この記事では、リハビリカルテ(診療記録)を記載する際の考え方である『SOAP方式』について解説している。
記載例も紹介しているので、リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)や看護師さんは、書き方の参考にもしてみてほしい。
目次
SOAP方式とは
SOAP方式とは以下を指す。
でもってSOAP方式は、リハビリ職種のみならず、医師・看護師などの職種も活用しており、もっと厳密に表現するなら以下となる。
ただし、今回解説するSOAP方式に関しては、「単なるカルテ記述法」つまりは理学・作業療法士が「実際に行ったリハビリ内容(評価なども含む)」や「実施した時間帯」などを記載する「理学療法診療記録」や「作業療法診療記録」(臨床では「リハビリ診療録」「リハカルテ」「リハ記録」と呼称していることが多い)にフォーカスした記事である点には注意してもらいたい。
POSに関しては、以下の記事で深堀しているので、興味があれば観覧してみてほしい。
S・O・A・Pそれぞれの意味
SOAP方式における「S」・「O」・「A」・「P」それぞれの意味は以下の通り。
- S(Subjective data)⇒患者の主観的情報:
患者の主訴、受傷機転、症状の変化など、患者の主観的内容をできるだけ患者が表現するままに記載する。
- O(ObjectiveData)⇒客観的な情報:
医師やリハ関連職が行った、臨床検査結果、各種機能評価などの客観的データを記載する。
- A(Assessment)⇒評価:
評価(assessment)は「主観的または客観的情報から得られる個々の問題に対する経過の総括的評価」であり、医学的鑑別診断も含まれる。
『評価(assessment)』という用語が使われているのでピンときにくいが、「S」「O」の内容を統合、解釈、考察し、次の新たな評価・治療の計画を立案するために活用される。
- P(Plan)⇒計画:
「A」の総合評価に基づいて、問題点をいかに解決するか、その方針(plan)を決める。
例えば、今までの治療方針やリハビリプログラムを継続するか、または、修正、変更するかなどについて記載する
ちなみに、理学療法の教本(理学療法評価学)では、A(assessment)を「評価」ではなく「判断」と表現している。
この様に表現している教本は少ないが、実際に理学療法士・作業療法士がSOAP法における「A」に記述する内容を考えると、アセスメントを「評価」ではなく「判断」と置き換えたほうが妥当だと思われる。
主観的データ(S=subjective data):
患者が直接提供する主観的な情報を記載する。
客観的データ(O=objective data):
医師やその他の医療スタッフより提供される客観的な情報を記載する。
判断(A=assessment):
医師やその他の医療スタッフによる判断を記載する。
計画(P=plan):
判断に基づいて患者への診断や治療指針および患者教育などを記載する。
もっと噛み砕いてた表現としては以下になる。
- S(Subjective data):患者の主訴
- O(Objective data):医療者が見立てた所見
- A(Assessment):SおよびOからどのように考えたのか(プランを導きだした理由)
- P(Plan):Aに基づいて導いた治療計画
でもって、主観的情報・客観的情報・評価・計画といった用語で考えるとSOAPを複雑化されてしまうので、上記の噛み砕かれた表現でSOAP方式を覚えておくと活用しやすいと思う。
また、少し変わった切り口でSOAPを捉えると以下の様に表現することも出来る。
- SとOが患者の情報
- AとPが医療者側の考えと行動
※SとOに患者以外の情報を混ぜ込まないように。
※AとPに患者の情報を混ぜ込まないように。
※そうしないと、「SOAPのバランス感覚」が分からなくなってしまう。
ちなみに、SとOが「同じ患者さんの情報」であるならば、なぜ分ける必要がるのか?と思う人もいるだろう。
でもって、分ける理由は以下になる。
要は、主訴(主観的情報)と評価(客観的情報)が必ずしも一致するとは限らないため、同じ「患者情報」であってもSとOで分けて考えたほうが良いとされている。
関連記事
