以前の投稿で、中脳中心灰白質(PAG:periaqueductal grey)は下降性疼痛抑制系の要であり、鎮痛に寄与する部位であることを記載した。

 

そして、PAGからの出力先としては、下記の2つに分かれることを記載した。

 

  • 橋・橋網様体の『橋中脳背側被蓋部(DLPT)』・『青斑核(LC)』を中継して走行する神経線維(ノルアドレナリン系)

 

  • 延髄の『吻側延髄腹内側部(RVM)』の『大縫線核(NRM)』・『巨大細胞網様核(NRGC)』・『傍巨大細胞網様核(NRPG)』を中継して走行する神経線維(セロトニン系)

 

上記の様にPAGは鎮痛に関与するが、PAGも様々な入力を受けており、それらの入力によって活性度合いが修飾されている。

 

そして、PAGへ出力している部位の一つが前頭前野であり、条件付けや期待感による前頭前野からPAGへの出力は、下降性疼痛抑制系の効果を高めるとされている。

 

  • 前頭前野は記憶、覚醒、期待感、条件付け、知覚それに動機付けに関与するとされ、痛みの経験の変容を可能にするPAGや他の中枢へ直接的にあるいは間接的に情報入力していることを示唆する十分なエビデンスがある(Bandler&Shipley 1994,Treede et al 1999)。

 

  • 前頭前野は後頭葉・頭頂葉・側頭葉と広範囲に解剖学的な連絡がある。そのために前頭前野は痛み認知にも影響を与える過去の経験による知覚体験やその際の情報へアクセスが出来る。

 

  • 前頭前野は情動的覚醒、動機づけ、条件付け、概念化や認知との関連があり、また痛み知覚に関与する脳の他の部分の構造と相補的な連絡を持っている(Fuster 1989)。

 

  • 皮質や皮質下領域は、辺縁系の視床、視床下部や扁桃体などを含んでいる情動反応において、重要な役割を果たしている(Bandler&Shipley 1994,Treede et al 1999)

 

  • 条件付けや期待感に関連したプラセボ反応は、辺縁系を活性化し、同じ鎮痛中枢を駆動させると思われる。その鎮痛中枢は鍼治療、電気治療や徒手療法による末梢神経系からアクセスすることができる。

    確かに、今まで得られた証拠は、痛みと鎮痛に役立つ神経的、心理学的および身体的なシステムの間に広くまたがるリンクが存在することを示唆している。

    プラセボに関する現段階でのエビデンスは、個々の痛み体験を変化させる点に関して、よくしられている中枢神経系の可塑性(plasticity)の重要性を確実に支持している(Bandler&Shipley 1994,Treede et al 1999)。

    プラセボ鎮痛というのは、その可塑性の一構成要素に過ぎないが、それは痛みを取り除くための個人個人の条件付け、期待感、ストレス、不安感そして動機づけにも関連している。