今回は、理学療法の一分野である「マニュアルセラピー」とも関連の深い「マニュアルメディスン(徒手医学)」について、ドイツ徒手医学の概要を中心に記事にしていく。
目次
マニュアルメディスン(徒手医学)とは
ドイツでは マニュアルメディスン(manual medicine:徒手医学)という言葉を「運動器を対象とする治療コンセプト」に対して用いており、神経筋骨格系治療の基本的な能力とも言える。
そして、マニュアルメディスン(徒手医学)という用語には、治療テクニックのみならず、診察も含まれる。
正確な診断あがってはじめて適切な治療が可能になるため、注射など他の治療処置を行うにも、マニュアルメディスン(徒手医学)の徒手的検査が役立ち、場合によっては不可欠なことすらある。
マニュアルメディスン(徒手医学)とマニュアルセラピー(徒手療法)の違い
マニュアルメディスン(徒手医学)とマニュアルセラピー(徒手療法)は、よく同義語のように使われるが、正確には違いがある。
本来、マニュアルメディスン(徒手医学)は運動器系全ての診察及び治療に使われる処置を指す上位概念であり、医師によって実行される。
※ドイツにおけるメディスンは、医師の専門分野を問わず用いられる補助的な資格に該当し、特に整形外科及びリハビリ医、そして一般医にも活用されている。
一方でマニュアルセラピー(徒手療法)に関してドイツでは、オステオパシーのテクニックの一部と同様、理学療法士に委ねられている徒手的テクニックのことを指している。
ドイツにおけるマニュアルメディスン(徒手医学)とマニュアルセラピー(徒手療法)の使い分けの背景には、医師はその教育課程においてレントゲン・MRI・CTのような画像所見の解釈ができ、それに基づいて診断及び禁忌を確定出来る点が関係しているとされている。
一方で、ドイツの理学療法士は日本と同様に、臨床検査を行い、マニュアルセラピー(徒手療法)の様々なテクニックを用いるが、診断はせず、医師の指示に基づいて治療を行うのが基本である。
マニュアルメディスン(徒手医学)とマニュアルセラピー(徒手療法)の棲み分け
マニュアルメディスン(徒手医学)・マニュアルセラピー(徒手療法)ともに「一つ一つの徒手的な評価・治療テクニックを正確に実施する」という点では共通している。
ただし、医師の用いるマニュアルメディスン(徒手医学)は「診断及び鑑別診断を確定する」といった目的が強く、
理学療法士の用いるマニュアルセラピー(徒手療法)は「治療テクニックのスキルとその実行」といった目的が強いことになる。
また、脊柱のマニピュレーション・テクニック(スラストテクニック)は、ドイツでは医師の治療処置のうちに入り、理学療法士の治療範疇には入らないという違いもある。
これは主に法的理由が背景にある。
(例えば頚椎のマニピュレーションを行う場合、椎骨動脈の損傷リスクがあるため、医師のよる情報およびリスクの考量が必要である)
マニュアルメディスンとカイロセラピー
過去にドイツでは、「マニュアルメディスン」と「カイロセラピー」は同義語として使われていた。
しかし、「カイロプラクティック」という用語が「カイロセラピー」と似た言葉であるとの理由から、「カイロプラクティック」と「マニュアルメディスン」も同義語だとの誤解を引き起こすことがあった。
そのため、(これらの誤解を引き起こさないためにも)「カイロセラピー」という言葉は用いず、「マニュアルメディスン」という言葉に統一することが2003年のドイツ医師会議で決定された。
※ただしドイツの臨床現場では、マニュアルメディスンという言葉を理学療法士が用いることもあるし、カイロセラピーという名称がいまだに医師の間で使われることもある。
ドイツ徒手医学とノルディックシステム
理学療法士のカルテンボーン(Kaltenborn)は過去にドイツの徒手医学医師会(当時は関節学・カイロセラピー研究会(FAC)の会員であった時期があった。
そこで彼は、1958年~1982年まで医師に講義を行っていた(Cramer 1990; Kaltenborn 2005)。
このことから、カルテンボーンのノルディックシステム(Kaltenborn-Evjenth system)とドイツ徒手医学では、コンセプトや手技に類似する点が多い。
関連記事⇒『理学療法学派の分類』
マニュアルメディスン関連記事
マニュアルセラピーとは
マニュアルメディスンと対比される用語として「マニュアルセラピー」という用語があり、マニュアルセラピーに興味がある方は、リンク先記事も参考にしてみてほしい。
マニュアルセラピーの講習会を解説!
マニュアルメディスン・マニュアルセラピーを提唱している学派はいくつも存在し、それらを学べる団体(の一部)を記載したしたので、興味がある方は参考にしてみてほしい。
マニュアルセラピーを構成する要素
最後に、理学療法士が実施する『マニュアルセラピー』を構成する要素の一例を列挙して終わりにする。
興味がある記事があれば観覧してみてほしい。
関節モビライゼーション
まずは「マニュアルセラピー」と連想されやすいのが、関節モビライゼーションである。
上記リンク先では、脊柱は記載してないものの、四肢に関する簡単なモビライゼーションを取り上げて、分かりやすく解説している。
ブログレベルで学習可能なものが多いので、是非臨床でも活用してみてほしい。
ストレッチング
ストレッチングも、体系化されたマニュアルセラピーを構成する要素の一つである。
上記リンク先では、ストレッチングの概要に加えて、複数の骨格筋に対するストレッチングについても言及している。
ストレッチングもブログレベルでは表現しやすい内容なので、何らかの形で活用してもらえればと思う。
マッサージ
マッサージも、体系化されたマニュアルセラピーを構成する要素の一つである。
そして、上記リンク先では(非常にザックリとではあるが)マッサージを包括的に解説している。
※ちなみに、ストレッチング・マッサージの他にも筋筋膜リリース・等尺性収縮後弛緩テクニックなどは『軟部組織モビライゼーション』として体系化されている。
神経系モビライゼーション
神経学的検査の一つである神経動力学テストを、神経系モビライゼーションに応用することが出来る。
上記リンク先では、神経動力学テストの一覧を記載している。
コアマッスルの段階的トレーニング
PNFを臨床で活用しよう
上記で記載してあるような、局所安定作用筋の機能賦活を目標としたスタビライゼーション、神経系による運動制御を図るモーターコントロールといったことも考慮する。
つまり、徒手療法のみならず、運動療法もマニュアルセラピーの範疇に入るという事になる。