⇒『(HP)理学療法士が知っておくべき問診のポイントを解説!』
リハビリ職種(理学・作業療法士)がSOAPを活用する際の疑問点
SOAP方式はそもそも医師のために考案された(POSの一環としての)カルテの書き方である。
でもって、医師が問診時にSOAP方式でカルテ記載を行う際は、AとPは以下の解釈で問題ない。
- A(assessment)⇒『評価』
- P(Plan)⇒『計画』
ちなみに、医師によるAには、「SやOを総合した評価」として診断的な役割も果たされる。
具体例としては以下の通り。
ただし、このSOAP方式を他職種が、そっくりそのまま医師と同様な書き方をしようとすると、疑問が出てくる。
でもって、ここから先は以下の2つの疑問に関してツッコミを入れていく。
- 疑問点①『P(plan)』を既に実行してしまっている。
- 疑問点②『リハビリを実施した際の効果判定は、どこに記載?』
疑問点①:『P(plan)』を既に実行してしまっている
(何度も重複するが)SOAP方式はそもそも医師のために考案された(POSの一環としての)カルテ記載法である。
でもってリハビリ職種(理学療法士・作業療法士)も前述した例などの流れでSOAP方式を活用しようと思った場合には、無理が出てくるというか、ひずみが起こる。
その一番の原因は、医師とリハビリ職種における以下の違いである。
医師:
S・Oなどをカルテに書きながら、考えをまとめていく(A:assessmentしていく)。
そしてAに基づいた治療計画(P:plan)を、カルテに記載しながら立案する。
リハビリ職種:
S・Oなどの情報を収集をしながら、(カルテを書きながらではなく)頭の中で考えをまとめていく(A:assessmentしていく)。
そして、Aに基づいたリハビリ計画(plan)をその場で実施する。
そして、これら一連の過程(SOAP)を、リハビリ後にカルテへ記載する。
つまり以下の違いがある。
- 医師⇒カルテを記載しながら治療方針を決定する
- リハ職⇒リハビリ方針を決定(尚且つリハビリも実行)した後に、カルテへ記載する
重複するが、リハビリ職がSOAP方式を活用する際に、以下が書き方をややこしくしていると感じる。
でもって、実行してしまっているものは、もはや計画(Plan)とは呼べない。
疑問点②:リハビリ(理学療法・作業療法)を実施した際の効果判定の記載はどこに?
医師によるSOAP方式として以下を例として前述した。
でもって、医師の立案したPlanの効果判定は、次回の受診日に成されることとなる。
※例えば、処方した鎮痛薬は効果があったか、指示したリハビリはどうだったかなど。
しかし一方で、理学療法士・作業療法士による効果は(効果の持続性などに関しては次回の確認事項だが)、即自的な効果に関してはその場で分かる。
にも関わらず、SOAP方式はP(plan)で終わってしまっているので、「その日にPlanを実施して、効果はどうだったか」という点の記載はどこにすれば良いのかという疑問が残ってしまう。
※これは『P』を「実行したリハビリ内容を書く項目」と考えた場合の疑問。
リハビリ職種(理学・作業療法士)がSOAPを活用する際の解決策
先ほど、SOAP方式を理学療法士・作業療法士が用いる際の疑問点として以下を挙げた。
・医師と異なり、『P(plan)』を既に実行してしまっている。
・リハビリ(理学療法・作業療法)の効果判定を記述する場所が分からない。
上記の様に、「医師のために考案されたSOAP方式」をリハビリ職種(理学療法士・作業療法士)が活用しようと思った場合、前述したように疑問点が湧いてきて、戸惑う場面も出てくる。
でもって、「その日にリハビリ職種が実施した内容」をどこに記載するのかに関して、この記事では「様々存在する考えの一つ」として以下の2パターンについて紹介する。
パターン①:『O』に実施した内容を記載するという考え
パターン②:『P』に実施した内容を記載するという考え
パターン①:『O』に実施したリハビリ内容を記載するという考え
疑問点を記載した項目で、以下の様に述べた。
例えば医師は、診断をすることも目的に治療(注射や投薬など)を行うことがあり、これを『診断的治療』と呼ぶ。
