この記事は、リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)にとって馴染みのあるPNF法(固有受容性神経筋促通法)について、臨床で活用するための参考になればと作成した記事一覧である。
「いやいや、PNFは普通に臨床で活用出来るのに余計なお世話だ」っというツッコミが聞こえてきそうだが、意外と「PNF習ったけど、臨床で使うとなると難しい」、あるいは同様な理由で「PNFを学んだことがない」という人も(多少は)存在するのではないだろうか?
今回は、そういう思いを持っている人達に対して、何かヒントが提供できればというコンセプトのもと作成したので「PNF(固有受容性神経筋促通法)の臨床活用法を教えます」というタイトルにしてみた。
この「PNFまとめ一覧」の中にあるリンク先記事では動画も活用しながらPNFについて言及しているので、その点でも理解してもらいやすいのではと思う。
特に「PNFパターン」に関しては、リンク先サイト『筋骨格系理学療法の世界のPNFコーナー』では丸っきり言及していない内容なので、このまとめ一覧に掲載されているPNF記事を通して「何となく」ではあるもののPNFパターンを理解して頂けるのではと思う。
同様に、リンク先サイトでは全く言及していなかった「PNF特殊テクニック」に関しても動画を利用して言及している。
「PNFパターン」はブログで表現するには限界があり、結局のところ「一度は講習会などで学んでみなければ、理解できない要素」も多いと思われる。
一方で、「PNF特殊テクニック」は必ずしもPNFを学んでいなくとも活用出来る要素を持っている(もちろん、PNF法の概念の中で、あるいはPNFパターンと一緒に活用すると良いものもあるが)。
※そして「PNF特殊テクニック」などと表現すると仰々しいが、皆が臨床で活用している(馴染みのある)基本的な運動学の要素も多い。
なので、その辺を少しでも表現できればと考えている。
PNFの基本理念を観覧してもらえば分かると思うが、結局のところリハビリテーション・理学療法・作業療法においても馴染みのある内容であり、突飛な内容ではない。
そして、だからこそ一般的な治療にも活用し易いコンセプトだと個人的には思ってPNF法を活用している。
※ちなみにPNFは「固有受容性神経筋促通法」と訳されるため、「固有受容神経・筋を促通させる方法」ということで「PNF法」と呼ばれることがある。
※でもって、このまとめ一覧では固有受容神経筋促通法を(時と場合によって)「PNF」と表現したり、「PNF法」と表現したりしているが、深い意味は無いので、あまり気にしないで頂きたい。
目次
PNF法の基本理念
ここから先は、念のため、PNF法の基本理念をおさらいしておく。
PNFの基本理念は以下の通り。
・積極的なアプローチ
・機能的なアプローチ
・潜在能力を引き出す
・対象者全体を考慮に入れる
積極的なアプローチ
- 積極的な評価と治療
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患者が出来ることから始める-成功を導く
PNFでは、「難しい課題を与えるのではなく、出来る課題をどんどん行い、成功体験を増やす」という点を重要視している。
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発散を用い間接的治療を行う
弱い部分だけでなく、強い部分も着目評価して、それを治療に用いる。
悪い部分だけでなく、良い部分も含めて全体を見ていくという意味でICFの考えを実践していると言い換えることもできる。
(PNFはADLを改善するという当たり前のことを言っているが、それを学問的に体系化出来ている)
発散と類似した概念として、一般的な筋力増加メカニズムの一つとして「クロスオーバー(交差性)トレーニング効果」というものがある。
これは「片側の筋力トレーニングによって反対側の筋力が増加する効果」を指す。
クロスオーバー(交差性)トレーニング効果は、トレーニング時に非トレーニング側が支持(あるいは固定)として作用することが影響すると言われている。
