この記事では、ハムストリングスなどの「膝関節屈筋群の短縮」によって生じた「膝関節の中等度伸展制限」に対するストレッチング時の注意点を記載していく。
目次
膝屈曲拘縮に対するストレッチングに注意点とは?
寝たきり高齢者の重度な膝屈曲拘縮(重度な伸展制限と表現すべきか?)では、膝関節屈筋群の短縮も加味されている場合がほとんどであり、(屈曲拘縮を改善しようと思った場合)まずはハムストリングスなどの伸張性改善のほうが、膝関節自体の問題より優先順位が高い。
そして、これらの筋群を伸張させるための選択肢としてストレッチングを採用するのであれば、関節包内運動にも留意しておく必要がある。
関節包内運動に関しては以下を参照:
⇒『関節包内運動の用語解説』
⇒『関節副運動を補足します』
ハムストリングスのストレッチ時にも関節モビライゼーションを応用しよう
皆さんは、以下の様な「脛骨の後方変位を伴った膝関節屈曲拘縮を呈した人」を見たことはないだろうか?
~札幌スポーツクリニックより画像引用~
この写真は「後十靭帯損傷によって脛骨後方引き出しが起こっている写真」であり「膝関節の中等度伸展制限」とは全く関係がないが、写真のように脛骨近位部が背側へ落ち込んでいる(というか引っ張られている)人に私は遭遇したことがある。
※寝たきりな人に多い。
※引用画像は、あくまでPCL損傷なので、「膝屈曲拘縮」のザックリとした類似的なイメージとして理解してほしい。
そして、これはハムストリングスの過緊張や構造的短縮などによって自然発生的に起きた可能性もあるが、関節包内運動を考慮せずにハムストリングスを強引に伸長すると、この様な後方変位を助長させるリスクもあると考える。
したがって、この様な患者に対しては、関節モビライゼーションの考えも併用しながらハムストリングスをストレッチするのはアリなのではと感じるので、その方法を紹介していく。
ハムストリングスと脛骨後方変位の因果関係
ハムストリングスが過緊張であったり、構造的短縮が起こっていると、ハムストリングスの停止部である脛骨近位部(+脛骨近位部と脛腓関節を構成している腓骨頭)が背側へ引かれやすくなってしまう(=後方変位のリスクを高くなってしまう)。
療法士が「膝関節の伸展制限因子であるハムストリングス」をストレッチしようと思った場合、「テコの原理」を考えると、軽微な力でハムストリングスのストレッチングが可能となる。
つまりは、「下腿遠位を操作することで膝関節を伸展方向へ可動させる」という操作方法だ。
ただし、この極論を採用した場合、前述したように(起始部は固定されているので)ハムストリングスの停止部である脛骨近位部(+脛骨近位部と脛腓関節を構成している腓骨頭)が過剰に「背側」へ引っ張られることとなり、結果として脛骨が背側へ陥没したような変位を生んでしまうこととなる。
ハムストリングスのストレッチングは、脛骨後方滑りを抑制しながら行おう
ケースバイケースではあるものの、前述した弊害に考慮するために、関節モビライゼーションの概念は有効なのではないだろうか?
すなわち、「重度なハムストリングスの構造的短縮」を起こしているクライアントのストレッチングを考えた場合「ハムストリングをストレッチングすると同時に下腿近位が背側へ引かれる力のカウンターとしての固定を徒手的に実施しておく」という事だ。
固定のためのヒントとしては以下の記事内にある、「膝関節の軽度伸展制限に対する滑りモビライゼーション」がヒントとなる。
⇒『モビライゼーション(股・膝・足関節)の「方法」と「成功の秘訣」!!』
いずれにしても、自身の実施しやすい方法で構わないので、体全体を活用して是非この点にも配慮してハムストリングスのストレッチングに挑戦してみてほしい。
※また、筋の構造的短縮を(徒手療法のみで)本気で改善させようと思った場合は、どの程度の頻度で実施する必要があるかといったエビデンスは確認しておいたほうが良いと思われる。⇒『スタティックストレッチングの基礎知識』
膝屈曲拘縮のストレッチング関連記事
ストレッチングを網羅します
この記事は、ストレッチングの種類について「スタティックストレッチング」「バリスティックストレッチング」「ダイナミックストレッチング」「PNFストレッチング」に分けて解説している。
それぞれの特徴を知りたい方は参照してみてほしい。
関節拘縮って何? 理解してる?
この記事では、関節拘縮についての定義を含めた基本的なポイントについて解説しているので、こちらも合わせて観覧してもらうと拘縮についての理解が深まると思う。