でもって、理学療法士・作業療法士も様々仮説検証作業をする中で、問題点の抽出や、適切な介入方法(運動療法・徒手療法・日常生活指導など)を模索していくのだが、
この際の「仮説検証作業」の中で用いられる様々な行為には『試験的治療』と呼ばれるものも含まれる。
そして、これら仮説検証作業によって好反応が得られた介入方法によって『P(plan)』を立案する。
でもって、その『P(plan)』の中には以下が含まれる。
- 日常生活指導や自主トレーニングを指導の内容
- 次回に予定しているリハビリ内容
ちなみに、患者情報(S・O)を参考にしたり、仮説照明作業をしつつ、これらの情報を基にA(assessment)⇒P(plan)へと思考を進めていくことを、理学療法士・作業療法士の間では、『クリニカルリーズニング』と呼ぶ。
関連記事⇒『クリニカルリーズニング(臨床推論)って何だ?』
前置きが長くなったが、ここからが本題である『パターン①:「O」に実施した内容を記載するという考え』に関する内容となる。
ここまで解説してきたように、「医師が実施する診断的治療はOに該当する」のだが、これをリハビリにも当てはめた場合、「理学療法士・作業療法士が実施する試験的治療・あるいは仮説検証作業もOに該当する」という解釈もできる。
何だか分かりにくい言い回しをしているので、もっと簡潔に表現すると以下になる。
でもって、その反応も含めて「A」で考察を行い、
次回のリハビリ(理学療法・作業療法)計画として「P」を記載する。
つまり「P(plan)」には、あくまで「次回の計画」を記載するのであって、既に実行した内容(理学療法や作業療法)は「O(Objective data)」に含めるという考えだ。
この点に関して、『診療記録の書き方【理学療法学,第39巻,第3号,200~205頁(2012年)】』より以下を引用しておく。
※赤文字がポイントとなる。
S(Subjective):
S(Subjective)は患者が提供する主観的情報であり、患者または家族の訴え(感情や態度を含む)を原則としてその表現に近い形で記戦します。
患者の発言をただそのまま記載するのではなく、ひとつの信頼しうるデータになるような内容を記載します。
初回であれば、患者のもっとも訴えたいことはなにかを聴取して、その訴えからどんな病状や病態なのかを推論し評価へとつなげていきます。
また2回目以降は、前回の治療の効果はどうであったかを聞くことで、効果判定の評価のひとつになります。
もし、経過が順調であり、患者からの訴えがない場合は、症状による経過確認をします。
また、不定愁訴が多く自覚症状がはっきりしない場合は、患者の訴えと今までの経過を統合して解釈していきます。
O(Objective):
O(Objective)の客観的情報は確かめられた事実を記載します。
意識レベル、バイタルサインをはじめ、各種理学療法における検査測定や評価の結果からADL能力や家屋調査の内容まで客観的情報はすべて含まれます。
また、理学療法プログラムも記載します。
A(Assessment):
A(Assessment)は統合・解釈、考察であり、「S」や「O」の情報より得られるセラピストの判断や考察を記載します。
患者の問題点が改善に向かっているか、不変か、悪化に向かっているかを判断します。
いかなる判断であっても、なぜそのように判断したのかの理由を考察する必要があります。
P(Plan):
P(Plan)の治療計画は「A」に基づいて治療方針の存続や変更を決定し、今までの計画通りでよいのか、今後どのような予定・計画があるのかを記載します。
現在の治療プログラムに不十分あるいは不要なものがあれば、プログラムを変更します。"Program"でばなく"Plan"であるため、当日、実施した理学療法プログラムはObjectiveに記載することが適当であると考えられます。
~臨床入門講座『根本からわかりやずく学ぶ』第5シリーズ「診療記録の書き方」,理学療法学,第39巻,第3号,200~205頁(2012年)より引用~
カルテ記載の一例として、(かなり教科書的な記載になるが)以下も『理学療法学 第39巻 第3号』より引用。
※赤文字は、当日リハビリで実施した理学療法プログラムを示している。
※つまり、実施した内容は『O』に記載されており、『P』では次回の計画が記されている。