もちろん、共同筋として、主動筋と一緒に活動することで間接的な強化がなされる場合もある(それ以外にも色々が指摘されている)。
もちろん、非トレーニング側の筋活動はMVCの15%程度でしかないとの報告もあり、必ずしも十分な筋力増強が認められるわけではない。
ただし、弱化した筋を間接的に(多少なりとも)強化出来る可能性は示している。
このクロスオーバー効果は、筋活動レベルと速度に特異的であるとの報告もある。
また、この学習効果の程度は、それ以前の対象者の活動レベルやトレーニング課題に関する協調鋭やスキルのレベルに依存しており、このことがクロスオーバー効果の多様性の一因となっていると考えられている。
この「固定」や「共同筋」の概念は、運動療法を考えるにあたって非常に活用できる要素と言える。
ただし、前述したようにクロスオーバー効果と同様に、「同じセッティングで運動をしてもらった場合」においても、同一な反応(同様なポイントを固定点とする。同様な筋収縮が間接的に促されるなど)が得られるとは限らないことを示している。
したがって、固定点には多様性があり、それを治療に活用しようと思った場合は、患者の反応を常にチェックして活用出来そうかどうかを見極める必要がある。
個人的には、痛みがある部位を直接動かさないため注意がそれる。
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痛みを避ける
PNF法を活用するにあたって、痛みを誘発させないのは大前提となる
機能的アプローチ
- ICFの分類を使用する
- 機能面指向型評価と治療(活動)
- 患者の機能レベルを最適化する。
- 構造レベルと活動レベルで治療する。
関連記事⇒『理学・作業療法士が知っておくべきICFまとめ一覧』
潜在能力を引き出す
- 患者の積極的参加
- 集中的トレーニング(肢位・活動・環境の変化を繰り返す)
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※たとえば同じ動作を治療に用いるにしても、環境が変わると全く異なる治療へ変わることがある。
- 自主トレの指導
対象者全体を考慮に入れる
- 対象者全体を評価する(間接的と直接的)
- 環境要素と個人の要素を考慮する(身体的、認知的、知的能力、感情)
例えば、子供で注意散漫な場合は個室を用いたり、認知面に問題がある高齢者ではPNFパターンを用いず単純化されたエクササイズを用いるなど。
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運動制御と運動学習の概念を用いる
PNFに限らず、「運動学習」「運動制御」の概念に考慮したらADL獲得のプログラムを立てやすくなる。
PNF法に関しては、初学者は複雑な感じがするかもしれないが、深く学んでいけば「効率よく人の動きを改善させることのできるシンプルな方法」であることが分かってくる。
ただし重複するが、それは深く学んだ時点で初めて「実はシンプルな考えだ」と実感できるのであって、ある程度学ぶまでは複雑に感じることも否めないかもしれない・・
PNFをリハビリ(理学療法)に活用する際の様々なアイデア
PNFをリハビリ(理学療法)活用するにあたっては、以下の様に様々なアイデアがある。
っとはいっても、PNFに特化した特別な内容ではなく、一般のリハビリ(理学療法)でも馴染みのあるアイデアとなる。
- 支持基底面
広くするか・狭くするか
動作が難しいなら広い基底面(例えば臥位)で固定筋をまず鍛えてから(促通)してから、実際に使う機能的な肢位(基底面)に近い状態でのエクササイズに近づけていく。
開脚→閉脚→セミタンデム→タンデム→片脚・つま先立ち・踵立ち
関連記事⇒『支持基底面・重心・重心線を解説!』
- 支持面の環境を変える
バランスボール上の座位、バランスボード上での立位など(更に静的or動的なリハビリ)
関連記事⇒『静的バランス・動的バランス(+違い)』
- Open or Closed kinetic chain
例えば臥位で運動性を高めた後に、座位での安定性を高める。
※Cosedのほうが「機能的な」場合が多い。
関連記事⇒『CKCとOKC(+違い)』
- 直接的か間接的か
