慢性痛をもつ患者は、しばしばうつ的である(Brown 1990.Kerns&Haythornthwaite 1988.Rudy et al 1988)。

 

Mersky(1999)は、痛みを持つ患者におけるうつ病の罹患率はおよそ10から30%であると指摘した。

 

この指摘も含めて、痛みを有する患者における実際のうつ病の発生率は様々であり、10%から100%までの範囲でその報告がある(Browwn 1990.Magni 1987,Rudy et al 1988,Turk et al 1987)。

 

これに対して、一般人口におけるうつ病の発生率は9%から14%であるとされている(Turk et al 1987)。

 

調査で観察されるこれらの相違は、診断基準への異なる算入方法や除外方法、うつ病の定義の相違、調査手段の違いを反映しているように思われる。

 

痛みを有するうつ病患者の臨床像は典型的なメランコリー様のうつ病というより、むしろ悲嘆・意欲喪失・幻滅感・欲求不満といった症状のほうがより頻繁にみられる。

 

しかし、これらの心理的反応はそれ自体で強いストレッサーとして働き、その患者が遺伝的な素因も持っている場合には、より典型的な「生物学的な」うつ病に発展する場合がある。

 

うつ病が先か、慢性痛が先かという議論は以前からずいぶんなされてきたが、最近の研究は、うつ病がたいていの場合、痛みの後に発症するか、あるいは痛みと同時に発症し、痛みには先行しないという見解を支持している(Cohen&Marx1995,Fishcain et al 1997,Merskey 1999)。

 

Fishbainら(1997)はこの問題を徹底的に再検討して、痛みがうつ病を引き起こす証拠は非常に強く、他方、うつ病が痛みを起こす証拠は比較的弱いと結論付けた。

 

しかし、過去にうつ病があると、痛みが起こった時にうつ病の再発を起こす素因になるとする「傷跡仮説(scar hypothesis)」を支持する研究がある。

 

うつ病のマネジメントは薬物療法だけではない、という事を知っておくのも重要である。

 

慢性痛を持つ人のうつ病は、包括的な痛みのマネジメントを用いることで有意に改善する(Maruta et al 1989)。

 

認知行動療法は、ほとんどの痛みのマネジメントの基礎であり、うつ病の治療において効果的である(Flor et al 1992)。