S |
痛みはなくなったが、動けない。右足がだんだん痺れてきた。 |
---|---|
O |
理学療法評価)安静度変化なし。意識レベル:JCS Ⅰ-Ⅰ。バイタルサイン:PT前、血圧132/76mmHg 、脈62回/分、呼吸数20回/分、呼吸状態良好。PT後、血圧136/78mmHg、脈66回/分、呼吸数21回/分その他気分不良等なし。コミュニケーション:著変なし。MMT:右前脛骨筋・長母趾伸筋2レベル、その他著変なし。ROM-T:右足関節・足趾・左下肢・両上肢可動域制限なし。感覚:右腓骨神経領域表在感覚に軽度鈍麻あり(Numerical Rating Scalel~2/10)。その他感覚異常なし。疼痛:なし。基本動作:著変なし。理学療法プログラム(11:00~11:20,15:40~16:00 運動器リハビリテーション2単位)#1関節可動域運動:右足関節・足趾. #2筋力維持・増強運動:左下肢・両上肢・体幹(腹筋のみ). #3廃用予防運動:両足関節底背屈運動による循環機能維持. #4ポジショニング実施。※腓徹神経領域の神経障害に関して直ちに医師に報告。直後に医師によりラバー牽引調整実施。 |
A |
右腓骨神経領域の神経障害が疑われる。他は経過良好である。神経障害等に引き続き注意し、手術まで廃用予防・改善を中心に現行プログラムを実施していく。 |
P |
神経障害等に引き続き注意し、手術まで廃用予防・改善を中心に現行プログラムを実施していく。 |
このSOAP方式のメリット・デメリット
このSOAP方式のメリットは以下だと思う。
『O』に実施したリハビリ内容も記載するので、『A』で効果判定を含めた考察を行い、それを基に『P』で日常生活指導や自主トレーニングの記述が出来る。
また、(本来の目的でもある)次回の計画も『P』に盛り込める。
一方のデメリットとしては以下だと感じる。
『P』は「次回の計画」を意味するが、急性期で状態がその都度変化したりで「その場その場(つまり当日)の臨機応変さ」が求められることも多い(わざわざ次回の計画を立てるメリットが少ない)。
あるいは維持期に関して、『書籍:図解 訪問理学療法技術ガイド』では以下の様な記述もある。
いわゆるPOS(Problem Oriented System:問題志向型システム)として「SOAP方式」の記録が目標・課題・対策のつながりを意識した記載方法の主なものといえるが、訪問リハビリの実施内容と方法については看護師の処置業務とは異なり、同一目的でも方法が多種にわたることが多い。
また、アプローチの目的が一つの課題・主訴に限らないこともある。
毎回同じ主訴などを書いていては効率も悪いため、単にSOAP形式での記載を推奨するものではない。
しかし、在宅ではさまざまなことを行わなければならず課題も複雑になりがちである。
また、長期間の訪問となると目標は定まっているものの、そこに向けての状況、状態の生理が不明瞭になり、対応策も漠然としたものになることも懸念される。
※まぁ、上記はパターン①というよりもSOAP法自体のデメリットと言える。。。
パターン②:『P』に、実施したリハビリ内容を記載するという考え
前述したパターン①こそが、教科書的であり、王道な「SOAP方式を理学・作業療法士が活用する際の方法」なのだと思う。
しかし、必ずしも上記の方法でカルテを記載している病院・施設ばかりではないだろう(むしろ少数派なのではと思うのだが、どうだろう?)。
でもって、リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)では、Pを(Planではなく)『Program』と考え、リハビリ内容を列挙し、最後に(実施したという意味で)doを付け加えるといった書き方をするセラピストは多いのではないだろうか?
例えば以下な感じ(ちなみに私もこのような使い方をすることは多い)。
厳密には、この(実施したという意味での)doの使用も誤りなのだが、
そもそも医師のために考案されたSOAP方式を、医師とは異なった形態で他職種が活用しようと思った場合、様々な解釈が生まれ、病院・施設によっても記載方法が異なってきたりする。
どうでも良い話だが、doに関しては以下も参照。
「do」を使ってはいないですか!?
