この記事ではFIM(機能的自立度評価表)の『移動の2項目』に関する採点基準を解説していく。
目次
FIMにおける移動(locomotion)の項目について
FIMにおける移動2項目は以下の通り。
・歩行・車椅子駆動
・階段
※移動2項目は、FIMにおける「運動13項目」に含まれる。
※でもって、「認知5項目」と合わせてFIM点数を算出する。
ではでは、順に記載していく。
移動{歩行・車椅子(walk・wheelchair)}の採点基準
FIMにおける移動{歩行・車椅子}の評価範囲
FIMにおける移動(歩行・車椅子)の評価範囲は以下の通り。
・歩行 ⇒立位の状態からの移動
・車椅子⇒座位の状態からの移動
ちなみに、「歩行」をするためには座位から「起立」する必要であるが、この「起立」は評価対処とならない。
※起立は『移乗(ベッド・椅子・車椅子』に含まれる。⇒『FIM(移乗)の採点基準』
移動の採点は「退院時の移動手段を想定した移動手段を入院時と退院時に評価することで改善度合いを比較する。
例えば、入院時に車椅子使用していても、退院時に歩行獲得が予想されれば、入院時に歩行を評価する。
もし、予想が立たなければ入院時に両方評価して、退院時に決定する。
上記のように入・退院時の移動手段を統一して採点しておかなければ、「入院によって基本的動作が改善された」にも関わらずFIMの点数は低下するといったことが起こり得る。
例えば、入院時は歩行困難で「車椅子駆動15m以上自立レベル」であったが、退院時は「介助者に支えてもらえば50m歩けるようになった」とする。
この場合、前者(車椅子)は5点で、後者(介助歩行)は3点であり、「リハビリによって元気になったのに、なぜかFIM点数は下がっている」ということになってしまう。
FIMにおける移動{歩行・車椅子}の採点基準
FIM点数は、歩行であっても車椅子であっても「50mの移動が可能か」を大きな目安にして以下の様に採点していく。
<50m可能>
7点( 完全自立)…介助なしで自立
6点(修正自立)…介助なしだが補助具が必要
5点(監視または準備)…監視が必要
4点(最小介助)…介助量が25%以下
3点(中等度介助)…介助量が25%以上
<50m不能>
2点(最大介助)…15m介助が必要、介助量が75%以下
1点(全介助) …15m介助が必要、介助量が75%以上
上記の介助量における目安は以下の通り。
歩行における介助量の目安
4点:患者に手を添える程度
3点:患者をしっかり支え、足の振りだしを介助する
2点:1人の介助者がどんなに介助しても15mしか歩行できない
1点:1人の介助者がどんなに介助しても15m未満しか歩行できない。または二人介助が必要。
車椅子駆動における介助量の目安
4点:
50m自走しているものの、歩行の微調整や、敷居の乗り越えに介助が必要
3点:
50mの直進駆動は出来るが、方向転換の度に介助が必要
2点:
15m駆動するのに多少の介助が必要(介助しても50mは困難)
1点:
車椅子駆動にかなりの介助が必要、あるいは全く自走していない
※歩行困難なだけでなく、車椅子が全く自走できない人も1点
※歩行困難でも、車椅子が自走できていれば1点ではない事もある(歩行・車椅子のどちらで採点するかによる)
歩行に関ては、「介助すれば50m歩行が可能な人」なのか、「介助しても50m歩行が不能な人」なのかで点数は異なってくるという点に注意してみてほしい。
例えば、以下の例を比較してみる。
①中等度介助をすれば50m歩行が可能な人(3点)
②50m歩行は困難だが、15mであれば最小介助で歩行が可能な人(2点)
前者は、比較的介助量が多い場合も「50m歩行ができる」のであれば3点となる。
後者は、比較的介助量が少ないが「15m連続歩行となると体力が持たない」のであれば2点となる。
ただし、(混乱するかもしれないが)移動項目における『5点』は、前述したように「50mを監視しておけば一人で歩ける」といった意味だけでなく、以下の特殊な意味も持っている。
『15m以上、50m未満の歩行自立は5点となる』
※つまり、「50mは(介助されても)歩くことは出来なくとも、15mであれば(介助・見守り無しで)歩ける」といったケースは5点となる。
この「5点の意味」も踏まえて、以下の点順に沿った採点を心がけてみてほしい。
手順①
50m以上介助者なしで移動できる場合は7点・6点。
※歩行における6点では、杖・下肢装具など補助具が必要なケースなどが想定される。
※あるいは自助具が必要なくとも、非常にゆっくり(通常の3倍以上の時間をかけて)独歩しているケースも6点となる。
※安全性の配慮が必要(廊下が込み合う時間を避けて歩くなど)な場合も6点
「介助者があれば50m歩ける場合」は、前述した採点基準を用いて採点する。
※つまり、5点(監視が必要)・4点(介助量が25%以下)・3点(介助量が25%以上)のいずれかの点数となる。
※50m歩けていれば、「どんなに介助量が多くとも3点よりは下がらない」ということになると考えて良いと思う。
「介助者がいても50m歩けない場合」は、以下の「手順2」に進む
手順②
50m歩けなくとも、15m以上は「介助者なしで歩ける場合」は5点と採点する
※本来、FIMにおける5点は「監視・準備が必要」な人が該当するが、移動に関しては「15m以上、50m未満の歩行が自立している(監視は必要ない)」というケースは5点に該当する。
「15m以上の距離を、介助者がいても歩けない場合」は、2点or1点になる。
2点…15m介助が必要、介助量が75%以下
1点…15m介助が必要、介助量が75%以上
上記は、途中から移動手段を「歩行」に想定して記載してきたが、「車椅子駆動」の採点基準も同様である。
移動{歩行・車椅子}の採点例
歩行において、「杖+下肢装具」っといった様に、複数の補助具を使えば50m歩行が自立しているケースは?