「弱化している部分」を直接的に鍛えるのか、強い部分へ刺激を与えることで間接的に「弱化している部分」を鍛えるのか
※基本理念を参照
- 肢位の選択
- 視覚情報
開眼or閉眼など
- 課題
シングルタスク(Single task) or デュアルタスク(dual task)
関連記事⇒『二重課題(デュアルタスク)で転倒予防!』
- パターンの選択
PNFパターンの詳細は後述するリンク先を参照してもらいたい。
ここでは、各PNFパターンと類似したADL(+α)について『書籍アドバンス版 図解 理学療法技術ガイド―より深く広い理学療法技術の習得をめざして P360 実践PNF』より引用しておく。
①肘の屈曲を伴う
屈曲一内転一外旋パターン
・口に食物を運ぶ動作の促通
・洗顔動作の促通
・胸元動作の促通
・身体の前で物を手のひらで支える動作の促通
②肘の伸展を伴う
伸展-外転一内旋パターン
・杖歩行の促通
・姿勢を身体の後方で支持する機能の促通
・起き上がり動作の促通
・スポーツの引き込む勤作の促通
・上肢屈筋痙性パターンの抑制
③肘の屈曲を伴う
屈曲一外転一外旋パターン
・洗髪動作の促通
・物干し勤作の促通
・上肢屈筋痙性パターンの抑制
④肘の伸展を伴う
伸展一内転一内旋パターン
・姿勢を身体の前方で支持する機能の促通
・起き上がり動作の促通
・電気掃除機操作の促通
・スポーツの投球動作の促通
⑤膝の屈曲を伴う
屈曲一内転一外旋パターン
・歩行:遊脚相(加速期)の促通
・階段昇降動作の促通
・浴槽の出入り動作の促通
・障害物を跨ぐ動作の促通
・下肢伸筋痙性パターンの抑制
・スポーツの腿上げ動作の促通
⑥膝の伸展を伴う
伸展一外転一内旋パターン
・立ち上がり(床・椅子から)動作の促通
・立位時の足外反・底屈の促通
・歩行:立脚相後期の促通
・立脚相の足内反抑制
・下肢屈筋痙性パターンの抑制
・スポーツの蹴る動作の促通
⑦膝の屈曲を伴う
屈曲一外転一内旋パターン
・分回し歩行の抑制
・浴槽の出入り勤作の促通
・遊脚相の足内反抑制
・下肢伸筋痙性パターンの抑制
・階段昇降動作の促通
⑧膝を伸直した
伸展一内転一外旋パターン
・立位時の股・膝伸展の促通
・立脚相の踵接地期の促通
・歩行の推進力の促進
・下肢屈筋痙性パターンの抑制
・スポーツの助走の踏切り動作の促通
⑨頭・頚部の回旋を伴う屈曲 ・起き上がり動作の促通
・サッカーのヘディングの促通
※あくまでPNFパターンを学ぶとっかかりとして「こういう動作に似ているな」程度のイメージを持つのに上記一覧表を活用してみてほしい。
特に前半部分に関しては、PNFに限らず、「同じ運動であっても、アイデア次第で様々な能力を引き出すことが可能」という意味で運動療法全般に言えることである。
同じ運動でも姿勢や環境を変えれば使う能力が変化する。
※極端な場合、「同じ歩行」でも「リハ室」か「病棟」か「屋外の不整地か」で大きく使う能力(認知面なども含む)は異なってくる。
※そして、ある課題が達成できたら、ドンドンとこれらを変えていくことが望ましい。
是非、クライアントに適した運動療法を編み出すために、活用してみてほしい。
DVD:高齢者のためのPNF(医道の日本社)
ここから先は、具体的なPNFにおける関連記事を列挙していこうと思うが、その前に『医道の日本社』が紹介しているPNFのDVD動画を掲載しておく。
以下は、『DVD:高齢者のためのPNF(ロコモティブシンドロームへのアプローチ) 』の動画となる。
PNFパターンだけでなく、症例(この動画では脊柱管狭窄症)に対するPNFの活用も紹介している。
※四肢のPNFパターンは多関節へ螺旋的な刺激が加わるため、高齢者のように関節不安定性や可動域制限が混在していたり、筋弱化が弱化が顕著だったり、疼痛が誘発されやすかったりなケースも多いため、これらの点に十分留意しながらのパターンコントロール・負荷量の調整が必要となる。
※一方で、体幹(骨盤や肩甲帯)のPNFパターン(組み合わせも含む)は高齢者にも活用しやすい。
※また、PNFは「PNFパターンだけで成り立っている訳ではない」ので非常に応用の効くコンセプトだと思う。
※ちなみに動画に登場するロコモティブシンドロームという用語に関しては以下を参照