日々の経過記録の中で「PTプログラム①②do」という記録をしていないでしょうか。
これはおそらく「経過記録の同ページに書かれている理学療法を同じように行った。」という意味に解して使用しているものと思われます。
しかし、この「do」は行ったという意味ではなく、"ditto[ditou]"という、「前に同じ」という意味の英語(副詞)の略語です。
そのため、医師が診療録に「前回と同じ処方」という意味で慢性疾患に対する患者への薬の処方等に対して、「do」と記載してはいないでしょうか。
このように本邦での診療録や診療記録に当たり前のように記載されている言語が、英語と思っていたものがラテン語の略語であったり、あるいは「ムンテラ:Mund Therapie」というドイツ語の造語であったりする等、ラテン語、英語、ドイツ語、さらには略語や造語が混在しています。
診療記録が公的な記録であるためには、私たち医療従事者が、なんの疑問も感じず使っている言語について見直すことも必要と思われます。
~臨床入門講座『根本からわかりやずく学ぶ』第5シリーズ「診療記録の書き方」,理学療法学,第39巻,第3号,200~205頁(2012年)より引用~
『P』に実施内容を記載すると、思考の整理が飛躍的に上昇!
・・・・話をdoからSOAPにもどす。。。
何度も記載していることだが、そもそもSOAP法は医師のために考案されたカルテ記載法である。
でもって、医師と他職種とではカルテを記載するタイミングが異なるので、他職種が医師と同じようにSOAPを活用しようとすると、ややこしくなる。
医師:
S・Oなどをカルテを書きながら、考えをまとめていく(A:assessmentしていく)。
そしてAに基づいた治療(P:plan)をカルテを、書きながら立案する。
リハビリ職種:
S・Oなどの情報を収集をしながら、(カルテを書きながらではなく)頭の中で考えをまとめていく(A:assessmentしていく)。
そして、Aに基づいたリハビリ(plan)をその場で実施する。
そして、これら一連の過程(SOAP)を、後でカルテに記載する。
なので、『A(assessment)』を(評価ではなく)『判断』と訳して(表現して)いる教本も(少数ではあるが)存在している点も前述した。
医師やその他の医療スタッフによる判断を記載する。
これらの点を踏まえて、以下の様に記載している書籍もある。
Sは患者さんの主訴、Oは医療者が見立てた所見と単純に理解してください。
そしてAとPが医療者の考えたことと行ったことになりますS.O.A.Pそれぞれの日本語訳である主観的情報・客観的情報・評価・計画という言葉はぜひ忘れてください。
この日本語訳に捉われてしまうと本質が見えなくなることがあります。
情報が主観的かどうか、客観的かどうかは関係ありません。
患者さんが訴えていることがSであり、医療者が見て取った状態(所見)がOなのです。
またAで何か特別な評価をしなければならないわけではありませんし、Pは将来の計画ではなくて、その場で考え、そしてすぐに実行した内容になります。
これは特に頭の中でPOSを行う医師以外の職種にとって、重要なところになります。
頭の中で考える場合には、SとOからどのようなケアをしようと考えた(=P)のかとその理由(=A)でSOAPのバランスが取れるのですが、それをPOMRでそのまま記録すると、時間軸がずれるため、記録上ではPは「行ったことの記録」になります。
計画という日本語訳に捉われてしまうとPが「行ったこと」になるということがわからなくなってしまいますので、ここはよく理解しておいてください。
~『書籍:SOAPパーフェクト・トレーニング』より引用~
この書籍による『P』の解釈は「今後実施する計画」ではなく「実施した内容」を意味する。
なのでカルテには、患者の情報収(S・O)を基にA(assessment)をして、実行したリハビリ内容(P)を記載するという考えである。
例えば以下な感じ。
1月20日
- S:今朝起きたら歩けないくらい膝が痛くなっていた。なぜ痛くなったか原因はわからない。
- O:膝軽度腫脹。熱感あり。立位・歩行で左膝へ荷重痛出現。
- A:軽度関節炎の疑い。誘因なく生じた急性痛であり、再び誘因なく再発する可能性あり。
- P:本日のリハビリは中止し、経過観察する。
1月21日
- S:痛みなくなる。歩いてトイレまで行けた。
- O:腫脹。熱感消失。立位・歩行時の荷重痛消失している。
- A:膝の症状改善を認める。ただし、誘因不明な疼痛なため、本日は非荷重位での理学療法を中心に実施し、症状が再燃しなければ明日から荷重位でのリハビリを再開する。
- P:ベッドサイドでの関節可動域訓練、非荷重位での下肢筋力増強訓練
上記では『P』には「次回に実施予定な内容」ではなく「実施した内容」を記載している。
このSOAP方式のメリット・デメリット
このSOAP方式のメリットは以下だと思う。
・自身の思考を整理しやすい
・読み手にも分かり易い
個人的には、こちらのSOAP解釈の方がメリットを多く感じるし、多くの理学療法士・作業療法士はこのスタイルなのではないだろうか??