⇒複数の自助具を使おうが、一つの自助具を使おうが6点と判断。
下肢装具を着用すれば自分自立レベルだが、補助具の装着の介助が必要な場合の解釈は?
⇒「装具着用による歩行」は『移動』で採点するが、「装具を一人で着用出来るか?」は『更衣(下半身)の項目』で採点するので分けて考える必要がある。
※ただし、装具は衣服と異なり着用が難しい場合もあり、要介助でも5点(監視・準備レベル)までしか下がらない。
立ち上がりを介助すれば50m歩行可能が自立なケースは?
⇒「立ち上がり」は『移乗の項目』で評価するので、起立後に問題なく50m歩いているのなら、7点。
移動{階段(locomotion:stairs)}の採点基準
FIMにおける移動(階段)の評価範囲
FIMにおける階段評価の定義は以下になる。
『屋内の12~14段を昇降する』
つまり、階段の昇段・降段の往復が評価対象となる。
また、病院・施設であれば「普段はエレベーターを使うし、階段なんて昇らない」といったことは大いにあり得る。
でもって、FIMは「しているADL」の評価であるため、そうなると「普段、階段を上っていない人」はどうするのか?といことになる。
そんなことから、『階段昇降だけは、「しているADL」ではなく「出来るADL」として評価しても良いことになっている。
※「出来るADL」・「しているADL」に関しては⇒『ICFの活動と参加』を参照
つまり、階段を意図的に昇降させても良いという事になる。
なので、必要な段数がない施設は例えば、リハ室の簡易階段を往復した合計で12段と解釈しても良い。
例:4段しかない場合階段を3往復するなど。
FIMにおける移動(階段)の採点基準
FIMにおける階段の採点では、は、前述した『歩行・車椅子の採点基準』と似ており以下の2つに分けて考える。
・階段昇降が12~14段可能
※歩行における「50m歩行が可能」と似ている。
・階段昇降が12~14段不能・4~6段介助で可能。
※歩行における「15m介助歩行」と似ている。
なので、以下の記述が分かり難ければ、前述した「歩行・車椅子の採点基準」も合わせて参照してみてほしい。
<12から14段可能>
7点(完全自立)…介助なしで自立
6点(修正自立)…介助なしだが補助具が必要
5点(監視または準備)…監視が必要
4点(最小介助)…介助量が25%以下
3点(中等度介助)…介助量が25%以上
<12から14段不能、4から6段介助で可能>
2点(最大介助)…15m介助が必要、介助量が75%以下
1点(全介助)…15m介助が必要、介助量が75%以上
5点の解釈は、「歩行・車椅子での移動」と同様に、上記以外にも以下の特殊な解釈も持っている。
『4~6段の階段昇降が自立(監視も不要)であれば5点』
この点を踏まえた上での評価手順は「まず、何段昇降できるかを評価し、次に介助量の程度を評価する」といった順番になり以下の通り。
手順1:
(介助無しでも介助有りでも良いので)とりあえず何段昇降できるのかを確認。
手順2(12から14段可能な場合):
⇒3から7点となる→階段昇降に介助は必要か→いいえ 5から7点
手順3(12から14段不能な場合)
⇒1または2点となる。(ただし、4~6段自立なら前述したように5点と判断)
FIM関連記事
FIMの概要や他項目に関する情報も記載したまとめ記事としては以下がある。
この記事と合わせて観覧すると理解が深まると思う。