この記事は、高次脳機能障害の一つである『遂行障害』について解説している。

 

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遂行機能と遂行障害

 

遂行機能とは以下を指す。

 

日常生活でなんらかの問題に遭遇した際、それを解決していくために動員され
る、一連の複雑な認知・行動機能の総称

 

『遂行機能』は高いレベルの機能なため、(同じ高次脳機能障害である)注意障害や記憶障害があると、この機能も低下してしまう。

 

でもって、この遂行機能が障害された状態を『遂行障害(遂行機能障害)』と呼ぶ。

 

遂行障害は、「脳卒中の運動麻痺(手足が動かしにくい)」といった分かり易い障害ではないため、周囲の人からは「頼んだことを一つずつしかできないなど、時間がかかり、要領が悪い人」などと漠然とした印象をもたれることも多かったりする(まぁ、遂行障害の程度にもよるが)。

 

 

遂行障害のリハビリ

 

遂行障害に対しては、以下などの対応を身につけることが有効である。

 

・情報を分けて事前の準備を行う

・手順を言語化する

・事前に計画を立てる

・1つずつ順番に行う

・いきなりおこなわずに立ち止まって確認咲いてもらう

 

上記は『ゴールマネージメントトレーニング』と呼び、職業訓練アンドでよくおこな湧得る方法でもある。

 

※書き出す、貼りだす、周囲に聞くなども有効。

 

 

BADS(遂行機能障害の評価法)

 

遂行機能障害の評価法としてBADSを紹介していく。

 

BADS(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome)は、以下で構成される。

 

・実生活に類似した6種類の下位検査

・質問表(Dysexecutive Questionnaire:DEX)

 

実生活に類似した6種類の下位検査

 

「実生活に類似した6種類の下位検査」は以下の通り。

 

  1. 規則変換カード検査
  2. 行為計画検査
  3. 鍵探し検査
  4. 時間判断検査
  5. 動物園地図検査
  6. 修正6要素検査

 

 

 

下位検査 概要
1.規則変速カード検査 カードを用いた2施行からなる課題を実施し、注意や概念の変換を評価する。
2.行為計画検査 複数の物品を使用して、試験管内にあるコルクを取り出す課題を実施することで、系列動作を計画する能力や管理注意能力を評価する
3.鍵探し検査 最も効率的に鍵を探し出す道筋を記入する課題を実施し、行動計画能力を評価する
4.時間判断検査 明確な答えは存在しないが、日常的なことに要する時間を推測する課題を実施することで、常識的な範囲での推測力を評価する
5.動物地図検査 地図上でルールに従って、決められた数カ所を通過するルートを示す課題を実施することで、行動を計画する能力と失敗のフィードバックから行動を修正する能力を評価する
6.修正要素検査

ルールに従い,3種類の課題(口述、計算、絵の呼称)を実施することで、行動の計画性、組織化能力、自己監視能力、行動修正能力、展望記憶を評価する

引用)日本版BADS遂行機能障害症候群の行動評価(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome),鹿島晴雄監訳,三村 將ほか訳,2003

 

 

6種類の下位検査の解釈:

 

6種類の下位検査は、課題達成度と所要時間から0~4点の5段階で評価する。

 

でもって、6種類の下位検査得点を合計し、総プロフィール得点(24点満点)を求める。

 

この総プロフィール得点を、年齢補正した標準化得点に換算し、さらに以下の7段階に区分して評価する。

 

  1. 障害あり
  2. 境界
  3. 平均下
  4. 平均
  5. 平均上
  6. 優秀
  7. きわめて優秀

 

※点数が高いほど、遂行機能が高いと解釈される。

 

 

質問表(Dysexecutive Questionnaire:DEX)

 

質問表(Dysexecutive Questionnaire:DEX)は以下になる。

 

質問内容 まったくない たまに 時々 よくある ほとんどいつも
1.単純にはっきり言われないと、他人の言いたいことの意味が理解できない 0 1 2 3 4
2.考えずに行動し,頭に浮かんだ最初のことをやる 0 1 2 3 4

3.実際には起こっていないできごとやその内容を、本当にあったかのように信じ、話をする

0 1 2 3 4

4.先のことを考えたり、将来の計画を立てたりすることができない

0 1 2 3 4
5.ものごとに夢中になりすぎて、度を越えてしまう 0 1 2 3 4
6.過去のできごとがごちやまぜになり、実際にはどういう順番で起きたかわからなくなる 0 1 2 3 4
7.自分の問題点がどの程度なのかよくわからず、将来についても現実的でない 0 1 2 3 4
8.1ものごとに対して無気力だったり、熱意がなかったりする 0 1 2 3 4
9.人前で他人が困ることを言ったりやったりする 0 1 2 3 4
10.いったん何かをしたいと本当に思っても、すぐに興味が薄れてしまう 0 1 2 3 4
11.感情をうまくあらわすことができない 0 1 2 3 4
12.ごくささいなことに腹をたてる 0 1 2 3 4
13.状況に応じてどう振る舞うべきかを気にかけない 0 1 2 3 4
14.何かをやり始めたり、話し始めると、何度も繰り返して止められない 0 1 2 3 4
15.落ち着きがなく、少しの間でもじっとしていられない 0 1 2 3 4
16.たとえすべきでないとわかっていることでも、ついやってしまう 0 1 2 3 4
17.言うこととやることが違っている 0 1 2 3 4
18.何かに集中することができず、すぐに気が散ってしまう 0 1 2 3 4
19.ものごとを決断できなかったり、何をしたいのか決められなかったりする 0 1 2 3 4
20.自分の行動を他人がどう思っているのか気づかなかったり、関心がなかったりする 0 1 2 3 4

引用)日本版BADS遂行機能障害症候群の行動評価(Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome),鹿島晴雄監訳,三村 將ほか訳,2003

 

 

質問票(DEX)の解釈:

質問表(DEX)は20項目で構成され、0~4点の5段階で自己評定する。

点数が高いほど、遂行機能が低下していると解釈される。

 

ちなみに、冒頭で「遂行障害の定義」を記載したが、この質問票の項目を観覧してもらうことでも、遂行障害というものが何となくイメージしてもらえるのではと思う。

 

 

BADSのキットも販売されている:

以下のサイトにてBADSのキットも販売されているので、興味がある方は参考にしてみてほしい。

⇒『BADS 遂行機能障害症候群の行動評価 日本版

 

 

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