ただし、このSOAP方式のデメリットも存在し、それは以下だと感じる。
例えば、膝痛に対して徒手療法・運動療法などを施行したとする。
でもって、これらのリハビリが「長期目標の達成を狙ったもの」であれば問題ないかもしれないが、「即自的変化を狙ったもの」であれば実際に変化が起こったのか(あるいは、変化の程度なども含めて)は記述しておきたい所である。
この点は、前述した「パターン①:『O』に実施したリハビリ内容を記述する」であれば『A』に記載できるのだが、パターン②のSOAP方式では記載できない。
『E』を付け足しSOAPEにすると、デメリットが解消できるよ
前述した「実施したリハビリの効果判定を記載する場所がない」という疑問を解決する方法がある。
それは、SOAPに『E(effect)』つまりは『効果』の項目を付けたし『SOAPE』にするという方法である。
これは、『文献:リハカルテ活用ハンドブック』に記載されているアイデアで、他の書籍や文献では出てこない記載方法ではあるのだが、『E(effect)』を付け足すというのは腑に落ちる考えだと感じた。
リハカルテハンドブックには、『E(effect)』をSOAPに付け足すこのとメリットについて以下のように記載されている。
E(effect)を記載するメリット:
PT・OTの行ったリハビリ(専門的な手技や特殊な方法)の効果について、そのプログラムの内容確認後に、ただちに文面で知ることができ、効果の高い治療を選択できる。
また、リハビリの治療は「評価(アセスメント)」の後、即座に「治療」を実行し、その治療結果を再度「評価」することを治療時間内に繰り返している。
1回の治療手技や数分の運動療法、物理療法(ホツトバックやアイシング)やテーピングで効果判定しているため、最後に実施したプログラムの効果判定としての「E:effect」の項目を追加した。
これらの工夫は、他部門のスタッフではなく交代で治療を受けもつことになる実施者(カルテ記載者)以外のPT・OTには非常に重要な部分となる。
また、総括的な治療の検証にも役に立つ。
他にも色々なSOAPの変法があるよ
前述した「SOAPにE(effect)を付け足す」というのは「王道なSOAP」ではなく、「変法なSOAP」である。
でもって、この様な「変法SOAP」は他にも存在する。
例えば、前述した『書籍:リハカルテ活用ハンドブック』では、「SOAP+E」から更にRを付け足すアイデアを紹介している。
RとはRemarkの略であり、以下を意味する(らしい)。
現在の機能回復の状態治療の目的、目的達成までの進捗度、さまざまな予定日、具体的にゴールした内容、リスクにかかわる制限、顕著な変化などのスタッフが把握しておかなければいけない「共通した重要事項」をその日のリハ記録の書き出し(行頭)に「Remark(R)」としてつける「R-SOAP法」でカルテを記載している。
SOAPの冒頭にH(history)を付け足すといった考えもある(初回のリハビリ時のみ記載)。
このアイデアは『徒手理学療法の実際(理学療法学,第35,巻42号,193-196,2008)』に掲載されていたものである。
ちなみに、ここでいうH(history)は『病歴』を指し、以下の様な記述をしていく。
24年前(16歳)重いものを運び腰痛発症。
19年前(21歳)右下肢後面外側にシビレ出現。
スポーツにて緩解していたため放置。12年前くしゃみにより急性腰痛発症、SLR 30°、MRIにて右L55/S1の椎間板ヘルニアの診断、右下肢全体の疼痛出現、歩行しようとすると疼痛増強し、歩行困難となる。硬膜外ブロックと知り合いの整体院にて施術を受ける。以来、緩解と憎悪を繰り返す。
1年前急性腰痛発症、MRIにてL2/3、L4/5のヘルニアの診断。座薬と整体にて2週間程度で緩解した。
また、この文献における『A』と『P』は、各々が#で関連付けされながら記述されている。
A)
考えられる機能異常として、
♯1左L5/S1・L4/5と右L5/S1・L4/5・L3/4の椎間関節の可動性低下
♯2右仙腸関節の可動性低下と右寛骨の後傾変位
♯3右梨状筋の短縮
♯4これらの結果生じた坐骨神経の可動性低下と絞扼症状
P)
♯1に対して①マリガンコンセプトのSNAGS(持続的椎間関節自然滑走法)伸展運動②回旋モビライゼーション
♯2に対して③右寛骨前傾モビライゼーション
♯3に対して④梨状筋の深部マッサージとストレッチング
♯4に対して⑤神経モビライゼーション
を実施し、症状の改善をみた。
自己治療として、⑥姿勢とADL指導⑦腹臥位での腰椎伸展運動⑧立位での自己SNAG伸展を指導した。
ちなみに、『P』では「症状の改善をみた」との記述がなされており、Plan(problem)に対するeffect(効果)に関してもシレッと記述が成されている。
個人的なSOAPの書き方
ここまで記載してきたように、「王道的なSOAP法」が存在する一方で、文献によって「自身が使いやすいように様々に発展、解釈されたSOAP法が存在する」ということも理解してもらえたのではないだろうか?