ではでは、以降はPNFを活用する上での具体的な関連記事を列挙して終わりにする。
PNF(固有受容性神経筋促通法)の関連記事
以下が、PNFパターンの関連記事となる。
PNFパターンを徹底解説
上記リンク先は、「PNFパターンのまとめ一覧」的な要素も持っており、以下の記事にもリンクされている。
なので、「PNFパターンの概要ではなく、各々の詳細を知りたい」と思っている方は、以下の記事に直接ジャンプすることも出来るので、クリックして進んでいただきたい。
次に、PNF特殊テクニックに関して「動筋テクニック」と「拮抗筋テクニック」に分けて以下に解説してる。
「PNF特殊テクニック」などと表現されると仰々しいが、読んで頂ければ、一般的なリハビリ(理学療法)にも活用できる要素である点が理解してもらえると思う。
実際問題として、PNFパターンは「厳密にマスターしようと思った場合」は講習会などで実技練習をしなければ上達しない要素がある。
一方で、PNF特殊テクニックは(重複するが)一般的なリハビリ(理学療法)でも活用できるので、(PNFに興味がある人も、無い人も)是非とも一読してみてほしい。
PNFの動筋テクニックを解説!
PNFの拮抗筋テクニックを解説!
また、PNF特殊手技に分類されるもののうち、リラクゼーションテクニック(ホールドリラックス・コントラクトリラックス)だけは、別記事として以下に記載している。
PNFのホールドリラックスとコントラクトリラックス(+違い)
※PNF法における「関節可動域を改善させるテクニック」はホールドリラックス・コントラクトリラックスがイメージされ易い。
ただし、「PNFの拮抗筋テクニックを解説」という記事内で記載しているスタタビライジングリバーサル・リズミックスタビリゼーションは(安定化させるのが主目的ではあるが)、使いようによっては「固定点と可動点」いった考えを用いることで可動域改善にも応用できるためリラクゼーションテクニックにも分類できると言っている人もいる。
※とは言っても、直接法としてシンプルだし、特にホールドリラックス(っというか等尺性収縮後弛緩テクニック)はリハビリ(理学療法)で活用している人も多いのではと思う。
なので、当たり前すぎるかもしれないが、おさらいという意味で観覧して頂きたい。
ちなみに、等尺性収縮後弛緩テクニックは『Ib抑制を利用したテクニック』であり、PNF法のみならず様々な学派が同様なテクニックを提唱している。
※例えば徒手療法では『PIR』が有名であったり、オステオパシーでは『MET』が有名である。
そして、PIRでは「軽微な刺激でもIb抑制は生じる」ということから(極論として)5g程度の収縮で構わないとも言われている。
そんなIb抑制に関する最新の知見は以下を参照してほしい。
PNFにも活用されるIb抑制に関する最新の知見
また、PNFにおける等尺性収縮後弛緩テクニックとしては、前述したようにホールドリラックスをイメージしやすいが、それ以外にも様々存在しており、それらは以下で解説している。
PNFの等尺性収縮弛緩テクニックまとめ
おまけとして「PNFストレッチング」なるものの記事も作成しているので、興味がある方は観覧して頂きたい。
PNFストレッチングって何だ?
PNF(固有受容性神経筋促通法)の雑記
あまり重要ではない、PNF(固有受容性神経筋促通法)に関する雑記が以下となる。
介護にも使える?PNFが読売新聞に紹介された件
読売新聞にPNF法が紹介されていたので、その内容の引用を中心とした記事となる。
一般(介護)向けに出版されているPNF書籍に関しても紹介している。
学生時代のPNF
「PNFパターンを習得しなければ不合格(=卒業させてくれない)」という何とも理不尽な授業があったという思い出話が中心な、何のこっちゃない記事である。
知っておいたらPNF法の活用に役立つ知識
ここでは、PNF法を実施するにあたって知っておいて損は無い運動学の記事となる。
運動単位の動員とは?
「過負荷の原則」と「特異性の原則」
筋の収縮様式(求心・遠心・静止・等尺・等張・等速性収縮)
インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニング