記事は、先ほどの「安定性限界と足圧中心」の姉妹記事となる。
合わせて観覧してもらえば、理解がグッと深まると思うので是非ご一読を♪

 

 

静的バランスと動的バランス(+違い)

 

動的バランス・静的バランスと言う用語は頻繁に登場するが、これらの用語を整理したいと思っている人は多いのではないだろうか?
この記事は、その様な人達に少しでも貢献できる内容が含まれていると思うので、是非チェックしてみてもらいたい。