でもって、カルテの書き方は院内で共有できることが前提なため、院内で統一された書き方であれば、原則から外れていても(活用しやすいのであれば)それで構わないのだと感じる。
個人的なSOAPの書き方
私個人は、以下の様なSOAP法でカルテを記述している。
S:対象者の主観的情報
O:対象者の客観的情報(基本的に「実施した治療」は記載しない。ただ、試験的治療を施した際はその結果も一緒に記載することもある)
A:S・Oの情報を自身がどの様に吟味したか、そして度の様なアプローチが適しているかの回答を導き出すまでの過程。ここでは「これから実施するリハビリの根拠」だけを記載することもあるし、「今後の方針(長期的な方針)」も合わせて記載することもある。
P:Aによって導き出されたProgram(実施した内容)を記載。
でもって、次回に同様なアプローチをするのであれば、『P』の項目には、例えば「1ー4ex-do」といった記述をすることもある。
個人的に重要視しているのは『A』である。
ここが論理的に記述できるという事は、クリニカルリーズニングしながら臨床が実施出来ていることを意味していると感じるからだ。
SOAPにおける『A』の重要性
この記事の最後にSOAPにおける『A』の重要性を記載して終わりにする。
SOAP方式の一番の特徴は何かと言われれば、それはA(アセスメント)があるという点である。
SOAP方式が開発されるまでのカルテでは、アセスメントの記述は存在しなかったと言われている。
この「アセスメントを明記する」ということをルールづけたために、それまでいわばブラックボックスであった「どんなことを考えてこの治療を選択したのか」ということが、ほかの医療者が見ても明らかにわかるようになったのです。
これは一切ごまかしがきません。
深く考えもせずに「とにかくこれをやっておこう」というようなことができなくなります。
したがって、このようにルールづけをするだけで、医療の質が向上する結果が期待できるということなのです。
「アセスメントがある」ということは、経験の浅い者への教育効果も期待できます。
ベテランの医師がどういう理由でこのような治療を行っているのか本人に聞きにいかなくても、カルテを見るだけでわかるようになったのです。
カルテそのものが生きた教科書になるわけです。
POSが「診療をレベルアップさせるためにシステム」であるとともに「医学教育のためのシステム」ともいわれる所以はここにあります。
これは医師以外の職種でも全く変わりません。
ベテランの方、あるいは教育的立場にある方の記録は、それ自体が生きた教科書となるのです。
~『書籍:SOAPパーフェクト・トレーニング』より引用~
最初は上手くできなくとも、この記事で紹介してきたようにSOAP方式で論理的に考える癖をつけておけば、自然とクリニカルリーズニング能力は高まると思うので、是非挑戦してみてほしい(とくに『A』を重要視して)。
参考文献
主な参考文献は以下になる。
・理学療法評価学
・図解 訪問理学療法技術ガイド
・リハカルテハンドブック
・臨床入門講座『根本からわかりやずく学ぶ』第5シリーズ「診療記録の書き方」
・徒手理学療法の実際(理学療法学,第35,巻42号,193-196,2008)
・SOAPパーフェクトトレーニング
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