ワシントン大学の心理学者であるウィルバート・フォーダイス(Wilbert Bill Evans Fordyce)は、客観的に観察される慢性痛患者の痛みに伴う行動を『痛み行動(pain behavior)』と名付け、慢性痛の治療対象として着目した。
痛み行動の基礎となるオペラント条件付け
私たちは、ある行動をとることで「やらなかった時よりも、やった時のほうがメリットがある」ということを体験すると、その行動の頻度が増える。
例えば自分が仕事を頑張った際に、上司に褒めてもらったり、特別ボーナスが出たりすると、「仕事を頑張る」といった行動につながる。
あるいは、自分のブログを「分かりやすい」「参考になった」などと褒めてもらうと、益々ブログを書きたくなることもあるだろう。
この様にして行動が強化されること(逆に弱化されることもあるが)を『オペラント行動(オペラント条件付け)』と呼ぶ。
それをしたことで、自分にとって良い結果が得られた、あるいはいやなことを回避できたとなると、その「結果」がフィードバックされて強化されることになる。
私たちの行動は、そういう学習を積み重ねて成り立っているのである。
しかし、これは必ずしも良い学習ばかりとは限らない。
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痛み行動とは
「痛み行動」とは患者が痛みを表現する全ての行動を指す。
そして、この痛み行動は様々な因子によって強化される(あるいは弱化される)ことになる。
例えば痛みを訴えることにより、家族がいつもより言うことを聞いてくれたり、職場の同僚が労わってくれたりする場合がある。
あるいは、辛いと訴えたら病院の診察順番を早めてくれたり、薬を多く処方してくれたり、セラピストが沢山マッサージをしてくれたりという場合もあるかもしれない。
このように、痛みを訴えることで、その人にとってメリットが生まれた経験があると行動は強化され、痛みが自己主張の道具になってしまう場合もある。
このようなケースでは、周囲がクライアントの痛み行動に反応すればするほど、この行動は強化されて、エスカレートする可能性すらある。
急性痛において痛み行動が起こるのは当然
ただし、痛み行動の全てが問題なわけではない。
「痛み行動」とは患者が痛みを表現する全ての行動であり、顔をしかめる、うめき声をあげる、体位を変える、足を引きずって歩く、腰に手を当てて立つなどの生理的な行動から、薬を飲む、痛みをほのめかす、杖や車椅子などを使う、病院を受診する、学校や仕事を休む、ドクターショッピングをする、労災保険を請求する、訴訟を起こすなどの多岐にわたる。
そして、いわゆる急性痛(侵害受容性疼痛)では上記の痛み行動の一部が起こるのは当然と言える。
問題は慢性痛の「痛み行動」であり、その中には侵害受容性要素が小さくなっているにもかかわらず、様々な強化因子によって行動が強化されている場合も少なくない。
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