生物医学的思考モデルとは、病気に関して、「特定の原因」や「予測可能な疾病経過」と「適切な療法」を前提とした思考モデルである。
このモデルは、例えば外傷学や感染病において今日でも有効である。
一方、いくつかの疾病、特に慢性疾患においては不十分であると証明された。
例えば、変形性関節症や椎間板ヘルニアのような構造変化は、疼痛を解明しないことが多い。
そして、これらの構造変化は疼痛が生じていなくとも存在していることがあり、逆に構造的変化が存在していなくとも疼痛が生じていることもある。
これらの事実から、生物医学的思考モデルを補完するものとして、1970年代に生物心理社会的思考モデルが導入された。
生物心理社会的思考モデルは、痛覚(差し迫る損傷の情報)を「様々なファクターによって影響を受ける現象」としてみなしている。
そして、ここで言う「ファクター」とは、患者の個別的考え方、ストレスの様な心理的負担との接し方・疾患に対する反応・社会的環境などであり、身体の構造や機能以外の様々な側面を示している。
生物医学的および生物心理社会的モデルは、WHOが社会における疾病状態を定めた以下の2つの分類にも反映されている。
・ICF
・ICDH
ICD(疾病及び関連保険問題の国際統計分類)
疾病は生物医学的視点、つまり身体の構造と機能レベルから述べられている。
このWHOにおいて採択された分類は疾病のコード化に役立つ。
どの医師による診断にもコードが当てられ、統計検出を可能にする。医師は主としてICDを用いる。
ICF(国際生活機能分類)
ICDを生物心理社会的に視点で補足するものである。
ICFは患者の状況を現象学的に述べるものであり、特に疾病の結果や個人因子と環境因子の変化作用が列挙されている。
つまりICFは原因となる要素を記述しておらず、原因療法の推論を認めていない。
※WHOによる「健康」の定義は「完全な肉体的・精神的及び社会的well-beingの状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」とされている。
※そして、ICD(国際疾病分類)によって「疾病または病弱」の面をとらえ、それと関連させてICF(国際生活機能分類)によって生活機能という「身体的・精神的および社会的well-beingの状態」をとらえることで、「健康」を包括的にとらえることができると思われる。
※この定義に照らしてみれば、医療の目的は単に病気やけがを治癒することにあるのではなく、総合的な意味の健康を実現すること、すなわち「身体的・精神的・社会的に完全な良好な状態」にすることにあることが分かる。
徒手理学療法もICFを重要視するという点において、一般的な理学療法と相違する見解は有していない。
徒手理学療法も一般的な理学療法と同様に、ICFの心身機能・身体構造レベル(つまり生物医学的領域)への着目のみならず、患者の総括的観察においてICFで示されている全人的な包括的概念(生物心理社会的な概念)にも着目している。
ICFの関連ページ
リハビリ(理学療法・作業療法)を考える上で、ICF(生活機能分類)による「人間を包括的に捉える視点」は重要になってくる。
以下のリンク先に、ICFをまとめた記事があるので、興味があればこちらも参考にしていただき、問題解決に役立ててもらいたい。