この記事では、プラセボ効果を理解するヒントになる『認知的不協和』について解説いていく。
認知的不協和とは
『認知不協和説(cognitive dissonance)』とは以下を指す。
不協和によってつくられた緊張状態は、その人が一番真実だと思いたい信念を増幅することによって、その人の不協和を減らすように動機付けする。
※このような動機付けは『確証バイアス』を起こす。
日常におけ認知的不協和の例
例えば、自分の全財産をなげうって、以前から大好きであった新車を、念願の思いで購入したとする。
しかし隣人がやって来て、「あなたの車は雑誌でも取り上げられるほど有名だよね。ただ、自動車の専門家が、その車のことをボロクソに批評をしていたよ」と、あなたに告げたとする。
その際、あなたは認知的不協和を経験する。
この情報に対するあなたの反応としてあり得そうなものは、(隣人に黙ってくれと望む以外に)車の特性を詳細に検討することだろう。
そして、新車を購入した自分の選択は賢明なものであるという確証が強まるような情報を意識的に集めることで、「隣人が言っていることなど無意味である」ということを自分に納得させることだろう。
認知的不協和は誰もが一度は経験している
上記のエピソード、似たような経験をあなたもしたことは無いだろうか?
何度も何度も繰り返し下見をして「これがベストだ!お買い得だ!」と思って購入したマンションルームにもかかわらず、購入した後も別のマンションルームの広告が気になったり、購入したマンションの口コミが気になったり。
特に高い買い物をした後も広告や人の評判が気になるのには理由がある。
「本当に買ってよかったのかな?」「もし他にもっと良い商品があったら残念だな」などと、高い買い物をした人ほど、内心、不安を抱えていたりする。
でもって、広告や口コミで「自身にとって都合の良い情報」を集めることで、「実は、この買い物は間違いだったのではないか」という不安の解消し、「やはり自分は良い買い物をした。良かった」と、自分を納得させることが出来るのだ。
マーケティング理論では、この現象を『認知的不協和の解消』と呼ぶ。
また、(上記のように情報を集めるといった手段だけでなく)自分の選択の正当性を(何の根拠も無く)強く思い込み、尚且つネガティブな情報をシャットダウンすることで、認知的不協和の解消の解消を図ろうとする場合もあったりする。
就職内定後に求人票を眺める行為も
私は学生時代に『認知的不協和の解消』として思い当たる行為をしたことがある。
それは「就職が内定した後も、他の求人票を眺める」といった行為である。
色々と悩み抜いた末に決めた就職先であり、就職先が決まった後に他の求人票を眺めたところで、(一見すると)何の意味も無いように見える。
ただし、「内定先と他求人」を比較することで「やっぱり、この就職先に決めて良かった」と納得したいし、不安も解消したかったのだと思う。
もちろん、「こっちの方が基本給が高い・休日が多い」などと他求人の良い面が目に入ってしまうこともあるのだが、そういう際は「でも○○なら、内定先の方が良い」などと強引にでも内定先の良い面を捜し(他求人の良い面には目をつぶり)確証バイアスを強めることで『認知的不協和の解消』に努めたりしたことを覚えている。
治療・理学療法セミナーにおける認知的不協和とプラセボ効果
クライアントが医学的治療を受ける際は、「自分が受ける治療は症状を軽減してくれる」と信じていることがほとんどだ。
しかし万が一、自分が信じているほどに症状が改善しなかった場合は、この信念との不一致が起こり、認知的不協和を引き起こすことになる。
するとクライアントは、症状に対する「自身の感じ方」を変えることによって不協和を弱めようと努力し、実際に症状は低下することもあるとされている。
この認知的不協和のレベルが高ければ高いほど、それを弱めようとする動機付けは強く働く。
例えば、手術はクライアントにとってリスクの高い選択肢となる。
そして、「リスクが高いだけ、他の治療を選択した場合より良くなるはずだ」という信念に繋がる場合がある。
そして手術で思うような結果が得られなかった場合は非常にレベルの高い認知的不調和を引き起こし、それを弱めようとする動機付けによるプラシーボ効果も高くなる可能性がある。
以前にプラシーボ効果の実験を紹介したが、この実験におけるプラシーボ(偽手術)が実際の手術に匹敵するほどの効果を示したことは、この動機付けが関与したのかもしれない。
関連記事⇒『プラセボ効果の実験』
一方で、プラシーボ効果とノーシーボ効果は紙一重であるという点も忘れてはならない。
例えば、手術における期待感は、さほどの効果がなかった場合においても認知的不協和によるプラシーボ効果で改善を実感することがあるかもしれないが、
手術による効果が得られなかったことにより(期待感ではなく)絶望感が生じることも当然あり得る。
すなわち、期待感が裏切られたことによるノーシーボ効果が不安や恐怖を駆り立てて、従来以上の症状悪化に拍車をかけるという事もあり得るということだ。
私たちの臨床においても下記のような動機付けが存在する。
- 研修会で、自身が信頼している指導者のデモンストレーションで治療を受けたものの、あまり変化を感じにくかった場合に、「そんなはずはない」と(無意識に近い)自動思考が出現し、その認知的不協和によるプラシーボ効果によって変化を体感することができた。
- 肩書き(認定療法士・多くの研修会に参加してきたなど)を多くアピールしたり、治療をする前に「いかにこの治療が効果的か」「いかに多くの人を改善させてきたか」をアピールしたりといった行為によって「この人なら痛みを治してくれる」という信念を持つ。
しかし、実際は大したことがなかった場合、「こんな凄い人に診てもらっているのに治らないはずはない」と(無意識に近い)自動思考が出現し、その認知的不協和によるプラシーボ効果によって鎮痛を体感することができた。
これらの例からも分かるように、これらの信念は『ハロー効果』『後光効果』といたものによって一層の強化が生まれることが多いとされている。
すなわち、「いかに自分が凄い人間か」をアピールするのは、マーケティング以外に、この効果も狙っている場合がある。
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